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日本で里親が増えない本当の理由、NPO法人キーアセットに聞く

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5月27日、虐待や望まない妊娠などの理由で生みの親と暮らせない子どもたちに「家庭と同様の環境で養育されるように国と自治体が対応する」と定めた改正児童福祉法が成立した。2017年4月1日に施行を予定している。

しかし日本では今まで、社会的養護が必要な子どもの8割以上が乳児院や児童養護施設で育てられ、その「施設偏重」ぶりが海外から批判されてきた。はたして改正児童福祉法は、里親増加に向けたカンフル剤になるのか? 里親委託率の高い先進諸国はどんな取り組みをしているのか?

現在4つの自治体から里親支援機関事業を受託している特定非営利活動法人キーアセット代表で、ご自身も養育里親である渡邊守さんに話を聞いた。

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特定非営利活動法人キーアセット公式サイトより

■養育里親委託率が極端に低い日本

——日本は欧米主要国と比較すると、親と暮らせない子どもたちは施設養護の割合が高く、養育里親委託率が極端に低いのが現状です(下図)。比率が高い先進諸国は、やはり里親制度がうまく機能しているのでしょうか。

先進諸国の養育里親制度は、必ずしも成功しているとは言えません。もちろん、海外には素晴らしい活動を続けている民間のフォスターケアエージェンシー(養育里親による家庭養育事業者)もありますから一概に否定はできません。

しかしどの国もさまざまな問題を抱えているので、日本はむしろ、欧米諸国の養育里親制度の過去の課題から学ぶほうが現実的といえるでしょう。これらの国々のすばらしいところは、課題を改善につなげていることなのですから。


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2015年3月「社会的養護の現状について」厚生労働省 ※クリックすると拡大します

■海外では8年間で60回も養育里親が変わった少女も

——たとえばどんな課題でしょうか。

欧米諸国が養育里親制度を促進してきた背景には、子どもの最善の環境のためだと完全に言い切るには難しい歴史的部分もあります。欧米諸国も最初は社会的養護が必要な子どもたちを施設で育てていました。しかし1970年代に養護施設での児童虐待が問題視されて“脱施設化”がはじまったのです。

里親家庭での虐待もあったのですが、多くの養護施設はつぶされてなくなったため、一般的な養育里親家庭では対応できない問題が起きるたびに、委託された子どもはたらい回しにされるようになりました。実際に8年間で60回も委託先が変わる経験をした少女とアイルランドで会ったこともあります。それでも彼女は「私はまだ最悪ではない」と言っていました。

養育里親の質の向上はどの国の子どもにも必要ですが、そのために必要な人とお金を確保することよりも脱施設化が優先されてしまうと、質の向上どころか子どもにとっての選択肢を減らしてしまうことになります。

もちろん、日本の一部の施設のように何十人もの子どもがひとつ屋根の下で生活しなければならない状況が、子どもにとって相応しい選択肢だとは思いませんが。

——養護家庭の数だけ増えても、質がともなわなければ子どもたちを不幸にしてしまうんですね。

ですから、欧米では脱施設化の後の70〜80年代、家庭養護に対する不信感が強まりました。しかし90年代あたりからいくつかの国は、各自治体が民間の団体にお金を払って質の高い養育家庭を提供する取り組みへと変わっていったのです。

その動きは21世紀に入ってからひろがりを見せ、現在も続いています。民間の活動なしに質の高い家庭を提供できている国は、私の知る限りひとつもありません。

■養育里親が多い国の文化や宗教は関係ない

——つまり日本も、行政だけで里親制度を促進しようとすると無理があると。

そうですね。今の日本では、そのようなソーシャルワーク機関を行政だけで確保するのは難しいでしょう。大切なのは行政に信頼される民間機関が増えることです。

私が知っているイギリスの民間機関のフォスターケアエージェンシーでは、行政からの事業費などをもとに養育里親を確保するための広告料だけで億単位のお金を使ったと聞いています。それでも養育里親募集に対する問い合わせから実際に里親登録に至るまでの確率は2〜4%。先進諸国はそこまでして養育里親の確保に努めているのです。

多くの日本人はそういった実情を知らないので、「欧米は日本と文化や宗教が違うから、養育里親がたくさんいるのだろう」といったイメージがひとり歩きしているように思います。

——日本はそもそも欧米諸国ほど里親確保のための努力をしてきませんでした。

自治体でキャンペーンなどをしてはいるのですが、この前もある自治体が一般の方々に調査したところ、ほとんどの方が里親制度のことを知らないという結果がでました。あまりお金をかけずに自治体ができる範囲で「里親やりましょう」と呼びかけても期待する効果は出ません。

