iPS細胞の移植、1年後も経過良好 世界初の網膜手術

「明るく見えるようになり、見える範囲も広がったように感じる。治療を受けて良かった」

理化学研究所などのグループは10月2日、iPS細胞からつくった網膜細胞を移植する世界初の手術について、実施から約1年経ったが結果は良好だと発表した。手術を受けた女性に、がんなどの異常は見られないという。

理研や先端医療振興財団は2014年9月12日、放置すると著しい視力低下をきたす重い目の病気「加齢黄斑変性」の70代の女性患者に対し、患者のiPS細胞からつくった網膜細胞を移植する世界初の手術を実施した。

加齢黄斑変性は、年をとるに従って、網膜の中心部にある黄斑部が病変を起こすもの。視野の真ん中が最も見えにくくなり、ものがゆがんだりする。早い人では40代でも発症し、アメリカでは成人の失明原因の第1位になっているが、根治療法はないとされていた。

加齢黄斑変性の症状(中心部のゆがみ) 日本眼科学会より

手術を受けた女性は、進行を抑える薬の注射を18回受けたが、視力が落ち続けていた。理研らグループは、患者の細胞の遺伝子を詳しく調べ、がん化などの恐れがないと判断。女性の皮膚細胞からつくったiPS細胞を移植した。

眼球の基本構造:網膜は視細胞を含む感覚網膜(神経性網膜)と網膜色素上皮(RPE)から構成される。RPEは感覚網膜への栄養補給や老廃物の消化を担っている。(理化学研究所

網膜下の脈絡膜新生血管などを取り除いた後、iPS細胞から作製した網膜色素上皮シートを移植用器具を用いて網膜下へ移植する。(理化学研究所

目の中は、移植後も外から観察できて検査が容易であるため、何か異常が起きた場合に発見しやすいこともあって、iPS細胞の最初の医療への応用として、実施が認められた。理研の多細胞システム形成研究センターによると、世界初の手術ということもあり、細胞の作製や安全性の確認のほか、手続きの問題など、何もかもが手探り状態で、壁にぶつかりながらの歩みだったという。

時事ドットコムによると、手術から1年経った現在、患者の視力は術前とあまり変わらない0.1程度を維持しており、「明るく見えるようになり、見える範囲も広がったように感じる。治療を受けて良かった」と話しているという。

iPS細胞は、治療が難しいパーキンソン病や脊髄損傷などへの応用が期待されている。グループを率いた理研の高橋政代プロジェクトリーダーは、手術直後の会見では、「細胞の量などが違い、必ずしも他の細胞で適用できるものではない」と冷静に話していたが、10月2日に開かれた記者会見では、「あらゆるリスクを考えてきたので予想どおりの結果だと思っている。早く多くの患者に使ってもらえる治療にしていきたい」と述べた。

iPS細胞を使った目の移植手術から1年を機に記者会見する高橋政代プロジェクトリーダー(右)と栗本康夫先端医療センター病院眼科統括部長=2015年10月02日午前、神戸市中央区の先端医療センター

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