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「透析は大勢の死者の上に成り立っている」長谷川豊アナに抗議の署名・女性患者が訴えること

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NOGAMI
ヘルプマークを付けて通勤している野上さん | Yuriko Izutani/HuffPost Japan
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フリーアナウンサーの長谷川豊さんが書いた「自業自得の人工透析患者は殺せ」などとするブログや、テレビでの発言に抗議の意思を表明しようと、Change.orgを利用してネット署名を呼びかけている腎臓病患者の女性がいる。会社員の野上春香さん(仮名、41)だ。間もなく、署名で目標にしていた2万5000筆が集まる見込みで、野上さんは近く、集まった署名を長谷川氏に手渡す予定だ。

【UPDATE】「『医療は全員に』は違う」長谷川豊アナが抗議の署名届けた患者女性と対談

ハフポスト日本版では、野上さんに話を聞いた。

――署名の狙いは何ですか

まずSNSで流れてきた長谷川氏の最初のブログを見て驚愕しました。タイトルは「殺せ」だし、内容も、例えば「人工透析の患者はディズニーランドでも並ぶ必要がない」とか、適当なことばかりで驚きました。でも身内で怒っているだけでは仕方がない、抗議の意思を実際に届けたいと思いました。その後、インタビューなどで謝罪していますね。でもその謝罪で彼は「サービス精神だった」とか「『殺せ』はスラングだった」とか、言葉が過ぎたことが問題だったと捉えているようですが。問題はそこじゃない。でたらめを書いて患者を傷つけたことです。患者が実際にどんな思いで暮らしていて、あのブログで自分がどんな人権侵害をしたのか、知るべきです。

――野上さんも腎臓病を抱えておられます。どんな病気ですか

私は先天的な奇形で、腎臓の発育が悪い「腎低形成」「腎形成不全」によって慢性腎不全という病気になっています。腎臓のろ過機能は老化によって落ちていきますが、あと5%落ちたら、人工透析が必要になると医師に言われています。今は疲れやすくて、電車で通勤していますが、車内で座れないと、乗り換えの時にしばらくホームでへたり込んでしまって歩けなくなるほどです。カバンにヘルプマークを付けているのですが、まだ浸透しておらず、席を譲ってくれる人も少ないです。食事は、塩分やたんぱく質の量など、一日にとっていい量が決まっていて、厳密に守っています。

――幼少期から病院通いだったのですね

生まれて3カ月目~7歳ごろまで入退院をずっと繰り返しました。小学校では走ったり外で遊んだりしてはダメと言われました。マラソンや学校行事にも出られなかったから、「先生がえこひいきしてる」と思われて、いじめられました。家でも学校でも、ほとんど喋らなかった。

その頃、昭和50年代ごろですが、小児病棟にも多くの腎臓病患者がいて、ナースステーションに一番近い重症者の部屋で人工呼吸やたくさんのチューブにつながれている子たちのことをよく覚えています。私は北海道出身なので、病院から家が遠い家庭が多かった。家族は見舞いに通うのが大変で、泊まり込みで付き添っていて、私の母も、そうでした。母も悩んで、ある日「あんたなんかいなければ良かったのに!」と言われたこともありましたね…。私が4歳とか5歳の物心ついた頃には、もう周囲の友達がどんどん亡くなっていく環境にありました。

――友達がどんどん亡くなっていった

当時も人工透析や腎臓移植などの治療法がありましたが、今とは比較にならないほど自己負担額が高かった。子供ながらに「家族に負担をかけていいのか」と悩む友達、「治療を続けてあげたいけどお金がない」とこぼす親の話も聞きました。逆に「こんなつらい目に合わせてまで、この子が生きる意味があるのか」と自問自答する親、たくさん見てきました。「もう長くないのなら自宅で過ごしたい」という家もありましたが、治療費が払えずに中断をして自宅に戻って、亡くなる子も大勢いたんです。

高額療養費制度の透析に対する特例で、今は透析患者の自己負担額は実質ゼロになっています。それで、やっと、生きられる人が増えた。だから今の制度は大勢の死者の上に成り立っていることを知ってほしい。彼のブログでの発言は、「死体蹴り」だと思いました。

