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イギリス労働党の党首選、コービン氏再選が確実に 不信任だったのになぜ?

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親指を上げる――イギリス野党労働党のジェレミー・コービン党首は、何年間も続いた「ブレア元首相流」の中道路線を経て党をそのルーツである左派に戻した。

土壇場で混乱がない限り、ジェレミー・コービン氏は9月24日に楽々とイギリス労働党党首に再選する見込みだ。対立候補のオーウェン・スミス氏は労働党議員の大半から支持を得ていたが、勝機はほとんどなかった。

コービン氏の支持者である草の根の党員は、2015年にコービン氏が初めて党首に選ばれたときに衝撃的ともいえる圧勝をもたらした。彼らにとってコービン氏は新鮮な息吹のような存在で、何年にもわたる「ブレア元首相流」中道と右派との妥協の後で、労働党をそのルーツである左派に戻している。

しかし労働党員の圧倒的多数にとって、コービン氏は、労働党のデビッド・ミリバンド元外務大臣の言葉を借りると「政権復帰の見込みがない」だけでなく、彼の政治綱領は「好ましくない」という。

労働党は現在ほぼ2つの党派に分かれている。1つは議会、もう1つはそれ以外のイギリス人が母体となっている。

勝利への期待の中、コービン氏は「一からやり直す」ことを望み、一斉に辞職した影の内閣の閣僚たちに復帰を促しているという。コービン氏は、批判者たちに和解の象徴として知られるオリーブの枝を差し出している。彼は議会のオフィスのバルコニーで、実際にオリーブの木を育てている。

しかしTwitterの荒らしに悩まされた苦い選挙キャンペーン、吹き荒れたコービン降ろし、性差別・反ユダヤ的主張などを考えると、党をまとめるのは困難だろう。不信感は深まっている。労働党のピーター・カイル議員は、コービン支持者から裏切り者扱いされ標的にされているが、「ジェレミーはオリーブの枝を人々を殴るための凶器として使った。そんな人物は私が今まで出会った中で初めてだ」と述べた。

労働党内部で深刻な対立の兆しが見える中、党員は次のような前例のない警告を発した。「今週末リバプールで始まる議会は『攻撃的な、場合によっては暴力的な』状況になる恐れがある」

労働党が対立する中、EU離脱が決定後、議会でぎりぎり過半数を占めるテリーザ・メイ首相の新保守政権は、歯止めが効かずに好き放題やっている。保守党の中にさえ独走を心配している議員がいる。大臣経験者のアンナ・サブリー氏は「民主国家として、政府を検証しその責任を問える、信頼に値する十分強力な野党が必要だ」と警告した。


対立候補――8月に行われた初の労働党党首討論会でスピーチするオーウェン・スミス下院議員

なぜコービン氏は嫌われるのか

労働党首争いのきっかけとなったのは、EU離脱を問う国民投票でコービン氏が残留派に付いたにもかかわらず、離脱派が勝利して党首としての責任を問われたことだった。労働党の下院議員230名のうち80%が賛成し、コービン氏の不信任案が可決された。スミス下院議員は、コービン氏の影の労働年金大臣を務めていたが、党首争いの生贄として引きずり込まれる形で選挙に加わった。当時、下院議員はデヴィッド・キャメロン氏から7月に首相の座を引き継いだメイ氏が、解散総選挙を強行するのではないかと恐れたのだ。

コービン氏を敵視する労働党下院議員にとって、67歳のコービン氏は最左翼で、党内の支持を獲得するのに不適格な存在だ。そのような下院議員から見れば、コービン氏は与えられた低い基準値を下回るような実力しか発揮していない。イギリス国民全体のコービン氏への支持率は低い。9月に世論調査会社「YouGov」が実施した、首相にふさわしい人物を聞く世論調査では、メイ氏が50%、コービン氏は18%だ。選挙を分析するロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのトニー・トラヴァー教授によると、ここ最近、地方選挙での労働党の得票率は「最悪だ」という。

