「教科書にはお金の現実が書かれていない」 聖徳学園が民間企業とタッグで金融教育する理由

「教科書で紹介されている給与明細の例が47歳・家族3人のお父さんの例。子供たちからみたら全然ピンとこない」
Kei Yoshikawa

家計簿管理アプリなどを展開するIT企業「マネーフォワード」は11月1日、「金融リテラシー」の習得を目的とした学生向けプログラム「18歳からのマネーフォワード」を開始すると発表した。第1弾の取り組みとして私立聖徳学園中学・高等学校と連携。同校の高校2年生に向けた「お金に関する授業」を実施する。

■「結婚資金、奨学金、カードローンのリスクなど教科書にない実践的な教育が必要」

この日の記者会見では、マネーフォワード取締役の瀧俊雄氏がプロジェクトについて説明。瀧氏は「社会では金融教育が重要だと言われるが、基礎的なお金の使い方について教育の量が足りていない」という問題意識から発案したという。

瀧俊雄氏

例としてあげられたのが、クレジットカードを手にした社会人の姿だ。クレジットカードでお金の管理がわかりにくくなることで、家計のバランスが崩れることがあるという。学校教育の中でも、地歴公民や家庭科で「金融教育」の項目があるが、結婚資金、奨学金、カードローンのリスクなど実践的な話は少ないという。

日本証券協会「金融経済教育を推進する研究会」の報告によると、中学・高校を問わず9割以上の教員が「金融教育が必要」だと感じており、具体的にはクレジット、ローン、証券、年金制度、リスク管理(保険でカバーすべき事象)に教科書内容に不足があると答えている。

「金融経済教育が不必要」と答えた教員は、その理由として「学校では教えるための体制性や仕組みが整っていないため」「教員がそのための知識や指導方法を身に付けていないため」など、教員側の事情を理由とする回答が挙げられている。また少数ながら「お金に関することは学校で教えるべきではないと考えられるため」意見もあった。

瀧氏は「子供たちは自分で所得を得るだけでなく、家族などからお金を借りるなど、いろいろなリソースを使って自分の夢を叶えなければならない。その基礎となる知識やリソースの使い方を若いうちから考えることで、違う動きができるのでは」と述べた。

また、金融教育の充実が少子化の解消につながる可能性があると瀧氏は語る。

国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」によると、18歳〜34歳の未婚者のうち、結婚の障害を「結婚資金」とした男性が43.5%、女性が41.5%にのぼる。

瀧氏は「教科書には書かれていないが、生きていく上で何にどのくらいのお金が必要なのかを伝えたい」「少子化の原因の一つは晩婚化。お金の不安を取り除くことで、少しでもそれを解決できれば」という考えを示した。

日本国内でもiPhoneを使った決済サービス「Apple Pay」のサービスが始まり、消費や決済の手段はより便利かつ多様になっている。2020年の東京オリンピックを見据えて、クレジットカードが利用できる店舗も増えている。一方で、今までは現金だけで管理していればよかったが、こうしたサービスを利用することで「手元にはないお金の残高」を管理することが求められるようになる。

瀧氏は「日本という国が、お金について文化的にオープンに話しにくいという仮説もある。一朝一夕には解決しない」とした上で、「正しい判断能力の元、いずれ豊かな家計を築いてほしい。知識としての金融ではなく、生きていくための金融教育を。お金に振り回されない人生を」と、意気込みを語った。

授業内容については、同社の家計簿アプリとの連携なども考えている。その他にも同社が得意とするフィンテック分野(スマートフォンやビッグデータなどの技術を使った金融サービス)の強みを活かし、お金の課題を解決するための具体的な手法や知識を伝えるという。

会見終了後、瀧氏はハフポスト日本版の取材に対し「ルネサンス時代にイタリア・フィレンツェで活躍した富豪メディチ家の家計簿とかを紹介するなど、なるべく高校生に興味を持ってもらえるような授業にしたい」と語った。

■「教科書は消費者の権利ばかり。お金をどう使うか、現実が書かれていない」

マネーフォワードと組んだ聖徳学園中学・高等学校の伊藤正徳校長も「金融教育だけではなくて根っこは同じ。まだまだ知識偏重。知識を暗記するだけではなく、考える力を養いたい」と、今回のプロジェクトの意義を語った。

伊藤正徳校長

その上で伊藤校長は、現在の学校教育における金融教育の問題点を、実際の教科書を使用しながら以下のように解説した。

消費者の権利ばかりで、お金をどう使うかという現実の話になると、たった4ページしか出ていない。これは教科書会社が悪いというわけではなく、検定を受けているので、他の教科書も同じ扱いになっている。また、社会科と家庭科に分かれてしまっているのも問題です

教科書にはいろいろな用語の定義は書いてありますが、子供たちの生活とは結びついていない。家庭科の教科書で紹介されている給与明細の例が47歳・家族3人のお父さんの例。子供たちからみたら全然ピンとこない

初任給もらったら、住民税はいつ払うのか、大人になったら年金はどうなるのか。そういったことには触れられていない

電子マネーという用語自体は説明されているが、どんな種類があって、どんなリスクがあるのかなどは書かれていない

伊藤校長は、子供たちの金融をめぐる環境の変化について、「子供たちも現金だけで生活しているわけではなく、LINE Payなどで親が知らない間に決済ができる」「昔のように小遣いとかアルバイトだけではなく、メルカリに出品したりなどネットを使ってお小遣いを稼いだりする」と紹介。現実に即した金融教育の必要性を訴えた。

その上で、「学校社会は外部の人が入ることを避ける傾向があるが、いつまでもそうではいけない。世界が変わっていく中で、先生が調べたことを黒板にチョークで書いているままではいけない」と金融教育をめぐる現状に危機感を募らせた。

注目記事