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前首相もゲイを公表。当たり前にLGBTが暮らす、ベルギーの「プライド」が大切にしていること

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LGBTに優しい国ベルギーの約20年間の歩みと、首都ブリュッセルのLGBTの祭典「プライド」が大切にする「少数派に優しい社会」について、ブリュッセル在住のフリーライター・栗田路子さんがレポートする。

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「(3月22日に)連続テロがあったばかりで、自粛すべきか、やるべきか、迷う声もいろいろありました。でも、今だからこそやるべきと判断しました」

「ブリュッセルがこの20年、大切に培ってきた価値観そのものがテロで揺さぶられている。LGBTはもちろん、どんな少数派も、堂々と自分らしく生きられるブリュッセルを、今こそより強く世に問いかけなければ」

今では、なくてはならない存在となった市民によるLGBTの祭展「プライド」(Pride)の記者会見で、力強く語ったのは総監督のアラン・デゥブラン氏だ。続いて、ブリュッセル市長、機会均等担当助役、市観光局イベント担当らが、次々と訴えた。「少数派に優しい社会づくり」がブリュッセル市政にどれほど重要なのか、LGBTコミュニティが、その推進にどれほど貢献してきたのかを――。


2016年の「プライド」への特別な思いを語る記者会見

■世界で2番目に早く同性結婚を認めた、ベルギーの歩み

2016年で21回目を迎えるブリュッセルのプライド・パレードが始まったのは、1996年のこと。アランは、穏やかに当時の様子を語る。

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「プライド」総監督のアラン・デゥブラン

「当時のブリュッセル市長に猛反対されながら、たった2500人で市内を歩いたのが始まり。でも、毎年仲間が少しずつ増え、2000年代初めに、2万人を超えたころから市民権を得て弾みがつきました」

「その頃、『同性結婚の合法化』を公約に掲げていたエコ政党や社会党が、プライド・パレードをともに歩いて大勝利。新政権下の2003年6月、際立った反対もなく、同性結婚は公約通りに成立したのです」

ベルギーはこうして、オランダに次いで世界で2番目に同性結婚を合法化し、翌年の2004年には、カップルの片方がベルギー在住であれば、外国籍であっても、ベルギー内で合法的に結婚が成立するようになった。

以来、人口1000万人のこの国で、年間1000組を上回る同性カップルが、合法的に家庭を築く。アフリカや中東を中心に、同性愛による迫害を理由に、ベルギーに難民として庇護申請する者も毎年1000件を超える。

■親戚も友人も。ごく当たり前にLGBTが暮らす社会

実際のところ、ベルギー社会に生きていると、あまりにも当たり前にLGBTに出会う。ある日、学校から帰ってきた高校生の娘が、「ママ、今日ね、ニコが(ゲイと)カミングアウトしたの。だから、みんなでお祝いするの」と興奮しながら、レインボー色のケーキを焼いた。

ニコは、秀才でスポーツ万能。几帳面で気配り上手なので、小さい頃から女友達が多かった。そんなニコが、高校に入ってすぐ、自分の性的指向を認めて宣言したこと、また、それを回りの高校生があまりに自然に祝うことに驚かされた。


高校生の娘が、カミングアウトした友人のために焼いたレインボーケーキ

以来、娘の回りには、優しいゲイ・フレンドが絶えない。親族や友人にもLGBTは少なくない。「ウエディングドレスが2人かも?」の結婚式にも何度か招かれた。両家の親族も、友人も、心の底から祝っている様子が印象に残る。

■大学病院の不妊相談コーナーには「同性カップルの方はこちらへ」

仕事上の知人には、こう打ち明けられた。「うちの娘が、女性パートナーと結婚してね。初孫ができたんだ。息子が精子を提供したから、パートナーが生んだその子が僕にそっくりでね。かわいくてたまらない」と。「お嬢さんがレズビアンって、ショックじゃなかった?」と聞いてみると、すでに70代のこの男性は、「本人が幸せなら、僕がどうこう言うことじゃない」と歯切れよく答えた。

ベルギーではLGBTファミリーはごく普通なのだ。大学病院の不妊相談コーナーには、「同性カップルの方はこちらへ」と書かれている。一方で、パパ2人、ママ2人の家庭で育った子供たちが、それを理由にいじめられるのではないかとの懸念もある。

プライドの総監督・アランに尋ねてみると、「片親だろうが、婚外子だろうが、養子だろうが、移民だろうが、誰もが少数なら、仲間外れにも、いじめの理由にならないよ。ママ2人の両親は変? 日本にだって、パパ不在でママとおばあちゃんだけに育てられた子なんてたくさんいるでしょ?」とかわされた。

