外国人ハウスキーパーは子育て世代の救世主? タスカジ・和田幸子さんに聞く、家事代行サービスの可能性

忙しい毎日に余裕がなくなったら、家事代行サービスを試してもいいかもしれない。

働きながら小さい子供を育てるパパやママは、どのように日々の家事や育児をこなしているのだろうか。保育園の送り迎え、料理、家事、子供の面倒などで、あっという間に日々が過ぎていくことだろう。

そんな忙しい毎日に余裕がなくなったら、家事代行サービスを試してもいいかもしれない。家事代行マッチングの「タスカジ」は、自宅の最寄駅からアクセスの良いハウスキーパーを検索して、1時間1500円から、掃除や洗濯、買い物、料理や子供のケアをお願いできるプラットフォームを提供している。2015年5月現在の会員は約1200人。外国人ハウスキーパーとの交流を通じて、子供も幼少期から異文化交流を体験できるという。

「アメリカやアジアでは、小さい子供がいる中流の共働き家庭でハウスキーパーやナニーを雇うのは珍しいことではありません」と話すのは、タスカジを運営するブランニュウスタイルの和田幸子・代表取締役社長。今回は、和田さんがタスカジを始めたきっかけや、家事代行サービスの可能性について話を聞いた。

■平日午後7時、ハウスキーパーに夕食をお願いする

平日午後7時、和田さんは保育園から長男と一緒に帰ってきた。ほどなくして、今日初めてお願いしたフィリピン人女性の新人ハウスキーパーが顔を出す。和田さんは、夕食の準備をお願いした。

「(食材を)買いに行ってもらうところからお願いしたいんです。いいですか?」

「いいですよ? 何がいいですか?」

「豚肉、辛くないやつがいいです」

「ソース系大丈夫ですか? 何人ですか?」

「大丈夫です。3人」

「どのくらい作ればいいですか?」

「メインディッシュと、ごはんとお味噌汁。サラダとかでも大丈夫です」

「わかりました」

和田さんから1500円を渡されたハウスキーパーの女性は、すぐ近くのスーパーへ買い物に出かけた。メールチェックなど簡単な仕事をする和田さんの傍らで、子供はお絵描きをして遊んでいる。

………

■日本に住む外国人は、1500円で家事代行をお願いしている

——和田さんがタスカジを始めたきっかけは?

共働きが増えているなか、女性に家事のしわ寄せが来ていて、それが社会課題になっていますよね。私自身も共働きで、子供が生まれてからもフルタイムで、富士通で働いていました。私も夫も仕事が楽しかったので、2人とも思い切り働いていたんですけど、家事を誰がやるのか、ということに課題感をずっと持っていました。

あるとき、会社の研修で受けていた英語のクラスで、外国人の先生に家事について話していたら、「たしかに家事代行サービスって高いよね。でも、日本在住の外国の人たちは、日本に住んでいるフィリピン人に1時間1500円くらいでお願いしているわよ」といわれたんです。

「日本人はあまり知らないみたいだけど、試してみたらいいじゃない。フィリピン人だったら多分英語も話せるから、子供と一緒に遊びながら英語を教えてもらえるよ」と。

——1時間1500円で依頼していた。

それで、教えてもらった英語のサイトを見て、他の人も募集している英語の文言をコピペして、住所だけ書き換えて募集してみたんです。そしたら10人くらい応募がきて。

最初は、応募してきた10人全員と面接したんですよ。当時、サラリーマンなので、土日しかないじゃないですか。週末に1時間ずつ時間を割り当てて、何週間かかけて、コツコツ面接したんです。

——10人と面接。それは大変でしたね。

今から考えると、面接したって何もわからないんですけど(笑)。スキルは見えないので。雇ってもらおうと思ってる人だからすごくアピールしてきますし。一番やる気のありそうな人にお願いしたんですけど、見る目がなかったのか、1回で「ちょっと無理」といって辞めちゃったんですね。

あんなに何時間もかけて面接してお願いしたのに。面接も英語で、すごく大変だったんですよ。全員断った後だったので再募集かけたりして、今度はメールのやりとりして話が合いそうな3人と面接して、1人雇ったんです。

その後も、ハウスキーパーを入れ替わり立ち代り雇って失敗して……。でも最終的にお願いした人がすごく良かったので、みんなにオススメしたかったんですけど、私のような辛い経験をやれというのは、ちょっと酷だなと思いました。