党内は、コービン氏に対する批判でほぼ一致している。トニー・ブレア元首相は、労働党首として3度の当選を果たしたが、コービン氏を当選させないよう再三警告している。過去の党首である、ゴードン・ブラウン氏、エド・ミリバンド氏、ニール・キノック氏も同様に、コービン氏の再選に反対している。彼らは、24日にコービン氏の勝利が確定すれば、コービン氏が生きている限りは労働党は政権交代しないだろうと主張する。

エド・ボールズ前労働党財務大臣は次のように警告している。「政府を選ぶのは党員ではなく、有権者だ。労働党員の見解が、激戦区の議席や無党派の有権者、中道左派の有権者とこれほどにも乖離している時代はあっただろうか」

コービン氏は、労働党の掲げる政策と根本的に食い違っている。コービン氏はイギリスの核ミサイルの刷新に反対しており、NATO同盟諸国に対して曖昧な態度を示している。多くの労働党下院議員にとって最も衝撃を与えたのは、EU離脱の国民投票でコービン氏が残留派だったにもかかわらず、選挙キャンペーンに消極的だったことだ。労働党は強健な残留派だ。しかし最後に国民投票が行われた1975年、コービン氏は離脱に投票している。そのため、多くの労働党下院議員はコービン氏がEU離脱の結果にそれほど動揺していないのではないかと考えている。

コービン氏が政策上で党内と一致している点でも、コービン氏にはキャメロン氏や現在のメイ氏が率いる保守党を追及するような政治的な実力がない、と多くの一般議員から批判を受けている。労働党下院議員のジョン・ウッドコック氏が、首相とのクエスチョンタイムに臨んだコービン氏を「超破滅的」と呼んだのはよく知られている。Viceニュースのドキュメンタリー動画で、キャメロン前首相の福祉予算削減に抗議する形で保守党の大臣が辞任したのに対し、コービン氏が追及しなかった姿が明らかになり、労働党下院議員は裏で憤慨していた。


ジェレミー・コービン氏がロンドン北部での幹部集会に参加。

コービン氏が愛される理由

しかし、労働党員の大多数にとっては話は異なる。草の根でのコービン支持は力強く、非常に忠実であり、彼の運動団体「モメンタム 」は高度に組織化されている。彼らは「2010年と2015年の総選挙で負けたブラウンやボールズやミリバンドたちの言うことをなぜ聞かなければならないのか」と言う。

イズリントン・ノース選挙区選出の下院議員で30年以上にわたって国会議員を務めるコービン氏に敵対する動きは、彼らの熱心さをより強めただけだった。”コービニスタ”たちにとって、調子のいい広告セールスマンではなく、真面目な地理の教師といった彼の風貌は魅力的だ。

労働党が2015年に負けたのは、キャメロン前首相の公的支出削減に対して、刺激的で中身のある進歩的な代替案ではなく、単なる緊縮政策のお手軽版しか有権者に示せなかったからだと彼らは主張する。また労働党の支持率が低迷していることについては、下院議員たちがクーデターを企てたせいだと主張する。スミス下院議員は選挙での勝利に重点的に取り組んでいるが、彼らは、スミス氏がコービン氏より党首の仕事がこなせるとは確信できていない。

コービン氏の支持者の中には、党内右派を非難する人もいる。党内右派は、コービン氏が総選挙に負けて左派の選挙公約を実行できないことを心配するのではなく、総選挙で勝って公約を実行するかもしれないと心配し、党首に逆らう動きをしているというのだ。

コービン氏のブランド力は、違う方法で政治を行うという彼の主張にある。「私は個人攻撃をしない」と彼は言う。そして支持者たちにも自分に続くよう呼びかける。 だがコービン氏の親しい仲間で、彼の政権で影の大臣を務めたジョン・マクドネル氏はより率直な物言いで知られている。労働党下院議員たちによる打倒コービンの試みについて「まったくの無駄」と言い放ったことは有名だ。また彼は3度の党首就任を誇るブレア元首相を、労働党を「危機へ追いやり」、2003年のイラク戦争で大衆の政治への信頼を損ねたとして非難している。

