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17歳のアルバイトは、中絶された胎児の処置だった――漫画家・沖田×華さんが描く、産婦人科の光と影

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祝福されて生まれてくる命と、ひっそりと葬られる命。それらを分け隔てるものは何だろう――。

産婦人科医院を舞台にした『透明なゆりかご』という漫画が注目を集めている。FacebookやTwitterでは「夫婦で泣いた」「出産経験があるなしに関係なく心にくるものがある漫画」「男性にこそ読んでほしい」といったさまざまな感想がアップされ、男女を問わず大きな反響を呼んでいる。

作者の沖田×華(おきた・ばっか)さんは元看護師。17歳の夏にアルバイトをしていた産婦人科医院で、看護師見習いだった彼女の仕事は「命だったカケラを集める」、すなわち中絶された胎児の処置だった。

初めて立ち会った中絶の現場、不倫相手の子を産んだ女性、紙袋に入れて捨てられた赤ん坊……。沖田さんが間近で見てきた真実はどれも胸に突き刺さる。実体験をもとに産婦人科の語られざる“闇”に光をあてた沖田×華さんに、作品に込めた想いを聞いた。

okita

 

■半透明の胎児はすごくきれいだった

――産婦人科医院を舞台にした『透明なゆりかご』は一話完結で、さまざまな重いテーマが扱われていますが、いずれも沖田さんの実体験がベースになっているのでしょうか。

そうです。今から18年くらい前(1997年)のことですけど、当時の私は17歳で処女だったからやっぱりすごく衝撃的で。赤ちゃんが生まれる=幸せハッピーなわけじゃない。産まれてきたことで不幸になった子もたくさんいる。そういう産婦人科の表と裏を描いてみたいと思いました。

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『透明なゆりかご』より

――第1話では看護師見習いの主人公(沖田さん)が、初めて中絶手術に立ち会うシーンが描かれています。当時のことをどう記憶していますか?

私の前に別の実習生がいたんですけど、彼女が貧血で倒れたので「ちょうどよかった、来て!」って先生から呼ばれたんですよ。それで(手術室の)ドアを開けたら、女の人がパカーッて内診台で足を開いてて、それだけでもう「うわああ!?」って内心びっくりで。

そのとき初めて真正面から中絶のオペを見たんです。漫画では(自分を)無表情に描いてますけど、マスクの下はあわあわ状態というか、心の中で悲鳴をあげてましたね。ああ、こういうことやっていたんだ、って。

それで手術の終わり際に、先生から「この中のものをケースに入れて」と渡されて、なんだかよくわからないままに受け取って、ホルマリン液に入れて初めて「あ、これってもしかしたら赤ちゃん?」ってわかったんです。

グロいとか気持ち悪いっていう感覚はまったくなくて、すごく不思議な気持ちになりました。今、ついさっきまで生きていたのが、なかったことになってしまった不思議というか。胎児って半透明ですごくきれいなんですよ。だからポーッと見ていた覚えがあります。

yurikago

『透明なゆりかご』より

――それまで中絶にどんなイメージがありましたか。

最初は中絶をする女の人に対して、軽蔑とか、そういう気持ちのほうが強かったです。最初から作らなきゃいいのに、って。その患者さんが悪いんだという目で見ていました。でもいろんな患者さんのいろんな事情を知るうちに、そんな単純な問題じゃない、これは女だけの問題じゃないんだ、って気づくようになりましたね。

■かつて日本の死因1位は中絶だった

――90年代の日本の3大死亡原因は、1位がガンとされていますが、実質の1位が人口妊娠中絶(1997年当時)だったことも衝撃でした。ガンで死ぬ人よりも、中絶で消える命の方が多かったとは。

それは私もすごくびっくりして。表に出てこない数字なんですよね。私がその病院でアルバイトをしたのは夏休みからの3カ月だけだったんですが、当時ちょうどできちゃった婚が話題になり始めた頃で。「できたらいいじゃん、幸せじゃん!」みたいに、はっちゃけていた学生もいました。そのせいなのか、夏休み明けの手術件数はすごく多くて。

中絶の手術自体はすぐ終わるし、ほとんど体に傷付けないような方法でやっているんです。でもやっぱり手術を受けて、心に傷を負ってしまったことは伝わってくる。「自分にはもう子供を産む資格がない」と思い込んでしまう女性も多いんです。

じゃあ中絶をした女性は一生そのことで苦しめ続けられなきゃいけないのか、っていうと私はそうじゃないと思うんです。

あまり人に言えないことだから、一人で思い詰めてしまうんだろうけど、実際は、いろんな事情があって結果的に大勢の人が同じことをしているわけで。

だから軽く考えていいとはもちろん言えないですけど、そんなに自分を追い詰めないでほしいということは伝えたい。だって自分ひとりで妊娠したわけじゃないんだから。だから中絶を「悪いこと」というような描き方は絶対にしないように気をつけています。

たとえ昔、中絶したことがあったとしても子供は産めるし、その子を介して幸せになる権利はもちろんある。私はそう思っています。

――その一方で、「産む」という選択をした結果、虐待や貧困に繋がってしまう残酷な現実も描かれています。

産んでしまったがゆえに、不幸になってしまったという人もいました。ずっと不妊治療してやっとできた赤ちゃんを「これは私が産みたかった子じゃない!」と言って他人の子と取り替えようとしたり、障害を持って生まれてきた我が子を「要らない」という親がいたり。

母性って何なんだろう、ってすごく不思議でしたね。

――さまざまな経験を通じて「母性は天気のように常に変化するもの」と感じる主人公の姿も印象的でした。母性って「絶対に揺るがないもの」ではない、と。

そんなのもう人間じゃないですよ。母性ってある意味で神話みたいになっちゃっていますけど、母性が何かっていうのは本当に難しい問題だと思っていて。母性についてはこの先も描いていくつもりです。

(後編は、7月13日に掲載予定です)

沖田×華(おきた・ばっか)
1979年、富山県出身。小中学生のころに学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)、アスペルガー症候群と診断される。看護師、風俗嬢などの職業を経て、2008年に『こんなアホでも幸せになりたい』で漫画家として単行本デビュー。著書に『ガキのためいき』『ギリギリムスメ』『蜃気楼家族』など。最新刊は、産婦人科でのアルバイト体験を描いた『透明なゆりかご』(講談社)。

(文:阿部花恵

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