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「トランスジェンダーは大切な存在。尊敬を受けるのに値する」 ケイトリン・ジェンナーのスピーチ全文

2015年07月19日 22時08分 JST | 更新 2015年07月19日 22時21分 JST
Chris Pizzello/Invision/AP
Caitlyn Jenner accepts the Arthur Ashe award for courage at the ESPY Awards at the Microsoft Theater on Wednesday, July 15, 2015, in Los Angeles. (Photo by Chris Pizzello/Invision/AP)

caitlyn jenner

男性陸上選手でモントリオールオリンピック十種競技の金メダリストのケイトリン・ジェンナー(旧名ブルース・ジェンナー)は7月15日、アメリカ・ロサンゼルスのノキアシアターで、トランスジェンダーをカミングアウトしてから初めて公の場に姿を現し、スポーツ専門局「ESPN」が主催するスポーツ選手の功労者を表彰する「ESPY賞」の授賞式で、アーサー・アッシュ・カリッジ賞を受賞した。

ジェンナーは、トランスジェンダーの女性としてのこれまでの個人的な経験について語った。しかし彼女は、スピーチの大部分を、拡大するトランスジェンダーコミュニティーの数多くの問題について、思いやりのある、感動的な考察に費やした。 スピーチ全文は以下の通り。

本当にありがとうございます。今夜、この場所にいられることは本当に素晴らしいことです。この数カ月、本当にさまざまな経験をし、いろんな気持ちになり、目が回るようでした。でも正直に言いますと、私が人生で方向転換する時はいつも、こうした重圧のかかる状況に身を置いているように思えます。試合で競う時、家族を養う時など、いつもそうです。しかし私の人生でここ2、3カ月ほど重圧を感じたことはありません。この衣装を選んで ……オーケー、女の子たち、分かりました!(笑い)。靴を選んで、髪をセットして、お化粧して……ありとあらゆることでとても疲れました。そして次にファッションチェックーーお手柔らかに。こういうことは初めてなんです。

でも、ちょっとここで私たちの女子サッカーチームに一言挨拶させてください。

(拍手)みなさん、見事に敵をやっつけましたね。

でも本当のことを言うと、数カ月前までは、他のトランスジェンダーの人たちとは1人もお目にかかったことがありませんでした。私のような人にです。トランスジェンダーの人に会ったことがないのです。一度も。さて、みなさんご覧のとおり、私は自分自身で、私生活で私が置かれた状況に対処してきました。そしてその過程は、すでに信じられないほど、ためになる経験へと変わっていきました。

それは目を見張るようなことでしたし、勇気づけられることでしたが、同時に怖くもありました。このアメリカの中でたった今、そして世界中で今この瞬間に、若い人たちがトランスジェンダーであることの苦しさを受け入れています。彼らは10代が抱える他のあらゆる問題に加え、自分たちが違うことを学び、そしてどう対応すればいいか理解しようとしています。

彼らはいじめられ、打ちのめされ、殺され、自殺しています。その数を聞いたら、よろめいてしまうくらい驚かされましたが、今、トランスジェンダーのみなさんが置かれている現実なのです。

ちょうど先月、トランスジェンダーの有色人種の若い女性で17歳のメルセデス・ウィリアムソンさんが刺殺され、彼女の遺体はミシシッピ州の畑の中で発見されました。サム・タウブさんについてもお話しましょう。

彼はミシガン州ブルームフィールド出身で、15歳のトランスジェンダーの若い男性でした。4月上旬、サムは自らの命を断ちました。今、特にサムの話が私の頭から離れません。というのも、彼の死が私のダイアン・ソイヤー(ABCテレビのニュースキャスター)とのインタビューの数日前だったからです。このようなことが起こるたびに人々は思います。「もっと注意深くこの問題にスポットライトを当てて世の中で起きていることを変えていけば、結果も違っていたのでは?」と。それは誰にもわかりません。

