西島秀俊、俳優業への想いを語る「いま自分には何が必要なのか」

共演した若手俳優について思うこと、40代半ばを迎えた今の俳優業への想いも語ってくれた。
BERLIN, GERMANY - FEBRUARY 15: Actor Hidetoshi Nishijima is photographed for Self Assignment on February 15, 2016 in Berlin, Germany. (Photo by Nicolas Guerin/Getty Images)
BERLIN, GERMANY - FEBRUARY 15: Actor Hidetoshi Nishijima is photographed for Self Assignment on February 15, 2016 in Berlin, Germany. (Photo by Nicolas Guerin/Getty Images)
Nicolas Guerin via Getty Images

西島秀俊が考える50代の俳優業「40代半ばを過ぎてどう大人になっていくか」

『MOZU』や『女が眠る時』などドラマから映画まで、作品規模やジャンルを問わず精力的に多様な作品に出演し続けている西島秀俊。最新主演作『クリーピー 偽りの隣人』では名匠・黒沢清監督と4度目のタッグを組み、犯罪心理学者として事件を追う主人公・高倉を熱演している。黒沢組だからこそ感じたことがるという撮影現場、共演した若手俳優について思うこと、40代半ばを迎えた今の俳優業への想いも語ってくれた。

◆芝居は楽しい作業だけどキリがないところもある

――黒沢清監督の作品に出演するのは4度目になりますが、『クリーピー 偽りの隣人』では意識的にチャレンジしたことはありましたか?

【西島秀俊】 サイコスリラーというジャンルにはずっと挑戦したかったですし、元刑事でサイコパスを追いかける役にも興味がありました。今までやってきたようなアクションで犯人を捕まえていくのとはまったく違うので、そういう意味では新しい挑戦ができたと思います。

――高倉のように仕事にのめり込んでいって周りが見えなくなることはよくあると思うのですが、ご自身で思い当たることはありますか?

【西島秀俊】 役者にはそういう人が多いのではないでしょうか(笑)。架空の人物になりきろうとするのは楽しい作業ですし、キリがないところもあるので。役にのめり込むことによって、それ以外のことから気持ちが外れていってしまうことはあると思います。

――ひとつのシーンのなかで光の加減がどんどん変わっていくなど、黒沢作品には独特の映像美があります。西島さんが思う黒沢作品の魅力はどんなところですか?

【西島秀俊】 どの作品でも、映画というのは空気や雰囲気を切り取って映し出そうと努力していると思います。でもそれは難しくて、例えば“不気味な場所だった”と文章にすれば簡単ですが、不気味に映すのはすごく大変なことです。ただ不気味な場所を撮ったとしてもそういうふうには映らないわけで。それを黒沢組は、それぞれのパートのスタッフさんが絶妙なタイミングですべてを緻密にやっている。そういったことが、何かが起こる予感だったり不穏な空気に反映されていくのだと思います。それこそが黒沢作品の魅力ではないでしょうか。

――先日ベルリン国際映画祭に行かれていましたが、黒沢監督の作品は海外でも非常に人気がありますよね。

【西島秀俊】 黒沢作品が海外で評価されているのは、世界の今というものを作品で描いているからだと思います。ベルリン国際映画祭の今作のQ&Aで、「これはいま日本で起きていることなんですか?」という質問に対して「これはおそらく世界中で起きていること。人類が生まれて文明が発祥して、そして今、ついに家族という最小単位のつながりすら壊れかけている。でもこれは必然なのでは」と監督がおっしゃっていました。そういったことが、海外の方にも共感していただけるんだと思います。

◆新しいタイプの演技をしている20~30代の俳優たち

――今作では東出昌大さん、そして『MOZU』では池松壮亮さんなど実力派と呼ばれる若手俳優の方々と共演されていますが、彼らと今後の日本映画についてお話をすることもありますか?

【西島秀俊】 そういった話をする機会はあまりありませんが、今の20~30代の役者さんたちには情熱を持った方が多いと感じています。ただ有名になりたい、作品に出たいというのではなく、映画が好きで本当に演技がやりたいという人たちばかりなので、そういう人たちとご一緒するのはすごく楽しいです。新しいタイプの演技をみなさんされていると思います。

――新しいタイプの演技というのは?

【西島秀俊】 僕の若い頃は画面に映る自分を観る機会がほぼ無かったのですが、今の若い人たちは小さい頃から当たり前のように観られる環境があったと思うんです。自分がどうしゃべっていて、どんなふうに動いてるか、それがどう映っているかということがよくわかっています。だからカメラの前にいることにもあまり違和感を感じないのではないかと。そういうこともあって、お芝居そのものも上手ですし、見せ方にも長けていると思います。

――西島さんご自身の役者としての今後の課題はありますか?

【西島秀俊】 どう大人になっていくかということです。45歳にもなって何を言っているんだと思われるかもしれませんが、僕が30代のときの40代はもっと大人に感じていました。今後作品のなかで40代、50代の役を演じていくにあたって、いま自分には何が必要なのかということを常々考えて模索しています。

――外国作品にも出演されていますが、作品選びで大事にしていることは?

【西島秀俊】 海外の監督作品も、日本の監督作品とプロセスは同じです。基本的には、オファーをいただいたら脚本を読んで、監督とお会いして気持ちがつながってからご一緒させていただきます。ただ、ここ20年ほどは僕ひとりの意思ではなく、スタッフと一緒に出演作を決めていて、僕は一度もオファーに対して「ノー」と言ったことはありません。もちろん物理的なスケジュールの問題や、いろいろなタイミングはありますので、すべてを受けられるわけではありませんが。僕自身はいつもこれまでに演じたことのないような役に挑戦したいと思っています。

――黒沢作品の『LOFT』で西島さんが演じていらっしゃった役も今だからこそ観たいと思うのですが……(笑)。

【西島秀俊】 本当ですか! ありがとうございます。じゃあ、いつかまた猟奇的な役も(笑)。

(文:奥村百恵)

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