人種差別がなくならない理由とは? テクノの巨匠、ジェフ・ミルズが語る

デトロイト・テクノの草分けの一人が、ジェフ・ミルズ。彼がなぜ「ロサンゼルスの戦い」をテーマにした展示をしたのか。現在の社会状況をどのように考えているのか。24日に都内のホテルで詳しい話を聞いた。

スズキユウリ氏とのコラボレーションで生み出されたドラムマシーン「The Visitor」を操るジェフ・ミルズ(撮影:安藤健二)

1980年代後半、アメリカの工業都市デトロイトで、全く新しいダンスミュージックが産声を上げた。ストイックで無機質、シンセサイザーを駆使したその音楽は「デトロイト・テクノ」と呼ばれた。ビッグ3の自動車産業が下火になる中で、デトロイトの荒廃は進む一方だったが、そこに住むアフリカ系の人々は「テクノ」という新しいカルチャーを生み出したのだ。

そのデトロイト・テクノの草分けの一人が、ジェフ・ミルズだ。1983年に20歳の若さで「ザ・ウィザード」の名義でDJのキャリアをスタート。その後は音楽製作に手を伸ばし、89年に「アンダーグラウンド・レジスタンス」をマッド・マイクと結成した。92年に脱退後はニューヨーク、シカゴと活動の拠点を移し、自身のレーベル「アクシス」を立ち上げている。

現在はパリに住んでいる彼が来日した。ロックバンド「相対性理論」との合同ライブを終えた翌日の3月23日、東京の天王洲アイルで「WEAPONS(ウエポンズ)」という個展を開いた。

テーマにしたのは、1942年にアメリカで起きた「ロサンゼルスの戦い」。これは謎の飛行物体を、日本軍機の空襲と捉えたアメリカ陸軍が高射砲で迎撃したが命中しなかったという事件だ。彼がなぜ「ロサンゼルスの戦い」をテーマにした展示をしたのか。現在の社会状況をどのように考えているのか。24日に都内のホテルで詳しい話を聞いた。

■文化も「武器」になることを示したかった

−−「WEAPONS」で「ロサンゼルスの戦い」をテーマに選んだ理由は何でしょう?

人々が全く予期していないことに出会った場合に、どういったリアクションを取るのかということを表現してみたかったからです。またWEAPONS(武器)というタイトルにしたのは、武器とは銃や刃物のような一般的に考えられているものだけではなく、言語・音楽・思想といった文化的な物もまた、武器になり得るという考え方を示したかったからです。

文化的なことを武器にすることで、一般的な考えに対して戦っていくという示唆をしたかったんです。それにより、人々が考え方を変えたり、通常であれば合理的だと思われているような事柄に対してもチャレンジしていくという意味でWEAPONSというタイトルをつけました。

−−「音楽も武器になり得る」というお話でしたが、他の銃器や刃物などの一般的な武器に比べて、「音楽の武器」は何が違うんでしょうか?

音楽が武器になり得るというのは、周囲の人々を喚起することができるからです。それによって、大人数のコンセンサスを取ることができます。「音楽が武器になり得る」というのは新しい考え方ではなくて、昔から存在していた考え方です。たとえば音楽がコミュニケーションの一つの手段や、社会的な目的のために使われることは以前からありました。

今回の展示の中では多くのモノクロ写真のパネルを利用して、未知のものに対する人々の恐怖というものを表現しようとしました。1942年の未確認飛行物体襲撃事件、「ロサンゼルスの戦い」での恐怖を表現したわけですが、それは比喩であって、現代の人達が感じている恐怖の象徴として描きました。たとえばアメリカの移民問題や、自分達が親しんでいない文化と隣合わせで生きていかなければいけないという恐怖。アメリカだけではなく、グローバルな社会の問題を表現しようとしました。

−−現在はパリにお住まいということですが、1月には風刺雑誌「シャルリー・エブド」編集部の襲撃事件がありました。世界各地で、イスラム過激派によるテロが頻発していますが、どうしたら防止できると思いますか?

