「親が知ったかぶり、しなくていい」YouthCreate・原田謙介さんと語る、若者と選挙【都知事選】 #YoungVoice

本当に18歳選挙権をいろんな人たちが、いろんな立場で言い続けてきた1年間だった。

7月10日に投開票された参院選は、選挙権が18歳に引き下げられてから初の国政選挙になった。参院選(選挙区)における18歳の投票率は50.17%、19歳は39.66%で、18歳と19歳を合わせた投票率は45.45%だった。31日には都知事選の投開票も続く。

長年、若者は政治に関心がないといわれてきたが、私たちはこの結果をどう見るべきなのか。政治的中立性をめぐり、今の教育現場はどうあるべきか。「歴史的なタイミングだった」と振り返るNPO法人「YouthCreate」代表の原田謙介さんに、ハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長が聞いた。

■18歳の投票率、50%超え「家族で投票に行った」の声も

——まず7月10日に投開票された参院選の振り返りから。18歳の投票率が51.17%でした。19歳は40%を切りましたが、どう総括されますか?

予想より18歳の投票率が高くて、40%、45%にいけば良い方と思ってたんで、そこは18歳をなめてました(笑)。すごくポジティブだし、うれしい数値になりましたね。

——実際に投票に行った人からは、どんな感想が?

18歳からすると、初めての18歳選挙権という歴史的なタイミングだったことが大きいのかなと。「せっかくそのタイミングで自分が18歳なんだから行かなきゃいけないと思って行った」という声もありましたね。あとは「学校で教育を受けたから行った」という人もいました。

今回は「家族で投票に行った」という話をよく聞きました。やっぱり18歳選挙権が始まったことで、18歳の親世代の40代、50代の方の投票率も上がってると思うんです。

——実際、今の40代が20代の頃の投票率は低いですから、子供が選挙について話しかけてきたりしたのは、いい刺激になったんじゃないかと。

2014年の衆院選では、40代前半までの投票率は50%を切っていましたし、僕自身も、高校生の親世代が50%くらいの投票率しかないことに危機意識を持っていました。だから今までよりは、家庭で選挙や政治の話が活発されたんじゃないかなと思ってます。

子供が「投票に行く」と意思表示をしたり、「お父さんお母さん、投票に行ってる?」と聞かれたりするのは、親世代からすると驚きだったんじゃないですか。「えっ、お前がそういう話するの?」って。

——いまの40代、50代がどう政治に向き合っているのか、18歳も見ていると思います。親世代も変わらなきゃいけないですよね。

18歳、19歳から見て、上の世代「投票行ってねえじゃん」「俺らのほうが高えじゃん」みたいな。そういう驚きもあるみたいですね(笑)。

■18歳選挙権「自分たちの世代が注目されているんだ」

——18歳の投票率が50%を超えたのは、どういう背景があったと思いますか。

この1年間本当に18歳選挙権をいろんな人たちが、いろんな立場で言い続けてきた1年だったかなと。当然、行政は行政の立場で言うし、各政党もメディアもそれぞれの文脈で伝えるし、僕らや学校現場も着目しました。それが18歳に届いたんだと思いますね。自分たちの世代がすごく注目されているんだと。

なかでも大きいのは教育が変わった部分です。結局18歳と19歳の投票率が違う理由にはいろんな要素がありますが、要素のひとつに昨年(2015年)度に高校生だったかどうかに違いがあると思っています。

今年度20歳になる人、つまり現19歳のうちの4分の3は、学校で18歳選挙に関する教育を受けてないんですよ。要は僕が受けたのと全く同じ教育を受けている。でも昨年度に高3だった人は、なんだかんだ主権者教育の授業を受けているんです。学校の先生も言っただろうし、どこまで読んでいるかわかんないですけど、僕も執筆に関わった文科省が作成した本も配られています。

■「中立性でなければいけない」教育現場の戸惑い

——今の教育現場には「中立でなければいけない」とか戸惑いもあると思いますが、これからの教育のありかたについて、どう思いますか。

僕は本来「教師が中立なんてあり得ない」という立場で、他のヨーロッパの国みたいに、先生が自分の意見を言ってもいい、というふうにならなきゃおかしいと思うんです。

当然、意見の押し付けはいけないですし、他の意見も一緒に見せるのと合わせて紹介するとか、あるいは先生が「これ正しい、こうだよ」と言っても「それは違う」と批判的に見られる子供を育てていくことをやっていかなきゃいけない。相当時間がかかりそうですが、今でもやれることはいっぱいあるはずです。

憲法や安保のことを扱っている学校はいくらでもありますし、それについて変な教育だと言われているわけでもない。例えば、政治家を学校に呼んでみたり、僕らみたいなNPOや地域の人たちと授業をしたり、全国的に「中立を保ちつつも、こんな教育があります」という事例が広がっていけば、それが当たり前になっていく流れになると思います。

ただ同時に、やっぱり気になるのは、なぜか参院選前に自民党が出したアンケートで……

——党のサイト上で、政治的中立性を逸脱する教諭の事例を把握する実態調査をしていましたね。「密告の呼びかけ」と批判の声もありました。

自民党「学校教育における政治的中立性についての実態調査」

やっぱり、あの内容を書かせることにはすごく違和感があります。中立というのは本当はないもので……なんだろう、やっぱり事例ですよね。「これはOK」という事例を可能な限り作っていって、「この事例は特に何も言われていないからOK」というのを、いっぱい作っていくしかないですね。

逆に言えば、政府や各政党が、「これは中立です」と言うこと自体もダメですよね。(アンケートで)「子供たちを戦場に送るな」を中立性の逸脱の事例として挙げるのも変な話だとは思います。

■「知ったかぶりをしなくていい」親が家庭できること

——家庭では、どんなことができるでしょうか?

