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「千年先まで残るのはシンプルな感情」漫画家・今日マチ子さんが気づいた、百人一首とSNSの共通点

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百人一首の和歌を一首ずつ、自由に解釈して1ページ漫画にする。漫画家・今日マチ子の『百人一首ノート』は、百人一首の情景を現代に置き換え、セリフなしで描いたこれまでにないサイレント作品だ。

千年前の人の感情の機微を、鮮やかなスケッチ、巧みなストーリーで表現した今日マチ子さんは、「Twitterでバズる」ツイートと百人一首の共通点を見つけたという。「千年先まで残るのはシンプルな感情だと気づいた」と語る、今日マチ子さんに聞いた。

■平安とアウシュビッツと今が交錯する不思議

――5年にわたる長期連載となると、同時進行で手がけていた他作品のモチーフも随所に見受けられますね。

今日:ああ、それはありますね。収容所でこっそり手を取り合う少女たちを描いたページは『アノネ、』(『アンネの日記』のアンネと独裁者ヒトラーを思わせる少年少女の時空を越えた禁忌の恋物語)を描いていたときに手がけたものです。

でも自分の中では自然な流れで、こうなったというか。平安時代とアウシュビッツと今が繋がるみたいな、不思議なページになりましたね。

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めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな 紫式部(57番)

[元歌歌意]久しぶりにめぐりあったのに、見たのが貴方かどうかわからないわずかの間に、さっと姿を隠してしまった。雲間に隠れてしまった夜半の月のように。

■鍛え抜かれた“1ページ筋”

――1ページ漫画を1000枚を目標に描いた(2007年に達成、現在は2000枚以上に)『センネン画報』。当時、鍛えた“1ページ筋”が『百人一首ノート』でさらに鍛え抜かれている印象です。おそらく、今の漫画業界で最も1ページ筋が鍛えられている漫画家では。

今日:あはは、多分そうかもしれませんね。でも百人一首も、きっと私のように短い表現が得意な人たちの集まりだったと思いますよ。

百首の漫画化を気づいたのは、「長く残るものって、意外と単純な感情であったりするんだな」ということ。その時代に特有の流行や何かではなくて、「失恋して寂しい」とか、「秋の風ってなんか切なくなるよね」とか本当にそういう単純なことこそが残っていく。

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春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山 持統天皇(2番)

[元歌歌意]いつのまにか、春が過ぎて、夏が来てしまったようです。夏には真っ白な衣を干すという天の香具山に、あのように白い着物が干されています。

――普遍的な感情こそが百年先、千年先も共感を呼ぶと。

今日:そう。その単純さをうまいことクルッと言えた人が、百人一首に選ばれた歌人なんだなあと思いましたね。

今ってTwitterとかでうまいこというとバズるじゃないですか? 私も1回だけバズっちゃったことがあるんですけど、それ5年以上前のツイートなのにいまだにリツイートで回ってくるんですよ。ほんと恥ずかしい(笑)。でもそれこそが「百人一首化している」ということなのかなって。

――時代を超えて共感を集めてきた和歌と、大勢の人の心をギュッと掴み続けてリツイートされるつぶやきは同じ原理だと。面白い発見ですね。

今日:あとはセレクトした選者、今でいうところの編集者が優れていたということに尽きると思うんです。当時の流行っぽい事柄を入れることも可能だったはずなのに、千年後でも読める歌だけを残した、その力量がすごい。

当時のイケてたテクノロジー、たとえば「iPad Pro出たよ?」みたいなことを書いても、千年後の人はなんのこっちゃじゃないですか(笑)。でも百人一首の歌はすべての歌がその世界で完結している。そこが素晴らしいですよね。

■桜の京都で体感した、千年前と同じうららかさ

――感情以外にも共鳴できるところはありましたか?

今日:春の京都を訪れたときに、千年前の人と繋がった感覚がありました。桜の季節の京都って、すっごいうららかで全員ハッピーみたいな感じなんですよ。あのうららかさを感じて、こんもりした山にぽつぽつ桜が見える風景を見ながら、昔の人も多分これと同じものを見たんだろうなあって。

あとは百人一首ミュージアムで十二単衣を着たんですが、あまりの重さに動けなくて、「こりゃ確かに短歌作るくらいしかやることないだろうな」と考えたり(笑)。

――競技かるたを題材にした漫画『ちはやふる』は映画版もヒットしましたね。漫画というツールを通じて、今の若い世代は親世代よりずっと百人一首に親しんでいる気がします。

今日:『ちはやふる』は、競技としての百人一首なのでスポーツものに近いですよね。あの競技の中で繰り広げられている歌の中身はこっちだよ、ということであわせて読んでもらっててもいいかもしれません。『百人一首ノート』に関しては、万人が読めるようにという点は強く心がけたところなので。

――確かに、老若男女、誰が読んでも必ず共感できる一首、お気に入りの1ページが見つかる作品に仕上がっていると思います。

今日:この世代にしかわからない、というような表現は入れないようにしました。あとは、CM的な尺もわりと意識していたかもしれません。わかりやすくて、誰にでも伝わるあの感じ。パッと見て、泣かせる、みたいな。家庭に置いておけば、家族の全員が読めるような作品を目指しました。

》前編:言葉を使わずにリズムを刻む。漫画家・今日マチ子さんは、なぜ百人一首を1ページ漫画にしたのか

今日マチ子(きょう・まちこ)

漫画家。1000枚を目標に描き始めた1ページ漫画ブログ「今日マチ子のセンネン画報」で注目を集める。著書に『センネン画報』『みかこさん』『cocoon』『アノネ、』『みつあみの神様』『いちご戦争』『ぱらいそ』など多数。2014年、手塚治虫文化賞新生賞、2015年、日本漫画家協会賞カーツーン部門大賞を受賞。Twitter: @machikomemo

(取材・文 阿部花恵