――長谷川さんはその後のインタビューなどで謝罪する一方、「先天性の患者については言及していない」と説明しています。野上さんのような患者はそもそも批判の対象外だったというのが彼の主張ですが。

どういう経緯で病気になり、治療を受けることになっても同じ患者です。仮に「不摂生」が原因だとしても、誰でも等しく救済される、助け合いの精神がなくなってしまっては、医療とは言えません。患者同士も原因はどうあれ、一緒に病と闘っていかなくてはいけない。患者を分断するような言論は許しがたいです。

それに、「自業自得」かどうか、誰がどう判断するのでしょうか?例えば、長谷川さんも椎間板ヘルニアの手術をされたそうですが、「アナウンサーという立ち仕事を選んだのが悪い、自業自得だ」と言われて、保険の適用を受けられないとすれば納得できるのでしょうか?

――署名の中に、「不摂生が原因」と自分で考えている患者さんもおられますか

はい、そういう方も数人署名してくれています。「もちろん自分がいけない、手遅れではあるのだけれどこうなりたくてなったわけじゃない」とか、「必死で働いて、忙しくて、たまの休みの喜びが食べることやお酒を飲むことだった」という人もいました。例えばこの方も自堕落どころか、むしろ働きすぎたと言えるかもしれません。

病気の予防は大事です。でもこういう方々は、自分の行動は反省しつつ、必死で生きて、大変な治療も受けている。そういう人が費用面でペナルティを受けたり、外部から批判されたりしなくちゃいけない理由が何故あるんでしょうか?

――長谷川さんは、取材をした医師なども同じ考えだという話をされていました

少なくとも、私の周囲の医療者でそんなことを患者に言う人はいません。医師だって人間ですし、仕事が大変だとつい愚痴をこぼしたくなることはあるでしょう。「言うことを聞かない患者がいて困るんだ」とか「キツイ言い方をする患者がいる」とかね。

しかし、私の周囲の医療者はみな、それは内輪で収めて、現場ではそんなことはおくびにも出さずに患者さんに真摯に向き合っています。医師も人間、患者さんも人間。それがわかっている。だから、患者さんのことを悪く言うことが「医療者の本音だ」なんて言うことは、誠心誠意、患者さんに向き合っている医療者も貶める発言だと思います。

――本来の狙いは「医療費の抑制を提言することだった」という発言もありました

そうだとしても、でたらめな根拠を振りかざしていいのでしょうか。

例えば、長谷川さんは「実際に人工透析を受けている患者さんの8~9割が自業自得なんじゃないの?」と書かれていました。そして、その「自業自得」の根拠の1つで挙げていたのが2型糖尿病です。2型糖尿病が原因で新しく透析になる人は「2014年の最新データで約45%」などと長谷川さんは書いています。これは正しいデータだと思います。しかし、糖尿病の2型でも、生活習慣だけではなく、遺伝的な素質が影響して発病するとされています。つまり、人と変わらない食生活や生活習慣をしていても、元々持っていた体質によって発症してしまう人もいるので、この45%が全員「自業自得」とは言えません。いろいろな原因があるのに、決めつけることはできるのでしょうか。

そもそも、糖尿病のような病気について、「成人病」から国が「生活習慣病」へと名前を改めたことで、発症した時点で「自業自得」ではないかという偏見や自己責任論を引き起こしていると思っています。この名前も改めてほしいですね。

――「民間の保険のように点数をつけるべきだ」という意見についてはどう思われますか

日本の医療・保険制度は民間とは違います。特に腎臓病のような持病を抱えた患者は民間の医療保険にはただでさえ入りづらいのです。民間で補えないものを補うのが公的な保険でなくてはならないと思います。

病気で困っている患者の治療費を上げることは、一見、医療費が抑制できるように見えますが、治療が受けられず働けなくなって、今度は生活保護の給付を受けざるを得なくなるなど、かえって全体の国の支出は増えるんじゃないでしょうか。

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