「ちゃんと順序立ててやれば、世の中の矛盾はなくなる」 Zeebraが語る社会の変えかた

「法律なんて変わるわけないじゃん」ってほとんどの人が言ってたと思うんです。でもわれわれは、とにかく疑わずにやってきて、「あ、変わったわ」みたいな。

2016年6月23日、改正風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律)が施行され、深夜のクラブ営業が条件付きで合法となった。

前編に続いて、この法改正に大きな役割を果たした「クラブとクラブカルチャーを守る会(CCCC)」の会長でラッパー・DJのZeebraさんに、活動を成功させた方法論と活動の中で起きた変化、そして風営法改正後の展望について聞く。

■活動の認知度向上に大きかった、TVとSNS

――風営法を改正する活動の認知度を上げるために、意識されたことはありますか。

一番大きかったのは、テレビかなと思います。「ビートたけしのTVタックル」に出させていただいて、われわれの活動の話もたくさんさせてもらって。一番反響が大きかったんじゃないかなと思います。

あとはFacebook。いま、SNSじゃないですか。自分は一般の方や知人でない方は(Facebook上での友人申請を)受け付けていなくて、投稿が表示されるのは友達や関係者ばっかりなんですが、みてると周りのみんなもそうなんですよ。われわれがバンバン書き込みをしてるんで、いろんなジャンルのDJの人たちがそういう話をしてると、どんどん「いまそういうことになってんだな」と盛り上がってくるというか。

それで、活動が全国的にも広がっていって。大阪にもわれわれメンバー何人かで行って、「事業者とアーティストが一丸となって、様々なエリアで盛り上げていかないと、いい方向に話が進んでいかない」という話をしました。向こうのDJの方々に集まっていただいて、みなさんと意見を交換して。

そうしたら大阪にも、アーティストの会ができました。で、大阪は大阪で、その会でパネルディスカッションをするようなイベントをやったり、われわれをそこに招いてくれたりとかして。そして、同じような会が福岡にもできて。いろいろなエリアに、そういうものができるようになっていきました。

――テレビ出演は、戦略的にされた部分はあったんですか。

モロですね。われわれができることは表に立ってしゃべること、こちらに注目してもらうようにすること。それの最たるところが民放テレビ番組だったなと思うんで、はじめからかなり意識して。いまでも、出られるメディアに関してはできるだけ対応するように、という感じですね。

海外メディアの取材を受けるZeebraさん。撮影:日浦一郎

■1人の人間として、活動に向き合う

――メディア活動だけでなく、草の根的な活動を同時に行われてきたと思うのですが、どんな理由がありましたか。

われわれ自体が、完全にボランティアで、手弁当の会なわけですよ。最近やっと資金集めを手伝っていただけるところが出てきたり、スポンサーさんも手を上げてくださったりということになってきていますが、この3年間ぐらい、みんな手弁当で、地方に行くにしても自腹切って行っていた。

基本的には、資金を使って好き放題をするのではなくて、1人の人として活動する。クラブの隣にある八百屋さん、クラブの裏に住んでる学校の先生とかと同じように、僕はDJだったりアーティストだったり、そういう仕事なだけですし。1人の人間として参加することに意味があるんじゃないかなっていうのは、早い段階からみんなの意識としてありました。

そもそも、集まっている人たちは、何か大きな資本に動かされるような連中ではないので。だから余計に、派手なことをそぎ落として始めたことがよかったんじゃないかなという気もしますね。はじめから大きなものがあって、そこに甘えてやっていたら、たぶん成功しなかったんじゃないかな、っていう。

――それは会に参加されている方々の姿勢と関係があったんでしょうか。

そうですね。うちの会にいらっしゃる諸先輩方は、皆さんリーダーで、本当に自分たちでカルチャーをつくってきた人たちなんで、その「つくってきた」ことに対する責任感がものすごくあるんですよね。

僕も20代ぐらいの頃からクラブだったり、ヒップホップだったりに対する責任感を持ってたつもりですけれども、まぁもう20年、25年、30年とやらせていただいていると、やはりこれがなかったら自分のいまはなにもないわけだし、それだけお世話になったものに対して、なにか恩返しができることはないかなという意識もものすごく強いと思います。

■効率の悪い、でもものすごく民主的なやりかた

――会のメンバーそれぞれに、社会的な活動における方法論のようなものがありましたか。あるいは、活動において参考にされた他の活動や海外の動きなどはありましたか。

みんなネットワークは広いんで、たとえば「ベルリンではこんなことが起きてるよ」とかっていう話はみんな持ってくるんですけれども、基本は「みんなで話し合う」という、ものすごく…言い方を悪く言うと効率が悪い、でもものすごく民主的というか、すごく慎重に1つ1つ進めてきたなという気がしますね。

