28歳のトランスジェンダー、1万人に1人の難病になる。遠藤まめたさん、ダブル・マイノリティの生きかたを語る

FtMのトランスジェンダーである経験をいかして、18歳の頃からLGBTの子ども・若者支援に関わってきた遠藤まめたさん。だが2015年、28歳のときに突然「全身性エリテマトーデス(SLE)」という難病にかかったことで、遠藤さんははからずもダブルのマイノリティ属性を持つことになる。

女の体で生まれたが、物心ついたときから自分のことは男だと感じていた。FtM(女性として生まれ性自認は男性)のトランスジェンダーである経験をいかして、18歳の頃からLGBTの子ども・若者支援に関わってきた遠藤まめたさん。だが2015年、28歳のときに突然「全身性エリテマトーデス(SLE)」という難病にかかったことで、遠藤さんははからずもダブルのマイノリティ属性を持つことになる。

入院中のカミングアウト、完治の目処が立っていない難病を通して、29歳となった遠藤さんの中で新たに見えてきた課題とは?

■トランスジェンダーかつ難病、個性にもほどがある

――2015年4月に全身性エリテマトーデス(SLE)という難病を発症。トランスジェンダーというマイノリティ属性に加え、1万人に1人の難病を患うダブル・マイノリティとなった経緯を書かれていましたが、現在の症状はどうですか。

難病というと「寝たきり」みたいなイメージを持たれることもあるけど、折り合いをつけながら動いている人も多いんですよね。今の生活の実態としては、定期的に通院はしつつ、会社にも普通に通って仕事しています。至急入院を命じられた当時は「平熱が38℃前後」になり、頭はハゲるわ、腎炎になるわ、散々でした。体温が高いと健康になるって本があるけど、限度があります(笑)。

獣医学科の出身で医学的な知識があったから「死ぬ病気」じゃないことはわかっていたんですね。それでも退院してからの方が先行きどうなるんだろう、という不安はありました。難病なので原因不明かつ治らないし、意思とは無関係によくなったり悪くなったりする。多様な全身症状のどれが現れるか分からないのも、なんだかロシアンルーレット感があります。

――トランスジェンダーと難病。受容の過程に重なる部分はありましたか。

私の場合には、トランスジェンダーとして日々サバイブしてきた中で自然と身に着けていたクセは、病気になったときも役立ちました。もともと「他人と違う人生」だったし、これからも、自分のややこしい人生の面倒を観ていけばよいだけですから。

体調が悪くて病院をいくつも回っていたときは「多分この病気だけど今日はネット検索はここまでにしよう」「もしこう言われたら、次はこうしよう」という感じで、考えることを「小分け」にして乗り切っていましたね。10代の頃、トランスジェンダーだと気が付いたときの経験がここで役立ちました。性別を変えるって、時間もお金もエネルギーもかかる壮大なプロジェクトなので、一日にたくさん考えすぎると気持ち悪くなるんですよ(笑)。なので、修羅場はとにかく「小分け」すべきです。

それと、トランスジェンダーとしてこれまで生き延びたから、今回もいけるという自信もありました。もともとセクシュアル・マイノリティのコミュニティでは、性別のみならず年齢や健康状況まで、本当に様々な人と出会っていました。人間の多様性に興味があったので、自分の身体はしんどいけれど、内心では「これからどうなるんやろ?」という未知なるマイノリティ経験への好奇心もあって(笑)。深刻っぽい状況だと「おっとこれは面白いぞ」とどこかで思ってしまう自分もいました。

■非常時のマイノリティがたどる精神プロセス

――ブログにも入院中のことが書かれていましたが、いわゆる闘病記らしからぬユーモアとドライブ感がほとばしっていますね。戸籍上の「女性」の性別のまま扱われてピンクのパジャマをあてがわれる状況などは、トランスジェンダーならではの悩みですね。

最初は重病人すぎてカミングアウトする気力はゼロでした。ピンク・パジャマをきて横たわり、さながらピンク・パジャマ・ゾンビ状態だったのですが、元気になってくると「この格好では友達に会いたくないぞ」という人間的な感情がほのかに芽生えました。決定打は、カネです。治療方針をめぐって「若い女性なんだから、将来妊娠できるように月額6万円の薬をあえて使いましょう」と言われたときに、「いったい何をするんだ!?」と我に返って、かなり危機感を覚えたわけですね。

「いや、この先も子ども産むつもりないんで」と言っても「いやいい出会いがあるかもしれないでしょう?」という感じで、主治医の会話はかみ合わない。結局「いや、私はトランスジェンダーで、妊娠とかマジご勘弁なタイプなんで」と正直に言うしかなかった。

東北の震災で被災したトランスジェンダーの知人も、これと似たようなプロセスをたどっていたんですよ。最初は自分がトランスであることなんてどうでもいいと思わされてしまう。とにかく緊急事態で、水が出ないとか家が壊れたとかそういうことの方が関心が高い。トランスジェンダーであることは、その人が365日24時間やっていることだから、特段新しい苦労なんかないんです。もともと男女別トイレには入りにくいし、集団で風呂に入れないし、いまに始まった苦労じゃないから、緊急時には「それどころじゃない」って思ってしまう。

