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国連を辞めてノンフィクション作家へ――「転職するたびに大陸を変える」川内有緒さんの働きかた

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日本大学芸術学部からアメリカの大学へ進学。卒業後はワシントンのコンサルティング会社などを経て、31歳のときに約2000倍の倍率を勝ち抜いてパリに本部を置く国連機関に転職。だがわずか5年半で国際公務員という恵まれた肩書きを捨て、日本に帰国後はノンフィクション作家に転身――。

友人たちから「転職するたびに大陸を変える女」とからかわれるノンフィクション作家・川内有緒(かわうち・ありお)さんの来歴は、あまりに奔放でユニークだ。現在は2014年に出産した長女の子育てを楽しみながら執筆活動を続ける彼女に、これまでの半生や国連での仕事について聞いた。

kawauchi

■「プロフィールだけがひとり歩きしているのが、私の人生の最大の問題点かも」

――日芸(日本大学芸術学部)で放送学科で学び、アメリカ・ジョージタウン大学では中南米の地域研究学を専攻、卒業後はコンサル会社とシンクタンクを経て国連勤務。一見すると脈絡のないユニークな経歴ですね。

プロフィールだけがひとり歩きしているのが、私の人生の最大の問題点かも。だから自分のキャリアについて話すときはいつも恥ずかしい。これをやるために学校で学んで会社に入って、みたいな一貫性のある話ができないから自分でも嫌になってくるんです。

いつもあまり深く考えず、衝動に従ってパッと動いてしまうんですね。そのときそのときでは「これだ!」って真剣に思うんですけど、後から振り返ると「何でだっけ?」というチョイスを常にしている(笑)。

——国連に採用されるとは思っていなかった?

思ってもみなかったです。でも国連の中に入ってみて知ったんですが、国連にはクオータ(割り当て)制度というのがあって、加盟国が出している拠出金と人口によって割当枠が決まっているんです。日本は世界で2番目に多くお金を出しているんだけど、日本人職員の数がまだ少ないから枠がかなり余っている。さらに女性の数は男性よりも少ないから、日本人の女性である私はかなり有利ではあった。そういう幸運にも恵まれていました。

――国連での5年半はどんな日々でしたか?

私は、組織全体の運営やプロジェクトの成果を改善するリサーチ関連の部署で採用されたんですが、もうびっくりするくらい個性的な人ばかりで。「私、どこ来ちゃったんだろう!?」って最初は驚きの連続でした。私たちよく職場のことを「This is a ZOO」(ここは動物園)って言ってたんですよ。生態も姿も全然違う生き物がみんな好き勝手にやっている、まるで動物園だよねって。そんなにも背景が違う人同士が一緒に働く機会ってそうそうないし、だからこそ毎日がすごく面白かったですね。そういえば、スパイ容疑で逮捕された北朝鮮の人もいました。

――国連職員なのにスパイ!?

私が退職した後ですけど、北朝鮮政府からの出向で来ていた2人がスパイ容疑で逮捕されていて。「あ、あの人とあの人! スパイだったんだ!?」って新聞見てびっくり。どうやら国連で働きながら同時にスパイ活動もやっていたらしくて。他にも、逮捕歴がある人、戦争で人を殺したことがあるらしい人、政府からのねじ込みで入った人、それに元弁護士や大学教授など、いろんな人がいました。

日本人は真面目に勉強してキャリアを積んで入ってくる人がほとんどで、アメリカ人は「いいことしたい!」ってすごくオープンでハッピーな人が多かったかな。そんな風に種類が違う動物がたくさん集まって、それぞれに正しい行動を取っているという、まさに“ZOO”な環境でしたね。

kawauchi

――究極のグローバルオフィスですね。そんな職場で求められるのはどんな人でしたか?

うーん……。ビジネスがどうこうというより、結局は人間同士として付き合えるかということだと思います。人同士として向き合ったときに、相手の心を掴めるか、その上でお互いを信頼しあってプロジェクトを成し遂げられるか。そのためにはコミュニケーション能力も必要なスキルかもしれないけど、それ以上にその人がこれまで積み上げてきた経験や感性、そういうことが試される気がします。

もちろん語学力は大前提。でも言葉が話せるだけじゃやっていけない。だって国連職員って多くの人が3、4カ国語が話せるんですよ。言葉ができるかどうかっていうのは、グローバル以前の問題ですね。

■夕方6時には一斉にドアが閉まる国連本部

――日本人は働きすぎだとよく言われますが、国連でもそう感じることはあった?

国によって働きかたは全く異なりますね。国連の場合は部署やフィールド(現地)によってもちろん違いはあると思うんですけど、パリの本部は午後6時になったらドアが一斉に閉まって「さよならー!」みたいな感じ。プライベートを大切にしますから、日本とは全然違いますよ。日本の長時間労働の何が問題かというと、それを本人が望んでいないのに会社の都合や仕事量によって強制されているという点だと思います。

たとえば今の私みたいなフリーランスなら、長時間働くことになっちゃうのは全然いいんですよ。自分が選んでやっていることだし、仕事から楽しみを得られる部分もあるから。でも、会社員で「本当は家に帰りたいのに仕事がまだ残っているから」という理由で嫌々ながら働くのって相当なストレスですよね。だから日本の社会はみんな余裕がないんだと思う。

(2014年の)妊娠中も駅で急いでいる人に突き飛ばされたことがあって、余裕のなさをすごく感じましたね。でも私も身近な人がそうだったからわかるんですけど、環境って本当に性格を変えちゃうんですよ。どんな会社に勤めてどんな働き方をするか、それが積み上がっていくことで、その人の性格がいい方にも悪い方にも作られていく部分は絶対ある。だから、どんな環境に自分の身を置くかを、気をつけていないといけないと思います。

■36歳、人生を諦めるにはまだ若すぎた

――国連は、有給休暇が年間30日、25年間勤続すれば死ぬまで高額の年金が支給される。そんな誰もが羨むポストという地位を手放した理由は?

国連には5年半勤めたんですけど、途中からは「自分の人生本当にこれでいい?」「ここで仕事を続けることが私が望んでいること?」というのがわからなくなってきて。そういう矛盾を抱えながらもうまくやっていく方法を見つけるのも大人として当然だ、と思っていたときもあったけど、そうやって諦めるにはまだ若すぎたんでしょうね。

もし今も国連にいたら、何かもっといい変化はあったかもしれない。でもあのとき私は36歳で、まだまだ自分の人生がいっぱい残っている、と思ったとき、ここで終わるのは嫌だなと思ってしまった。

人生は、衝動で動いたときに大きく動く。時には、損得を考えずえいっと飛び込んでみないといけない。もちろんよくない結果になるときもあるけれど、私はそれを失敗だとは全然思わないし、国連を辞めた選択についてもまったく後悔していません。

(後編は6月10日に掲載予定です)

阿部花恵

川内有緒(かわうち・ありお)
東京都出身。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業後、アメリカ・ジョージタウン大学にて博士号を取得。アメリカのコンサルティング会社、日本のシンクタンク、フランス・パリの国連機関勤務を経て、フリーランスに。現在は東京を拠点に、面白い人や物を探して旅を続ける。『パリでメシを食う。』『パリの国連で夢を食う。』『バウルを探して~地球の片隅に伝わる秘密の歌~』で第33回新田次郎文学賞を受賞。

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