もし私の人生に関してわかったことをひとつ挙げるとすれば、スポットライトの威力です。時としてそれは手に負えないものになりますが、注目を浴びることには責任が伴います。家族として、アスリートとしての生活、そして自分の発言や行動は、何百万という人々に夢中になり、見守られます。特に若い人たちへの影響は大です。私は自分の責任が増していることをはっきりと分かっています。私の話を正しく伝え、私自身が学び続け、トランスジェンダーの問題がどのように見られ、彼らがどう扱われるのかについて背景を改めて明らかにするという責任です。そしてもっと広い意味で言うと、とてもシンプルな考えを広めていきます。それは、人々のありのままを受け入れる。人それぞれの違いを受け入れるということです。

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今夜、私はみなさんにお願いしたい。このトランスジェンダーの問題をみなさんが問題の一つとして捉える時に、私も加えて欲しいということです。どうやって始めたらいいのか? 教育から始めましょう。私は幸い、アーサー・アッシュ(アフリカ系アフリカ人テニスプレーヤーの先駆者)に何度かお会いしました。それで、彼にとって教育がいかに重要なのかが理解できました。他の人をよりよく理解するために可能な限り学んでください。

私は、この会場にいるみなさんがハードワークやトレーニング、そして自分が求める成果を達成するために困難を克服することの大切さを理解しているとわかっています。私は一生懸命トレーニングし、一生懸命競い合いました。だから、人々は私を尊敬してくれるのです。

しかし今回の変化は、私が想像できる中でもっとも大変なことでした。そしてそれは、私以外の多くの人たちにも言えることです。それだけでも、トランスジェンダーは大切な存在に値します。彼らはみなさんからの尊敬を受けるのに値するのです。[拍手]そしてそうした尊敬から、私たち全てにとって思いやりのあるコミュニティや、より共感できる社会、より良い世界が生まれます。

私よりも前に、多くの人がこうした苦難の道を歩んできました。スポーツ界のレニー・リチャーズ(テニス選手)から芸能界のチャズ・ボノ(歌手)、ラバーン・コックス(女優)まで、他にもたくさんいます。作家のジャネット・モックは今夜ここにいます。そして私は彼ら全員にこの場でお礼を申し上げたい。そしてESPY賞に、亡きアーサー・アッシュに、私の旅が次の段階へとスタートするのにこの舞台を与えてくださったことに感謝したい。また私は世界中にいるトランスジェンダーの若きアスリートたち全員にお礼を言いたい。彼らは、本来の姿でスポーツをするチャンスを与えてくれたのです。

それから、今週のニュースでは、トランスジェンダーの人たちがもうじき軍隊に入れるようになるようです。素晴らしいアイデアです。私たちは長い道のりを歩んできました。しかしそれでも、やることはたくさんあります。

個人的には、私の相棒ダイアン・ソイヤーにお礼を申し上げたい。そう、一度は自分自身の話を初めて打ち明ける時があります。そして、ダイアンは、ありのままに、丁寧に私の話を聞いてくれました。私とトランスジェンダーのコミュニティは、そのことにとても感謝しています。そして私はあなたにとても感謝しています。あなたが友達であることに、とても誇りに思います。[拍手]

ここからが大変な部分です。私は家族にお礼を申し上げたい。ケイトリン・ジェナーとしてカミングアウトするときに一番恐れていたのは、他人を決して傷つけたくなかったということでした。そのほとんどが、私の家族と子供たちでした。私はいつも、家族には自分たちの父親が人生で成し遂げたことについて、父親を誇りに思ってほしかったのです。家族みんなが、大きな支えになってくれました。そして支援してくれました。私は、自分の人生であなた方みんなと家族でいられたことをとても嬉しく思います。ありがとう。

そして大事なことをいい忘れていました。母に感謝したい。私の母はちょうど一週間前に手術を受けたので、ここには来れないだろうと思っていました。でも彼女は、この夜を共にするために、今夜私と一緒にいます。そして、私はいつも父親から勇気と決断力をもらっていました。父はオマハビーチ(ノルマンディー作戦の上陸地のひとつ)に降り立ち、第二次世界大戦を戦い抜きました。しかし今、私が思っているのは、私の本質のすべては母であるあなたからもらったということです。あなたをとても愛しています。あなたがここにいて、この賞を私と共有してくれて本当に嬉しいです。

