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性奴隷を収容していたISの施設は今、モスル奪還のために戦うアメリカ軍の司令部になった

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10月7日、耐地雷・伏撃防護車両MRAPでケイヤラ・ウエスト空軍基地を通るアメリカ軍兵士 CREDIT: SOPHIA JONES/THE WORLDPOST

【ケイヤラ・ウエスト空軍基地(イラク)からレポート】

かつて性奴隷として拘束されていたヤジディ教徒たちの姿はどこにもない。IS(イスラム国)戦闘員たちは数カ月前までここにヤジディ教徒を強制連行していた。その後IS戦闘員たちはイラク北部にあるこの広大な空軍基地と近隣の町から撤退した。

生存者、当局者、活動家らは、ISがケイヤラ・ウエスト空軍基地をヤジディ教徒など異端者の収容所として使用していたと語る。しかし現在は別の役割を担っている。10年以上前と同じように数百人ものアメリカ軍部隊が使う基地となっている。

アメリカ人には知られている通り、Q-ウェスト(ケイヤラ・ウエスト)はアメリカ軍とイラク軍の主要な集結地、また共同の物資輸送拠点となる。両軍はISに対してこれまでで最大規模の軍事作戦を続けている。これはイラク第2の都市モスルを奪還するための戦いだ。ハフポストUS版は先週、Q-ウエストへ向かった。アメリカがこの地に基地を再建してから、陸路でニュースメディアが訪れるのは今回が初めてだ(他の報道チームは飛行機で向かった)。

アメリカが支援するイラク政府軍、イスラム教スンニ派の部隊、クルド人の治安部隊ペシュメルガ、イラン系シーア派民兵、トルクメン人戦闘員、トルコ軍がモスル奪還作戦への参加を表明している。つまり、少なくとも3つの異なる集団が設置する6つの検問所と前哨基地がQ-ウエストまでの道中に点在している。

アメリカとイラクの当局者によると、ISに対するこのモスル奪還作戦は、アメリカ空軍の力を頼るものの、主導するのはイラク軍で、年内にはISをモスルから追放できるかもしれないという。

しかしIS撤退後のモスルを誰が支配するのか、またこの街に再び宗派間で争いが起きるかどうかは不透明だ。約15年前、イラクに初めて侵攻したときと同じように、アメリカ政府と軍は目前の敵を倒すことに夢中で、その後は眼中にない。

Q-ウエスト第39旅団工兵大隊の隊長クリストファー・D・パヤント中佐はIS撤退後の宗派間の殺戮に発展する懸念に言及しつつ、「それは確かに取り組まなくてはいけない課題だ。しかしイラク政府が対処するだろう。そしてもちろん、アメリカ政府もだ」と述べた。

現在の問題を考えてみよう。推定6000人(数に変動がある)のアメリカ軍が、数カ月に及ぶ過酷な作戦についてイラク軍にどのように訓練、助言、支援するのが最善だろうか。


■ アメリカ軍が再びイラクにやって来る

パヤント中佐がQ-ウエストのかかとまで埋まるような砂漠の中をゆっくり歩いていたとき、アメリカ軍の大砲音が鳴り響いた。アメリカの軍人男女数百人はイラク軍と協力してQ-ウエストを再建し、共同作戦本部を設置している。

ここでアメリカ軍は高度で確かな空軍力で現地の地上部隊を支援しながら、イラク軍に戦略面での助言をする。

ISの戦闘員たちは空軍基地をほぼ壊滅させた。さらに撤退するときに地面から銅管を引き抜いていった。

パヤント中佐が今まで目にした中で最も凄惨な破壊行為は、ISの焦土作戦だ。撤退するときにすべてを価値のないものにしたうえで、残ったものを破壊する。

遠くでIS戦闘員たちが火を付けた油井から黒煙が立ち込める。すべてを覆うような広さの砂漠の熱と砂の中では、黒煙から逃げられる場所はない。アメリカ軍の部隊はここで眠り、食事し、コンクリート製のバンカー(撃や爆撃から人や航空機を守るために地下などに建設される施設)内で作業をすることが多い。IS戦闘員たちは10マイル(約16km)も離れていない場所にいるため、その脅威は軽視できない。


ケイヤラ・ウエスト空軍基地に配備されている装甲車。基地はモスル奪還作戦でアメリカとその連合軍の主要な集結地となる予定。ISは戦闘員や一般市民を標的にして道端に爆弾をしかけたり、自爆犯を使うことが多い。 CREDIT: SOPHIA JONES/THE WORLDPOST

パヤント中佐は「みな歯を食いしばることに慣れています」と、おそらく9カ月の間故郷と呼ぶことになる場所を見渡しながらそう語った。その後は別の大隊が引き継ぐ。

頭からつま先まで武装する必要のない近くの連合軍基地キャンプ・スイフトと比べると、Q-ウエストははるかに敵が多く、設備も整っていない場所だ。そこでアメリカ軍、イラク軍、連合軍はドローンが映すISの領土を巨大なスクリーンで監視し、空爆と連携させている。アメリカ軍によると、こうした空爆により9月だけでも18人のIS指導者が死亡した。そのほとんどがモスルにいたという。

