ママが育休中に、授乳しながらMBAを学んでみた【女性の働きかた】

3月13日、育休取得中に出会った女性たちが実践した「育休プチMBA勉強会」の報告会が行われ、代表の国保祥子(こくぼ・あきこ)さんや副代表の岡野美佳さんらが、プログラムの紹介や参加者の意識変化、マネジメント教育の意義や提言などについて説明した。

働く女性の約6割は、第1子出産を機に離職している。また育児休業(育休)中の女性で、復職後の働きかたに不安を抱えている人もいるだろう。そんななか、育休中の女性がMBAを学んだらどうなるだろうか。

3月13日、育休中に出会った女性たちが実践・運営した「育休プチMBA勉強会」の研究報告会が行われ、代表の国保祥子(こくぼ・あきこ)さんや副代表の岡野美佳さんらが、プログラムの紹介や参加者の変化についてレポートした。

(左)「育休プチMBA勉強会」代表の国保祥子さん(右)副代表の岡野美佳さん

「育休プチMBA勉強会」は2014年、静岡県立大学で経営学を教える国保さんと、外資系飲料メーカー・ネスレ日本に勤務する岡野さんが、NPO法人マドレボニータが提供する産後の女性向けエクササイズ教室で出会ったことがきっかけで誕生した。二児の母である岡野さんの「経営を学んでみたい」という希望に合わせて、国保さんが育休中の女性向けのプログラムを開発したという。

岡野さんは、動機について「復職後は、これまで以上に時間の制約が発生するため、仕事のスキルアップを図りたかった。今は全国転勤ありの営業職。転勤はできないが、管理職や他部署への異動ができる人材になりたかった」などと振り返った。国保さんは、スキル系研修はすぐに陳腐化するが、思考トレーニングのような時間のかかる教育は、育休中のほうが向いていると考えたという。

■育休プチMBA勉強会

勉強会は、岡野さんの自宅のリビングルームでスタート。「育休中の女性の復職面談」などの実践に生かせるケース・ディスカッションを実施した。参加者は、赤ちゃんと一緒に授乳しながらディスカッションし、静岡にいる国保さんがスカイプで議論をモデレートしながら行われた。

ママは、赤ちゃんを抱っこして授乳しながら参加

学習プログラムは、以下の3つの課題から作られたという。

1)マネジャー思考に移行するための挑戦課題

中原淳「駆け出しマネジャー」の成長論(中公新書クラレ)の7つの挑戦課題を身につけることで、プレイヤー思考からマネジャー思考にシフトする。

2)女性リーダーに特有の挑戦課題

組織の目的を達成するためにメンバーに与える影響であるリーダーシップを身につけることで、人材としての付加価値を向上する。働くことへの覚悟を持つとともに、女性リーダー特有の課題に対して、働くことを前提に解決策を考える問題解決思考を身につける。

3)女性が直面する「壁」を疑似体験する

いつか訪れる苦境を疑似体験しておくことで、いざというときに冷静に対処できる環境を備える。あらかじめ客観的に見つめる視点を持ち、経営者目線で対策を思いつけるようにしておく。

勉強会により、育休中の女性たちも、「個人の視点」で復職後の環境や社内のサポートを心配するだけでなく、「経営の視点」で、会社にどう貢献できるかを考えられるようになった。組織の目標を達成するために、自分に足りないものも自覚したという。

■マネジメントの実践

サークル感覚で始めた勉強会は、次第に希望者が多数集まり、自宅のリビングでは開催できなくなった。この頃から、マネジメントチームを設立し、有料のスペースを借りて、1回20人ほどで開催することにした。メンバーが運営することで、自ら「制約人材が活躍するために、必要なことは何か」を考える実践の場となった。

マネジメント未経験者ばかりで、当初は上手く両立できないことで自信喪失するケースや、非効率な運営によってモチベーションが低下するケースも見られたが、ルール作りにより徐徐にチームで運営できるようになったという。

時間的な制約を抱えた人たちの「離脱」に関するルールを定め、チームのメンバーと情報を共有し、タスクの後継者を決めた。これらのルール化により、子供が病気になりマネジャーが抜けても運営できる状態になった。

仕事を抱え込まずに成果を出す、「離脱」できる体制づくり

報告会では、マネジャー経験がないことを不安に思う人が多く、今回のような事前のトレーニングで不安を取り除くことが、女性の管理職登用には効果があるのではないかという声もあった。管理職の意思決定を学んだことで、管理職への興味・意欲も醸成されたという。

■参加者「組織に貢献したい」が94%に

国保さんは、以下のように、参加女性の変化や活動の意義を総括した。

「意識変化はいくつかありますが、注目していただきたいのは、「自己啓発」を理由に参加した人が多かった勉強会で、94%の人が「組織に貢献したい」に意識変化したことです(下図参照)。

運営業務を経験したことで得た意識変化は、「時間の制約があっても、仕事を抱え込まずに、成果を出すために必要な変化」を身を持って学んだことです。

最後に、管理業務の経験から得た意識変化ですが、女性は、管理職というものにまず拒絶反応を示すことが多いと思うのですが、それに関しても意識変化があったということがいえます。勉強会に参加したことで、経営参画意識が高まりました。個人プレーを脱却してチームプレーを意識するきっかけになり、管理職の業務にポジティブなイメージを持つきっかけになったと思います。

実践力を高めるための知識である“実践値”ですが、育休プチMBAのラーニング・コミュニティと教育プログラム、勉強会の運営が、実践値を獲得する場になったのではないかと思います。

経営者意識を醸成させる思考トレーニングは非常に時間がかかります。第一線で仕事をしている社員を連れてきて研修で勉強させるのは、現場としては現実的に難しい。ですが、育児を通じて、現場を長期間離れざるをえない人材の学習機会としては、非常に適切ないいものになると思います」

■参加者の声

勉強家に参加した女性たちは、以下のような感想を語ってくれた。

「最初は、妊婦のときに参加しましたが、出産をして、子育てしながら鍋ひとつ自由に洗えないことを実感して、意識が高まりました。今日も子供が熱を出して、病児を預けてきたのですが、復職前のよいトレーニングになりました」(マザーハウス・山脇亜子さん)

「管理職の立場で、チームのみんなに寄り添っているつもりでしたが、プレイヤー目線だったんだなとわかりました。管理者目線で意思決定を学んでいきたいと思います。みんなが転職やキャリアについて、相談している話を聞くだけで、他の業界のことがわかって、勉強になりましたね」(公務員)

「わたしのような普通の人が、こういう場で、普通に勉強できることがよかったです。チームが働きやすい環境を、仕組み化、可視化しようと思っても、すぐに言語化できないということがわかりました。子育てしながら、働くことが当たり前になっていけばいいと思いますし、4月中旬に復職しますが、ここで学んだことを生かしたいですね」(ネスレ日本・岡野美佳さん)

■「育休プチMBA勉強会」の可能性

「育休プチMBA勉強会」のケーススタディによって、育休中での女性が「経営者の視点」を持ち、所属組織に対する貢献意欲を向上させたことや、マネージメントチームの運営を通じてトレーニングを行ったことで、管理職に対する興味・関心が醸成されたことは、興味深い。この2つは、企業における女性の管理職比率を引き上げる大きなヒントになるかもしれない。

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