何か情報が、例えば18歳とか17歳が目につくところに新聞があるかないか。夜の10時とか11時の時間帯にテレビのニュースがついているかどうかも影響あると思います。無理やり新聞読め、ニュース見ろというのとは違うと思うんですけど、そういう環境があるかどうかは大きいですね。

親が何かの話題を振ることもできますよね。新聞1面のニュースというよりも、部活をやっている高校生であればスポーツの話題を振るとか。例えば今だと、ロシアのドーピングの話があって、国際オリンピック委員会には政治が関わっているわけだし。日本でいえばスポーツ庁やまさに東京オリンピック・パラリンピックの話ができます。お子さんの関心があることと政治を結び付けた話題をちょっと出してあげるだけでも違うと思います。

——子供にとって身近な話題なら、関心も持ちやすいですね。

親が知ったかぶりをしなくていいと思っています。僕も選挙前によく悩み相談を受けたんですよ。「40代のお父さんだけど、実は全然投票にも行ってなかったし、子供に聞かれてもわかんない。どうすればいいんだ」と(笑)。

僕は「一緒に知っていこう」というスタンスでいいと思います。変に知っている雰囲気を出すとか、自分が分からないから政治の話をしちゃいけない雰囲気を出すとか、そういうのはもったいないからやめましょう、と。

家庭では当然、政治的中立なんて保つ必要は全くないので、積極的にお父さん、お母さんが自分の意見を伝えつつ話をしてほしいですね。「お父さんは、この法案こう思うんだよね」とか、「こういう理由でこの候補者に入れようと思う」みたいな話ができるのが家庭なので、積極的に意見を言ってもらったほうがいいと思いますね。

■政策を読む前に、自分の視点を持とう

——最後に、選挙で18歳と若者たちと交流されたと思いますが、一番よく受けた質問は何でしょうか?

選挙で言うと、どうやって選べばいいかわかんない、というのが一番多かった気がしますね。僕がいつも言うのは、「いきなり候補者の政策とか各政党の公約集読むのはやめよう」ということです。

5分でも10分でも1時間でもいいけど、自分なりに、今の生活やちょっとした将来とか、もうちょっと視野広げて社会全体を見たときに、「こうなったらいいな」「この分野気になる」という視点を持ってから公約を見るんです。子育てでも教育でも、ぼやっとしたものでいいから、自分の視点に近いものを選ぶ見方がいいと言ってますね。

これは僕の事例ですが、スポーツが好きなので絶対に各政党のスポーツ政策を見るわけですよ。スポーツ政策について、触れていても1〜2行なんですけど、触れてあるだけで僕の中ではちょっと株が上がるわけです。

——アドバイスをもとに、自分の視点を持ってから政策を見てみたという若者はいましたか?

岡山大学でそういう授業をやったんですが、大学1年生同士でも全然興味のある分野が違ったんですよ。農業に関心ある人もいるし、エネルギーに関心ある人だっているし、就職に関心ある人もいて、全然視点が変わってくるんですね。

参院選では、エネルギー政策はメディアを含めて議論になっていなかったですけど、それぞれの政策には、原発をどうするか、再生可能エネルギーなのか、書いてある。エネルギーに関心があった人は、そういう視点を持てと言われないで普通に主要政策比較を見ていたら、エネルギー政策は見てなかったんじゃないかという話をしていましたね。

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■取材後記 失敗してもいい、「スイカが好き」と言えばもっと仲良くなれる

原田さんと話していて感じたのは、日本では政治の話題を、特に特定の政治家の好き嫌いを口にするのはとても難しいということだ。私もそうだ。友人や家族との会話でなかなか話題に出しにくい。

政治家を選ぶどころか、毎日の買い物だって、大変なことだ。スーパーでスイカを買うべきか、梨を買うべきか。スイカが美味しそうだけど、中身はネットリと腐っているかもしれないし、「低農薬」という表示も嘘かもしれない。前の日に見たスイカの広告に好きなタレントが出ていたので、「スイカは素晴らしい」と、知らぬ間にメディアに「洗脳」されて私が「偏向」している心配だってある。

人間が完全に合理的な選択をすることはない。よく経済学で議論になるテーマだが、選択という行為は、合理性に価値があるのではなくて、「自分の好み」を可視化できるところが魅力なんだと思う。

例えば今朝、スーパーでスイカを買ったとする。それは、正しい決断ではなかったかもしれない。騙されていたかもしれないし、悪い農家を儲けさせる非合理的な行為だったかも知れない。しかし、もしランチタイムの食卓に私が買ったスイカが並べば、「お父さんは、スイカが好きなんだな」と8歳の息子が知ることになる。万一、商品表示に偽りがあったとして騙されていたとしても、自分の心を表明できたことに価値があるのだ。

もうすぐ都知事選挙。今後も生きている限り選挙は続く。私が投票に行くのは、家族や友人、あるいは周りの18歳に自分のことをもっと知ってもらいたい、から。騙されているのか、そうでないのか、中立なのかそうでないのかは、さほど重要ではないのだ。なぜ、ある政治家を選んだのか。もちろんみんなに伝える必要はないが、親しい友人や家族と話すことで、自分と相手がもっと仲良くなれる。政治選択はそのためにもあるはずだ。(編集長・竹下隆一郎)

(構成:笹川かおり)

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