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LGBTが本当に暮らしやすい社会―― 渋谷区長、世田谷区長、東小雪さん、杉山文野さんと考える

2015年10月23日 23時05分 JST | 更新 2015年10月23日 23時06分 JST

LGBTの暮らしやすい社会になるには、何か大切なのか――。

ハフィントンポスト日本版は9月29日、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーなどの性的マイノリティ)に焦点を当てた2周年イベント「LGBTって何だろう? 今、私たちにできること」を都内で開催。有識者によるパネルディスカッション「LGBTの暮らしやすい社会へ――これからのダイバーシティを考えよう」を行った。

登壇したのは、日本で初めて同性カップルを結婚に相当する関係と認め「パートナーシップ証明書」を発行することを盛り込んだ条例を制定した渋谷区の長谷部健区長と、「パートナーシップ宣誓書の受領証」の発行を決めた東京都世田谷区の保坂展人区長、NPO法人・東京レインボープライド共同代表でトランスジェンダーの杉山文野さん、LGBTアクティビストで元タカラジェンヌのレズビアン、東小雪さんの4人。

LGBT支援法律家ネットワーク・メンバーの山下敏雅弁護士をモデレータに、LGBTの暮らしやすい社会やこれからのダイバーシティについて、活発な議論を交わした。当日の様子をレポートする。

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■渋谷区が、LGBTの取り組みを始めたきっかけ

2015年に入り、渋谷区と世田谷区で同性パートナーシップに関する条例や要項が、突然報道されるようになったが、実際にどのような経緯で区の取り組みが始まったのか。モデレータの山下さんが両区長に、LGBTとの出会いやこれまでの歩みについて質問。まず長谷部区長が、LGBTを理解するきっかけとなった友人の当事者、杉山文野さんとの出会いを披露した。

——渋谷で今年、同性パートナーシップの条例が、突然報道されたように世間では受け止められている面もあるかと思いますけれども、実際どうだったのでしょうか? 杉山さんとの出会いも大きなきっかけになったのでしょうか?

長谷部区長:文野と僕が出会ったのは、2005年。僕は2002年からグリーンバードというゴミ拾いの団体を運営していたんだけど、そこに文野が「歌舞伎町でゴミを拾いたい」というふうに来たんですね。それが出会いなんです。

そのときも、普通にFtMとかトランスジェンダーだってことは聞いていて。当時はまだ大学院生で、ボーイッシュな女の子みたいな感じだったんですけど、本を出すという話をしていて、家族の今までの話とか、女子校に通っていたときの悩みとか聞いたんですね。普通なのに、ゴミ拾いの活動も普通というよりむしろ優秀にやるのに、こんな人がなんでそんな悩みを抱えているんだろう、というのが最初のきっかけ。

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杉山さん:大学院生のときで、今シブヤ大学というNPOをやっている左京泰明さんという方が僕の先輩で、「お前、どうせ暇なんだからゴミ拾いに来いよ」って。「何か罰ゲームですか?」みたいな感じで、何も知らずにゴミ拾いに行ったというのが最初でした。そのときは今ほどヒゲが生えたりと男性的ではなく、まわりから見ればただボーイッシュな女の子という感じだったと思います。長谷部さんは特に否定するわけでもありませんでしたが、かといってすごく理解があったかというとそうでもなくて、「なんか女子プロレスラーみたいな奴だな」とか「お前そのままいくと、おばちゃんになるんだろ」とか、いろいろ言われましたね(笑)。

長谷部区長:しゃべり過ぎだろ(笑)。今思うと最初に会ったとき、やっぱりちょっと悩んだんですよ。どう普通に接したらいいだろうって。だけど、すぐ普通に話せるようになって、だからこういう会話もできたし。ただ気を遣ったのを覚えていますね。最初に会ったときは。

杉山さん:本当に、すごい肯定をされるわけでもなく、でも、すごい否定をされるわけでもなく、「お前みたいな奴いるんだな」って感じで。一通り良くあるような質問をされて、例えば、「彼女とつき合ってるってことは、レズビアンなの?」「いやいや僕、別に、女の子として女の子が好きなわけじゃないんですよ」「じゃあ、家族のカミングアウトはどうしたの?」みたいな会話を、表参道を掃除しながらよくしてました。