イスラム過激派に傾倒する若者が増えていることの背景には、生活が苦しいといった経済的な背景と、宗教間での差別といった人権的な問題が大きいと思います。

「考え方の違い」という文明間の衝突を解決していくためには、何か新しい会話の方法を作成しないことには、この問題は解決できないんじゃないかと思っています。

世界はすごい勢いで変わっていますが、「人々の対話」という点に関しては進化しきれていない面があります。たとえば今の国連とは異なる、全世界的な組織や機構で新しいものができれば、少しは解決の助けになっていくんじゃないかと思っています。軍事力とか経済力にかかわらず、どの国も対等なかたちで話し合いができるような場所があればと思っています。

「WEAPONS」の展示品を自ら案内するジェフ・ミルズ(3月23日、撮影:葛西龍)

■人種差別がなくなることはない。なぜなら……

−−日本について伺います。初来日から20年以上たっていますが、日本は印象が変わりましたか?

初来日したのは93年なので、たしかに20年以上前ですね。しかも今世紀に入って、もう15年も経ちました。そういう意味では、親子2世代にわたる人達を自分は見ていると思います。

まず大きく違うのは、やはり経済ですね。経済の状況が、最初に来た頃とは違っています。90年代の日本は、やはり景気がかなり良くて、人々の暮らしが安定している印象がありました。若い人でも、かなりのお金を使う余裕があったんです。もちろん日本に限ったことではなく、全世界的にそういう感じでした。

ただ、現在の日本に関しては、やはり非常に経済が弱っていることが目に見えてわかります。この20年間でも貨幣価値の変動が非常に激しかった。また政治に関しても、首相がかなり頻繁に変わっているというところで、傍目から見ても非常に不安定だなというのは目に見えてわかります。それによって一般の国民が自信を失っているというような感じを見受けます。

政治家に対しての信頼も、なくなっているようですね。特に現在の安倍晋三首相は、移民対策など、外国人を受け入れることに対してあまり積極的じゃない印象を受けます。今後は高齢化で、日本の国民自体の年齢が上がっていきますよね。その結果、労働力が不足してくることは目に見えているので、そういった問題をどうやって解決していくか気になっています。これは日本に限った問題ではなくて、アメリカも同じ問題は抱えてますが、これから30年間で日本がどういうふうになっていくのかというのは、私の目から見てもかなり不安です。

−−移民の話も出ましたが、人種問題の点で日本は他の国と違うように感じますか?

人種差別は確実に日本でもあります。それはどの社会でもあるもので、避けられません。差別される側だけでなく、差別している側も社会の中で障害になっています。

私がたまに来日したときでも、そう人種差別が存在していると感じるケースがありました。最近でも、ミスユニバース日本代表に選ばれた宮本エリアナさんが、日本人と黒人のハーフだということへの反発があると知り、びっくりしました。

人種差別は日本に限らずヨーロッパでも、かなりあります。人々は、お互いのことをまず理解し合う前に、お互いのことを好きになれない。歩み寄るのではなく、拒絶する傾向があるのではないでしょうか。

−−人々が人種にかかわらず、お互い理解し合えるような形になる方法はないでしょうか?

まず人間の本質として、解決策はないだろうと思っています。人間の本性として、自分の周りが危険に満ちていることから自分を守ろうという自己防衛本能みたいなものが必ずあります。自分とは外見が違うとか、自分の肌色とは違う人達に対してそういった防衛的な考えが生まれるのは、ある意味で自然なことです。そういう意味では人種差別を解決する方法というのは多分見つからないでしょう。

「理解できないものを信用してはいけない」というのは、人間の考え方としては自然なことです。たとえば、24時間視聴可能なニュース専門チャンネルなどが生まれたことで、そうした傾向がますます増幅されています。ニュースをあまりにも頻繁に見ることによって、自分の考えが固まる前に様々な情報だけが蓄積されていきます。それによって、逆にどんどん現実とかけ離れてしまい、自分の考えだけに凝り固まる危険性があると思っています。

極端な話、自分と考え方の違う人達を全滅させるということは現実的には不可能なわけです。そういう意味では、自分とは異なる考え方、あるいは見た目の人達が存在するという状態は、絶対になくなりません。人間は完璧ではないですから「人種差別がなくなる」という考え方は、あまりにも理想主義的です。現実には起こりえないと思っています。

ただ一つ言えることは、人々が自分と違う存在に対して距離を置いていくことは、起こりえるかも知れないです。それは解決方法ではないし、地球上でどのように距離を置いていくのかは分かりませんが、他者と距離を置いていく可能性はあります。

■人類は宇宙に行く準備ができていない

−−あなたは2011年の東日本大震災の際、日本を応援する「Phoenix(The Rising)」という曲をYouTubeにアップされていますね。地震と原発事故で日本は非常にダメージを受けたことについてはどのように思いますか?

