狭い水槽に人間の目...ボルチモアの水族館は決意した。イルカのために。

「私たちは大きな次のステップに進もうとしています」

ボルチモア国立水族館は6月14日、アメリカで初めてとなるイルカ海洋保護区をつくり、2020年までに飼育しているイルカを保護区に移すと発表した。

イルカの「海洋保護区」をつくることで、動物の福祉に向けて大きな一歩を踏み出そうとしている。水族館は8頭のバンドウイルカをこの保護区に移し、保護する予定だ。

AP通信によると、ボルチモア国立水族館は2012年にイルカショーを終了したが、まだイルカたちは水槽の中で人間の目に晒されている。

2008年のイルカのチェサピークとその子供ベイリー。この2頭のイルカは、数年後に海洋保護区に返される8頭のイルカのうちの2頭だ

水族館のCEOジョン・ラカネリ氏はボルチモア・サン紙に掲載した論説で、この海洋保護区は周囲が天然の海水で囲まれ、イルカが暮らす自然の生態に限りなく近いものになっていると説明している。この保護区はイルカたちが現在暮らす水族館と比べ、「ずっと広々とした」空間で過ごせるよう、熱帯につくられる予定だ。またこの保護区で、イルカたちは自然の魚や植物と触れ合う機会も与えられるとのことだ。

海洋保護区のイメージイラスト

水族館の水槽になれた動物にとって自然の環境は危険が多いと、このようなタイプの施設の設置に反対の声もあった。しかし、海洋生物学者のナオミ・ローズ氏によると、そのような議論は「全くもって不合理」だという。

ラカネリ氏も、水族館の環境に慣れたイルカを新しい自然の中に返すのは、ある程度の困難を伴うことは承知している。しかし、このイルカたちは完全に自立して生活していくわけではない。搬送には専門のスタッフが力を貸し、イルカたちは今後もずっと獣医師のケアを受けることができる。

今のところ、海洋保護区の場所は決定していないが、フロリダやカリブ海などが候補として検討されている。また水族館は、このプロジェクトにどれだけの費用がかかるかについてもまだ言及していない。

このような施設はこれまでに例がなかったが、クジラやイルカの保護活動を行う団体は、近年中にこれらの施設ができる可能性について議論してきた。

国立博物館でブイを運ぶイルカ

「これまでに前例のない施設だというのは、我々も十分承知しています」とラカネル氏はAP通信に話した。「ここでのパイオニアは私たちであり、この方法が最も簡単でも、コストのかからない方法でもないということは分かっています」

ラカネリ氏は、イルカ用に新しいプールを建設したりイルカを他の施設に移すなどの計画も考えていたが、イルカが幸せに暮らすには保護区が最も良い選択肢だと決断した、と書いている。

保護区に移されるイルカの年齢は7歳から44歳まで様々だ。このうちの7頭はこの国立水族館で生まれたが、もう1頭は野生のイルカとして暮らしていたところを、1972年にテキサス・マリンパークに捕えられ、その後このボルチモア国立水族館に移送されたものだ。現在この水族館ではイルカの繁殖は行っておらず、今後保護区でも繁殖を行う予定はないという。

今回のボルチモア国立水族館の決断は、捕えられたクジラやイルカの福祉に対する社会の関心が高まる中での発表だった。動物保護団体は、これらの群れの中で社会性を築き、1日に何百マイルも泳ぐ知能の高い動物が、水槽や人間がつくった狭い空間の中に閉じ込められることがあってはならない、と長い間議論してきた

ラカネル氏もこの意見には賛成のようだ。

「今回発表したように、私たちは大きな次のステップに進もうとしています。光栄にも、私たちのボルチモア国立水族館は先頭に立って牽引する立場にあります」とラカネル氏はザ・サン紙の中で話している。「今回の決定はごく1部のイルカだけに限ったものですが、私たち人類が、共に大切な地球を分かち合う動物に対してどのように接するかにとっても重要な決定なのです」

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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