PRESENTED BY AQUA SOCIAL FES!!

「お掃除は人とのつながりが作れる場所」グリーンバード理事・杉山文野さんが考える"かっこいい清掃活動"のあり方

街なかの清掃活動を行うNPO法人「グリーンバード」は、「おしゃれ」「かっこよさ」を追求する清掃団体だ。新宿・歌舞伎町チームを立ち上げた杉山文野さんに話を聞いた。
ノニータ

環境意識の高まりから、近年はボランティアや企業による清掃活動がいつになく高まりを見せている。しかし、その多くがボランティアの意志に頼っていることから、継続が困難に陥るケースも少なくない。

東京をはじめとして国内外で街なかの清掃活動を行うNPO法人「グリーンバード」は、誰もが気軽に参加でき、しかも「おしゃれ」「かっこよさ」を追求するユニークな清掃活動で知られる。2006年に新宿・歌舞伎町チームを立ち上げた杉山文野さんは、清掃活動の最大のメリットは「人とのつながり作り」だと考える。そうしたつながりの場としての清掃活動を継続させるための方法、そして清掃活動に企業が参画する意義について杉山さんにたずねた。

杉山文野(すぎやま・ふみの)

1981年東京都新宿区生まれ。フェンシング元女子日本代表。性同一性障害である自身の体験を織り交ぜた『ダブルハッピネス』を出版。韓国語翻訳やコミック化されるなど話題を呼んだ。早稲田大学卒業後、2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、現地で様々な社会問題と向き合う。帰国後、一般企業に3年ほど勤め、現在は自ら飲食店を経営するかたわら、日本最大のLGBTイベントであるNPO法人東京レインボープライド代表、街をきれいにする原宿表参道発信のプロジェクト「グリーンバード」の新宿・歌舞伎町チーム代表、セクシュアル・マイノリティの子供たちをサポートするNPO法人ハートをつなごう学校代表、各地での講演会やNHKの番組でMCを務めるなど活動は多岐にわたる。日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わり、現在は渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。

■ 清掃活動に参加するハードルをできるだけ低く

――グリーンバードとはどのような活動を行っているのでしょうか。また、杉山さんがグリーンバード歌舞伎町チームを立ち上げたきっかけは?

2002年に東京の表参道でスタートした、ゴミ拾いボランティアの活動をしているNPO法人です。ゴミを拾っているそばから捨てている人がいたらイタチごっこになるから、ゴミを拾う人を増やすよりも捨てる人を減らしたほうがいいのではないか、ただゴミを拾うだけでなく、ゴミを拾うことで捨てづらい雰囲気を作って「ポイ捨てはカッコ悪いぜ」というメッセージの発信ができないかという長谷部健さん(現渋谷区長)のアイデアでスタートしました。清掃活動そのものが目的というよりも清掃活動を行うことによってポイ捨てしづらい雰囲気を広めて行くというプロモーション的な意味も強いですね。

一見環境活動に関心がないような人でも気軽に楽しんで参加できるように、ボランティアの敷居を下げたのが特徴です。軍手やビブスなど、ゴミ拾いに必要なアイテムをさまざまな企業からご提供いただいて、清掃活動をちょっとおしゃれに、かっこ良くできるように心がけています。そしてボランティア登録もないし、会費をとることもせず、出来る限り可能な範囲で参加してもらうようにしています。

現在は日本全国、そしてパリやシンガポールなどの海外も含めて73のチームがあります。私は新宿の歌舞伎町チームを2006年に立ち上げました。うちの実家が歌舞伎町で60年以上とんかつ屋を営んでいるということもあって、幼い頃から歌舞伎町という街に対する愛着はありました。なんでも受け入れる懐の深さが街の魅力であり、怖いとか汚い、といった言葉だけで片付けられるのはちょっともったいないなと。ただ、なんでもありな雰囲気はよくても物理的に汚いのはよくないと思い、街をキレイにしていろんな人たちに来てもらいたいという思いがきっかけでした。ちょうどその時、歌舞伎町で働くホストの人たちが作ったボランティアのチームがあるという話を知って連絡をとってみたところ意気投合し、彼らと一緒に表参道のグリーンバードにも参加しました。そしてその後自分たちで歌舞伎町チームを立ち上げたんです。

