オバマとオランドの保守的なシリア政策が正しい理由

重要なことは、アサドが勝利に興味を示していないことだ。現在自らISに対する、市民にとっての最後の砦となっている男は、それが取り除かれることを最も望まない人間でもあるのだ。
Anadolu Agency via Getty Images

※この記事は、フランスの哲学者、ベストセラー作家のベルナール=アンリ・レヴィ氏によるレポートの翻訳です。

節操やモラルなど忘れてしまおう。シリアの人々に平和が芽生えたのに対し暴力で応じることを選択した、バッシャール・アル=アサド(大統領)に直接または間接的な責任がある25万人の死を忘れてしまおう、少なくとも忘れるよう努めよう。

アサド(政権)の攻撃による市民の死亡者数が、恐怖の人質殺害動画によってシリア独裁者の暗殺の影を薄くさせた過激派組織IS(イスラム国)の10〜15倍となっている事実を棚上げにしよう。……だが、これらのすべてを頭の中から一掃できたとしても、アサドをISの「代替」と考えるシリア政策は、単純に言って実行不可能である。

アサドは結局、ISの蛮行を許した。2011年5月、アサドは数百人のイスラム過激派の囚人を解放し、小規模グループに対し戦闘員や指導者の供給を迅速に行った。彼はその後、穏健な反体制派の地位を整然と奪いつつ、それ以上にラッカにあるISの拠点を整然と保護した。そして、2014年半ばには、イラクのISの集団に対して、シリア東部に聖域を設けることを許可した。

言い換えると、アサドは、彼が戦っているように見せかけているモンスターを創ったのである。彼が戦っているのは、実のところ潜在的な盟友ではないのか? アサドと協働することは、ひょっとすると、アサドとISの共通の基盤を支えることつながるのか?

重要なことは、アサドが勝利に興味を示していないことだ。市民にとって現在、ISの最後の砦となっている男は、ISがいなくなることを最も望まない人間でもあるのだ。

結局のところ、1人のチェス・プレイヤーが、それも悪いプレイヤーが、自ら持つ最も強力なピースをわざと犠牲にしているのではないか? 誰が保険証券を破り捨てるだろうか? アサドとその支持者たちがあまりに愚かだと、我々(欧米)は本当に信じられるだろうか? アサドとその取り巻きたちの政治的延命が、ISの存続であること。我々がIS打倒のために通らなければならない門の門番が、アサドたちであり続けること。それすらにも気づかないほど、愚かな連中だと――。

「もちろん、それはない」と、アサドの擁護派は認めている。「しかし、2段階のアプローチを取りたい。ISを打倒した後、アサドについて考えるのだ」。

だが、このアプローチも、実際よりも「独裁者がもうんと愚かである」という前提に立っている。さらに悪いことに、政治がその論理や、その力学に従うことを無視している。

アサドとの協働を望む、いわゆる魔法使いの弟子たちが無視しているのは――まさにそれが、彼らが大きな問題を抱える最大の要素なのだが――IS打倒の時が来たときに、彼らがその勝利の分け前を主張することがはばかられるほど、アサドとの距離が生まれている可能性があるということだ。その結果、形は異なるかもしれないが、暴力的なジハーディズムが急激に息を吹き返すだろう。

「バッシャール・アル=アサドは、シリア国家である」とそれらの人々は言う。「我々は、国家を破壊する致命的な誤りに関与してはならない」と。しかし、この議論も有効ではない。シリアという国はすでに失墜している。アサドが支配しているのは、シリア領土の5分の1のみであり、残りの5分の4は、その恐怖支配に屈する気はない。アサド政権が支配を広げれば、国民は大挙してトルコ、レバノンや、ヨーロッパ諸国に退避するだろう。

事実、アサド政権は、その状態をほとんど気にかけていない。シリア北部ラッカ近郊のタブカで、アサド軍の兵士が支配地域を超えて侵攻した際は、彼らを見捨てている。シリアの与党バアス党員は、(ロシアの首都)クレムリンや他の仲間が何と言おうと、殺害され、埋められている。そしてどんなだまし絵を描いても、その中に描かれた兵士を生き返らせることはできない。

しかし、現実主義者と思われる人々が現実を受け入れることを拒否している。ちょうどヒトラーを倒すためにスターリンとの同盟が必要であったように、我々からISを取り除くには、アサドというカードを使うことをためらうべきではないと、彼らは主張しているのだ。確かに、ジハーディズムは現代のファシズムであり、ナチスのそれと類似する計画、思想さらには潔白の意志に毒されている。私は20数年前にこの類似について語った最初の人間である。

そうであっても、この2つを比較するのは不合理なことである。歴史の飛躍は、政治的な無責任さ、怠惰な分析をする傾向がある人たちだけが可能なのだ。

間違いを犯してはならない。ISは強力である。しかし、2つの悪の勢力と戦えるほど強くはない。

西側は何をすべきか決定しなければならない。10月末、シリア問題を巡る関係国外相拡大会議がウィーンで開かれ、アメリカ、ロシア、イラン、中国、サウジアラビアや湾岸諸国、ヨーロッパ諸国が集まったが、その直後に情勢は悪化した。(シリアの反政府武装組織)自由シリア軍残党の装備を増強すべきか? その手を血で汚していない、残り僅かなアラウィー派の指導者、もしくは早々に亡命を選択して虐殺に関与していないアサド一族のメンバーに手を伸ばすべきなのか。

もしかすると、かつてのシリアを構成したいくつかの勢力を、中立の立場で結集させる時間がまだあるかもしれない。または、第二次大戦後、ドイツや日本で実施されたような、より過激な策が今必要かもしれない。

現在、これらの道はどれも開かれているが、狭まりつつある。そしていずれの道も、バッシャール・アル=アサドの政治的存続とは関係のないものだ。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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