あの人のことば

アメリカで気づいた「日本の伝統」の誇り。パンクロックに魅せられた男が、京都の骨董店を継ぐまで

2015年07月06日 01時44分 JST | 更新 2017年08月21日 01時28分 JST

骨董の器と聞いて、あなたはどう思うだろうか。もしかしたら「高価そう」「奥深そう」「正直言ってそのよさがわからない」「ピンと来ない」などと感じる人もいるかもしれない。

京都の寺町にある骨董店「大吉」の二代目店主、杉本理(おさむ)さんもかつては「ピンと来ない人」の1人だった。10代から20代にかけて、古着とパンクロックに傾倒した杉本さんは、アメリカ西海岸で7年間過ごしたのを機に、日本の骨董の"ぜいたくさ"に開眼した。

「日本独自の骨董の愉しみかたは、ものの見えかたを変える」と杉本さんは話す。京都の骨董界のホープに、これまでの歩みや日本ならではの骨董の話を聞いた。

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■「アメリカ建国の歴史と同じ」、江戸時代のそば猪口を使うぜいたく

剃り上げたモヒカンに黒革のリストバンド。パンクなファッションに身を包む杉本さんの風貌は、いわゆる「骨董店の主」のイメージをくつがえす。杉本さんは1971年生まれ。1980年代半ば、中学生のときに、京都に遊びに来ていたアメリカ人にもらったビートルズのカセットテープを聴き、「音楽に意志がある」と感動。ロックと古着にのめり込んだ結果、高校でカリフォルニアへ留学した。

杉本さんは当時をこう振り返る。「80~90年代は新しいものがいい、古いものはダサいとされていた時代でした。DCブランドが一世を風靡していて、50~60年代の古着が好きだった僕は少数派でした。とはいえ僕自身も、古いものの魅力がちゃんとわかっていたわけじゃない。京都の町家なんて夏暑くて冬寒いから、好きじゃなかった」

高校卒業後、西海岸を転々としながら計7年間を過ごす。ある日、アメリカ人と酒を飲んでいたときに実家から持ってきた骨董の価値に気づいた。

「カリフォルニア産の赤ワインを江戸時代のそば猪口で飲んでいると、アメリカ人が驚くんです。アメリカ建国の歴史と同じ時を経た器を普段使いするのは、とんでもないぜいたくである事実に気づかされました」

そば猪口で飲むと、いつものワインが不思議とおいしく感じる。同時に、自分の中の何かが潤っていくのを感じた。「自分の国は200年以上前から、こんなすごいものを作っていたんや、と誇らしさを意識した瞬間でした」

世界ではアンティークは"蒐集"(しゅうしゅう)の対象で、実際に骨董に"使う"日本とは決定的に愉しみかたが異なる。「イギリスやフランス、中国や韓国にも古い食器のコレクターはいるし、食器や家具などを先祖代々引き継ぐ習慣はあります。ただ、彼らにとっては特別な日に箱の蓋を開く、特別な器。日本人のように、骨董を日常づかいする文化はないんです」

日本独自の骨董文化の魅力に気づいた杉本さん。22歳のとき帰国、もともと料理人だった父親が、器好きが高じて割烹から鞍替えした骨董店「大吉」を継ぐことを決める。

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■「ガラスケース越しではわからない」所有して使い、理解を深める

父は古伊万里を中心に扱っていたが、杉本さんの代になり酒器や皿、壺をはじめ、日常使いできる骨董を増やした。「普段使いすることで、そのものへの理解が深まる」という考えを大切にしているからだ。

「博物館でガラスケース越しに見ているだけでは、質感はわかりません。所有すれば手のひらに乗せて眺めることができます。焼き物にかけられた釉薬や凹凸を指先でたどり、手のひらで重みを量る。そうすることで作り手の意図や、熟練、情熱が読み取れます」

猪口には日本酒を入れて口に運ぶ。花器に花を活ける。皿や茶碗はいつもの食事を盛り付ける。目的は器の機能性を確かめるだけではない。江戸時代の器なら町人か商人か。使うことで、かつてどんな人が使っていたのかに思いを馳せる。五感を使い、想像力を駆使して、時空を超えて楽しむ。これこそが、日本独特の骨董の愉しみかただという。

「実際に骨董を生活に取り入れると、ものの見えかたが変わってきますよ」

たとえば、骨董の猪口を手に入れたとしよう。するとその猪口に合わせて"ちょっといい酒"を準備したくなるし、酒に合わせていい酒肴を揃えたくなる。コンビニのポテトチップでいいやとは思わない。そうすると会話の内容も変わってくるし、いい音楽のひとつもかけたくなる。つまり骨董が、自分なりの暮らしを考えるきっかけになるのだ。

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店内の古磁器には花が活けてある。

■骨董で、歴史と現在をつなげる目線をもつ

それだけではない。骨董は日本の製造業の変遷を反映する。杉本さんによれば、江戸と明治で残っている器を比較すると、ものづくりの考え方ががらりと変わったことがわかるという。

「明治の骨董は、日本全国に流通させるために工業化を図り、均一化されたものが増えます。明治期、製造業はたくさんのエネルギーを消費して均一な商品を大量生産する、資本主義のシステムに乗ったのがよくわかります」

一方、江戸時代の器は手づくりだ。「しかしながら、器そのものを比較してみると、江戸期が明治よりも劣っていたわけではありません。むしろその逆です」長崎の出島に着いた舶来品が珍重されていたが、西欧に傾倒していたわけではない。日本独自の価値観があったのが江戸時代だった。

概して、江戸のほうが明治より相場が高くなるのは、ただ時代が古く稀少なためだけではない。時間と手間をかけた作りかたが、後世での価値を高めているのだ。

骨董を普段づかいするのは、歴史をつねに手元に置いておくことでもある。過去と現在を直結させて、時代のなかに今を位置づける目線が手に入るのだ。

■物言わぬ骨董に耳を傾ける「日本の昔からあるものに、もっと誇りをもっていい」

骨董には猪口や皿、椀や徳利といった食器や酒器以外にも、茶道具や書画、仏教美術などといったさまざまなジャンルがある。どの分野にもコアなファンがついているが、そのなかで杉本さんが勧めるのは壺だ。

「日本の中世頃の壺は値ごろといえます。今から900年前、鎌倉時代の壺が、海外の高級ブランドのスーツ一式や時計と同じくらいの値段で手に入るんですよ」

日本の骨董の魅力に気づいた海外のクリエイターは多い。画家のジャスパー・ジョーンズは弥生時代の土器を購入した。映画監督のウッディ・アレンは自宅に桃山時代の古田織部の向付(むこうづけ)を飾っているそう。「この国の先達が残してきたものに、軽々しいものはありません。もっと多くの日本人に、骨董の魅力に気づいてほしいです」と杉本さんは語る。

もの言わぬ骨董品に静かに耳を傾けることは、日本の歴史や"誇り"を発見する、もう一つの方法かもしれない。

京都の寺町にある骨董店「大吉」画像集

(文・撮影 呉玲奈)

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