歌舞伎町チームは、朝に清掃するといった今までのボランティアとは活動のやり方を少し変えて、人で賑わっている夜にゴミ拾いをするようにしました。ゴミを捨てる人が多いところで拾っていく活動をしたかったんです。結果的には、歌舞伎町で働く人たちだけでなく学生や主婦、企業からも清掃活動に協力してもらい、歌舞伎町でのボランティア活動ということでメディアの注目も集まりました。「歌舞伎町で一杯飲む前のひと掃除」というコンセプトを立てて、掃除の後には必ず飲み会もセッティングしています。それが楽しみで集まってくる人もいるくらいで、参加するためのハードルをできるだけ低くしようと心がけています。

――歌舞伎町を清掃活動することによって見えてきた都会の環境の問題点は何でしょうか?

僕はずっとバックパッカーをやっていて、これまで60カ国くらい訪ねたのですが、例えば南極などでは、産業廃棄物の不法投棄が深刻です。そうした自然の環境を目の当たりにすると環境問題を意識するようになると思うのですが、都会にいて普段の生活の中で小さなゴミをポイ捨てする人たちは、環境問題を意識することってあまりないと思うんですよね。「自分がここで小さなゴミを捨てたって大したことないだろう」という軽い気持ちの積み重ねこそが大きな問題につながってくることを意識しづらいんです。僕自身、南極の巨大な環境問題を目にした時に、「自分一人では解決できないのでは」という無力さを実感しました。でも、地球には大きな環境問題があるという広い視野を持ちながら、足元のゴミを拾うこと、つまり都会では「シンクグローバル、アクトローカル」(世界規模で考え、足元から行動する)が大切なんだと思うのです。1人が100歩進むのではなく、100人が1歩ずつ進む活動が大事なんだということが分かりました。

日本は海外の国々と比べるともともときれいな国ではあります。それでも、植え込みや排水溝など、人の目につかないところにポイ捨てする人って結構いるんですよね。ゴミを捨てることの後ろめたさからくると思うのですが、「ポイ捨てはダメ」と言うよりも、「カッコ悪いよね」という意識を持ってもらうことが大事。地球の環境って考えると自分のことのように思えない、自分一人だけじゃ変わらないでしょって思いがちですが、個人個人の力が集まると、結果として大きな変化につながります。歌舞伎町でゴミ拾いしても、1、2時間経ったらまたゴミが落ちている。イタチごっこのように見えるけど、10年続けていたら、少し改善してきたように思えてくる。そうした積み重ねで少しでもポイ捨てを少なくする意識づけの一端を担えたことが、グリーンバードの活動を通じて学んだことです。

■ 企業が環境活動に加わる意義は大きい

―—NPO法人として環境活動を行うことのメリットと課題は何でしょうか。また、企業が環境活動を行う意義とはどんなものだとお考えでしょうか。

昔はボランティアというと、無償でやることが当たり前、寄付をしてもらうことが前提という風潮がありましたが、今ではお金の工面で苦労するのは変わりがないものの、CSR(企業の社会的責任)、あるいはCSV(共通価値の創造)という観点から企業からスポンサードしてもらう機会に恵まれるようになってきました。スポンサードしてもらうからには、それに見合った価値をお返しできるような活動をしようという、日本のNPO全体の意識も向上してきたように思います。

そういう意味では、企業とNPOがそれぞれやりたいこと、目的を果たせるようにいい意味で利用しあうことなのかな、と思います。NPOやボランティア活動には環境を良くするというミッションがあるけどお金がない、だから見据える方向が同じであればお金がある企業がNPOやボランティアに関わってもらうことで活動の発信力や求心力が増していくという良い循環が生まれてくる。その点で企業が環境活動に加わる意義は大きいと言えます。

私はLGBTの当事者として東京レインボープライドというイベントを主催する一人なのですが、2015年には東京の渋谷区で「パートナーシップ条例」が成立するなど、LGBTに対する社会的な注目が一気に高まりました。そこで企業から「イベントのスポンサードをしたい」という申し込みが増えました。今まではこちらから企業に協力をお願いしても応じてもらえないことが少なからずあったのに、今では企業側からお願いが来るようになった状況に、当事者の中には「今までは差別や偏見があったのに、お金になりそうだと思ったら急に手のひらを返してきて…」という複雑な思いを抱える人もいます。でも僕は企業が注目するのはマーケットとして可能性があると認められたことであり、決して悪い事ではないと受け止めています。