クラブって、ジャンルも様々あって、みんなのコンセンサスを1つにするっていうのが基本的には不可能なんですよ。

今回、風営法を改正しようということになったら、われわれも主張するぶん、どこかで譲歩しなきゃいけない部分もあると思うんですが、それを誰が決めていいのか、っていうことになるわけじゃないですか。われわれが立ち上がったからって、勝手に決めていいわけでもないし。会の中で、それ以外の人たちも文句がないような答えってなんだろうというのを、とにかく話し合って話し合って、つくってきたっていう感じです。

もう本当に、面白いぐらい「極右」「極左」みたいな人たちがいるわけですよ、グループの中に(笑)。だから、ちょっとした小さな業界みたいになっていて、クラブ業界の縮図がCCCCの中にある、みたいなところがあるんで。その中である程度コンセンサスが取れれば、たぶん会の外側にいる方にも理解してもらえるんじゃないか、という意識でした。

CCCC定例会の様子。撮影:日浦一郎

■いいことして、みんなに喜ばれて、法律まで変わっちゃう

――社会にメッセージを伝える、という活動を本格的に始める前と後で考えが変わった部分はありましたか。

いや、ないですね。こういうことになるべきだと思ってたし。

たとえばU2のボノは、ずーっとやっているじゃないですか、社会的なメッセージを伝えることを。そういうアーティストが日本にもいっぱいいるべきだし。

最近は日本も様々な窮地に立たされたことで、いろいろな言論だったり表現だったりが結構出てきてると思います。アーティストがいろんなことに対して、声を大にして主張することが普通になってきている。このままそういう形がどんどん広がっていったらいいなと。

われわれは多分いちばん、市民一般の人たちに近いところにいる、何かが言える存在だということを常に意識して。常に、ピープル側にいるわれわれっていう形でやれることが、一番いいんじゃないかなと思うんで。

――Zeebraさんの周囲にいるアーティストや事業者の方に、今回の活動で変化はありましたか。

まず、なかなかゴミなんか拾わないじゃないですか(笑)。人が捨てたゴミなんかを拾うような人たちじゃなかったと思うんですよね。ただ、それは結局、ゴミを拾いたくて拾ってるとかいうことではなくて、自分たちの気持ちを、ゴミを拾うことで表現しているっていうことなんで。表現したいと思わせられるぐらいにまでなったのかなという気はしますよね。

やってるほうは気持ちいいんですよ。だっていいことしてるんだから。気持ちいいし、みんなに喜ばれるし、一石二鳥あるいは一石三鳥っていう感じじゃないですかね。それで法律まで変わっちゃうんだから。

だからみんな、そういうポジティブな気持ちをもって、時間に余裕がある人たちはなにかポジティブな活動をすれば、絶対それは世の中にポジティブな力をつくっていくと思うんで。みんながそうなったら、すごくいい世の中になりますよね。

CCCCメンバーと、清掃活動の参加者。撮影:日浦一郎

■人として当たり前の意識を持つこと

――活動の中で、テーマに関心がない人、考えがない人へのアプローチについてなにか工夫はされましたか。

あまりそこは意識することではないのかな、という気もしているんですよ。

たとえばマナーの問題は、はっきりいって、マナーを破っている人たちっていうのはほんの一握りの人たちで。クラブが1軒あったら、200人・300人から1000人のお客さんがいるわけじゃないですか。それが何十軒もある中で、毎晩どこかしらで揉め事が起きているかっていったら起きていないわけで。たまたま何ヶ月に1回か事件がありました、っていうのは、全ユーザーから言えば何千分・何万分・何十万分の1ぐらいの確率の話なんです。

だから、その人達を変えようっていうよりも、わかっている人たちがもうひとつ背筋を伸ばすというか、意識を変えて。

「もし家が、揉め事が起きた場所の裏にあったら、結構迷惑だよね」というような意識。普通にあるじゃないですか、僕も「昼間は家でちょっと音大きくするけど、夜は隣の人に迷惑だから小さくしよう」とか。日曜の朝8時からとなりがうるさいと「この野郎」って思うじゃないですか。そういう「確かにね」という共感を持つこと。