キャンプ・スイフト第101空挺師団第2旅団戦闘団の指揮官ブレット・シルヴィア陸軍大佐によると、イラクでアメリカが果たす役割は、以前アメリカ軍が「槍の穂先」として最前線にいたときとは違うと語った。

シルヴィア大佐は、「私たちは兵士だ。私たちの本来の任務は最前線でライフルを手に持ち、敵を追うことだ。しかし今回は、兵士としての任務ではない」と語った。

とはいえアメリカの部隊に危険が及ばないわけではない。最近、アメリカ軍部隊(主に特殊部隊)は戦闘に遭遇し、死者も出ている


ケイヤラ・ウエスト空軍基地横のイラク国旗の隣ではためくシーア派民兵組織の旗。この基地は数百のアメリカ軍部隊の拠点となっており、イラク第2の都市モスルを支配するISとの緊迫した戦闘に備えている。


■ シーア派民兵組織の役割

Q-ウエストにあるきわめて安全性の高い米軍用集合住宅の近くで、イラン系シーア派武装組織が旗を掲げている。アメリカ当局によると、かなりの存在感があり、イラク政府からISとの戦闘に了解を得ているものの、米軍は「ハシド・アル・シャービ」の傘下組織や、「人民動員隊」といった民兵武装組織への支援、協力はしていない。

シーア派武装組織の指導者の中には、対IS戦争にアメリカが関与することに嫌悪感を示す人がいる。

アメリカ軍とトルコ軍のアブ・アル・ファドル・アル・アッバース旅団の指導者シャイフ・アウス・アル・カフジ氏は、「ハシドは対立する外国の軍隊以外はどこの国の軍隊も歓迎するが、外国の支配は拒絶している。また、もし地上戦に参加するなら敵とみなす」と話している。

人権団体は、彼らのような民兵組織は日常的に宗派間の暴力行為や、軍事的な「復讐殺人」を企てており、親IS派とみられるスンニ派アラブ人を標的としていると警告を発している。

アメリカの人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は7月下旬、イラク政府に対し民兵組織をモスル奪還作戦に参加させないよう求めた。HRWの声明によると、民兵組織は「おぞましい、時に広範囲にわたって拷問をしていた。政府は調査すると約束したが何の効果もなかった」という。


住む場所を失ったイラク人のためのデバガ・キャンプでは、多くの人がISISから逃れてきた。彼らは大がかりなセキュリティチェックを受けてクルド自治政府(KRG)に登録する。KRGはこれまで数十万の避難民を受け入れている。 JONATHAN RAA/PACIFIC PRESS/LIGHTROCKET/GETTY IMAGES


■ スンニ派アラブ人の恐怖

ISが2014年夏にモスルとその周辺の広大な領土を制圧したとき、スンニ派イラク人の中には歓迎する者もいた。スンニ派の多くは当時のヌーリー・マリキ首相を嫌い、その宗派主義的、独裁主義的な政策を批判した。

ISの台頭は「スンニ派の革命だ」と語ったのは、アルビル郊外にあるイラク人避難民がいる「デバガ・キャンプ」で暮らす男性だ。アルビルはイラクで半独立化したクルド人自治区の中心都市だ。避難民への支援は手薄になっていた。過激派による支配はイラク政府よりもずっとひどいものだった。

しかし、スンニ派アラブ人の部族戦闘員もISと戦って命を落とした。数千人の部族男性は、大部分がスンニ派のモスル奪還の戦いで重要な役割を期待されている。

ケイヤラなどの町やデバガなどのキャンプでは、イラクとクルド人の治安部隊の双方がISと接点のある人がいないかを日常的に調査している。これは、ISの支持者、協力者、戦闘員と疑われた住民は一斉検挙され、地元の男性を集めて怪しい人物を聞き出し、個別に聴取する。

この尋問は実に苛立つもので、かなり不公平な時もあると、デバガ・キャンプの男性たちはハフポストUS版に語った。

ある若い男性は、疑いを晴らすのに1週間かかったとハフポストUS版に語った。隣に立っていた男性は45日間かかったという。「お前はなぜISにお茶を提供したのか? なぜ市場でISに商品を売ったのか?」と、治安部隊は尋ねたという。

シルカット出身の教師アブデル・ハミドさん(37)は、「私たちはダーイシュに殺されていたと思います」と語った。ダーイシュとは、中東圏で使われているISの呼称だ。

スンニ派アラブ人のほとんど、特に男性はデバガのような難民キャンプからアルビルなどの場所に移動することは困難だ。クルド自治政府の当局者は、安全のために難民の行動を制限していると語る。

かつて学生だったライード・リヤドさん(22)は、「刑務所を出れば、また刑務所だ」と叫んだ。


ISが支配するモスルに、クルド人部隊「ペシュメルガ」の戦闘員たちが、以前よりも力を増して奪還作戦に参加している。 NURPHOTO VIA GETTY IMAGES