世の中にさまざまな社会的な課題がある中で、興味を持ってもらい、周囲を巻き込む大きな動きにするには、楽しい、ワクワクするといったようなポジティブなメッセージを発信しなければ人は集まりません。そこで企業のマーケティングを含めてイベント化することで興味や関心を高められれば「この活動いいよね」と感じ、行動に移してもらえるのではないでしょうか。グリーンバードが10年以上継続したのも、トヨタの「AQUA SOCIAL FES!!」のような、企業が行っている環境保全イベントに4万人以上の人が参画したというのも、そうした良い循環が生まれた結果だと思います。

継続させることはNPO/ボランティア/企業に関係なく共通する課題ですよね。始めるのは簡単ですが、続けるのは難しい。グリーンバードでは100人規模でやった時もあれば1人しかいなかった時もありましたが、人数の大小ではなく継続できたことが自信につながっていきました。ゴミ拾いですから、活動自体にはそれほどお金がかからないとはいえ、どうしても資金協力が必要になる。そんな時に企業のサポートをもらえることが継続につながったのだと思います。

企業って、世の中に対して価値を創造して利益を得るのが仕事だと思うのですが、そういう意味で言うと、企業が社会をより良くする活動で対価を求めるのはいいことだと思うのです。価値を作った企業が対価を得て、また社会を良くするために還元していく、という流れを作ることが大切です。

グリーンバードとAQUA SOCIAL FES!!、2つの活動に共通するのは、清掃を通じて人とのつながりが生まれて、そのつながりの中から思いがけない成果が生まれてくることじゃないかな、と思います。グリーンバードでは、ゴミ拾いを通じて愛を育んで結婚した人たちもいます。清掃活動がきっかけで繋がるご縁が沢山あり、ある意味では「お金のかからない異業種交流会」のような場でもあるかもしれません。

―—AQUA SOCIAL FES!!も学生や主婦もいれば行政の人もいますし、他の企業も参加するなど、多種多様の人が集まる場です。大学のボランティア単位のひとつとして活用したり、企業では新人社員研修として参加するところもあったりします。まさに、人とのつながりが生まれてくる場になっていると言えます。杉山さんがそうしたつながりを実感した場面にはどんなものがあるでしょうか。

僕が暇を持て余していた学生の時にグリーンバードに参加して、当時渋谷区議だった長谷部さんと出会いました。自分のセクシュアリティをオープンにし始めていたところだったので、長谷部さんにも清掃活動中にいろんな話のひとつとして自分のセクシュアリティの話もし、「そういう人もいるんだな」と長谷部さんが認識してくれました。

それとほぼ同じ時期に自分の著書『ダブル・ハッピネス』を刊行し、全国の性同一性障害の当事者から1000通以上の「辛い、苦しい、助けて欲しい、会いたいです」というメッセージをいただいている頃でもありました。一人ひとりに返信するのが難しくなったので、「僕はグリーンバードでお掃除をしています」とよくブログに書いていたら、全国の当事者たちがグリーンバードに参加しに来てくれたんです。一時はグリーンバードの参加者はLGBTだらけ、なんてことも(笑) そんな様子を目の当たりにした長谷部さんが、それなら渋谷区で何かできないかなと考案してくれたのが今回渋谷区同性パートナーシップ条例なんですよね。まさかお掃除がご縁で全国でも話題になるような条例が成立するなんて、思ってもいませんでしたね。

本当に、人の縁ってどこでつながるか分からないものだな、と実感しました。

お掃除というイベントの下に人が集ったとしても、生み出すものが環境美化とは違ったものになるかもしれないですし、それぞれ違う境遇の人たちが集い、交わる場所を作り、接点が生まれるのはとても良いことだと思います。僕の活動で一番大切にしている「場所作り」、つまりいろんな人たちがカテゴリーや垣根を超えて集まる場をこれからも作っていきたいと思っています。僕が飲食店をやるのも、掃除をやるのも、レインボープライドのイベントをやるのも、同じ「場所作り」なんです。

掃除って難しいことではありません。街をキレイにしたいと言って嫌がられることもありませんからね。どんな地域でも、そしてどんな企業や団体でも参加できる柔軟さもいいところだと思っています。

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