■キーアセットの里親支援活動、1年で200件の問い合わせ

——渡邊さんが設立したキーアセットは、自治体の力がおよばない部分を受託しています。

ひとつの事例を紹介しましょう。

大阪府にある人口約40万の市で一年間かけて、里親のリクルーティングから支援まで包括的に行いました。リクルーティングというと聞こえはいいですが、チラシ配布、ポスター貼り、ショッピングモールやスーパーでブースを借りた普及活動、インターネットでのアクセス数を増やすマーケティングなど、企業が新商品を宣伝するのと似たような手法で地道なキャンペーン活動を続けたのです。

その結果、前年度まったく新規の養育里親登録がない地域だったにもかかわらず1年間で200件の問い合わせがあり、現在2家庭が登録となり12家庭が里親登録に向けたアセスメントと研修を受けてくださっています。

この市の場合、広報活動だけで年間数百万円ほど使いました。しかし子どもたちの将来のことを考えると、その程度の金額はむしろ安いくらいです。

というのも、社会的養護を経験した若者はその後、貧困というリスクを一般家庭の数倍も抱えているという現状があるのです。彼らが地域社会の一員となれるよう、誤解を恐れずに言えば、一人の納税者となれるようにする活動の一部だと考えれば、十分効果的な数百万円の使い方だと思っています。

■包括的な養育里親のために大切なこと

——支援はどんな活動に力を入れているのですか。

養育里親に興味を持ってくれた人たちに、きちっと早くレスポンスします。そして養育里親として良い方向に導くためのアセスメントやトレーニングをしていきますが、これはかなり専門性を要するスキルが必要です。

リクルーティングとトレーニング、そして子どもが委託されてからの支援をする団体が同じであることもとても重要です。理由は単純で、それぞれ違う団体が違うアプローチをすれば混乱を招き、ほとんどの方が信頼を失って離れていくからです。

信頼関係の欠如によって、養育里親になった方々が孤立しているケースも多くなっています。そういった事態を避けるためには、キーアセットがやっているように養育里親のリクルーティングから支援まで包括的に担う必要があります。

——民間団体がそこまで徹底した里親支援事業を行うためには、広告費から人件費までかなりまとまった事業費が必要になりますね。

そこが問題なのです。さきほどの市のケースは、大阪府からモデル事業として事業費をいただいています。事業費として残念ながら十分とは言えませんが、キーアセットが法人化して5年経ち、私がずっとやりたかった官民協働による質の高い社会的養護促進がこの事業でようやくスタート地点に立てたのです。これは日本ではまだレアケースですが、「やればできるじゃん!」というのが正直な感想です。

■自治体と協働する民間の里親支援団体が増えれば未来は変わる

——やるべきことをやれば日本でも里親は増えると思いますか。

私はそう思っています。日本で今まで養育里親が増えなかったのは、養育里親になることについてポジティブなイメージを地域社会に浸透させる戦略が徹底されてこなかったからだと思っています。

これまでの日本の養育里親制度は、養育里親家庭に委託した子どもの育ち・育てを任せっきりにするシステムでした。そのため実親でもない個人がひとりの子どもの人生を負うリスクが高すぎて、養育里親になった方でもやりがいより苦労が先にたったり、養育里親になることをためらったりする人もいるのです。

社会的養護のなかにいる子どもは、やはり社会が育てなければいけません。養育里親家庭を継続的にサポートして、委託された子どもの育ち・育てを地域社会で担う仕組みが必要なのです。当然、人もお金も必要になります。それを実践するには自治体だけの力では限界があるので、民間の力が非常に重要になってきます。

キーアセットと同じように、自治体と協働する民間の里親支援団体が増えて、さらに競合するようになってくれば、日本の養育里親問題は大きく改善されていくでしょう。

養育里親家庭が地域社会に広く根差して、実親のもとで暮らせない子どもたちも“温かい家庭”で育まれる風景が当たり前にある国になることを、私は心から願っています。

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渡邊さんは牧師の父と専業主婦の母のもとに生まれ、両親は渡邊さんが18歳のとき養育里親になってたくさんの子どもたちを育ててきた。2006年に渡邊さん自身も妻とともに養育里親になり現在に至っている。

渡邊守(わたなべ・まもる)北海道生まれ。日本福祉大学卒後、約8年間一般企業に勤務。その後、オーストラリアの大学院でソーシャルワークを学び修了。平成18年に里親登録。現在は、家庭養護の質の向上のため里親支援に関わる事業を行う特定非営利活動法人キーアセットを2010年に設立。2012年4月より、東京都立川児童相談所と小平児童相談所、川崎市において里親支援機関事業者として活動。大阪府より受託した里親支援機関事業の一事業「里親相互交流事業」をスタート。2013年4月より、堺市で新規里親リクルート及び里親委託推進活動開始、2015年豊中市で養育里親家庭「はぐくみホーム」による地域子育て支援システム構築事業開始。

(文・樺山美夏)