「一億総活躍社会」が掲げられる中、特に子育て世代の働き方、生き方を見直す機運が高まりつつある。女性の社会進出と同時に、男性も積極的に子育てに参加する「イクメン」も浸透するなど「男性の家庭進出」も著しい。

しかし、これは昨日今日始まった話ではない。ここ20年ほどで理想の夫婦像や家庭像が大きく変化した影響が大きい。

20年前の1996年ごろと言えば、専業主婦世帯数と共働き世帯数がほぼ同数に達した節目の年だ。それ以降、現在まで、共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回り、その差はどんどん広がり続けている。

■財布の紐が厳しい主婦から支持される雑誌「サンキュ!」、躍進のワケは?

そんな1996年に創刊され、20年間、徐々に変わりゆく女性や夫婦のあり方と常に伴走し、それを誌面に反映させてきた雑誌がある。ベネッセコーポレーションが発行する女性向け生活情報誌の『サンキュ!』だ。

『サンキュ!』の現在の発行部数は、20~40代女性閲読率トップを誇る月間約35万部。インターネット普及後、一時代を築いた雑誌でさえ休刊や廃刊が相次ぎ、大手出版社の有名雑誌も軒並み部数を減らす中で、『サンキュ!』はどうしてこれほどまでに女性の支持を得られているのだろうか?

「メインの読者層である主婦の生活のトレンドは、ファッションのトレンドのように劇的に変わるものではありません。また、意図的に作り出そうとしても、容易に支持は得られません。もっと地に足の着いたものなんです。ただ、緩やかに変化はしていくので、その静かなトレンドを逃さずにキャッチし、半歩先の提案を続けていくことが大切だと考えています」

そう語るのは、『サンキュ!』編集長の武田史子さん。静かなトレンドを逃さず、半歩先の提案をする。そのために、『サンキュ!』編集部では、大きく3つの手法を雑誌編集の中心に据えているという。

photo1

「1つ目が、マーケティングを徹底的に行うこと。毎月3000人以上にアンケート調査を実施すると同時に、各企画が何人の読者を獲得できるかを数値化し、それを編集部全員で共有した上で、1冊を設計しています。

2つ目は、「徹底読者主義」とでもいうべきものです。毎月50軒前後のご家庭に使い捨てカメラをお届けし、食事、冷蔵庫の中身、ご自宅の中などを撮っていただき、現像せずに編集部に送り返してもらいます。あえて使い捨てカメラにしているのは、加工をさせず、ありのままを見せてもらうためです。その中で数十軒ほどのお宅をあらためて訪問取材するのですが、その際にはできるだけ編集部員が全国津々浦々まで、泊まり込みになっても取材に行くようにしています」

まさに現代的であり、目を引くのが、3つ目の手法だ。

「ウェブの『口コミサンキュ!』で3500人の主婦ブロガーを組織し、特に人気の高いカリスマ主婦を育成し、雑誌の表紙をはじめ、さまざまな形でメディアに登場してもらうなどして、ニーズやトレンドを牽引する役割を果たしていただいているんです」

■女性や夫婦の多様なあり方が認められる“一億総生活力向上社会”へ

そうして主婦を中心とした女性読者と密接にかかわる『サンキュ!』編集部は、彼女たちのリアルな姿や声を通して、20年間にわたる女性の意識、夫婦や家族の価値観の変化を見つめ続けてきた。

「20年前の創刊当初は、読者の60〜70%が専業主婦でした。でも、今は逆転していて、60〜70%の読者は共働きで、フルタイムで働いている方も20%います。電子版の部数が伸びていますが、NTTドコモの電子雑誌サービス「dマガジン」で購読している読者5万人のうち、3割は男性です。つまり、この20年間で、メインの読者層が専業主婦から共働きの男女へと大きくシフトしているんです。日本の社会全体の状況とそっくりリンクしていますね」

主婦向けの生活情報誌『サンキュ!』の読者に男性が増えているとは、少々意外な話だ。男性読者は、『サンキュ!』のどこに惹かれているのだろう?

「男性に人気の企画は、上から順に、お金のやりくり、料理、片付けの順です。女性読者の好みとそれほど違いはありません。家庭内の男女の役割に差がなくなってきた、その一つの表れといえるでしょうか。実際、月当たりの収入、支出を明かす企画では、妻の収入が夫のそれを上回る例も少しずつ増えてきています。中には、『夫の内助の功を育てるのが、私の役目です』という読者の方も(笑)」

「十年一昔」というなら、20年はふた昔。家庭のあり方も、ずいぶん様変わりしたようだ。しかし、待機児童や育休の問題など、世の中がそれに追い付いていない印象も拭えない。『サンキュ!』編集長の経験を生かして、内閣府少子化対策委員も務める武田さんに、率直な意見を聞いた。

photo3

「『サンキュ!』や弊社の他媒体を通じて聞こえてくるのは、国や社会の対策がまだまだ十分でないという声です。例えば、待機児童の問題であれば、まず保育士の給料を上げ、保育士の数を増やし、保育園も増やしていく。育休を取ろうというのなら、企業の自由裁量に任せるのではなく、ある程度義務付ける。さらにもう一歩踏み込んだ対策が必要だと思います」

国や社会にいっそうの法整備やルールづくりを願う一方で、私たち生活者が求めているものはこの20年の間に大きな変化を遂げていると武田さんは語る。

「これまでは、今日の献立とか日々の節約といった、目先の課題を解決し、毎日の生活を少し良くする方法、あるいは毎日の悩みを解決する方法が求められていました。しかし今は、先を見据えて一生を賢く幸せに暮らしていくための知恵が必要とされています。これは、不安定な経済や子育てなどへの不安が大きくなっていることが背景にあります。見通しの立たない将来をいかにポジティブに生きていくか、が問われているのです。

では、その知恵は何かと言うと、私たちは“生活力”だと考えます。生活力と一口に言っても、家事とか子育てだけに限った話ではありません。老後を見据えたライフプランを組み立てる「やりくり力」、子育てが終わっても幸せに生きるための「夫婦円満力」といったものも含んだ、幅広い意味での“生活力”、ということですね。

仕事に就くことだけが、女性の社会進出ではありません。女性の生き方も、夫婦のあり方も、もっと多様性が認められてよいと思います。そのために、“一億総活躍社会”ならぬ、“一億総生活力向上社会”の実現をサンキュ!は目指したいと思います」

“生活力”を磨けば、女性も男性も関係なく、誰もが耀ける社会になる――。20年という月日を経て成長してきた「サンキュ!」が示すビジョンは、日本社会の成熟を促すものとなるだろう。