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えっ、義務教育でも始業時間がバラバラ? フィンランドの小学校と保育園を見学してみた

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福祉に手厚い男女平等の国、フィンランド。この北欧の国は、「テストなし」「学費無料」の教育制度で、国際的な学習到達度テストで常に世界トップレベルを誇る。果たして、子供たちはどんな環境で学んでいるのだろうか。どう日本と違うのだろうか――。

フィンランド人男性と結婚後、現地に移住し2人の子供を育てるフリーライター・靴家さちこさんが、日本人グループがフィンランドの小学校と保育園の視察に訪れたスタディー・ツアーの様子をレポートする。

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■映画に魅かれて大好きになった国

「映画『かもめ食堂』が気に入って、フィンランド行きの視察ツアーを企画している人がいる」

2年前にそんな話を聞いた。帰国中に会ってみると、当時31歳の彼は目をキラキラさせて、まだ訪れたこともないフィンランドが大好きだと語った。その人の名は高坂翔輔。フィンランドのどこが好きなのかと聞くと「教育」と答えた彼は、元塾の講師で、今は「かもめ大学」という生涯学習の場を運営し、子供たちに勉強の仕方を教えたり企業に研修セミナーを提供したりするなど、「アクティブラーニング・コンサルタント」として活動しているという。

『かもめ食堂』は、既にフィンランドで家族と仕事を持ち、日常生活を送っている私には心に響くものが今一つ無かった。「ごめんなさい、私、あの映画ピンと来ないんですけど、何がいいのですか?」ときくと「登場人物のサチエさんの生き方がいいんです」と、高坂さんは目を細めた。

フィンランドは「気候は最悪だが、教育なら良い」と夫が請け負ってくれたので住んでいる。しかし在住9年目だった当時でも、長男がやっと小学3年生を修了したばかりで、正直「世界一の教育」を受けさせている実感はまだ無かった。フィンランドのことだったら何でも聞かせてくださいという彼に「でも、そんなに良いことばかりでもありませんよ……」と厳しい部分も語った。夢を壊してしまったかな? と思うくらいに。

■多様なキャリアの人たちがフィンランドの教育現場を訪問

高坂さんの決意は固く、2014年5月に彼の率いる「かもめ大学フィンランド・スタディーツアー」がフィンランドに上陸した。元旅行代理店勤務でデンマークへの視察旅行なども手がけるツアーコーディネーターの戸沼如恵さんと、フィンランド在住22年で視察ガイド10年の実績を持つヒルトゥネン久美子さんと旅行会社との綿密な打ち合わせを重ねて、7日間のツアーを実現した。

昨年の夏、その報告会に参加した。久美子さんの「ポジティブにあきらめる」と題したレクチャーを中心に展開された会では、良いところばかりでは無いフィンランドの現状がありのままに語られ、それが来場者に素直に伝わっていた。何となく"いい国"のイメージがあるフィンランドを上目遣いで見るあまり、日本を卑下してしまう人を多く見てきた身としては、救われた思いがした。

その後、報告会やSNSでその存在を知った人たちが参加を申し込み、2015年の5月には「フィンランド・スタディーツアー」の第2弾がやってきた。主婦からファイナンシャルプランナー、建築士から塾講師に大学院の教授、大学生から保育士に至るまで、実に様々な日本の人たちが「フィンランドの教育を一目見たい」という思いで集まった。フィンランドの教育現場で、そのような一般人の団体を迎え入れるのは異例なことだという。

ツアー参加者は山形から沖縄、年齢は大学生から60代まで。ヘルシンキ空港にたどり着いた一行はまず、『かもめ食堂』の撮影舞台となった「カハヴィラ・スオミ」に集った。ツアーで学びたいことを1人ひとりが紙に書き、目的意識を明らかにする。その後バスに乗り込み、郊外のV市にあるK小中一貫校へと向かった。

■バラバラの教室と始業時間、フィンランド式の「自立」と「信頼」

レンガ造りの校舎で出迎えてくれたのは、アイノ・コイヴニエミ先生(仮名)。迫力満点で指導することから「稲妻先生」と呼ばれるこの先生は、中等部で教鞭をふるうかたわら、市議会議員も兼任している。先生は歓迎の辞を述べ、注意点をいくつか言い渡すと後は、視察ガイドの久美子さんに任せて教室に戻った。「教室はドアが開いているところであれば自由に出入りして構わない」という。「自立」を良しとするフィンランドでは「この人なら信頼できる」と判断されると、ポンと任せられる。視察者はのっけからフィンランド式の「自立」と「信頼」を体験することになった。