コービン党首と労働党本部間の深い亀裂が明るみになっている。マクドネル氏は、党首選がスミス氏に有利となるよう「操作」されているとして、党役員を公然と非難した。

またコービン氏の支援者たちは、彼が選挙運動で動員してきた多くの人々に勇気づけられてきた。何千人もの人々が、オバマ大統領の有名な言葉をもじった「Jez we can」を熱心に叫ぶ姿は、イギリスの政治ではあまり見られない光景だ。労働党の党員数は50万人を超え、ヨーロッパで最大となった。コービン氏はこれを「非常に強力な選挙戦の基盤」とし、勝利に結びつけたいと考えているようだ。

選挙期間中、コービン氏は59回の集会を行い、小口献金で30万ポンド以上を集め、彼の陣営は40万回を超える電話での選挙活動を行った。

コービン氏と、既存の体制に反対するバーニー・サンダース氏やドナルド・トランプ氏の類似点についてはたびたび語られてきた。「ジェレミーをリーダーに」のチームは、サンダース氏のデジタル動員戦略をお手本にして総選挙を戦いたいと考えている。コービン氏はスミス氏との党首選を戦うにあたり、サンダース氏から応援のメッセージを受け取ったと強調した。しかし、サンダース氏本人はメッセージを送ったことを否定している

しかしコービン氏の批判者たちは、大規模な動員が票獲得につながるとは限らないと指摘する。キャメロン氏の大規模集会を覚えている人はいない。実際そんなことは起こらなかったからだ。保守党の党員数はわずか13万人ほどだ。しかし彼は2015年の総選挙で予想外の勝利を収めた。また評論家たちはサンダース氏との比較は無意味であり、アメリカ民主党の予備選は盛り上がりを見せたものの、彼は勝てなかったと指摘している。

今後の展開は?

対立候補のスミス氏は、コービン氏の勝利によって党が分裂しかねないと警告することに多くの時間を割いてきた。彼はハフポストUK版に対し、「今までは党の分裂などあり得ないことだったが、今後その可能性はある」と語った。その不安がどれだけ薄れようとも、イギリスの選挙制度は小政党にとって厳しいものだ。党が分裂してしまえば、票を集めるのはほぼ不可能になるだろう。

また労働党内には、コービン氏とその支持者たちに党を明け渡したくないという感情もあるようだ。先日、労働党議員らによる非公開会議でキノック男爵は「撤退などありえない!この党は我々のものだ!60年もこの党でやってきたんだ、誰にも渡さないぞ!」と述べた。

コービン氏と復帰した影の内閣の議員たちが仮に休戦できたとしても、地域レベルでの対立は続くだろう。

2015年のコービン氏の党首選立候補を受けて誕生した左派運動グループのモメンタムは、多くの議員たちの怒りの源だ。スミス氏は数千人のメンバーを抱える同団体に対し、1980年代に起きたことと同じく、労働党を極左のための「母体」にしていると批判してきた。モメンタムはこの批判を強く否定している。

不誠実だとみなされた議員たちは再選できないかもしれないという恐怖を抱えている。これはアメリカで民主党の予備選を戦ったサンダース氏が直面したのと同じ問題だ。コービン氏は反対派の議員を落選させるよう地域活動家に公に呼びかけることはしていないものの、そうした活動に「干渉」したくないと主張し、暗黙のうちに奨励していると批判されてきた。

コービン氏の支持者たちによる忠誠を求める声によって、労働党の議員たちは苛立っている。コービン氏は下院議員として、労働党党首の再選に500回以上も反対してきた。

2015年には、コービン氏は「1年ごとに党首選を行うのも良い考えかもしれない」と語っていた。だが党首になった今、彼は考え方を変えた。2020年の総選挙の前に再び党首選が行われる可能性はある。もしかすると1年ごとになるのかもしれない。それは大いにありえることだ。

ハフポストUK版より翻訳・加筆しました。

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ジェレミー・コービン労働党党首
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