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史上最年少の副町長が島から考える「地方創生」 鹿児島県長島町の挑戦

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地方創生に取り組む鹿児島県長島町の副町長、井上貴至さん | 井上貴至
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鹿児島県長島町(ながしまちょう)。県北西部に位置し、長島本島と大小の島からなる自治体だ。豊かな自然と温暖な気候に恵まれ、食料自給率もエネルギー自給率も100%を超える一方、1960年には2万人を超えていた人口が、現在は1万人程度。2040年には7000人まで減少することが予測され、多くの地方自治体と同様、過疎化の課題を抱えている。

そんな長島町に史上最年少の副町長が誕生した。井上貴至さん、大阪府生まれの30歳。2008年に東京大学法学部を卒業後、総務省に入省した。2015年4月、政府が進める地方創生施策のひとつ「地方創生人材支援制度」の第一号として、総務省から派遣され、7月からは副町長を務めている。若手のキャリア官僚が、地方の現場で一体、何を考え、何を試みようとしているのだろうか?

■「地方創生人材支援制度」の発案者

−−−井上さんが総務省から長島町へ派遣されたのは、国家公務員や民間の人材を市町村長の補佐役として派遣する「地方創生人材支援制度」によるものでした。2015年度から始まったこの制度、実は井上さんが発案者と聞きました。

僕は学生時代から、『平成の伊能忠敬になる!』と言って、地域の現場を歩いてきました。そこで色々なキーパーソンに会って話を聞いて思ったのは、皆さん自分の地域や業界のことは詳しいけれど、よそのことはよくご存知ないということ。地域に人材がいないと言われますが、外と地域をつなぐ人材がいないんです。

ですから、僕が出会ってきた素敵な人を紹介して、『地域のミツバチ』として花から花へ花粉を運ぶように、その人たちをつなげていくことで、新しいものを生み出してきました。『地方創生人材支援制度』もその延長なんです。

−−−この制度は非常にユニークですが、一方で地方自治体からすると、「東京から若い官僚が来てくれるけど、一時的なもので、結局は帰っていくのでしょう?」という受け取られ方をするのではないかとも思いました。実際に、現場へ行ってみていかがですか?

「『一時的なもの』といってるから地域はだめなんですよ。今、地方への移住は『0』か『100』かの選択肢しかない。『100』を選べば、地元の消防団入って草刈りに参加して……というフルスペックで移住しなさいという。とてもハードルが高い。『進撃の巨人』に登場する超大型巨人にしか乗り越えらない壁があります(笑)。でも、地方に移住したいという人たちは潜在的にいるはずです。だから、『0』と『100』の間に『階段』を作っていくことが大事です」

−−−「階段」ですか。

「学生時代に、ゼミの先生に『君たちは何も知らないから、とにかく現場へ行きなさい』と言われました。それであちこち行っていたのですが、新宿の路上生活者の人たちへの炊き出しをやっている時に感じたのも、やっぱり『階段』なんです。

たとえば、Aさんが失業したとします。ただ、Aさんは身なりもきれいで携帯電話も家もある。でも、もう一人の失業者であるBさんには、携帯電話も家もない。求人している企業がどちらを採用するかといったら、Aさんなんです。一度、路上で暮らし始めると、能力があったとしても、越えられない壁ができてしまう。

そこで、路上生活していたとしても、再びチャンスを得るための『階段』を作るのが公共の役割です。地域も同じです。『一時的なものだから』と言っていてはだめです。1年に1回、来てくれる人でもいい。色々な地域との関わり方があると思います」

■町全体で若者を支援する「ぶり奨学金」

−−−実際に長島町では、どのような「階段」を作っていますか?