——たしかに、良い人に出会うまでのプロセスは大変そうですね。

2013年当時は、Airbnbみたいな個人の空き部屋を旅行者に貸し出す予約サイトが盛り上がっていたんです。

個人と個人をマッチングするCtoCのビジネルモデルなんですが、「これと同じプラットフォームを作れば、あんなに辛い思いをしなくても、誰もが個人でハウスキーパーを雇うことができるな」と思ったんです。これがタスカジを始めるきっかけになりました。

9月に思いついて、すぐにリサーチして、1週間後には上司に(辞めると)言ってました。10末に会社を辞めて、11月6日に会社を立ち上げて、サービスの準備をはじめました。

■プロフィールとレビューを見て選べる

——家事代行のサービスは各社ありますが、タスカジの特徴は?

タスカジは、家事をお仕事にしたい個人と、家事をお願いしたい個人をマッチングするプラットフォームです。家事をお願いする側のメインユーザーとしては、小さいお子さまがいる共働き家庭を想定しています。

タスカジは、ハウスキーパーの顔・プロフィールとレビューを見て、自分で選べるのが特徴です。レビューは、(1回の)スポット利用でも定期利用でも、毎回入力するようになっています。

自分で何人も面接した結果わかったんですけど、一番欲しい情報は、前に雇ったことのある人からのレコメンデーション(推薦)だったんですよね。レビューが一番重要で、それがあれば十分な付加価値になると思いました。食べログじゃないですが、ハウスキーパー本人がいくらアピールするより、過去に雇った人のレビューが参考になると。

タスカジは個人事業主のマッチングですが、ベアーズさんとか最近参入されたリクルートさんのcasialなどは、人を雇用して家事代行のサービスを提供するビジネスモデル。金額高い分、最初に営業担当が訪問して説明をしたり、急な依頼にも即日対応したりと丁寧です。ただ、派遣型モデルなので、ハウスキーパーさんは選べないんですね。レビューはないんです。

オプション料を払って指名できるケースもありますが、それでも全部のハウスキーパーの中から選ぶことは出来ないんです。うちとビジネスモデルが近いマッチング型でも、初回のレビューや選ばれたレビューしか見えないようになっていたりするので、全てのレビューが見れて、自分で選べるのは大きな特徴だと思っています。

それから、価格の違いも大きいですね。従来の派遣型サービスの一般的な相場は1時間3000〜6000円ですから、タスカジは半額以下です。直接雇用で、ハウスキーパーさんの手元に入る時給は他社よりも高いので、ハウスキーパーさんにも喜ばれています。

——家事代行でもビジネスモデルが違うんですね。

私自身がお願いしてみて、毎回同じ人に来てもらって学習してほしいと思ったんです。家族の好みやスーパーの位置を覚えてほしいとか、何の調味料がどこにあるとか、把握しておいてほしい。それで人を選べるというのを軸にしました。

うちはハウスキーパーのことをタスカジさんと呼んでいますが、タスカジさんは、レビューの件数や平均点が上がるにつれて時給がランクアップする仕組みになっていて。みんないいレビューをもらおうと毎回ちゃんと頑張れるようになっています。

例えば、家事代行の内容がそれほど複雑ではない単身世帯の人は、サービス内容が決まっているほうが使いやすいのかなと。特に単身の男性は派遣型サービスを使っているケースのほうが多い印象ですね。あとは共働き夫婦が互いに忙しすぎて部屋が汚くなったときに、シンプルに掃除だけ頼むとか、スポット的な依頼の場合は、派遣型でもいいのかなと思います。

掃除だけの家事代行サービスも多いんですが、タスカジでは、掃除、洗濯、チャイルドケア、ペットケアも、オプション費用なしでお願いできます。共働きの家庭での家事は多岐に渡りますから、掃除だけでは物足りないと思ったんです。実際、私もお願いしたいので(笑)。

■外国人のハウスキーパーの「チャイルドケア」で異文化交流

——2014年7月に「タスカジ」をスタート。みなさんの声はいかがでしたか?

