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どうしたら育児を「自己責任」から「社会で育てる」に変えられる? サイボウズ・青野慶久社長と子育てブロガー・kobeniさんの徹底座談会【後編】

2015年04月21日 14時00分 JST
猪谷千香

ソフトウェア企業のサイボウズが2015年1月、子育て中の働く女性を主人公にした動画「サイボウズワークスタイルムービー『パパにしかできないこと』」を公開した。俳優の西田尚美さんが演じるワーキングマザーが、夜泣きや夜中のミルク、保育園のお迎え、突然の発熱など、育児に追われる日々が描かれる。

「育児を手伝っている」という同僚男性との会話の中で、彼女は「どんなにパパが協力的でも結局ママにしかできないことが山ほどあって それは毎日のほんの小さなことだったりするので パパに言うほどのことではないわけ」「やさしいことば ひとつで がんばれちゃうんだよね」と語る。そして、同僚男性に「奥さまのこと抱っこしてあげられるのは、あなただけ」とアドバイスして終わる。

この動画は、大好評だった第1弾「サイボウズ ワークスタイルムービー『大丈夫』」に続く作品だったが、ワーキングマザーやイクメンたちから「あまりに彼女1人が我慢しすぎている」「夫は何をしているのか」「解決していない」などの批判を浴びた。その一人、人気ブロガーで、ワークライフバランスなどについて執筆をしているkobeniさんも、「夫は、どうすれば良かったのか?――サイボウズのCM第二弾について考える」というエントリーをハフィントンポストに寄稿、大きな反響を呼んだ。

そこで、ハフィントンポストでは、ワークライフバランスについて先進的な取り組みを行い、自身も3児の父親でもあるサイボウズの青野慶久社長、動画を企画したサイボウズのコーポレートブランディング部の大槻幸夫部長と、働きながら2児の子育てをしているkobeniさん夫婦の座談会を企画。動画制作の意図について語り合った前編に引き続き、話題は男性の「生きづらさ」や社会の多様性に……。

(文中敬称略、取材・構成=猪谷千香)

■育児のありのままを描くことで、男性もポジティブに受け止められる

大槻:こういうテーマって、気づいてない男性にまで届くことってなかなかないのかなと。でも今回、私が嬉しかったのは、ある男性がブログで「今までこういうワーキングマザーに関するメッセージは説教臭くて耳を閉じていた。でもこのムービーは単にあるあるを描いているだけなのでスッと見れた」と書いてくれていたのを見たことです。「普段うちのママが言っている言葉ってこういう状況だったんだと想像できた」と。こういう伝え方をすると、意識してないパパたちに届くんだっていうのがわかってすごく良かったと思いましたね。

kobeni夫:男性の方に届けようっていう意思はあったんですか?

大槻:一応、ありました。単純に働く女性だけじゃなくて、その周りにいる人たちにもちゃんと知ってもらいたいということは狙ってたんですよね。

kobeni:でも、その働く女性たちが「なんなのこれ?」って怒りながらシェアしてたら(笑)。パパたちはそっと閉じる、みたいな。

青野:そうそう。そっと陰で見て、「やばい、やっとこ」みたいな。

大槻:社内からリアルに言われましたもん。やめてください大槻さんって(笑)。妻が見たらどうするんですかって。

青野:あれを見て後ろめたい気持ちを持ったパパがすぐに育児をするっていう例がもう何人も確認されてる。

kobeni:へー。それはすごい効果があったんですね。だからあれって、「ママにしかできないことはたくさんあって」って言うけど、明らかにパパにもできるんですよね。

大槻:あれはツッコミ待ちなんですよね。パパに「いや、俺できるよ」って、他人事じゃなくって自分事化していってほしいなっという。制作プロデューサーは、「なかなか言えない言葉を代弁しつつ、男性がポジティブに見られる、そういう建てつけにしたかった」とおっしゃってました。

kobeni:なるほど。女の人から怒られてるみたいなものだと見られないから、ソフトタッチに現状を伝えるっていう感じですか。そうですよね。正直、随分優しいなっていう感じなんです。だって、現実的に考えたら、あのママはある日突然、過労で倒れるか、ある日突然、三行半ですよね。

