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岩井俊二さん×安田菜津紀さんが対談、難民問題と『スワロウテイル』を語る「日本は病院みたいな国」(前編)

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SHUNJI IWAI
岩井俊二さん(左)と安田菜津紀さん=東京都港区 | LIFE.14
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地球上の難民が2000万人に上るとされて世界中で喫緊の課題となっているなか、日本はどう難民・移民と向き合っていくべきなのか。こんなテーマで1月下旬、映画監督の岩井俊二さん(53)とフォトジャーナリストの安田菜津紀さん(28)が対談した。

2人は、岩井さんの代表作「スワロウテイル」に登場する「YEN TOWN BAND」が約20年ぶりに再結成され、2015年12月にリリースしたシングル「アイノネ」のCDジャケットで、安田さんによるシリア難民の写真を使用して以来の縁だ。

岩井さんは対談で「我々と同じ人間なんだけど遭難、受難している最中。私たちと何も変わらないんです」、安田さんは「日本に来ている人たちにとっては非常に苦しい場所なのかと想像するんです」などと語った。2人の話は「スワロウテイル」の話題から始まった。

この対談はハフポスト日本版などが企画した。

岩井俊二(いわい・しゅんじ) 1963年、仙台市生まれ。横浜国立大卒。テレビドラマなどの演出を経て映画監督となる。作品に「Love Letter」「スワロウテイル」「ヴァンパイア」など。新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」は3月26日に封切られる。著書に「ウォーレスの人魚」(角川文庫)、「番犬は庭を守る」(幻冬舎)。NHKの東日本大震災復興支援ソング「花は咲く」の作詞もした。

安田菜津紀(やすだ・なつき) 1987年、神奈川県生まれ。上智大卒。フォトジャーナリストとして、カンボジアを中心に中東、日本国内などで貧困や災害を取材。2012年、「HIVと共に生まれる―ウガンダのエイズ孤児たち―」で第8回名取洋之助写真賞を受賞。共著に「ファインダー越しの3.11」(原書房)、「アジア×カメラ『正解』のない旅へ」(第三書館)。現在、J-WAVE「JAM THE WORLD」に出演。

■「移民たちの話をつくりたいと思ったのが『スワロウテイル」だった」(岩井さん)

安田菜津紀さん(以下、安田)スワロウテイル」が上映されてから20年が過ぎました。映画では、国に頼ることができない人たちの生命が鮮やかに映し出されていましたが、それが現在のシリア難民に通じると思いました。

岩井俊二さん(以下、岩井さん)スワロウテイルをつくった時、僕は20代から30代になるころでした。そのとき、日本を眺めると何かちょっと問題がある気がしていました。言い方は悪いですけれど日本が「病院のような国」になってきたと感じていました。

日本では様々なサービスが自分たちを守ってくれていますが、それにだいぶ甘えてしまっているのではないでしょうか。病院に行って命を救ってもらっても、それが当たり前。コンビニに行って当たり前、みたいな。そして、そのサービスがちょっとでも行き届かないとクレームになったりする。これって、自分たちをすごく弱らせているんじゃないかという気がしました。

つくった当時はアメリカやヨーロッパに行ったりもしていましたが、日本の外ではエネルギッシュなパワーを感じることもありました。また、中国系の移民の人たちがとても気の毒であるとか、何かしらの問題提起のような形で取り扱われることが多かったです。でも、本当にそうなのかと疑問でした。どんな環境であれ、人として生きていて喜怒哀楽もあるし、彼らに寄り添えばもっと元気な顔になるんじゃないかと思いました。そういったすごくエネルギッシュな移民たちの話をつくりたいと思ったのが「スワロウテイル」だったんです。

安田:作品にはスラムみたいな場所も出てきますし、人々が拠点にしていたバラックみたいな小屋も、何か象徴的な気がするんですよね。例えば、主人公の1人は中国語と英語をしゃべる。でも、英語を話して当然と思われるような一見欧米人にみえるバンド仲間は日本語をしゃべっている。とても多様なエネルギーがうごめき合っているっていうのが、改めて見た印象でした。

岩井:いろんなアジアの国を撮影の前に回ったんですけれど、やっぱり日本にはないパワフルさやダイナミズムがありました。そして差別みたいなことも発生する。映画にも出てくる「イェンタウン」というまちは「円の都」のことですが、人々が東京のことを「円の都」って呼んでお金目的で来ている、ということを意味しています。その人たちを、日本人は、「円を盗む者」と書いて「円盗(イェンタウン)」と呼んでいる。日本人と外から来た人たちの間にギャップがあるという話でもありました。

シリア難民についてですが、彼らは戦争から始まったことでそこにいられない状態になった人たちです。そういう人たちが国を逃れて移動している大変な時期です。でも、次第に人としての普通の営みが、形は違えども戻ってきます。難民や移民の人たちを単純に気の毒と一色に染めてしまうと、普通の状態に戻っていった時に、普通の人間とは見えなくなってしまいます。

shunji iwai
対談する岩井俊二さん

■シリア難民の溺死した男児の写真は「お父さんの気持を癒やしはしない」(安田さん)

安田:難民の一人から、最初は難民といわれるのに抵抗があったという話を伺ったことがあります。でも、そのうちに難民ということに慣れてきます。でも、同時に自尊心や誇りも奪われていくような感じがすると言います。