今でも悲惨な実態は存続しています。災害は今も続いているし、すぐに全てが元に戻ることはないでしょう。ただ自然災害は今後も起きうるし、避けようがありません。今後はいかにこういった自然災害に対する防衛策を立てていくかを考える前例として捉えて、より今後災害が少なくなるようにしていくしかないと思います。

たとえば海岸のエリアに住んでいる人を保護する防波堤であったり、そうした防護策を政府としては、二度と被害者が増えないようにしていくことを考えていくしかない。これを一つの警鐘として考えていくということですよね。自分としてできることは、本当に辛い生活をしている人達に対して、必ず明日が来る、良い時代が来るという希望を持ってもらいたかった。前を向いて生きて欲しいとエールを送る意味で、フェニックス(不死鳥)という曲名にしました。あの曲はそういう思いを込めて作りました。

−−宇宙飛行士の毛利衛さんと組んだCD「Where Light End」や「Sleeper Wakes」シリーズなど、あなたの作品には宇宙をテーマにした作品が非常に多いですね。あなたが宇宙に惹かれる理由は何でしょう?

宇宙とは可能性です。可能性と革新をもたらす場なので、宇宙には興味があります。人間が宇宙に興味をもつということ、また宇宙に行くということを目指す過程で学ぶことがものすごく多いんです。

宇宙を目指す副産物として様々な技術が開発されて、人間の地球上の暮らしが改善されることが実際に起きていますよね。宇宙とは新しい可能性を考える場であり、全ての境界線を越えた状況でのインスピレーションを与えてくれます。だから非常に宇宙に惹かれているんです。

また宇宙は誰のものでもありません。領土がないので、自分であろうとミュージシャンであろうと主婦であろうと、どういう人でもある意味、宇宙は平等に臨むことができます。宇宙、あるいは未来を考える時に、それが夢とか、そういう自分には経済的にも手の届かないところではなくなるかもしれません。

地球環境の悪化などで、人類が宇宙に出て行かなくてはいけない事態が、将来起こりうるでしょう。そういう意味では、宇宙が人類にとって優先順位の高いものになると思います。だから、自分が宇宙をテーマにした作品を作ることで、自分の音楽を聞いてくれる人が、少しでも宇宙に対して親しみを持ってくれれば、そういった事態が来たときに、何らかの助けになればと期待しています。

−−宇宙は人類にとって、フロンティアとなり得ますか?

はい、そう思っています。これまで宇宙開発は政府主導でしたが、イーロン・マスク氏が率いるスペースX社がロケットを発射したり、さまざまな会社が参入することで、可能性がさらに広がっていきます。そうなると、地球上の人間がもっとそれに相応するような教育をちゃんと受ける必要があると思います。

地球上でも紛争が頻発するなど、人間が共同生活をしていくのが非常に難しい状況ですが、民族対立や宗教紛争などの地球上で人間が抱えている問題をそのまま宇宙へ持って行くことは絶対にしてはいけません。

NASA(アメリカ航空宇宙局)は、将来の火星探査に向かう宇宙飛行士を選抜しました。しかし、その人達が火星に行ったときに、地球上の人間と同じ問題というのを起こしては、全く意味がない。そうした問題はあまり報じられていませんが、私は非常に気になっています。私の視点から見ると、人類が宇宙で全く新しい生活を始める準備ができているかというと、残念ながら答えは「No!」ですね。

私は、今の社会で生きている人間を宇宙へ送るということ自体が問題だと思っています。それはしない方がいいと思っていて、昨日「WEAPONS」の会場で、人間を送るのではなくて、人間のDNAを宇宙に送るプロジェクトを考えている人と会ったのですが、そういう考え方もありだと思いました。

地球上の生活のしがらみからは、一切かけ離れた人間のDNAを宇宙に送り出すことによって、それがどこかの宇宙の他の生命体に拾われて、そこからまた何かが進化するという可能性はあります。むしろそういう形の方が、今の人類が宇宙に出るよりも良いかもしれないと思っています。

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