ちなみに、さっき例(前編)に出した私のママ友は、ある日突然、「あなたはここがおかしいよね、出て行ってください」って言ったんですよ。彼女は、私みたいにちょっとずつ小出しにするタイプじゃなくて、ずっと溜めてて。普段、当たりが優しいママほどある日突然バン! って爆発します。その時、旦那さんは相当驚いていたらしくて。全然、大変さもわからないし、悔しさもわからないし、自分で進んでやってると思ってるから。何かがバンって起きて、初めて気づく。

■「サザエさん」「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」の共通点

猪谷:今、お話を聞いていて思ったのですが、世の中の男性はそこまでソフトに伝えないと、ワーキングマザーが何を抱えているのか、わかってくれないものなのでしょうか。

青野:男性学を専門とされている武蔵大学の田中俊之先生という方がいらっしゃいます。男性がそういう反応をするのにも理由があって、田中先生がいうには子供の頃から見ているテレビが、「サザエさん」であり、「ドラえもん」であり、「クレヨンしんちゃん」であり、「ちびまる子ちゃん」なんですよ。共通点は何かというと専業主婦なんです。もし男性が、こうしたテレビを見ながら、自分も専業主婦の家庭に育っていたら、家事や育児は「ママがするもの」と植え付けられているかもしれない。逆に、男性が見るものって、「太陽にほえろ!」のように、まさに職場で死ねっていうようなものだったり。

そういうものを見て、「男は職場でちゃんと稼いでくること、とにかくこれが一番大事だ」と。仕事に異常に執着するから、育休が取れないんですよね。自分のキャリアパスがなくなったらどうしようって。大企業の方が制度が整っているにも関わらず、かえって男性の育休取得率が低いらしいです。エリートコースできちゃった人もいますから。ですから、男性が家事や育児から目を背ける理由がやっぱりあるわけです。子供の頃から違うものを見て、違う環境で育っていれば、そうはならなかったはず。それを「男性が駄目じゃん」って言ったら、それで話が終わりになっちゃうので、その裏にある背景を知りながら解決しないといけない。次の世代は違うかもしれないですけどね。

kobeni:そうですね。今の30代半ば以上の世代は、そういうのがあるかなと思っています。会社でルートから降りるとすごくダメージがあって、それが自分の自尊心にもつながっているという。でも、共働きしたい奥さんは、また全然違うものを見ていて。そこがすれ違うのだと思います。

青野:これはリアルに聞いたあるご夫婦の話なのですが、奥さんが高齢出産だったので、奥さん思いの旦那さんが「育休を取ろうか」と言ったら、奥さんに反対されたそうです。「あなたは育休取って出世コースから落ちたらどうするんだ」と。それは、男性だけではなくて、女性にも植え付けられています。それが、男性を評価するから、男性も降りられない。昭和に僕たちが見た良いパパの風景っていうのは、昇進して「給料上がったぞ」って帰ってきて、「あなた凄いわね」ってほめられているという。これが男のいい形だって思ってると、それは降りられない。

kobeni:そうですよね。だから、「目の前の奥さんが辛そうだ」ということくらいしか、降りる理由がない。奥さんもまた、仕事に対して熱意を持っている人もいるわけで、そういう奥さんから夢や生きがいをごっそり奪ってまでしたい出世なのかというような話になりますよね。男性的視点から言うとどうでしょう?

kobeni夫:結局のところ、家に使うか、会社に使うか、時間の割合じゃないですか。当たり前ですけど、仕事ってそこにかけた時間に比例して成果が上がっていくので、昇進とも相関関係が強いと思うんですよね。おっしゃっていた通り、最初の役割が決まっていると、疑いもなく自分は変わらずそのままいくんだっていうふうに男性は思ってしまう。動画の話に戻ると、もちろん厳しく言われればわかることもあるんですけど、そうじゃないことの方も多いのかなというのはありますよね。

workingmother

第2弾の動画についてさらに詳しく聞くkobeni夫妻

■「子育ての面白さ」を男性から男性に伝えるターン

kobeni夫:ちょっと、話を動画の方に戻すんですけど、最終的に「これを解決するためのグループウェアはこれです」とか、「ソフトウェアはこうです」みたいな話に一切してないじゃないですか。それって、ビジネス上、すごく勇気がいることだと思うんですよね。あえてサービスの告知をしていない理由はなんなんですかね?