岩井:ニュースでは、荷物を抱えてみんなで移動している、まさに難民らしい姿が映ります。彼らは、当たり前のことですが、我々と同じ人間なんだけど、遭難、受難している最中。私たちと何も変わらないんです。いつか我々もああいうふうになるかもしれないし、そこに何か自分たちと違うととっさに思っちゃうのが我々の本能の中にあるのでしょうか。区別しようとするというか、脳が勝手にすぐに働いちゃうと思うんです。

安田:写真であれ映像であれ、確かに難民の人たちの顔は映っているんですけれど、それが顔でない。結局一人一人としてのフェイスではないっていう伝わり方になってしまっているような気がします。

昨年9月に、トルコで3歳のシリア難民の溺死した男の子の遺体が浜辺に打ち上げられ、その写真が拡散しました。でも、その写真が出回る前からああいったことは起きていたんです。写真の力と言われたりもしましたが、私は、それはまた違うものなのかなとも思いました。

例えばあの写真が出て、イギリスが難民政策を少し転換したことは、結果としてはいいことなのかもしれない。でも、あの写真は、生き残ったお父さんの気持をまったく癒やしはしないのではないかと思います。

岩井:まるで映画を見ているような空気になっているじゃないですか。でも日本人も、かつてブラジルに行ったり中国に行ったり、いろんなところを移動していたわけです。うちの親も大陸出身からの引き上げ組でしたし。

でも難民というのは、戦争などの過酷な状況で、逃げるしかないという本当に追いつめられた状態におかれているんですよね。

人は誰でも何かに困るということが生活の中であります。そういったとき、平和ボケなのか、我々もとっさに手を差し伸べてあげたり、困った人を助けたりすることに慣れていないんですよね。例えば道に迷っている人がいたら「どうしましたか」と聞く、そういうことを日本人はあまりしません。それこそ「病院みたいな国」になってきた症状なのかもしれませんね。歪んでいるというか、不思議なことになっている気がするんです。

natsuki yasuda
対談する安田菜津紀さん

■意見交流会を発起、「人々の意見は違うものです」(岩井さん)

安田:ところで、(岩井さんらが発起人の意見交流会)「69(ロック)の会」はかなり長い間、続いています。(音楽プロデューサー)小林武史さんや(ジャーナリスト)岩上安身さんら、いろんな立場のいろんな思想の方が参加しています。ボランティアや市民活動は、なかなか日常や仕事にオーバーラップしていかないです。それは、写真の世界やジャーナリズムでも言えますが、それってよくないです。「69の会」は違いますよね。

岩井:「69の会」には、例えば地球温暖化問題に対して賛成派と懐疑派というように真逆の考え方の人が混じっています。その両方を知らない人たちを連れて来て、伝えていかなきゃいけないものは伝えていかなきゃいけないと思っています。「69の会」ではTPP(環太平洋パートナーシップ協定)問題もやるし、それこそ安保法案もやる。

無理やり多様性を作っているわけじゃないんですけれど、人々の意見は違うものです。アメリカは戦争をやって、国民が銃を持っている変な国、恐るべき国です。中国は共産党一党独裁国家。韓国はだいぶ今は日本に近い雰囲気はありますが、徴兵制があって日本とは違う世界もある。北朝鮮は、また独裁国家みたいになっている。その中で、じゃあ市民レベルではそんなに劇的に違ってくるのかというと、みんなが恐れているほどそうではないと思っています。

日本では、大日本帝国時代には夏目漱石もいたし芥川龍之介、樋口一葉もいた。いま日本人は日本の国にすごく馴染んでいて、憲法9条もすごくいい平和憲法だと思っています。

安田:シリアは、今はあんな状況になってしまっていますが、内部から自然に内戦が発生したというより、外圧の影響がとても大きかった。アサド政権という独裁が長く続いていますけれど、そのイメージと市井の人たちの生活はまた違いますね。

岩井:そうですね。独裁国家って、中国なんかはそうですが、あの巨大な国が共産党に独裁されています。でも、人々はみな、したたかに生きています。国なんて本来、間違っているくらいで仕方ないのかな、くらいに思っています。ナチスドイツみたいなのは、戦争のなかで一気にそうなったんですよね。民主主義国家であっても軍国主義であっても極端な思想の国であっても、結局起きている戦争は同じように悲惨です。そこから我々を守ってくれるものって意外とない。だから、戦争だけは起こしちゃまずいです。

安田:岩井さんがおっしゃっていたような、20年経って病院がより病院らしくなってしまっているような側面が、多分あるんですよね。

岩井:誤解を恐れずに言えば、難民もすごく大変なことだと思うんですけれど、被災するのも大変なことだと思うんです。じゃあ何もない状態っていうのはそれに比べてただただ平和で幸せなのかというと、これはこれで見えないものにがんじがらめになっている状態もあるのが現代社会なのかと思います。

安田:私も東京に住んでいますし、岩井さんもここにいらっしゃいますけれど、やっぱり東京は非常にそういう温度感のあるエネルギーを常日ごろ感じるような街ではないなと思っています。その上でさっきのレッテル貼り、例えばシリアであれば独裁国家というイメージであったり、内戦というイメージが先行していたりしています。私もラジオ番組で難民問題を扱ったりすると、「難民が来るとテロが日本で起きる」とか「テロの標的になる」といったようなテンプレートみたいな言葉がTwitterに並び始めるんです。だから、日本に来ている人たちにとっては非常に苦しい場所なのかと想像するんです。

※日本に暮らす難民の詳細についてはNPO法人「難民支援協会」のウェブサイトをご覧ください。

※「後編」に続きます。

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ドイツにやってきた難民の子供たち
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