でもちょっと状況が落ち着いてくると、人間らしい感情がよみがえってきてガタッときちゃうんですよ。「非常時だからどうってことない」と思って我慢していたことが、やっぱり「どうってことある」「自分の尊厳を守るためには、トランスジェンダーであることからは離れられないんだ」と気づく段階が。

入院生活もそれと同じで、ゾンビから人間にもどってきたときにマイノリティであることに改めて自覚させられる。自分の存在をすごく危うくされるぞ、みたいなことが起きたときは、私の場合には「カネ」でしたけど、カミングアウトせざるを得ない場面もある。

カミングアウトって社会的な強者ができること、と思われがちなんですけど、実はそうじゃない。弱い人も自分のニーズを発するためにはカミングアウトしなければいけない状況がある、ということは実感しましたね。

たとえば、同性のパートナーの手術に立ち会うためには医師に同性愛者であることを伝えなければならないことがあります。トランスジェンダーでホルモン注射をしている人が被災したら、ホルモン剤を手に入れるためにだれかに事情を打ち明けなければならない。介助なしには外出が難しい人がLGBTのコミュニティに参加するためには、誰かの力を借りる必要がある。困っている人こそ、カミングアウトが必要になるケースは多いんです。

■LGBTの問題だけが劇的に改善されることはありえない

――今の段階では完治の目処が立っていない難病だそうですが、人生観に変化はありましたか?

これまではLGBTの活動家として「頑張って自分がこの社会を何とかしてやる!」みたいなエネルギーがあったんですけど、自分にできることは限られているし、できないこともある。圧倒されるしかない現象もある。できないことに対して、悪あがきをするのではなくて、長い目で観よう、肯定的に目を向けようと思うようになりました。

そもそも、世の中にはいろんな社会問題があってそれらは全部どこかでつながっていますよね。LGBTの問題に取り組んでいますが、今の日本は男女間の性差別だってまだまだ扱えていない。夫婦別姓が実現しない中で同性婚もクソもないだろうって思うけど(笑)。

どうせ100年経ったらみんな死んでしまうわけだから、そのときに人類の歴史として、どれだけみんなが前に進めるのか。今すぐ目先の、自分たちだけの利益ではなくて、みんなのために役立つことはなんなのか。そういう大きな視点を持てるようになりました。

――2016年8月からは「10代~23歳ぐらいまでのLGBT(そうかもしれない人を含む)のための居場所」づくりとして「にじーず」を立ち上げていますが、これからの時代のLGBTユース支援で気をつけるべきポイントは何かありますか?

他国もそうですけれど、これだけ情報が溢れている時代になると、低年齢で自分がゲイだったりトランスジェンダーだったり、ということを気づいていくケースが増えていくと考えています。自覚した年齢が小さければ小さいほど、周りのフォローがないとその子は孤立してしまう。だからこそ周りの大人たちが正しい知識を知っておかなければフォローできないだろうな、と思いますね。

「にじーず」もそういう流れから始まったものなんです。地方に講演に行ったときに「そういう子が集まれる場所が必要です」と話したときに「じゃあどこに行ったらいいですか?」と聞かれて初めて、あまり選択肢がないことに気づいた。ネットだと怪しい大人に会ってしまう危険もあるし、安全な場所につなごう、という話になって、じゃあ作ろうかと。10代の子どもにとって一番大切なのは仲間だと思っているので。まだ立ち上げたばかりなので色々模索中ですけど、今後も月1で活動を続けていく予定です。

■差別は「ダメ人間がすること」じゃない

――LGBTユース支援以外にも、やってみたいことはありますか?

地方と都市の格差を埋めたい、っていう気持ちがあります。東京に来れるとか、便利なところに行けるっていうのは、ある意味で「強い人」じゃないですか。でもそうじゃない地方の人たちが、どこに住んでいても希望を持って生きていけるようにしたい。

LGBTを東京だけの話にしたくないし、どこの町に住んでいても「よかった」と思える居場所を増やしたい。地方に講演にいったとき「40代の女で結婚せず生きていくこと自体がこの町では困難」とか「レズビアンだけど付き合っていた彼女が結婚せざるを得なかった」みたいな話を聞くと、やっぱりため息が出る。そういう閉塞感をなくしていきたいですね。

もうひとつは「通訳」をしたいです。差別は、ダメ人間だからすることじゃないんですよね。だれもがしているものだと思います。差別について語るとき、どうしてもお互いのボキャブラリーは限られてしまう。多数派の人は、自分を語る言葉さえ持っていません。そんな中で、立場のちがいに関するボキャブラリーをふやすための「通訳」者が増えて、もっとオープンにみんながいろんなことを話せるようになれば、状況はきっと変わるはずです。

(取材・文 阿部花恵

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