「何が『普通』で何が『普通じゃない』かという枠組みを与えるのは大人。社会の大人が、ルールや法律を作って、『こういう人も、ああいう人も皆、仲間』とアピールすれば、それが子供の規範になっていくんだ」

■べルギー前首相もゲイを公表、LGBTは「左利き」と同じ個人の特徴

ベルギーでは、政治家にも、カミングアウトしているLGBTが少なくない。前首相エリオ・ディルポ氏は、社会党党首時代に、ゲイであることを公表した。ブリュッセル首都圏政府の内務長官を務めたブルノー・ドゥ・リル氏(ブリュッセル議会議員、緑の党)は、同性結婚をして養子を迎えている。

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在任中、公式行事でファーストジェントルマンを同伴するかと期待された前ベルギー首相のエリオ・ディルポ氏

ゲント大学医学部教授で婦人科医でもあるペートラ・デゥシュッター氏(ベルギー連邦議会議員、緑の党)は、トランスジェンダーの政治家として知られる。男の子として生まれ育ったが、人生の途中で自分は女性であることを自認し、カミングアウトした。

もちろん、政治家ばかりではない。デザイナーやアーティストなどのクリエイティブな世界では、ゲイでないと肩身が狭いとまで囁かれる。今日のベルギー社会では、身近にLGBTとして普通に生きている人が多く、「左利き」とか「ピアスしてる」のと同じような個人の特徴だから、アランに言わせれば、「もはや隠す人もいなくなったでしょ」という。

■ブリュッセルのプライド「少数派に優しい社会」

そんなブリュッセルっ子にとって、今年の「プライド」には特別の思い入れがある。「少数派に優しい社会」という、ブリュッセルが築き上げてきたプライドを、イスラム過激派組織IS(「イスラム国」)や(ベルギーを)「テロリストの温床」というレッテルを貼ったマスコミに、台無しにされた悔しさを隠しきれないからだ。

毎年恒例のプライド開催地「証券取引所前広場」は今、テロ被害者への追悼の場となっている。当局が高い警戒レベルを続けているなかで、本当に安全に開催できるのかと不安がよぎる。

しかし、ブリュッセル市長は「プライドは、ブリュッセル市にとって、なくてはならないイベント。必ず成功させなければならない」と強く支援を表明した。

■毎年10万人が繰り出す、全員参加型のプライド・パレード

今では、毎年10万人以上が繰り出し、虹色のカラフルな出で立ちで練り歩くプライド・パレード。LGBT当事者ばかりでなく、その家族も友人も子供たちも、観光客も、一般市民も、全員参加型だ。

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毎年10万人を動員する祭典「プライド」

2016年は5月14日(土)、メイン会場をアップタウンに移し、パレードは午後2時にここを出発して、警備の都合でルートを大きく変更して開催する。Webカメラを使って、現地に来られない人たちをネットでつなぐという。アランは「日本からも、参加してね」と呼び掛けた。

■「私たちが求めるのは、全ての少数派を見捨てず、多様性を強みとする社会」

ヨーロッパはどこでもLGBTに優しいというわけでもない。今では、政策分野のほとんどが欧州連合(EU)に委譲され、EU内なら自由に住みたい国を選んで移り住むことができるが、婚姻に関しては加盟国の裁量に任されており、結婚観・家庭観においては、加盟国間の差異は想像以上に大きい。

ベルギーは歴史的にはフランス文化の影響を受け、家族や友人が両国にまたがって住んだり、日常のように行き来したりする人も多い。それでも、2013年、フランスで同性結婚の法案が通過する間際には、デモや議論が繰り広げられ、社会が騒然となったの記憶に新しい。宗教や伝統的価値観の根強い南ヨーロッパや旧ソ連邦諸国などでは、LGBTへの風当たりは強い。

「私たちが求めるのは、LGBTばかりではなく、全ての少数派を見捨てず、インクルード(包摂)し、多様性を強みとする社会。プライドの本質は、お祭り騒ぎじゃなくて、政治行動だからね。私たち少数派は、『ひとりぼっちじゃない』と励ましあえる機会がないと、すぐに勇気が萎えてしまう」

「だからこそ、毎年、この日には、人前に出て主張するんです。『自分らしく生きる自分にプライドを、自分の愛する人にプライドを』って」

こう語るアランは、素敵なボーイフレンドと幸せな家庭を築いている。

(栗田路子)

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ベルギー「プライド」
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