「地方創生は、人口減少をいかに食い止めるか? どうやって町に住んでもらうか? ということを目指しているのですが、そのためには、出産・子育てがしやすい環境や雇用、人の流れを作ることが大事だと思っています。

例えば、長島町には高校がありません。かつて町内にあった県立長島高校は2007年に閉校しました。長島町の子どもたちは、阿久根市や出水市の高校に入学するのですが、通学には、片道1時間かけてバスで通うか、寮暮らし、あるいは家族で学校の近くに引っ越すことになります。交通費や寮費など、経済的な負担が大きい。さらに、高校を卒業してから、長島町に戻って来ないために若者人口の減少につながっているという課題もある。そこで、『ぶり奨学金』という制度を2015年11月に作りました。2016年4月から始まります。

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長島町が一丸となってとりくむ「ぶり奨学金」の会議(写真提供:井上貴至さん)

−−−長島町はブリが特産品で、養殖ブリ生産量は日本一だそうですね。どのような奨学金制度なのでしょうか?

長島町と提携する鹿児島相互信用金庫が高校生に月額3万円、大学生に月額5万円を『ぶり奨学ローン』としてそれぞれ貸与します。卒業後に子どもたちが長島町に戻ってきた場合は、利子を含めた返済を『ぶり奨学基金』から補助する仕組みになっています。ブリは回遊魚でもあり出世魚でもあることから、この魚にあやかって、卒業後は地域に戻ってリーダーとして活躍してほしいと願いを込めました。

ここで大切なのは、志のある企業と組むことです。役場には金融のノウハウがないので、地元のそうしんと組んで、がっつり話し合って作りました。企業の英断があり、最初に金利を減らしてくれたので、町の負担やリスクが減ります。これは、僕がいる期間だけ盛り上がっても意味がありません。長島町で30年、50年続く制度にしようと思いました。

−−−ぶり奨学金の基金には、長島町の東町漁協からブリ1匹あたり、1円の「応援金」を受けているそうですね。民間の力を取り入れるところがユニークです。

「漁協は『鰤王』(ぶりおう)というブランドの養殖ブリを供給しています。世界29カ国に輸出されるなど高い評価を誇っているものの、やはり後継者の問題を抱えている。子どもたちに戻ってきてほしいと思っているわけです。他にも長島が大好きな皆様に広く寄付を呼び掛けています。

信用金庫もエリアが限定されてますから、そのエリアの人口が減少すれば、預金高も融資額も減ります。だから、地域の人口を増やすことに重大な関心があります。行政だけじゃなくて民間からもお金を出してもらい、一丸となって応援してもらえればと思っています。

−−−東京や別の大都市の企業ではなく、町内の企業というのがポイントですね。地域の中で経済が循環させることが大事なのかなと思いました。

■これまでの地域活性化の政策とどう違う?

−−−今回の地方創生では、多くの政策がとられていますが、今までの地域活性化の政策とは何が違うのでしょうか?

「地方創生について、いろいろことをみんな言い過ぎて、すごく見えづらくなっています。
ただ、手前味噌ではありますが、国の施策の中では、地方創生人材支援制度が一番の肝だと思っています。今回は、それぞれの自治体がこういう人材がほしいと希望を出してきています。希望を明示することはとても大切で、実は新しい取組です。また、それに応じて、今まで国から人材が派遣されなかったような小さな市町村にたくさん人が行って、中と外を繋いでいます。2015年度は38道府県に69名、2016年度は28道府県に58人が派遣されています。この規模感というのは、大きなインパクトです」

−−−そこでの化学反応に期待が持てるというわけですね。ぶり奨学金以外に、長島町でどのような取り組みがされているのでしょうか?

「メタン発酵バイオマスもやろうとしてます。養豚家や養鶏家が糞尿を処理しようとして始めますが、多くの場所で、実は失敗しています。その理由は、残りかすを薬剤で処理して下水に流すと、収益が悪化するからです。

でも、町全体を見渡して、残りかすを農家に肥料として引き取ってもらって、農作物を育ててもらう。熱も放出するだけではなく、町役場や特養などの大型施設で使ってもらえば、収益も向上します。陸上養殖も面白いかもしれません。

養豚家だけでやろうとすると失敗してしまいますが、町全体を巻き込めれば、成功します。お互いがハッピーに、目の前の人が笑顔になってもらうことが一番、大事で、その和を広げていくことが地域づくりの要だと思っています」