それは当たり前のことで、クラブもそういう風になり得るよ、と。せっかくクラブに防音設備が整っていても、クラブの外でたむろして騒いでいたら、近所の迷惑になるし。そういう当たり前の、人としての視点をもう一度みんなに投げかける。それに反応する人たちがほとんどなんで。それがまた、いい空気を作っていくんだと思うんですよね。

だから、一人ひとりの行動に対して、「お前それは違うよ」なんて否定していたらキリがないと思うし。そういうことよりも、否定ではなくて肯定というか、ポジティブなエネルギーを。と、いうことなんじゃないですかね。

――クラブカルチャーに関心ある人/ない人、という部分でのアプローチの違いはありましたか。

たとえば風営法の改正に関してだと、まずはクラブに興味が無い人は「どんな話なの?」っていうところからスタートして、説明をすると「え、なんでいけないの?」ってみんななるわけですよ。そこは単純明快だったんであまり難しくはなかったんですけれど。

クラブやクラブカルチャーを知らない人の中には、外側から見たときのイメージの悪さだけを意識している人たちっていうのが、いっぱいいたと思うんで。

なんかね、インターネットで、漫画みたいな面白いのが出回ってて。クラブに行ったことがない人が「クラブっていうのはこんなトコだと思う」っていうのを漫画で描いているのがあるんですけど。もう凄いんですよ、酒池肉林というか、クラブを知っている側からすると「なんだそりゃ」みたいな。ただもう、それだけ妄想が広がっている、そういうイメージで思われちゃっているんだなっていうのは、正していかなければならないところだな、と。

クラブって、側面が2つあると思うんです。1つは「大音量で音楽を楽しむ場所、踊る場所」。もう1つは「社交場」。

後者に関して言えば、知り合い同士が交流したり、新しく知り合ったり。われわれの仕事なんかほぼそこでできてると思うんですけれども。その中にはたとえば、軽い話で言ったらナンパとかもあるかもしれないし、そこから恋愛に発展して。僕も自分の奥さんには、クラブで出会いましたし。そういう側面もあると思うんですね。

そんな風に、クラブの持ってる可能性っていうのはもっともっと大きいんで、その辺はみんなに話せば話すほど理解してもらえるもんだな、という気はします。

CCCCが主催したクラブイベント。撮影:日浦一郎

■「ちゃんとやったら、聞いてくれる」

――「政治」に対する捉え方は変わりましたか?

いや、「大体こんなことなんだろうな」と思っていたとおりだったですね。別に特別びっくりしたということもないですし。

一つあるとすれば、「ちゃんとやったら聞いてくれる」っていうところ。そこは本当に、違ったかな。

活動を始めるときに「法律なんて変わるわけないじゃん」ってほとんどの人が言ってたと思うんです。でもそれが「いやだけど、こんなわけのわかんない法律なんだから、変えようと思ったら変えられるはずなんだよね」ってわれわれがとにかく思い込んで、とにかくそれを疑わずにやってきたってことで実際変わって。で、「あ、変わったわ」みたいな。

そういう意味ではすごく希望が持てた。社会とか日本、国とか。いろんなことに対して。

たとえば、選挙における投票の問題。なかなか若年層が投票しないといわれているじゃないですか。実際、議員の先生方が開くパーティーに何度か行かせていただいたんですけれども、ほんとに高齢の方だらけなんですよね。そうなるとやはり、高齢の方々に向けた世の中のシステムになっていってしまうし。

若い人たちが、ちゃんと順序立てて話をしていくこと。これからどんどん若い世代が主役になってくるわけじゃないですか。高齢の方々は皆さん大人ですから、そういう話の順序のような部分をとてもしっかりなさっているけれど、若い人たちも同じように考えて進歩的な意識でやっていけば、どんどん世の中の矛盾がなくなっていくんじゃないかな、という気もしますし。

なかなか変わらないこともいっぱいありますよ。だけど、変えられることは変えられるっていうのはこれで1個証明ができた気がするんで、「これおかしいよな」とか、「これって、こうあるべきだよな」「これ、誰得?」みたいな、そういうのは本当に意識して、どんどん声を上げていくべきだなって思いますね。

「ダンス文化推進議員連盟」の総会に参加するCCCCメンバー。撮影:日浦一郎

■声を上げるハードルが、もうすこし低くなれば

――改正風営法が施行されたあとの課題はなんだとお考えですか。

われわれがずっと話しているのは、たとえば風営法が改正されても、その後にすぐ何かがあったら「ほれみたことか」となって、下手をすればさらに規制が厳しくなってしまうんじゃないかというのは、すごく危惧していることで。

