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どこまで進んでる? iPadを使った教育を実施している幼稚園を訪問してみた

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東京都福生市の聖愛幼稚園で行われているiPadを利用したICT教育 | 猪谷千香
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ICT教育に取り組む幼稚園や保育園が増えている。iPadなどのタブレット端末を利用し、園児たちの表現力やチームワーク力などの向上を促すというものだ。国はすでに、小中学校の義務教育における教科書のデジタル化やタブレット端末を利用した授業の実施に向けて動き出している。

文部科学省が2011年にまとめた「教育の情報化ビジョン」でも、2020年度までにすべての学校で1人1台のタブレット端末を利用した授業の実施を目標に掲げており、現在の園児たちが小学生になる頃には、タブレット端末で勉強する姿が当たり前になるかもしれない。

一方で、子どもたちにタブレット端末を使わせることに懸念を示す親や教育関係者は少なくない。では、百聞は一見にしかず。園児たちは、iPadを使って何をしているのか。2014年度から本格的にカリキュラムを導入している東京都福生市にある聖愛幼稚園の現場を訪れてみた。

■iPadを使う前に、子どもたちの「作戦会議」

この日、授業を受けていたのは、年長組の子どもたち約20人。3人、4人ずつのグループに分かれて着席、礼儀正しく起立と礼をしてからスタートした。指導するのは、聖愛幼稚園の野口哲也園長だ。すぐにiPadを使うのかと思いきや、まず始まったのは「話し合い」の時間だった。

「今日は、お友だちと一緒に話し合いをしてもらいます。話し合いとは、お友だち同士で作戦会議をしてもらうことです。その時に大事なことは、自分が考えていることをちゃんと言う。恥ずかしがってるお友だちがいたら、聞いてあげてください」と野口園長。話し合いのポイントをこう伝えた。

「それから、自分の意見を言って、『そんなのおかしい!』ってお友だちに言われたら、みんなはどう思う?」

「悲しい!!」と口々に答える子どもたち。

「そうだよね。自分と違う意見が出てもいいんです。お友だちに『それ、面白いね』と言ってあげてください」

聖愛幼稚園で導入されているカリキュラムは、「こどもモードKitS(キッツ)」と呼ばれるもの。知育アプリ開発で知られる株式会社スマートエデュケーション(本社・品川区、池谷大吾代表取締役)が園児向けに開発した、ICTを活用した教育カリキュラムだ。この日は、同社のお絵かきアプリ「Goccoらくがキッズ」を利用。教室の大型モニターにまず、シンプルな丸が2つ映しだされた。

「この2つの丸を見て、何に見えるかグループで話をしてみてください。いろんなアイデアを出してね。10個くらいは考えて」

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2つの丸が何に見えるか、アイデアを出し合う子どもたち

「目に見える!」「落とし穴?」と自分の意見を活発に言い始める子どもたち。グループで頭を寄せ合い、話し合いを始めた。しばらくして、野口園長が机を回り、子どもたちにインタビュー。「メガネ」「ブタの鼻」「中央線のライト」「泥ダンゴ」「アリの巣」「ボタン」「シャボン玉」と、思いつく限りのアイデアを子供たちは次々と発表していく。

「それでは、グループで同じものを描いてほしいので、何を描くかみんなで決めてください」

再び話し合い、それぞれの机でテーマが決まる。ここまで授業スタートから約15分。テーマが決まってから、子どもたちはiPadを1人1台、先生から渡された。

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アイデアを発表する子どもたち。野口園長がマイクでインタビューするのも、子どもたちの楽しみだ

■お友だちが描いた作品に「いいね!」を押す

iPadを手にした子どもたちは、慣れた手つきでアプリをタッチし、準備を始める。子どもたちが授業でiPadを使い始めたのは4月から。月に2回程度、1時間に満たない授業だが、すっかりiPadの操作に慣れているようだった。

「おうちボタンを押してね。分からない子がいたら、お友だちが教えてあげください」

おうちボタンとは、ホームボタンのこと。戸惑っている子がいたら、別の子が助け舟を出している。周囲には、野口園長をはじめサポートする先生たちがいるが、過剰に手助けはしない。基本的に、すべて子どもたちが操作をしている。

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操作がわからないお友だちには、別のお友だちが積極的に教えていた

10分ほどで最初の絵が完成。さっそく野口園長はモニターに子どもたちが描いた絵を映し出す。「らくがキッズ」は世界中で使用されているアプリで、自分の国の国旗とともに描いた絵をネット上に投稿したり、その投稿された絵に「いいね!」を押したりできるソーシャル機能がある。子どもたちの作品も、すぐにネット上にアップロードされる。ただし、「キッツ」では、聖愛幼稚園だけのクローズドの環境での公開になり、先生と子どもたちしかアクセスはできない仕組みだ。

