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同性を愛することは「病気」なの? 牧村朝子さんに聞いてみた

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異性を愛することは「標準」で、同性を愛することは「特殊」なのか? そもそも同性愛者/異性愛者という線引はいつどのように生まれたのか。

フランス人女性との結婚を公表し、タレントで文筆家として活躍する牧村朝子さんの新刊『同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル』(星海社新書)は、なぜ同性愛者/異性愛者という区別が生まれたのか、そこから発生した偏見・誤解・差別の変遷を肩の力が抜けた文章で解説した歴史テキストだ。

今なぜ、同性愛者の歴史を俯瞰して眺めようと思ったのか。「同性愛者という言葉が発見されたことは、諸刃の剣だった」と語る牧村さんに話を聞いた。

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■同性愛は「診断」が必要だと思われている

――同性愛診断法をテーマに執筆したきっかけは何だったのでしょう。

私のブログをアクセス解析したところ、「同性愛」「診断」でいらっしゃる方がとても多かったんですね。3年前に2CHOPOというサイトで書いた「世界の同性愛診断法」という記事もいまだによく読まれていて。ということは、同性愛は診断できるもの、診断しなきゃいけないものだと思われているのかなあ、って。

どうして大勢の人がそう考えているのか、その歴史と背景を書いてみたいと思いました。

■学術書が日本に「変態ブーム」を巻き起こす、「同性愛診断法」の歴史

――ギリシャ語の「Homo(同じ)」とラテン語の「Sexus(性)」を組み合わせた「Homosexual(同性愛者)」という造語が誕生したのは1868年。まだ150年も経っていないんですね。

そうなんです。でもこの言葉をつくり出したケルトベニという作家は本当にすごい人で。彼は「同性愛者」という概念が諸刃の剣だということを予見していたんです。「同性愛者であることは生まれつきだから、犯罪として罰するべきじゃない」という立場を取ってしまうと、生まれつきであるという証拠探しも始まってしまうし、「同性愛者」と「異性愛者」は違うカテゴリの人間であるということになるので偏見や対立が生まれてしまう。結局、彼の言葉は当たってしまいましたが。

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――当時は、「同性愛者はお尻でわかる」「ゲイは尿中に生理の血が混じっている」など、荒唐無稽な診断法が大真面目に行われていたことも衝撃でした。

精神科医のクラフト=エビング(1840-1902)が同性愛者のために書いた難解な学術書が、『変態性欲心理』と訳されて日本で「変態ブーム」を巻き起こしちゃったエピソードとかもヤバいですよね(笑)。

それがきっかけで、日本でも同性愛者が「変態」の枠組の中で語られるようになってしまった。だからクラフト=エビングや精神科医のフロイトは、今でもいろんな人から悪者だと思われているんです。「お前らのせいで同性愛者=性的倒錯者だと勘違いされるようになった」って。

私もずっとそう誤解していたんですけど、今回の本のためにいろんな資料を読んで初めて「今まで悪者にしててごめん」って思いましたね。クラフト=エビングが刑法175条(同性愛を「自然に反する淫行」として処罰するドイツ憲法典)に苦しむ同性愛者を助けようとしていたことや、フロイトが同性愛の非犯罪化のため戦い、息子の同性愛に悩む母親に「同性愛は、恥ずべきことでも、悪いことでも、尖ったことでもないのです。同性愛は、病気ではありません」と手紙を送っていたことなど、全然知らないことばかりでした。

この本を読んだ人がすごく嬉しい感想を伝えてくれたんです。「人間は、本当にバカですね」って(笑)。「バカだし、弱いし、いっぱい間違ったことをしてきている。でもめちゃくちゃ一生懸命ですね」って。その言葉がすごく嬉しかったし、胸に迫りました。

■犯罪者、国家の敵。死に追いやられた同性愛者の悲劇

――思わずツッコミたくなる滑稽な診断法が紹介される一方で、大戦下のヨーロッパでは同性愛者が「国家の敵」とみなされ、死に追いやられていた悲劇にも触れています。

その章を書くのは非常に……胃が痛かったですね。強制収容所の死体写真や自殺に追い込まれた同性愛者の遺書、どれくらいの人数が殺害されたのかというグラフも見なきゃいけない。それはやっぱり、つらかったです。

■同性愛者と人間として向き合った心理学者

――本書には同性愛者に対する差別・誤解・偏見と格闘してきた人々が多数登場しますが、最も印象に残っている人物は?

アメリカの心理学者エヴリン・フーカー(1907-1996)さんです。貧しい家庭に生まれ、180cmの高身長というコンプレックスを持ち、「女に学問は不要だ」という抑圧にすごく苦しんできた女性で、彼女自身はおそらく同性愛者ではないんですよ。自分の性的アイデンティティをどうおっしゃっていたかはわからないんですけれど、男性と結婚しているんです。そんな彼女がゲイの教え子のために、一生を賭けて頑張った姿はすごくかっこいいですね。

それまでの同性愛研究は、対象である同性愛者たちを人間扱いしてこなかったんですね。でも彼女はサム・フロムという名前の教え子と人間として向き合いながら、同性愛を研究し続けた。しかもかなり挑戦的な手法で。そこがすごく心に残っています。

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――彼女の研究によって「同性愛者と異性愛者の男性の間に相違はない」という結論が明らかになり、1973年にはアメリカ精神医学会が「同性愛は病気ではない」と公式に認めました。「同性愛者」という言葉が誕生してから105年目の出来事です。

最近もエールフランス航空のゲイの客室乗務員が、「同性愛者を死刑にする国には行きたくない」とイラン行きのフライト勤務を拒否したニュースがありましたよね。同性愛者を死刑に処する国、リンチしている国はいまだにあります。おそらく、日本でも表沙汰にならなくて自殺に追い詰められた人々がいるでしょう。

――まだ人々の理解は、十分に進んでいない。

「同性愛者は社会から排除すべきだ!」って叫んでスッキリしている人たちがいる。一方で、「この差別主義者どもめ!」と叫んでスッキリしている人たちもいる。そんな現状は「どっちが弱者でしょう」合戦をやっているように私の目には見えています。でも、そうやって世界をふたつに分けてしまうのは、とてももったいないこと。それぞれの中にいる、一人ひとりの声や物語に耳を傾けることなしに、人生が終わってしまいますから。自分の得になりません。

叩いてスッキリするなら、心の中で思う存分叩けばいいんですよ。でもその後でちょっと心に余裕ができたら、相手の話に耳を傾けてみる。「この人はLGBTだから」「フォビアだから」という偏見を取り払って、話を聞くことをしてほしいと思う。それが私にとっては今のところ一番、快適な態度です。

》前編:「当事者という言葉は使わない」 LGBTブームの先に、牧村朝子さんが考えること

牧村朝子(まきむら・あさこ)

1987年生まれ。タレント、文筆家。日本で出会ったフランス人女性と婚約後、フランスの法律に則って国際同性結婚。レズビアンであることを公表して各種媒体に出演・執筆を行っている。著書に『百合のリアル』、『同居人の美少女がレズビアンだった件。』(漫画監修)がある。

「同性愛者」という言葉が誕生した背景と、それに翻弄されてきた人々の悲喜劇をユーモアを交えながら綴った新著『同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル』(星海社新書)を上梓。Twitter:@makimuuuuuu

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(取材・文 阿部花恵

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