「ISを倒すためには、アサド政権を支持するしかない」プーチン大統領がシリアに抱く野望

プーチン大統領は、シリア問題解決の中心人物になろうとしている。

第70回国連総会で演説するロシアのウラジーミル・プーチン大統領

ロシアのプーチン大統領は9月28日、10年ぶりに国連総会の演説に立った。そこで過激派組織IS(イスラム国)を倒すために、国際社会はシリアのアサド政権を支援する必要があると主張した。

プーチン大統領は、ISは西側諸国によって“作られ”、勢力を持つようになったと強調した。アメリカはシリアで反アサド勢力を支援してきたが、それが実質的にISの兵士を訓練したことになった、というのが理由だ。そして、現在の荒廃したシリアの姿こそ、アメリカによる「民主主義の輸出」を止めなければいけない証拠だとプーチン大統領は主張した。

ここ数週間、表向きにはISを弱体化させるという理由で、プーチン大統領はシリアのアサド政権を支持し戦車や戦闘機を送り込んできた。

確かにISはシリア内戦の主要なプレーヤーであり、プーチン大統領もイスラム過激派と長期にわたって戦ってきた。しかし、プーチン大統領の最近の動きは、イスラム過激派を倒すというより自国の利益のためのようだ

ロシアの国益はアサド政権と密接に絡み合っている。そのため、アサド大統領を支持することでロシアの国益を守ろうとしているのだ。

またプーチン大統領は、自分とアサド大統領がシリア問題を解決する中心人物として認識されたいと望んでいる。9月27日にはロシア、アサド政権、イラン、イラクで反IS協定を作る計画を発表。同日に放映されたアメリカのインタビュー番組「60ミニッツ」で、ISのシリア支配を終わらせるためには、シリア政府を後押しする必要があると語っている。

そしてその後の国連総会で「シリアでISやテロ組織と本当に戦っているのは、アサド大統領のシリア政府軍とクルド人部隊だけだ」と発言した。

現在ヨーロッパはシリアからの難民問題を抱え、アメリカはシリアでの反IS勢力訓練に失敗して屈辱を味わっている。その間にプーチン大統領は、シリア問題を解決するリーダーとしての立場を手に入れつつある。アサド政権を支持すべきだという彼の考え方は、国際社会から支持を得る可能性がある。

一方で、西側の外交官やシリア情勢に詳しい専門家は、プーチン大統領のやり方では、シリアはますます苦しい状況へと追いこまれ混乱を来たすだろうと警告している。

プーチン大統領の言う通りにすれば難民が減る、と考えたヨーロッパのリーダーたちがアサド政権を支持すれば、ヨーロッパにさらに多くの難民が流入し、人道問題が長期化するだろうとフランスのオランド大統領も話している。

その理由は、シリア難民の大多数がアサド政権から逃れるためにシリアを脱出しているからだ。現在ヨーロッパに押し寄せているシリア難民の多くは、イスラム国が設立された2014年以前にアサド政権が原因でシリアを離れた人々だ、とオランド大統領は話している。彼らはトルコ、ヨルダン、レバノン、その他各地の難民キャンプを経由してようやくヨーロッパにたどり着いたのだ。

また、仮にアサド政権を支持しても、ISやアルカイダのような過激派を確実に倒せる保証はないという意見もある。アサド大統領は過激派を倒そうしているのではなく、彼らを利用して「シリアで信頼できるのは自分だけだ」と思わせようとしている、そして西側や湾岸諸国と親密な関係を持つ反アサド勢力を潰そうとしている、という見方だ。

アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所のドーハ支部で客員研究員を務めるチャールズ・リスター氏は、「アサド政権はISに代る良い選択肢ではないし、そう考えるべきでもない」とBBCに寄稿した記事で述べている。リスター氏によれば、アサド大統領は政権に反対する民衆の暴動が始まってから数か月後に、アルカイダの捕虜を刑務所から解放した。政権に反対する勢力が、すべて過激なグループであるように見せるためだ。それにアサド政権はこれまでほとんどISを攻撃していない、ともリスター氏は述べている。

「その一方で、アサド政権は意図的に市民を大量虐殺してきました。最初は空爆と弾道ミサイルを使い、その後は樽爆弾だけでなく化学兵器を使ったと考えられています」とリスター氏は書いている。

国連によれば、2011年3月にアサド政権が平和的な抗議行動を鎮圧して以来、25万人以上のシリア人が死んでいる。

アサド政権を支持したくなければ、シリアで誰と組むのかを考えなければならない。

アサド政権に対抗する勢力は、穏健主義や民族主義派も含め、全てが過激派だとロシア政府とシリア政府は主張している。そうして、対抗勢力を全て悪者に仕立て上げることができるからだ。

こうしたプーチン大統領の考えに賛同する人は増えている。アメリカがシリアで失敗を重ねているのが背景だ。反政府勢力の訓練は功を奏していない。先週には、アメリカが支援したシリアの戦闘員が、シリア入国のために装備品をアルカイダに渡したことが暴露された。オバマ政権の中にさえ、シリア兵を訓練してISと戦わせる計画を考え直す必要があると言う閣僚もいる。28日には国務省高官のリック・ステンゲル氏がテレビ番組で計画の練り直しが必要だと発言し、オバマ大統領を支持するクリストファー・マーフィー民主党議員も計画の中止を訴えた。

28日の国連総会ではオバマ大統領も演説をし、シリアでの紛争終結のため、ロシアやイランと協力する用意があると語った。

それでも、シリア問題を解決するためには、反アサド勢力を無視・軽視すべきではないとシリア専門家は強く訴える。

アメリカの反IS勢力の訓練は迷走しているが、反アサド勢力への支援は成功をおさめている。またリスター氏は、アサド政権と戦う様々な反対勢力は、長い時間をかけようやくまとまりつつあると述べている。

オランド大統領も、シリアで多数派を占めるスンニ派と協力することが、シリアをまとめ過激派勢力の拡大を断つ鍵になると話している。そのためオランド大統領は「アサド大統領と手を組まない」姿勢を明らかにしている。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

戦闘が続くシリア

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