■ 鍵となるアメリカの同盟軍、クルド人部隊

長年バグダッドから独立を果たす機会をうかがってきたイラク領内のクルド人も、モスル奪還の戦いで中心的な役割を果たそうとしている。

クルド人の治安部隊ペシュメルガの戦闘員たちはISがモスル制圧後、以前よりさらに力を増して参加した。

イラク軍の多くは身の危険を察して逃げ出し、制服を脱ぎ捨て、武器も捨てて高価な軍用車をモスルからクルド人支配地域まで続く道に乗り捨てた。

クルド人は、アメリカにとってイラクでの対IS戦をともに戦う重要な同盟相手だ。彼らは強みを十二分に活用し、半独立化した領土を40%ほど広げた。

ペシュメルガのハジャル・イスマイル准将は、「モスル奪還の次は、私たちにとって非常に重要だ。モスル解放よりその後の方が大事だ」と語った。

クルド人部隊ペシュメルガもアメリカおよび同盟軍から訓練を受けているが、対IS戦への参加をめぐってイラク政府と衝突している。イスラム教シーア派の戦闘員たちは、シーア派トルクメン人の家を破壊したとしてペシュメルガを非難している。

モスル奪還の戦いは、イラク北部にある半独立化したクルド人自治区に大きな影響を与えるだろう。国連によると、同盟軍の攻撃が始まると100万人以上がモスルから流出するため、ここ数年で最悪の人道的危機の引き金になりかねないという。多くのキャンプはすでに満員だ。

今後の戦闘の行き着く先は、この質問に尽きるとイスマイル准将は語る。「誰がモスルを支配するのか?」


トルコ議会がイラクへの軍派遣をもう1年延長すると宣言して以降、両国は再び緊張状態にある。 SABAH ARAR VIA GETTY IMAGES


■ トルコの緊張

トルコは推定2000人をイラク北部に派兵している。しかしトルコ軍は今回のアメリカ主導の対IS連合軍では何の役割も担っていない。

トルコ議会が軍隊の派遣をもう1年延長すると宣言してから、両国は再び緊張状態にある。イラクのハイダル・アル・アバディ首相は「トルコの危険な行動によって地域の戦争に発展する可能性がある」と警告し、NATO加盟国にトルコ軍の撤退を求めた。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はこの要求を拒否し、アバディ首相を名指しで非難し、他国がモスルの戦闘に参加するのは「歪んでいる」と述べた

エルドアン大統領は、イラク政府の許可がなくてもトルコは自国の作戦を進めると宣言した。

「我々は必要なことをするのみとあなたは知るべきだ。誰のことかって? イラクの首相だ。身の程を知れ!」と、エルドアン大統領は語った


10月4日、ケイヤラ郊外でハンヴィー(高機動多用途装輪車両)で前線に向かうイラクの兵士たち。ケイヤラはモスル作戦を前に軍事活動や人道活動をするための重要な集結地となっている。 CREDIT: ASSOCIATED PRESS/BRAM JANSSEN


■ イラク軍、そしてこれからの戦い

都市部での戦闘を担当しているイラクのナジム・アル・ジャブリ少将は、「IS撤退後のモスルで宗派間の抗争を危惧するのは、極端な話だ」と、 キャンプ・スイフトのすぐ隣にあるマクムールのイラク軍基地内にあるオフィスで語った。

「だからと言ってモスル奪還後、すべてがうまくいくと言っている訳ではない。しかし一部の人が想像しているほど状況は悪くはない」と、彼は述べた。

現在はISが支配する北西部タルアファル市のアル・ジャブリ元市長は、「モスル奪還後に必要なのは、強力な地方政府だ。また法律を強化するために警察が必要だ」と語る。

ISがモスルを奪ってからこの2年間、イラク軍は長らく戦闘を繰り返してきた。

イラク軍は今、国の歴史の将来を決めるかもしれない戦争に対峙している。イラクとアメリカ軍の指導者らによると、すでに戦闘準備はできており、2014年当時にはなかったものがあると語る――それは自信だ。

連合軍地上部隊の指揮官ゲイリー・ボレスキー少将は、「モスル戦の後、ダーイシュは敗北するだろう」と自信を持って話したうえで、この街はISにとって「最重要」だったと付け加えた。だからといって、イラク軍が準備万端であることを意味しない。

ボレスキー少将は、モスルで「権力をどのようにを正しく行使すればよいのか」という議論が続いていると説明し、奪還作戦によって前進する代償として、報復に繋がらないようにしなくてはならないと述べた。

ボレスキー少将は、イラクでモスルがどれほど重要な都市であるか身をもって知っている。6年前、この場所でアメリカ軍を指揮したからだ。また戻ってくるとは思いもしなかったという。

イラク北部はカミラン・サドゥン、バグダッドはオマル・ハリールが取材協力

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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