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TPP漂流なら日本は成長戦略の見直しを迫られる

2015年08月01日 22時03分 JST
Reuters

環太平洋連携協定(TPP)は、今回も最終合意が先送りされた。交渉をリードする米国の政治日程を考慮すれば、甘利明TPP担当相が言及した8月末までの次回閣僚会合が「ラストチャンス」になる。

もし、TPPが漂流すれば、アジアインフラ投資銀行(AIIB)で勢力拡大を狙う中国に対し、日米は有力なけん制カードを失うだけでなく、日本は成長戦略の見直しを迫られる。日米にとってこの1カ月間は正念場だ。

「今回を最後の閣僚会合にする、すべての国がそういう思いだ」――。こう何度も会見で繰り返してきた甘利明TPP担当相。だが、その思いは果たされなかった。

12カ国の閣僚と交渉官は、7月28日から31日まで連日、2国間交渉を断続的に開き、詰めの作業を進めたものの、合意の前に立ちはだかる溝を埋めて前進することはできなかった。

<発足メンバーNZの意地>

TPPは、もともとはシンガポール、チリ、ブルネイ、ニュージーランドの4カ国で交渉が始まったが、後から参加した米国と一番最後に参加した日本が、途中から主導権を握る。「例外なき関税撤廃」によって高度な自由貿易のルールを作るという当初の「高い目標」には、次々と例外的な条項が付加された。

最終段階になって、この動きに反発したのは、オリジナルメンバーのニュージーランドだった。一貫して自国の乳製品に対する市場開放を求めてきたが、米国、日本、カナダなど自国の酪農に対する保護政策をとっている国が例外規定を提案。対立はついに解けず、7月31日を迎えてしまった。

甘利担当相は、名指しこそ避けたものの「ある国が、過大な要求を他国に求めている」とニュージーランドの姿勢を批判した。

これに対し、7月31日の共同記者会見で、記者から「TPPを脱退しようと思ったことはないか」と質問されたニュージーランドのグローサー貿易相は「われわれはTPPの当初のメンバーだし、最初のペーパーを書いたのは私だった。TPPを脱退しようと思ったことはない」と答え、自国の主張の正しさを訴えた。

乳製品だけでなく、医薬品の特許をめぐり、12年間を主張する米国に新興国は5年間を提案。対立を解きほぐすため、日本政府は8年間の妥協案を提案したとされるが、最終合意は見送られた。

妥協が近いとみられていた自動車分野でも対立が残っており、甘利担当相が示した8月末ごろまでの次回閣僚協議までに、本当にこれらの対立点が解消されるのか、各国の交渉担当者からは、楽観的なコメントは出たものの、合意を確信していると明確に指摘した発言はついに出なかった。

<漂流なら対中けん制のカード失う日米>

今回の閣僚協議の前に、国際貿易に詳しい日本のある関係者は、TPPが合意できれば、AIIBを活用したインフラ整備の枠組みで、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国にくさびを打ち込もうとする中国の戦略的意図に対し、大きなけん制的機能を果たすことができると述べていた。

もし、1カ月たっても合意ができない場合、来年の大統領選を前にレームダック化が進むオバマ政権が、年内の合意に向けて政治力を発揮できるのか、かなり不透明感が強まる。

この1カ月間で他の10カ国を説得して合意を勝ち取れない場合、日米は貿易面での利益だけでなく、戦略的な面での「利益」をみすみす手放すことになりかねない。

一方、日本は経済的な面でも、推進エンジンの1つを失う構図となる。日本経済研究センターの試算では、2025年までに1050億ドルの所得押し上げ効果が日本にもたらされるという。

その中で指摘されているのは、TPPによって日本国内に外国資本の流入が活発化し、流通や物流などこれまで生産性の低かった分野での競争を促し、日本の成長率を押し上げるというメカニズムだ。

TPPが漂流した場合、こうした第3の矢にあたる構造改革の推進力が弱まり、そのことを海外の投資家が懸念すれば、株高トレンドにも影響しかねないとある国内金融機関の関係者は分析している。  

最終日の記者会見は予定より2時間半遅れて始まり、笑顔のないフロマン米通商代表部(USTR)代表と、甘利担当相がひな壇の中央に並んで座った。

関税撤廃を掲げてスタートしたTPP協議の中心に、農業保護政策をとる2つの大国が位置すること自体が、国益が複雑にからみあう貿易協定締結の難しさを物語っていた。[ラハイナ(米ハワイ州) 1日 ロイター]

(宮崎亜巳 編集:田巻一彦)