「出て行け!」ブラジル新大統領が、リオパラリンピック開会式で大ブーイングを浴びた理由

テメル氏の不人気ぶりは著しい。

リオパラリンピック開会式に出席したテメル大統領

ブラジルでは経済の低迷や汚職疑惑で支持率が低下していたディルマ・ルセフ氏が8月31日に罷免され、新大統領が誕生した。これによって数カ月にわたる弾劾手続きが終結した。ルセフ大統領弾劾騒動によって、ルセフ氏に反旗を翻したミシェル・テメル副大統領がブラジルのリーダーとして実権を握ることになった。

テメル氏は保守派のブラジル民主運動党(PMDB)に所属し、111日間ブラジルの大統領代行を務めたが、正式に国の最高官職に着任した。テメル氏はブラジルが深刻な不況と政治危機のまっただ中で大統領の座を射止めたが、彼が大統領代行に着任以降、政府への支持率はさらに低下している。

テメル氏も汚職疑惑の渦中にいる。6月には、原子力発電会社の契約絡みで30万ドルの賄賂を受け取ったという疑惑が浮上した。テメル氏は8月のリオオリンピックで姿を見せるたびにブーイングを受け、大統領として9月7日のリオパラリンピック開会式に臨んだ際には、「出て行け」「大統領を強奪しやがって」などど、さらに激しいブーイングを浴びた。同じく7日には、国内48カ都市で大統領の退陣を求める大規模なデモがあった。

ブラジル各地で7日、テメル大統領の罷免を求める大規模デモがあった

テメル氏の不人気ぶりは著しい。4月の世論調査で58%の国民が彼の弾劾を求めているという結果が出るほどだ。にもかかわらず、国政の闇の中から這い上がり、最高権力を手に入れるに至った。テメル大統領はルセフ氏の任期の残りを引き継ぎ、2018年の選挙まで就任することになる。

■ ブラジル政界を渡り歩くベテランのテメル氏

テメル氏は1984年にサンパウロの公安局長として政界入りした。1986年、彼はブラジル憲法の起草を行う憲法制定国民議会のメンバーとなった。その後、憲法学に関する本や詩を執筆した

テメル氏は国会議員として6回当選し、下院議長として3回選出されている。

ブラジル政府内での様々な役割を通して、テメル氏はネゴシエーター(交渉人)としての手腕でその名を知られるようになった。しかし、近年まではほとんど公の場で脚光をあびることなく、むしろ政府内で連立政権を構築する影の実力者として立ち回っていた。

テメル氏はかつてルセフ派の一人だったが、国会がルセフ氏の弾劾裁判を承認する直前に寝返った。上院内のテメル氏支持がルセフ氏罷免への動きに一役買い、61票対20票でルセフ氏の罷免が可決された。

「ミシェル・テメル氏が副大統領に選ばれたのは、彼がこの民主主義の中心の一員であり、物事を変える力のある革新主義者だと考えていたからです。テメル氏はPMDB党に最もふさわしい人物だと信じていました」と、ルセフ氏は8月29日上院議事堂の弾劾裁判答弁で述べた。「それがいつ変わり始めたのかはわかりませんが、変わり始めてしまったことは事実です」

2014年11月5日、プナタルト宮殿での文化勲章授与式で、ディルマ・ルセフ大統領とミシェル・テメル副大統領が並んで列席。

■ 大統領としてのテメル氏の資質

大統領代行として引き継いで以来、テメル氏はブラジルの深刻な不況を改善しようと、数々の緊縮財政政策を打ち出してきた。現在の失業率は11.6%で、2016年の財政赤字がGDPの10%以上に達している。

暫定政権が発足した最初の数カ月で、テメル氏は社会保障や労働法の改革など、賛否両論を引き起こした改革案を発表した。同じ時期に、公共事業への政府支出に上限を設ける法案を国会に提出した。税率引き上げの可能性や企業の民営化の促進と並び、公務員を大量に削減し、ルセフ氏率いる労働党の主要政策だった社会保障制度を削減する改革案を発表した。

2016年8月31日、ブラジルのブラジリアで上院がディルマ・ルセフ大統領を罷免、ブラジルの新大統領としてミシェル・テメル氏が大統領に就任した。

こうした政策は一般国民の大きな不満を買うことになると思われる。民衆は近年の不況ですでに充分痛手を被っており、政治家たちの腐敗ぶりについて不信感を募らせているからだ。

テメル氏はすでに、大統領代行としての政治手法にも批判されている。暫定政権の閣僚がが全員男性で、ほとんどが白人で占められているのもその一つだ。閣僚の一部はすでにスキャンダルで辞任している。そのうちの1人は皮肉にも汚職対策大臣を務めていた。

テメル氏はブラジルの政治危機の中で権力者として浮上したにもかかわらず、国民の支持はほとんど得られず、ブラジル大統領としての先行きは茨の道といえる。専門家の予測によると、テメル氏がこのまま厳しい緊縮財政政策を推し進めれば国民から見放され、ブラジル民主運動党(PMDB)はルセフ政権のようにスキャンダルに悩まされることになるという。

ハフポストブラジル版の英訳より翻訳・加筆しました。

▼画像集が開きます

Brazil Protests

Brazil Protests

注目記事