低学年の教室は机や椅子の配置がバラバラで、どれ一つとして同じものが無かった。そればかりか廊下にも3台ほど児童の机が出されている。机の持ち主に理由を聞くと、「罰じゃありません。教室がせまくて入りきらないの」と2年生がしっかりした口調で答えた。机を出して広くなった教室では、子供たちが自由に動き回ってグループ学習をしている。算数の授業をiPadで行っているクラスもある。

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机を廊下に出し、広々とグループ学習に使っている1年生の教室

4年生以上になると既に英語を習っているので、外国からの客人に”Please, come in!”(どうぞ中へ)と教室に招き入れる先生もいた。このクラスのその日の授業は10時からで、ちょうど朝の会を開いているところだった。教室のドアには、空欄がある時間割が張ってある。曜日によって始業時間はバラバラで、先生の裁量で授業内容が決まるのだ。視察者たちは各教室の時間割を見比べ、驚いていた。

もう一つの4年生の教室では、生物学の授業でイヌ科とネコ科の動物について学んでいた。この教室では、バーチェアーのような脚が長い椅子が使われている。「だんだん年齢が上がるにつれ、わざとだらしなく座る児童が増えてきます。こういう椅子では姿勢を崩すと落ちてしまうので、それができません」という視察ガイドの久美子さんの説明に、一同は目を丸くした。無駄な注意や叱責を無くす工夫がインテリアに反映されているのだ。

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高い椅子に座って学習する児童たち。これなら姿勢も正しく集中して授業に臨めるようだ。

■同じ校舎で、障がい児とともに学ぶ 

低学年でも高学年でも、軽度の発達障がいや学習障がいの児童を10人ほど集めた少人数クラスがある。フィンランドではこういうクラスを「特殊学級」と呼ばず、「小さいクラス」と呼んでおり、普通クラスで習う内容がゆっくり進められている。

同じ校舎に重度障がい児クラスもある。まっすぐに座っていることすら困難な子供たちも、見えない障がいを持つ子供たちも、健常児と同じ校舎で学んでいる。担任の先生は、フィンランドの教育現場で取り入れられている「月曜日は緑」「火曜日は青」といった曜日の色に合わせて服やマニキュアの色も変えている。障がいを持つ子供たちがきれいな色や飾りにとても強い関心を示すからだ。

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1クラス10名前後の「小さいクラス」。色を多く使って視覚的に学べる効果を取り入れられている。

■校庭に並ぶむきだしの石、銀行のカードの使い方で「生きる力」を身に付ける

廊下の窓からは校庭が見えた。無造作に並べられたむき出しの岩が目に入る。久美子さんは「この岩の上に雪が積もると滑りやすくなります。それでも先生たちは『子供たちはバカではありません』と言います。下級生は上級生が遊ぶ様子をよく見ていて、思い切ったことはしないと分かっているので自然に任せているのです」と説明する。

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校庭にごろごろと並ぶむき出しの岩。子供たちに「危険との対峙と回避の仕方」を教えている。

続いて家庭科室で「ホームエコノミクス」の授業をのぞいた。7年生が調味料について学習しているところだった。男子も家庭科が必修となった世代の視察者は「これはイクメン養成に大変有効です」とうなずいた。教科書を見せてもらうと、銀行カードの種類と使い方や貯金の仕方、そして働いてお金を得ることの意義を教える章がある。このページは、フィンランドの学校では「生きるための力が身に付く学び」が実践されている証として視察者の目に焼き付いたようだ。

■「教育の方が子供に合わせる」フィンランドの学校

小学校を視察後、アイノ先生と懇談会が持たれた。「安心できる人間関係がすべての基礎であり、お互いを認め合い、違いを認め合って支え合う場所、それが学校です」と定義するアイノ先生。先生との交流を通して、視察者たちはフィンランドの学校では「教育に子供たちを合わせている」のではなく、子供たち一人一人に「教育の方が合わせている」ことを感じ取った。

最後に「教育で一番大事なことは何ですか?」という一人の質問に、先生は「家庭です」と答えた。「親子の時間」や「家庭教育」が安定してこそ、そこを土台に学校教育が生きてくる――このシンプルなメッセージは多くの視察者の胸に響いた。

■保育園は自立と信頼を身につける場、想像力を育む「遊びプロジェクト」

一行は、V市のM保育園へと歩を進めた。著名な建築家が設計したおしゃれな建物に迎え入れてくれたのはティモ・ヴィルタネン園長先生(仮名)だ。先生はまず、園児たちがお話を作りながら遊ぶ様子を映したビデオを見せてくれた。その後5人の園児と共に、新しく始めたばかりの音楽と算数、国語力や運動能力を総合した遊びプロジェクトも披露してくれた。