「勇気」という言葉を、私の人生に関連付けられるのは光栄です。しかし今夜、もう一つの言葉が思い浮かびました。それは幸運です。

私はスポーツから多くのものを得ました。スポーツは私に世界を見せてくれました。スポーツは私にアイデンティティを与えてくれました。もし誰かが私をいじめたくても、私はフットボールチームのMVPだったから、問題になりませんでした。そして同じことが今夜起こっています。もし私の悪口を言いたかったら、私をネタにするのなら、そして私の意図を疑うなら、どうぞやってください。実際に、私は耐えられるからです。しかし、自分のありのままの姿に正直であろうとしている世の中の数多くの子供たち、彼らは泣き寝入りする必要はありません。(拍手)

ですから、これは一体何なんだ、勇気なのか、論争なのか、あるいは宣伝なのかと戸惑う世の人たちのために、いいでしょう、私がそれが結局何なのかをお教えしましょう。それは、ここから起こることなのです。単なる一個人についてではありません。何千人もの人に関することなのです。私のことだけではありません。それは私たちが相互に受け入れあうということなのです。私たちはそれぞれ違います。それは悪いことではありません。それはいいことなのです。一方で、あなたが理解できないことを克服するのは容易ではないかもしれません。しかし私は証明したいのです。もし私たちが分かち合うことができれば、絶対に可能だと。

この賞をいただき、本当にありがとうございます。この栄誉を私と私の家族に授けていただき、ありがとうございました。ありがとう。

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スピーチする前に、ジェンナーは動画で自身の経験について語った。ジェンナーは性的適合手術を受けた後にトランスジェンダー関連の問題について学んだという。時を経て、ただのトランスジェンダーの女性ではなく、トランスジェンダーの擁護者になることを決めた経緯についても語っている。

「私は自分の人生の中で今までしてきたことから、啓示のようなものを受けたのです。これは私の天職だ、と」。そう彼女は語った。「苦悩を受け入れるために、それを世界に対して投げかけてみたのです。そうすれば、この問題を理解してもらえるかもしれない。いまこそ最善を尽くすべき時だと。これは自分にできる仕事。これによって人が命を落とすのはおかしいと思ったのです」

ESPY賞のエグゼクティブ・プロデューサー、マウラ・マントは、番組の最初に雑誌「スポーツ・イラストレイテッド」のリチャード・ディッチに対し、このような公開の場でジェンナーがトランスジェンダーになった決断を語ったのは「大きな勇気と、自分を受け入れることを示すものだ」と述べた

「ブルース・ジェンナーは、カミングアウトしたことでアメリカのヒーローとしてあっさりとこのスポーツの世界から消え去り、こうした公の場に姿を現すこともなかったかもしれません。出演してもらうのには大きな勇気が必要でした」と、マントはディッチに語った。「彼は、この時代に生きる最もすばらしいアスリートの1人です。これこそがアーサー・アッシュ・カリッジ賞の精神であり、スポーツを超越した、アスリートのコミュニティの住人なのです」

ジェンナーは、1976年の夏のオリンピックで男子十種競技優勝を達成して有名になった。しかし、6月にESPNがジェンナーを表彰すると発表した後には、ESPNには多くの反発の声が寄せられた。受賞にふさわしい候補者が他にもたくさんいるのではないかという理由だ。ボブ・コスタスは、今回の決定を「下品で、宣伝のための遊びだ」とこき下ろした。批判の声も大きくなったため、ESPNは最初の発表の後、数日間にわたって次のような補足の発表を行った。

アーサー・アッシュ・カリッジ賞は、勇気ある行動によってスポーツを越えて貢献した人に送られる栄誉です。この勇気は人生の中から見えてくることもありますし、その時代の重要な問題に光を当てる1つの行動から見えることもあります。いつも、この賞に値する多くの候補者がいます。


今年は、自分のアイデンティティを受け入れ、それを公衆の前で示し、前進すること、そして受け入れ?