だからこそ、いま「勝って兜の緒を締める」じゃないですけれども、ここでもう一回きちんと、マナーとか、われわれが責任を持てる部分を意識したいと思っています。業界関係者も遊びに来る人たちも、みんな一度そこに立ち戻ってもらって、そしてこの自由で合法な深夜のクラブを楽しんでもらえたら最高なんじゃないかなと。ちょっと掃除の数を増やすかな(笑)。

あとは僕、掃除とかを喜んでいただいて、渋谷区観光大使ナイトアンバサダーにならせていただいて。渋谷区はちょうど、長谷部区長も僕と同い年で、また彼はすごく進歩的な方でもあるので、協力していきたい。われわれの草の根的な、一歩一歩やっていくことももちろん大切にしながらも、いままでできなかったようなことを実現させていきたいと思っています。

さらにクラブだけじゃなくて、活発なナイトエコノミー(夜の経済)を、渋谷から、東京から、日本中全部に行き渡るように、よい見本になれたらいいなと思っているんで。とにかく面白いことばっか考えたいですね。

――目指されている、国や世界の未来の姿はお持ちですか。

世の中は変わるものですよね。すべて変わっていくもの。言葉だって変わっていったりするし、世の中における「あり/なし」もだんだん変わっていったりするし。だから、常にその状況に対処できる、開かれた国になればいいなと思います。

今回のわれわれの活動も、ちょっと奇跡なところもあると思うんですよ。

たとえば東京オリンピックが決まらなかったら、これは決まらなかったんじゃないかなと思います。なぜかというと、東京オリンピックが決まったことによって、インバウンド消費がものすごく見込める。じゃあ、そのタイミングに来た外国人の観光客の方々が、深夜違法なクラブで遊ぶわけにはいかないと。

ほかの国々に行っても、ナイトエコノミー、ナイトエンターテインメントっていうのは活性化していて。では、ナイトクラブに遊びに行くのが当たり前だと思っている外国人の方々は、どこに行けばいいんだっていうことになるじゃないですか。今回、そういう問題意識が後押しになったのは、ものすごく大きいですし。

そういう意味では、もうちょっと1歩目、2歩目というか、声を上げるときのハードルが低くなるといいですよね。まだハードルが高いと思うんで。もうちょっとその辺が「バリアフリー」になっていくといいのかなという気がします。

2016年4月、オランダ・アムステルダムで行われた「ナイトメイヤーサミット2016」でプレゼンテーションを行うZeebraさん。撮影:日浦一郎

■われわれの世代が、新しい「構図づくり」を

――そのためにZeebraさんは、どういう活動をされようと思っていますか。

どうしたらいいですかね… われわれはこんな風に、真面目なことを真面目そうな口調で話したりもしてますけど、そもそもはやっぱりfunを与える側なんで。楽しいことを提供するのがわれわれの職業なので、そういうことを中心に置きながら。ただ、楽しいことを大きくしていけばしていくほど、問題になる部分も放っておけば大きくなってしまうので、そこにも対処しながら。

昔から言っているんですが、凧がいくら上がっていっても、糸が切れちゃったら意味が無いなと思う。できるだけ地に足をつけながら、雲の上に顔を出せるような、大男になりたいと思っているんで。そういう感じで活動できたらいいなと思っています。

一方で、僕はアメリカに行ってみて、アーティストが発言することとかにすごく影響を受けたけれども、日本はそうじゃない。政治への関心があまりにも低いわけですよね。

それは、大統領選みたいなのがないじゃないですか。国民の投票が、総理大臣の決定に直結しない。そうなってくると、「まあ、とりあえずうちのエリアはこの人にした」という感覚はあるかもしれないですが、結局その先にある最後の部分はブラックボックスで決まっちゃうんだろうなっていう、ちょっと諦めてる部分があると思うんですよね。

アメリカなんかはメディアで一騎打ちとかバンバンやるわけじゃないですか。日本もそうしろとはなかなか簡単にはいかないと思いますけど、ああいう、わかりやすい構図をつくっていけば、本当はもう少し関心も起きるだろうなとは思うんです。関心を伸ばしてほしくない人たちもいるかもしれないし、難しいですけどね。

ただ、われわれ世代がそういった構図づくりを、先頭を切ってどんどんやっていけたら、変わっていくんじゃないかなと思うんで。それができれば。

あ、もう1個、見つけているんですよ。

――次のテーマが。

また別なことで、これは法律的におかしいなと思うこと、1個みつけちゃって。それはそれで、風営法が落ち着いたら、なにかやってみようかなと思っています。

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