1時間1500円からと、金額がすごく安いので、これだったら使えるという反応でしたね。日本人のハウスキーパーさんもいるんですけど、特に外国人の方に興味がある人がすごく多かったのが印象的でした。ベビーシッターというよりは、子供と一緒に遊んでほしいんですね。グローバル教育とか、多様性への理解みたいなことに、価値を感じている人が多いのかなと。

うちの子は、全然英語を話せないんですけど、外国人のタスカジさんと触れ合ううちに、英語しか話せない人が来ても、気にせず話しかけるようになりました。グローバル社会に出て行く上で、小さい頃からこういう機会があるのは重要なんじゃないかなと思います。今は利用者の40%が「チャイルドケア」の申し込みをされています。

家事のアウトソーシングというと、日本人にとってはどうしても罪悪感がつきまとってしまいがちなんですけど、子供の教育に視点をずらすことで、親も家事サービスをお願いしやすくなる部分もあるのかな、と。

あとは、私は日本人と外国人の方と、両方お願いしたことがありますが、外国の方のほうが恥ずかしくないというか、違う環境で育ってきた人なので、ありのままをさらけ出しやすかった部分もあります。

■一般的な使いかた、週に1回で心がほっこりする時間

——初めての人は、どんな使いかたが一般的でしょうか?

初心者の方は、週末が多いですね。土曜の朝9時に、自分たちがいるときに来てもらって、掃除を3時間でばーっとやってもらうとか。日頃行き届かない水回りの掃除と寝室のベッドのシーツ換え、あとは洗濯ものたたみとか、棚の上のホコリ取りや壁ふきもありますね。

平日夜、子供を保育園に迎えに行って帰ってきたときに、タスカジさんも同じタイミングで家に来てもらうパターンも人気です。スーパーに買い物に行ってもらって、2日分のごはんを作ってもらって。その間に子供の習い事に行って、戻ってきて子供と一緒にご飯を食べている間に掃除をしてもらって、最後に少しチャイルドケアをしてもらって自分は(仕事の)メールをチェックするとか。これはかなり詰め込んでいるケースですけど。

慣れてきた方は、鍵を預けておいて平日の午後1時から家に入ってもらって、料理の作り置きとか掃除とかを全部やってもらったりしますね。いきなり知らない人を家に入れるのはハードルが高いので、初心者の方には、家にいるときにお願いするパターンをおすすめしています。

——和田さんがお願いするときは、どんなふうに過ごしていますか?

タスカジさんが来ているときは、一緒に子供と遊んだり、習い事の宿題を一緒にやったりしていることが多いですね。「あいうえお」を一緒に覚えたり、工作が好きなので、一緒に物を作ったりしていますね。

平日の夜に、ほっこりする時間がとれるといいなと思って、週に1回毎週火曜の夜にお願いしています。夜ごはんを2日分作ってもらって、翌日もそれを食べます。それだけで、すごく余裕ができますね。

子供と一緒に遊ぶ和田さん

■男性からの申し込みも増えつつある

——心に余裕ができる。もしできれば、シングルマザーやシングルファザーの方にも使ってもらいたいですね。

ほんとそうですよね。一人で全部やるのは本当に無理というか、大変ですから、なんとかうまく使ってもらえるようにできないかなと思っています。

最近の傾向として、だんだん男性の方の申し込みが増えてきたんです。今まで男性って、たまに単身の方がいるくらいだったんですけど。3月4月くらいから、おそらく共働きの男性から「チャイルドケア」もセットにした申し込みが入るようになってきたんですね。

家事の問題って、女性だけの問題と思われがちですけど、実はそこが課題だと思っています。家事の問題は家族の問題ですから、申し込むのは女性でも男性でも、どちらでもいいと思うんですよね。だから、少しずつ男性の申込者が増えてきたのはすごくうれしいことだと思っています。

ちょっとお金はかかるけど、その数千円で夫婦ゲンカがなくなったり、子供との時間が増えたり、気持ちのゆとりが得られるって、意外とお金には換えられない幸せなんですね。私も初めてお願いしたときに、「これ、なんで今までやらなかったんだろう」って思ったんです。でもこんなにリーズナブルにお願いできるって知らなかったからしょうがないですよね。みんなに知ってもらって、使いたい人にはどんどん使ってもらえたらいいなと思っています。

………

取材を終えた頃、ハウスキーパーは、美味しそうなフィリピンの煮込み料理と、味噌汁、サラダを作り終えていた。和田さんは、子供と一緒に食卓を囲んだ。

(海外のハウスキーパー事情を紹介する後編につづく

【関連記事】

%MTSlideshow-236SLIDEEXPAND%

注目記事