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藤田嗣治の半生「パリと日本とのねじれ、対照的に描いた」 映画FOUJITA、小栗康平監督に聞く

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映画「FOUJITA」から

世界的に著名な画家の藤田嗣治(1886~1968年)の半生を日仏合作で描いた映画「FOUJITA」が、11月14日から角川シネマ有楽町など各地で公開される。この作品の監督を務めた小栗康平さん(69)にとって10年ぶりの作品。小栗さんはハフポスト日本版のインタビューに「藤田の半生を描くことで、戦争を含め、近代とは何かを問うことになった」と話す。

藤田は1929年代のパリで「乳白色の肌」の裸婦を描き、ピカソモディリアニらとともに注目された。戦時中に日本に戻り、「アッツ島玉砕」といった作風が全く異なる「戦争協力画」を発表。戦後はそれが変節として非難され、藤田はフランス国籍を取得して、以後、二度と日本の土を踏むことはなかった。出演はオダギリジョー、中谷美紀、加瀬亮、りりィ、岸部一徳ら。

小栗康平(おぐり・こうへい) 1945年、群馬県生まれ。早大卒業後、フリーの助監督として浦山桐郎、篠田正浩監督らにつく。1981年に宮本輝原作「泥の河」で監督デビュー。90年「死の棘」でカンヌ映画祭審査員賞。96年に役所広司出演の「眠る男」がベルリン映画祭芸術映画連盟賞。著書に「映画を見る眼」(NHK出版)、「時間をほどく」(朝日新聞社)など。

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インタビューに答える映画監督の小栗康平さん=東京都千代田区

――2005年公開の「埋もれ木」以来、10年ぶりの監督作品になります。どうして10年経ったのか、そしてどうしてこの作品になったのでしょうか。

10年間、何もやってこなかったわけではないのですが、うまく転がらないようなところがありました。そんななか、このFOUJITAは3年前に持ちかけられ、始まった企画でした。資金の問題もうまくいき、フランスとの合作のスキームも成立して極めて順調に進みました。

――初めにこの作品の話が来たとき、率直に「いいな」と感じましたか。

藤田については、特別好きな画家ではありませんでした。フランスでは裸婦で売れ、日本に帰って「戦争協力画」を描き、戦争責任を問われたため日本を出た人で、賑やかなエピソードを振りまいた画家という一般的なイメージだけありました。彼の絵そのものはきちっと見ていませんでした。

話をいただいた時、映画の素材としてはいいと思い、勉強したいと思いました。その際、戦争画が使えるか訪ねたのですが、大丈夫だとのこと。裸婦と戦争画を並べて描きたいということが、私の最初からの考えでした。

――作品で伝えたいことは、その辺でしょうか。映画では、パリ時代と戦時の日本時代とで二つに断ち切ったような構成になっていますが。

ええ。大きな衝突だと思うんです。明治生まれの藤田が1920年代に単身パリに乗り込んで、「エコール・ド・パリ」と言われた異邦人芸術家たちの一群のなかで寵児といわれるほど評価を上げた。これは、なまじの戦いではなかったと思います。日本画の伝統や、日本社会が持っていた手仕事の感覚などを持ち込んで、換骨奪胎して新しい裸婦像を描きました。それまでの油画とは全然違ったものでした。

藤田は戦時に日本に戻ると、今度はベラスケスなどのヨーロッパの歴史画の伝統的な伝統的技法で戦争を描きました。パリで日本的であり、戦時の日本ではヨーロッパを描いた。その辺のギャップ、ねじれがとても面白いと思って対照的に描きました。

――最後は好きな人、になったのですか。

彼のエピソードは、あることないこと含めていっぱいあります。そんななか、藤田の絵を見ると、藤田固有の静けさがあるんです。巷間に出回っている騒がしいエピソードではなく、静かに作品に寄り添って改めて藤田像を描こうとすることは、俺もできる仕事、やりたい仕事だと思いました。だから伝記的な、エピソードを追ったつくりにはしませんでした。

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映画「FOUJITA」から

――作品は、戦争の悲惨さも感じさせます。

藤田は戦争画を描きつつも、戦争に魂は売らなかったと思います。本当に絵が好きな人なんです。パリでは歴史画を描かなかったので、日本で戦争画を描くのはいいチャンスだと思ったかもしれません。それが戦争翼賛的なのか、それとも反戦的になるのかについては、あまり頓着していなかったのでしょう。作品の「アッツ島玉砕」にしても、玉砕は陸軍がつくった話ですし、負け戦を天皇のために戦うこと自体がフィクションです。もちろん絵を見て、「よし」と思って戦地に赴いた人もいたでしょうから無罪ではないです。

――戦争について、そんなに意識はしていなかったかもしれないと。

そうですね。複雑ですね、その点は。いまの安全な場所から他人事のようにできる発言ではないですよね。裸婦の手法で近代戦争は描けない。でもヨーロッパ絵画の伝統として戦争画があり、それを使ってみたいと思った。パリで散々見ているわけですから。日本にはそれまで、歴史や物語を表すような、ドラマチックな絵画はありませんでした。戦争を素材にそれが描けると言うことには、極端な話、喜びがあったかもしれませんね。

日本は明治以降、天皇制の下、近代国家をつくり上げ、列強に続いて植民地戦争に入っていきました。戦争の世紀となった20世紀、人類が体験したことを、われわれ1人1人がどうとらえたらいいのか。ヨーロッパの近代が、我々にどう根付いたのか、どこが屈折しているのか、近代がばらまいた2つの世界大戦とは何なのか。戦争を知っているかどうかにかかわらず、いまを生きる人たちはそういう問いかけをしないといないと思います。いまは、近代とは何なのか問い直されている時期なのです。

――今年は戦後70年です。戦争に対する思いをお聞かせ下さい。

期せずしてそうなりました。私は1945年、終戦の2カ月後の生まれです。「泥の川」(1981年)でデビューしたのは35歳のときでしたが、戦争を問いかけるもので、そこから自分が出発し、戦争はずっと僕の中に残り続けているテーマです。戦争、戦後、近代は、藤田につながっていることです。

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