日本の純喫茶はスローで個性のある体験ができる――映画「ア・フィルム・アバウト・コーヒー」のローパー監督に聞く

コーヒー文化の新潮流を綴ったドキュメンタリー映画「A Film About Coffee」が、12日から日本で公開されている。監督を務めたブランドン・ローパー氏がハフポスト日本版のインタビューに応じた。
Teruo KASHIYAMA

世界を席巻するコーヒー文化の新潮流を美しい映像で綴ったドキュメンタリー映画「A Film About Coffee」(ア・フィルム・アバウト・コーヒー、2014年アメリカ)が、12月12日から日本で公開されている。東京でも撮影されたこの作品。監督を務めたブランドン・ローパー氏(32)が12月上旬に来日してハフポスト日本版のインタビューに応じ、コーヒー”第3の波”が拡大するなか「日本の純喫茶ではよりスローで個性のある体験ができる」と話した。

2015年、日本のコーヒー業界を席巻したのが「サードウェーブ」(第3の波)という言葉。1980~2000年ごろにスターバックスなどアメリカ・シアトル系の大型コーヒーチェーンが拡大した「セカンドウェーブ」に対し、豆の個性に合わせた美味しさや、飲む環境を追及する潮流だ。世界的な品評会で高評価を得たコーヒー「スペシャルティコーヒー」市場はここ数年、勢いを見せる。2015年2月には、「サードウェーブ」の代表格とされるサンフランシスコの「ブルーボトルコーヒー」が世界初進出の第1号店として東京に店舗を構えた。

映画では、現在のコーヒー文化を牽引するニューヨークやサンフランシスコ、ポートランド、シアトル、そして東京の5つの都市で活躍する、コーヒー店オーナーらプロフェッショナルたちのコーヒーへの哲学や仕事ぶりなどに迫った。「究極のコーヒー」を求め、豆の選定や焙煎、ドリップ方法など様々なアプローチで追求。彼らはこれまでの「質より量」のコーヒー業界とは異なり、豆の生産地からカフェに至るまでのあらゆる場所に新たな経済の仕組みを息吹かせ始めている。

東京からは、2013年に閉店した表参道の「大坊珈琲店」オーナー大坊勝次氏や、下北沢の「ベアポンド・エスプレッソ」オーナー田中勝幸氏らコーヒーの達人たちも登場する。

ブランドン・ローパー(Brandon Loper) アラバマ州出身。CMクリエイターとして10年間、サンフランシスコを拠点に企業の広告やショートフィルムを制作。本作で初めて長編ドキュメンタリー映画に挑戦した。

A Film About Coffee

『A Film About Coffee』

――この作品をつくった動機はなんだったんですか。

かつてからコーヒー中毒でした。サンフランシスコのブルーボトルで飲んだコーヒーはとても美味しくて覚えていますが、美味しいコーヒーはどうして美味しいのか、その秘密を知りたくて、またコーヒーの知識を他の人にも伝えたくて4年前に撮影を始めました。

――最も伝えたいことはなんですか。

1杯のコーヒーを作るのにどれだけの労力がかかるのか、1ポンドの豆が作れられるまでにどれだけの大変な作業がいるかということです。映画制作をすることで、コーヒーに人生を掛けている人や知識のある人に接しました。もともとコーヒーを飲むのが格好いいと思っていましたが、深いものがあるとよく分かりました。コーヒー農園の農夫にも光を当てたいと思いました。コーヒーは農産物で、毎年、天候が変化すれば味は変わるし、毎年同じ物ができるということはありません。大変な労力が必要だということを飲む人にもっと知ってもらいたかったのです。

――特にどのコーヒーが気に入っているのですか。

答えにくいのですが、ブルーボトルで飲んだエチオピア産のの「スーパーナチュラル」という精製方法によるミスティーバレー・コーヒーは美味しかったですね。2008年のことで、目から鱗が落ちるようでした。純喫茶では、作品中に出てくる「大坊(珈琲店)」です。時間と手間をかけて作られたコーヒーは格別でした。

――作品には東京の人たちも登場しています。日本も取り上げたきっかけは何だったのですか。

日本が好きですし、調べていて、ブルーボトルに似たこだわりをもった店があることが分かりました。日本文化は、細かい部分まで行き届く注意力があり、それはコーヒー文化でも同じです。サービス精神も豊富でとても個性があり、他の国ではないものです。

純喫茶には長い歴史や文化があり、消費者を啓蒙してもいます。多くのアメリカ人は、純喫茶はオシャレで美しいと思っています。日本でスタバが増えるのはいいことですが、その一方で純喫茶の数が減っていると聞きます。いまはデジタルの時代で短時間でできることばかりに焦点が当たっていますが、純喫茶ではよりスローで個性のある体験ができる。それが失われるのは寂しいです。

――作品では、中米ホンジュラスのコーヒー農夫が登場します。彼らはスペシャルティコーヒーを栽培しているにもかかわらす、撮影で初めて自分たちが作ったコーヒーを飲んで感動している様子でした。

大坊のシーンとともに、自分でも印象に強く残っています。彼らは自分たちが作った豆のエスプレッソを飲むのは初体験でした。多くのコーヒー生産国は、赤道近くにある比較的貧しい場合が多いですね。一方、消費されるのはアメリカやヨーロッパ、日本といった豊かな国という構図があるのは確かです。大坊珈琲店については、もう閉店してしまったこの店で撮影できたことが貴重な思い出です。映画では、ゆっくりと大切にコーヒーを淹れる大坊さんの前に座った気分になってほしいです。

――日本について関心のあることは何ですか。また、日本人へのメッセージを聞かせてください。

ファッションや日本のウイスキーや酒、お茶や寿司にも興味があります。また、ラーメンは面白いし大好きです。日本は美しくて、訪れる度に絶え間ないインスピレーションをもらいます。これまで作品が公開された国では好評を得ています。日本の人でも作品から学べることがきっとあると思います。

新宿シネマカリテにて公開中。2016年1月2日から大阪シネ・リーブル梅田、名古屋伏見ミリオン座で公開、ほか全国で順次公開決定

監督:ブランドン・ローパー

出演: ダリン・ダニエル(スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ)、マイケル・フィリップス(ハンサム・コーヒー・ロースターズ)、ジェームス・フリーマン(ブルーボトルコーヒー)、ケイティ・カージュロ(カウンター・カルチャー・コーヒー)、アイリーン・ハッシ・リナルディ(リチュアル・コーヒー・ロースターズ )、大坊勝次(大坊珈琲店) 、田中勝幸(ベアポンド・エスプレッソ)ほか

提供:シンカ/ヌマブックス/シャ・ラ・ラ・カンパニー 配給・宣伝:メジロフィルムズ

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