青野:あんまり売上利益にこだわってないんですよ(笑)

kobeni:それをやり続ける、考え続けることで長期的に、まさに「働く母に寄り添ってる」という信頼感は醸成されますよね。

青野:どこかで戻ってくればな、くらいの感じで。

kobeni夫:男性側から言うと、こういう女性にとってのシリアスな話はネタにしないほうがいいという拒否反応の風土がちょっとできあがってきていて。もちろん、僕たちは育児の当事者であるので、経験談を元に失敗談を含めて語れるんですけど、独身男性や主体性のない男性だと、その話題にはもう触れず行こうという、一時期のセクハラに関する意識と近い状態だと思うんですよね。実は当事者のはずなのに、自分は関係ないところの社会問題として、切り離す風土になっているのが嫌だなと思ってたんです。だから、さっきおっしゃってた、「やり続けます」はすごくいいことですね。

kobeni:だから私は、もう次のターンかなと思っていて。男性から男性に、「子育てに関わり始めたら何か面白いぞ」「出世ルートだけが正解なのか?」って伝える。あるパパが書いた記事で、すごく好きなものがあるんです。奥さんが突然、入院しちゃって、2ヶ月くらい自分が育児をメインで担うことになったと。最初はすごく混乱するのですが、保育園の大人たちが「大変ですよね」ってわかってくれて、一人で育児をしているわけじゃないんだって気づく。子供も、自分が何かを教えると、どんどん新しい世界を知っていく。

子供が「おとうさん、おとうさん」って自分だけを頼りにしてくれるようになった時に、これはありきたりかもしれないけど、かけがえのない時間なんだと思ったと書かれてました。だんだん、自分でも子供を連れて自転車で飛行機を見に行くようになったり、主体的に育児をするようになる。最後に奥さんが退院してくる時にはちょっと寂しいみたいになってて(笑)

大槻:おっしゃる通り、ターンは変わってきていてますね。そうやって、「自分事化」することがすごい大事だと思うんですよ。青野はその答えをずっとこだわってまして、それが「多様性」なんです。いろんな生き方、いろんな働き方があるよっていうパターンを見せることが、ずっと頭の中に植え付けられてきた「男性が働いて、女性が家庭」を壊していく。青野がこだわっていろんな人事制度とかを作っているのは、いろんな選択肢があるんだよっていうことを社内に生み出すっていうことだと思います。

■色々な価値観を認めず、多様性のない日本の社会

青野:例えばアメリカにも今、オフィスがあるのでよく行くんですけど、全然違うんですよね。普通に金曜午後、オフィスの外にあるコートでバスケットボールをしているわけですよ。結構、衝撃がありますよね。「就業時間中に?」って(笑)。自分たちが当たり前だって思ってるものは、実は世界にとってはそうでもなくて。特に、アメリカみたいにいろんな人が集まっていると、いろんな価値観を持ってるいろんな人がいて、もちろん衝突もいっぱいあるんですけれども、それぞれの生き方で生きることができる。

日本だと、こうじゃないといけないっていうものがあって、そうじゃないものは批判される。今回はその例かもしれないのですが、「これはこれでいいじゃん」っていったらいいんですよね。本人が納得していれば、いいはずなんだけど、男はこうあるべき、女はこうあるべき、またイクメンはこうあるべきって批判する。でも、次に日本で作らないといけないのは、本当にいろんな日本人がいていいということです。専業主婦のお母さんもいいし、むしろ専業主夫の旦那さんもいいし。

kobeni:二項対立みたいな感じにされがちだと思いますよね。

青野:そうなんですよね。日本が島国だったからか、東京中心だからなのか、わからないですけど、やっぱり多様性のないまま来ちゃってる。世界的に見ると逆に変わった国だなと思うんですよね。

kobeni夫:保育園や小学校関連の会合で、主にママが行くようなところ