大きな紙を床に敷き詰め、先生が詩を朗読するようにストーリーを展開する。「モニカおばさんが買い物に出かけました……右に曲がり左に曲がり……市場にきました」そこで園児に「市場には何がありますか?」と問いかけると、「やさい!」「くだもの!」という声が上り、園児たちはその絵を床に描きだした。このお話が完結するまでに、問いかけと描画以外に詩を朗読したり歌ったりした。このプロジェクトには、自己表現、運動、好きなだけ大きなスペースにイメージを描ける等の効果があるそうだ。

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先生と一緒にストーリーを展開しながら進める、楽しい遊びプロジェクト。撮影:井上明香

続いて教室を見て回る。一行は壁や棚にある様々な遊具やカードに関心を寄せ、ひとつひとつ手に取って観察した。視察者の一人が驚いたのは、室内の小さなパーテーションで区切られた空間だ。園児たちは、大人の目が届かない空間の中でも遊んでいるのだ。

保育士でもある彼女は、「私の園ではできるだけ死角を無くして皆の位置を把握できるようにしているのに、こんなに子供たちが信頼されているなんて」と目を見張った。フィンランドの保育園では、1つのクラスがメインの教室以外にも2、3の小部屋を持ち、園児は思い思いの部屋で遊ぶのが普通だ。いつしか慣れていたフィンランドの当たり前が、日本では当たり前で無いというのは、私にとっても大きな発見だった。

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シンプルな遊具。フィンランドの教育は、実はとてもシンプルだ。撮影:宿里利佳

■フィンランドの保育園では、子供たちに「ダメ」と言わない

視察の最後には園長先生とも懇談した。視察者のうち3名が保育士だったこともあり、フィンランドと日本の育児事情について熱く語り合った。園長先生によると、園では子供たちに「ダメ」とは言わないのだそうだ。敢えて言うとすれば、「競争するのはダメ」。フィンランドの教育は学問に競争原理を持ち込まれないことで知られている。人口540万人の国では競い合い、すり減り合うやり方では社会が成り立たないのだ。

園に関しては、視察者たちは「特別日本と違う事をしているわけではない」という結論に達した。フィンランド流の育児メソッドを取り入れている保育園に勤務する視察者は、「私の園に似ている」と目を輝かせた。もちろん建物や保育士の数、グループ構成など違うところもたくさんあるが、大事にしているものが同じなのだという。

その一方、「子供に精神的にも身体的にも安全を提供する」という園の基本理念に対しては意見が分かれた。社会福祉法人の経営者は「そんな基本的過ぎることでいいのか」と疑問の声を上げ、塾講師を経て生涯学習塾の開講を準備している参加者は「簡単そうに聞こえるものの、なかなか実現できることではない」と語った。

■己を知り、ポジティブに「違い」をあきらめる

これら2か所の視察でツアー参加者たちが見つけたものは何だろう? それぞれの訪問先では、教師に与えられる大きな裁量や少人数制など「違いがありすぎる」と目を見張り、「日本ではあり得ない」「日本の子供たちは自己評価が低い」と、自国の実情と比べて暗い空気が漂ったひと時もあった。

しかし、「そうはいっても日本社会から競争を排除することはできない」と現実をふまえ、日本でも既に実践されている個を尊重したプロジェクト型の授業や創造力を伸ばす取り組みなど、良い部分も再発見し「日本の教育も捨てたものでは無い」と胸を張る一場面もあった。

違いの中から学べることもあるが、日本とフィンランドは、地形も民族も成り立ちも違う。小中一貫校のアイノ先生も言うように、「見たものをそのまま使うのではなく、自分自身や環境に合わせて使うことが大事」である。

現実的に、全てのフィンランド流のやり方が日本に導入できるわけではない。場合によっては、フィンランドの「自立」と「信頼」を大切にするメソッドを取り入れてみたところで、日本教育の課題が解決するという保証もない。人口の少ないフィンランドのように己を知り、「ポジティブにあきらめる」ことも重要だと、ツアー参加者全員は生き生きと学びを分かち合った。

スタディーツアーの様子はこちら。

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フィンランドのスタディ・ツアー画像集
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※取材に協力いただいた団体・関係者のプライバシーを考慮し、学校名をイニシャルで表記し、学校関係者の名前を仮名に修正させていただきます。(2015/06/22 18:40)

(文・撮影 靴家さちこ

(ツアー後編は、7/4に掲載予定です)

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