「おいしそうなアイス! 三段アイスだね。何味?」と園長がアイスクリームを描いた子どもの作品を紹介しながら質問。その子は、「ソーダアイスとモモアイスとチョコ味!」と返事をする。紹介の後は、子どもたちがお互いの作品に「いいね!」を押す。ある男の子は、iPadをのぞきながら、「僕のいいね!が3個になった!」と喜んでいた。

「どんなものを描いてもいいです。好きなものを好きなように描こう」と最後に園長がしめくくる。これで40分間の授業が終わり、子どもたちはきちんとiPadを返却、また起立礼をして、自分たちの教室へと元気よく帰っていった。

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お友だちの作品を見て、感想を言ったり、「いいね!」を押すのも大事

■効果検証では「創造力」が向上、アイデア数も増加

「キッツ」を開発したスマートエデュケーションによると、2014年度には聖愛幼稚園を含む3園での導入だったが、2015年度は全国で8園に増えている。また、東京大学大学院情報学環の山内祐平教授が代表を務める教育系NPO法人「エデューステクノロジーズ」とともに、聖愛幼稚園とコビープリスクールよしかわ保育園の年長園児の効果検証を実施。「創造力」では表現力、技巧力などが向上、アイデア数が増加したという。また、タブレット端末とアプリの操作力の「ICT活用力」も向上していた。

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自由に表現することを楽しんでいる子どもたち

聖愛幼稚園では現在、年長の全3クラスで「キッツ」の授業を行っている。もともと、聖愛幼稚園では2年前からiPadを取り入れる授業を実施、その経験から野口園長自ら、このカリキュラムの作成に携わった。実際に1年間、カリキュラムを行った手応えを野口園長に訊ねた。

「子どもたちの成長は確実に見られました。子どもたちにとって、iPadだ、すごい!と思うのは最初の1、2カ月だけで、あとは慣れてしまいます。それから、実際にどう活動するかが大事になってきます。たとえば、表現活動だったら、上手に描くことではなくて、『それぞれ自由に表現してもいい、描きたいからいいでしょう』というところを大事にしています。

これまでの制作活動ですと、先生のお手本どおりに作品を作ったり、絵を描いたりすることが、難しく、苦手だと思ってしまう子がいる。そういう子でも『キッツ』では、大胆な色を使って絵を描くことができる。ポジティブな気持で取り組んでくれた。漫画家のようにうまくは描けないかもしれないけど、『これは僕なりの表現、私にしか描けない絵なんだ』という自信を子供たちに持たせてあげることができます」

また、こんなこともあった。

「昨年は、普段なかなか椅子に座っていられない子がいたのですが、絵がとても得意で、とても素晴らしい作品を作ることができました。すると、周囲もほめてくれて、『どうやって描くの?』と他のお友だちが描き方を真似し始めました。その子をまた違った角度から見たり、知ったりすることができました」

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子どもたちを自ら指導する野口園長。子どもたちも集中していた

■「ツールとしてのポテンシャルを気づかせたい」

子どもたちの成長が見られた一方、反省点もある。野口園長はこう振り返る。

「昨年度は、僕も初めての試みで、せっかくのアプリやツールをまだまだ活かしきれなかった部分がありました。3歩進んで、2歩下がる感じ。でも、ポテンシャルを感じることができました。今年度はもっと伸ばすために、できないと思って去年はあまり時間を取らなかった話し合いの時間を増やしたり、先生があえて操作を教えずに子ども同士で教え合ってくれるよう、促しています。カリキュラムももちろん大事なのですが、実際にどう子どもたちに与えていくか、指導者の力量に左右されますので、がんばらないといけないと思っています」

園児にiPadを使用させることに対し、保護者からの不安の声はないのだろうか?

「一部の保護者の方から、そういう心配の声はありましたが、思ったよりも少なかったです。不安に思っている方は、iPadと子どもが向き合って黙々とやっているというイメージをお持ちです。でも、iPadを使ってすごいでしょう、ということではなく、相手の意見を聞いたりしながら、共同作業のツールとしてうまく使えるように指導していきますと説明しています。保護者懇談会で説明していますが、やらないでくださいと言われたことはないです」

iPadに対するイメージも、実は大人の方が固定化してしまっているのかもしれない。

「最初、子どもたちから『iPadって、ゲームができるやつでしょ? 園長先生、いつになったらゲーム始まるの?』という反応がありました。そういう子どものお母さんは、スマートフォンでゲームをやっているんですね。だから、『キッツでは、もっと面白いことをするよ』とお話しました。タブレット端末でなくても、小さい時からご家庭でスマホに触れている子どもが多いです。幼児期からiPadを触らせなくていいというご意見もわかりますが、実際にゲーム機やスマホ、iPadに触らないで育つことはあまり考えられない。だったら、もっとツールとして、色々なポテンシャルを秘めているのだというのを気づかせてあげたいと思っています」

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