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長谷部区長:結構衝撃的だったのは、20代を通して、LGBTといわれる人に会ってきたつもりだったし周りにもいたんだけど、よく考えたら僕が会ってたのは、全部ゲイの人だったんですね。あとは、ニューハーフとか、六本木とか新宿2丁目に飲みに行ったときに会う人とか。初めて元女性という文野に会ったんです。いろんな話を聞いて、けっこういるんだという話をされたんだけど、実感湧かなかったんですよ。

でも会ってきたのは元男性ばっかりだけど、それと同じように元女性がいるんだなって。文野みたいにカミングアウトしてわかりやすい人はまだいいけど、そうじゃない人のほうが多いんだ、とか聞くと、なんか実感湧くようになってきて。(日本のLGBTは)約7%ってアンケートも出ていたけど、そのときは区議会議員をやっていたので、何かできることがあるんじゃないか、というのを素直に考えて。

僕、結婚しているんですけど、(結婚式は)レストランウェディングだったんですよ。かみさんには「みんなの前で誓ったときが俺たちの結婚記念日だね」なんて甘いこといってたんですね。だけど、いざ結婚してみたら、入籍届を出すということも「結婚したな」という感じがあって。ちょっと書き損じちゃったり、ドキドキしながら渡して受理されたりとか。なんか、それがすごく自覚を持った出来事だったんです。たかが紙切れだと思っていたけど、この立場でそんなこといっちゃいけないけど、紙がこんな重い意味を持つんだって、そのとき思ったんですよ。

それで文野に、「紙切れかもしれないけど、行政がパートナーシップを認めた証明書が発行できたらうれしいかな?」って聞いたら、思いのほか小躍りして。ちょっと盛っちゃいましたけど、喜んだんですよね。

杉山さん:表参道で信号待ちしてるときに、「どう?」っていわれて。「そんなの、出来ればうれしいですけど、そんなの実際にできるんですか? できたらいいですけどね」みたいな。僕はけっこう半信半疑というか。

長谷部区長:そんな、もっと喜んだでしょ(笑)。すぐそういう、無理に男っぽくしようとする。それはいいんですけど、まあ、そんなところから始まって議会で提案するに至ったんです。

提案も、いろいろ見たら、それまでは当事者の人たちの人権の問題としてしか扱ってなかったんです。僕はどっちかといったら、ダイバーシティの視点で。日本はこれからもっと国際都市として多様性のある街になっていく。僕が何かをしなくたって、今までの世界の状況を見たりしたら、当然ダイバーシティ化していくんです。そのときに、渋谷が先頭を切ってやるべきだし、ダイバーシティを進めるにあたっては、このLGBTの問題は必ずクリアしなきゃいけない課題であると。

だから、人権の問題でもあるけど、街づくりの視点からみても、これは当然の話なんだって議会で提案して、それから3年くらい経って、やっと3月の条例制定までいったというのが、ざっとした流れですね。

——今年いきなり条例ができたということではなくて、出会いがあってLGBTの人たちが可視化されて、より深く関わってきた積み重ねがあって、3月の条例制定につながったんですね。

長谷部区長:まさにそう。頭では分かっていたけど、可視化されて会ったり、自分で理解することで、ちゃんと心で分かるようになってきたというのが、過程ですね。

■世田谷区におけるLGBTの取り組み

続いて、世田谷区の保坂区長もこれまでの歩みを紹介。世田谷区では、性的マイノリティの暮らしやすい社会づくりを進めていたが、当事者の上川あや議員や世田谷区のLGBTの人たちの声をふまえ、区長の裁量で、同性パートナーシップの宣誓書の受領書を発行することを決めたという。

——同じく、世田谷区も今年、こちらは条例ではなく要網という形で、同性パートナーシップの宣誓証の受領書を発行するという取り組みが始まります。世田谷区は、どんな流れで今年の発表になったのでしょうか?

