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「男性の多様性も描かなくちゃいけない」作家・山崎ナオコーラさんに聞く、夫婦と子育てのかたち

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(写真はイメージ)

「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」

山崎ナオコーラさんの著者紹介の最後には、いつもこの「目標」がそっと添えられている。小説でもエッセイでも、見過ごされがちな違和感やズレをそっと掬い取り、わかりやすい言葉で淡々と綴っていくスタイルは、『人のセックスを笑うな』でデビューしてから12年経った今日まで変わらない。

一方で、彼女が大事にしているテーマのひとつには「多様性を肯定すること」がある。「フェミニンな男性を書く作家も世界に必要なはず」という山崎ナオコーラさんに、身近な多様性について聞いた。

■女性の多様性を肯定するなら、男性の弱さも肯定するべき

——山崎さんの小説では、柔らかく、かわいげのある男性のキャラクターが多く見受けられる気がします。人物を描く際に何か意識されていますか。

男性を小説の主人公にするときは、フェミニンなかわいい感じにしたいと思っています。男性を書くからといって男性らしくしよう、みたいなことは余計なことなんじゃないかなと思っていて。いわゆる「男性らしさ」みたいなのがすごく出るように書かれているのを見ると、私はちょっと引いてしまうんです。もちろんそういう作品を否定しないし、そういう男らしさを書く作家も必要なんですけど、じゃあフェミニンな男性を書く作家も世界に必要なはずですよね。そこを掬い取るのが私の仕事なんじゃないかなって思っています。

女性の多様な生きかたを肯定するフェミニストの方が、弱い男性のことを批判的に書いている文章を読んで、それはやりたくないと過去に感じたことがあって。女性の多様性を描きたいなら男性の多様性も描かなくちゃいけないし、私は多分フェミニンな男性を描くのが得意なんじゃないかなという自負があったので、それを目指しています。これまで自分が出会ってきた男性たちも、そういう優しい人たちのほうがずっと多かったので。

(余命わずかな妻と、入院中の彼女を介護する夫の日々を描いた)『美しい距離』の夫もそういう風に妻の仕事、妻の社会をすごく考えて、大事にしている男性です。私としては実際にこういう人の方が今は多いと思うから、ダメな男性っていうのはあまり描かないようにしたいっていう思いはありました。

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■大黒柱の妻と、かわいい夫。これが私たちの夫婦のかたち

――山崎さんと書店員の夫の日常を描いた『かわいい夫』は、まさにそういった実感を綴ったエッセイですね。妻である山崎さんが一家の大黒柱であることを、「夫も私も、恥ずかしいことだと感じていない」と自然体で表明されています。

私の夫はすごくなよっちいんですけれど、最近ではそういうことを人に言ってもだんだん驚かれなくなってきましたね。結婚するとき、「結婚」というものについてすごくネットで調べたんです。「男性の学歴や経済力が女性より下だと親から反対される」「相手の親からも嫌われる」とかそういった情報がいっぱい出てきて「そういうものなんだ。すごい気を張っていかないと」と思っていたんですけど、実際は全然そんなことなくて。

うちの両親も何も問題にしなかったし、相手のご両親も私が大黒柱になることを尊重してくれた。私たちの生きかたを理解してくれたというか、「そういうものなんだ」という感じで見てくれました。だからもう時代は変わっていて、そんなことでは驚かれない時代なんだなっていうのはすごく思いましたね。

■結婚も出産も「人生のステップ」と捉えたくない

――今春に第一子を出産。子育てエッセイ「母ではなくて、親になる」も連載中ですが、結婚や出産を「人生のステップ」と捉えたくないと以前に語っていました。いまはどんな風に感じていますか?

結婚も出産も、コーヒー1杯飲んだなくらいの影響力にしたいですね。今、子供が5カ月ですけど、そんなに自分が変わったとは思っていません。ただ、時間の使い方は変わりましたね。夫が時短勤務なので、早めに帰ってきてくれた後は私が外に出られるので、カフェで仕事や執筆をしています。産後2カ月過ぎたあたりからまた小説を書き始めました。

子供の世話はすごく楽しいですね。授乳とかオムツ替えとか、なんかワクワクします。親になると自分の時間がなくなるって聞いてたから不安だったんですけど、実際にやってみると授乳してる間もオムツを替えている間も考え事はできる。私は作家なので「考える」のも自分の時間になるので、そういう意味でつらさはまだありません。会社員の方だと会社に行けなくてつらい、っていうのがあるかもしれません。

子供を見て感じることはこれから自然と出てくるかもしれないですけれども、子供が生まれたからといって、私自身がそんなに変わったという感じはない。読者にとっては私に子供がいるかどうかっていうのは関係のないこと。だから、これからも変わらないスタンスで仕事はやっていきたいなと思っています。これからどうなっていくのか、先のことはあんまりわかりませんけど。

■「一文一文を細かく丁寧に書くところに、何かがある」

――デビューして12年が経ちますが、作家としてこれから目指すところは?

私は文章の力だけで勝負したい、という気持ちが常にすごくあるんです。小説って「あんまり美文が並んでいないほうがいい」「一文一文の美しさを一生懸命綴るとそこにとらわれて印象に残らないものになる」って言われがちなんですが、私はそれにも抵抗したい。できることなら全部が美しい文章になるように小説を作りたいっていうのがすごくあります。

細かさってすごく大事なものだと思うんです。たとえば、山口晃さんの描く絵って画面の細部まで細かくいっぱい描き込まれていますけど、あれは全体図として「わあ!」ってなりますけど、じゃあ全体図だけがあればいいのかっていうとそうじゃない。細かいところもしっかり描いているからこそ、全体を見たときにも「ガンッ!」ってなるんだと思うんです。だから一文一文を細かく丁寧に書くっていうところに、何かがあるんじゃないかなって。私にとっての美しい文章、うまい文章っていうのは、あっさりしていてリーダブルな文章ということなんです。

デビューしてから5、6年くらいまでは、「今までにないようなアイディアを小説に出す」ことが純文学だと思っていました。でも文学賞にも全然縁がないし、みんなが「お前の小説は純文学じゃない」っていうから何か違うのかなあ、って思っていたんですけど、今はそうじゃなくて、私がやっているのはやっぱり純文学なんだと思っています。細かくて丁寧っていうところをもっと極めたほうが、むしろいけるんじゃないかな、と思っています。

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(取材・文 阿部花恵