−−−なるほど。やはり、人と人のつながりが大事なのですね。これまでの地域活性化は、どれだけ外部の企業を呼び込み、補助金で大型施設を造ることができたかに、成功の可否があった気がします。よく見るのが、まちづくりの計画で、大型施設を造ろうとして住民の反対運動にあい、それも押し切ってやってしまうというパターンですね。

「僕がやっていることは、目の前の人を喜んでもらうことです。ソフト面での地域づくりです。

そしてそれは、対立するものではありません。自分たちから仕掛けていく時には、対立を煽るような案件からやる必要はない。みんながハッピーになっていくことをやればいい。そこをわかっていない人は、数字だけ見てしまうのだと思います。ぶり奨学金も、総論でいえばみんな賛成です。もちろん細かい調整は必要ですが」

−−−そこが、井上さんたちのコーディネートの手腕が問われるところですね。

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さまざまな取り組むを展開する長島町(写真提供:井上貴至さん)。

■行政と民間企業との関係が変わるために

−−−長島町では、ビズリーチが運営する求人検索エンジン「スタンバイ」と連携して「地域おこし協力隊」を募集、有料会員制レストラン予約サイト「ルクサ リザーブ」立ち上げメンバーを採用して、2月から一流シェフ招聘事業を始めました。また、3月には、大阪市の辻調理師専門学校と連携して、同校出身者のシェフを長島町に招き、鰤王などの特産品の知名度向上をはかるそうですね。とても副町長に就任して1年弱とは思えないほどのスピード感です。

「これまで、市町村はスケジュール感やビジョンがないのが課題でした。目の前にたくさん案件があり、住民への対応やイベントに対応しているだけで、仕事をやった気になる。日々の仕事をしているとそれで終わるし、それで満足してしまいます。でも、これからは地方自治体であっても、もう少し長いスパン、広い視野で、日本全体の流れを見ながら仕事をしないといけません」

−−−長島町の取り組みは、民間との連携がカギだと思いました。しかし、民間の速度に自治体が合わせるのは大変なのではないでしょうか?

「国も自治体も一番、苦手なところかもしれないですね。これまで、公共を行政が独占する時代が長く続いてきて、公共は自治体がやるものと思っている。そうなると、民間企業は単なる下請けになってしまいます。でも、そういう意識では、民間企業や志で働いている人は、動いてくれません。リスペクトする気持ちがないとだめです。

それから、速くするためのコツは、外から人を呼んでしまうことですね。この日に会議やりますからと言えば、動かざるを得ません(笑)」

−−−民間企業だからといって、パブリックマインドがないというわけではないですよね。自治体と民間企業の関係が変われば、地方も変わるような気がします。

「お役所仕事という言葉あります。確かに、行政の職員はルーチーンワークだけやっていれば、定年まで何事もなく勤められるのかもしれません。でも、そういう人たちと民間の人たちは組みたくないですよね。市町村の職員にとって、一番大切なのは、地域の人たちから信頼されるかどうかです。

では、どうしたら信頼されるか。覚悟と継続です。担当が変わったからやめたじゃなくて、節目節目に会いに行くとか、相談に乗るとか。住民が味方してくれれば、自分の仕事もしやすいと思います」

−−−井上さんは、あまり町役場にいらっしゃらないそうですね。役場の外で何をしていらっしゃるのですか?

「ブリの養殖所に行って、出荷に立ち会ったり、車で20、30分かけて畑に行って、農家の方と話したりしてます(笑)。現場に行けば、『井上ちゃん』と声をかけてくれて、あとはメールや電話1本でお願いできる関係が築けます。与えられた仕事を進めるには縦割りも有効ですが、時代の変化に合わせて新しいことを始めるためには自由に動き回る人が、自治体には必要なんです。現場を大事に、出会った人の笑顔を大事にしていくことが、地域創生には本当に必要なことだと思います」

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