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保坂区長:そうですね。個人的には10年くらい前、国会議員だったときに、東京のLGBTパレードに政治家としてちゃんと来てもらえないかと、前半に登壇されていた(現豊島区議の)石川大我君たちに誘われたあたりがスタートラインだったと思います。

僕自身が国会で取り組んでいたのが、例えば、ミャンマーの難民申請をしている人たちの支援とか、子供の虐待防止とか、刑務所とかの中の人権問題とか。一票にもならない分野が多くて、気がついてみたら、ゲイの子たちとか自然に周りにいました。LGBTパレードに行くにあたって、どんなものかと向き合ったのが出発点ですね。

(2011年に)区長に就任してからは、「LGBT成人式をやりたい」といわれて「ああ、成人式か」と。考えてもみなかったけれども、窮屈な思いをして成人式に参加していた、と。自分たちで解放された成人式をやりたいという話を実行委員会の学生から聞いて、「じゃあ応援しましょう」ということで、4年前から参加しています。

——以前から、そういった世田谷区の取り組みがあったということですね。

保坂区長:LGBT成人式は、区長と教育長の挨拶を毎年続けていますね。実は、世田谷区の長期ビジョンを2年前に出したんですが、このときに区議の上川あやさんなどから、多様性の尊重のところに、性的マイノリティのことを、もっとちゃんと書き込むべきだという意見もあって。その後の「世田谷区が、これからこういう計画でいきますよ」という10年間のプランでは、この計画には「性的マイノリティなどを理由に、差別されることなく、多様性を認め合って、人権への理解を深めるために啓発や理解を促します」と書いてある。

それに基づいて、3000人の区民のアンケートをやりました。これは私自身もびっくりしたんですが、分厚い調査の中に、性的マイノリティの項目があって「性的マイノリティに対する人権を守る啓発活動や政策を進めるべきですか?」と聞いたら、「進めるべきである」が70%、「進めるべきではない」が4.3%だった。無作為のアンケートなんですが、かなりそういう声がバックにあるとわかった。

そして今年の春に、上川さんたちの紹介で、LGBTの当事者たちが来られて。同性カップルのための何らかの公的文書というものを考えてくれ、という声を聞いて、取り組みを進めたということです。

——上川さんというのは、2003年に初めて性同一性障害を公表されて議員になって、社会にLGBTが可視化されて、特例法や法律ができるきっかけにもなった方ですね。上川さんが同性カップルの方々と一緒に区長と会われた、と。

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保坂区長:はい。14人くらいで来られたんですが、住民票と納税証明書を出して、どんな点で苦労しているか、例えば家を借りるときだとか、あるいはパートナーが怪我をしたり、病気になって病室に入ったりしたときに、すぐに入りたいんだけれども、なかなか理解してもらえなかったとか、様々な例を挙げてくれましたね。

■世田谷区の「要綱」と渋谷区の「条例」、どう違うのか

——そうして「要綱」のかたちで、世田谷区では区長の裁量としてやるという方向で決まったと。宣誓書の受領証は、どういうものなんでしょうか?

保坂区長:パートナーシップ宣誓書というA4くらいの紙を出してもらいます。同性カップルの方に、区役所に来てこれを出していただいたら、判子を押して「受け取りました」と。それだけじゃちょっとつまらないので「この宣誓書を受領しましたよ」という証を文書で出しています。「受け取りました。これからの人生をお互いに支え合われるお二人のご多幸を願います」、こういうような文言がある受領証を発行していきます。

宣誓書は10年間保管して、仮に、もしかして解消したいというお申し出があったときには、廃棄もしますよ、という内容です。世田谷区の場合は、両方が20歳以上で、どちらかの方が世田谷区に住んでいて、もうおひとりの方が世田谷区に住む予定というところを要件にしているんですね。ちょっと緩やかにしてます。

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——長谷部さん、渋谷区の条例では、証明書は受領証どういうかたちになるんですか?

長谷部区長:渋谷のほうは、公正証書をまず作っていただくのが前提なんです。任意後見制度というのがあるんですけど、若いうちは必要ないけれど将来的に必要なんだ、というところをふまえたかたちで公正証書を作って、それと一緒に申請してもらいます。そうすると、パートナーシップ証明書を発行するかたちになります。もしなくした場合は、300円とか400円とか、住民票と同じように安く発行できるようにしたいと。

この狙いは、公正証書で2人の関係が担保されることですね。そうすると、一般の企業の人たち