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着る服でなにが変わる? 妊婦や乳がん患者を撮る写真家が見た、コンプレックスの先にあるもの

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UNIQLO
Maki Miyashita
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あなたはどのように、毎日の服を選んでいるだろう。心地よさを求めて? 気持ちを高めるため? それとも、コンプレックスを隠すため? 

誰もがひとつは持っているかもしれない、カラダのコンプレックス。特に女性は、年齢だけではなく、妊娠・出産・子育てなど、ライフステージの変化とともに、スタイルやカラダの変化を体験する人も多い。

そうした変化の中で、女性たちはどのように衣服を選んでいるのか。女性のありのままの姿を撮り続け、その魅力を表現している写真家・宮下マキさんに、話を聞いた。

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<宮下マキさんプロフィール>
鹿児島市生まれ、東京在住。1997年、ガーディアン・ガーデン第10回写真ひとつぼ展グランプリ受賞。写真集「部屋と下着」(2000年・小学館)を出版。2001年は文化庁在外派遣員としてニューヨークへ。その他国内外で多数の個展・グループ展を開催。その後、写真集「short hope」(2007年・赤々舎)、「その咲きにあるもの」(2009年・河出書房新社)を出版。

宮下さんは映画製作の仕事を目指し、映像学科のある学校に進学した。そこで宮下さんを夢中にさせたのは、映像ではなく「写真」だった。

「当時、写真はフィルムだったので、暗室で画像が浮き出てくる瞬間が面白かったのです。映画製作は大人数で行うものだけど、写真は被写体とレンズを通して、1対1で向き合う楽しさがありました」

宮下さんは卒業後、フォトスタジオに勤務。広告写真などを手がける一方で、女性の日常や、下着姿、ヌードなどを中心とした自身の作品を残してきた。それらの作品は、被写体との距離の近さや、力強さが印象的だ。女性は服を着ているとき、服を脱いだとき、それぞれ異なる表情を見せる。

「女性の体型には個性があって、コンプレックスを抱えた人でさえも、なにかしらテーマになるようなものを持っています。その服を選び、着ている理由もそう。コンプレックスと、選ぶ服は密接に結びついているように思います」

■2年半撮り続けた乳がんと向き合う姿。そして心の変化

女性の縛りからの解放――。宮下さんが2009年に発表した作品『その咲きにあるもの』では、そんなテーマが際立っている。この作品は、乳がんと向き合うひとりの女性を、乳房切除の手術前から再建手術までの約2年半もの間撮り続けたフォト・ドキュメンタリーだ。

「乳がんの手術前に、胸のキレイな状態で、ヌード写真を撮ってほしい」、そんな、ある女性からの依頼がきっかけだった。

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乳がんの女性を撮り続けた写真集『その咲きにあるもの』におさめた1枚。

「もともとプロポーションが良く、おしゃれで、2人のお子さんを育てながらも美しい容姿を保っていらっしゃる方でした。『乳がんとわかったとき、“ママ、ママ”と抱きついてくる小さな子どもたちを抱えながら、途方に暮れた』と彼女は言っていました。子どもたちをこれから育てていかないといけない中、自分が乳がんを患った。そして、命を守るために乳房をなくす。頭ではわかっていても、体の一部を失うことへの喪失感は計り知れません。術後、彼女は乳房にできた傷跡や今までとは違う胸の感触、押し寄せてくる不安を抱え、とても落ち込んでいました」

宮下さんは、ゆっくりと時間をかけて寄り添いながら、体と心情の変化をカメラにおさめていった。乳がんの手術後は傷口が痛むため、下着が着けられなかったり、入院や通院の際には、前開きの服でなければならなかったり、といった制限がある。乳がんの女性と向き合うことで、病もまた、服選びに「縛り」があると気づかされた。

「病と闘う日々、体調もなかなか回復せず、気持ちまで鬱ぎ込んでいたと思います。それでも、華やかな色の洋服を身につけたり、キレイにメイクやネイルをしたりするだけで、明るい表情になる瞬間もありました。長い期間、彼女に密着して、撮影を続けるうちに、この写真が世の中に出たときに、同じように乳がんで苦しんでいる人々に何かしら希望を与えたい。彼女自身が、そういう前向きな感情も出してくれるようになったのです」

心を閉ざし、沈んでいても、おしゃれをすることで気持ちが明るくなり、前向きになれる。そんな、女性にとって衣服がもたらすパワーの大きさを、宮下さんは被写体の女性との関係を築きながら実感した。

■「産む人」の美しさに魅せられて

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妊娠中の女性を被写体とした『産む人』。(記事末のスライドショーで『産む人』の作品集をご覧いただけます)

女性にとって妊娠・出産は大きなターニングポイントだ。宮下さんが2010年から撮りためてきた「産む人」という作品には、命を宿した女性たちの、その時にしか見せない表情とカラダの造形が、写真におさめられている。なぜ妊娠中の女性を撮りたいと思ったのだろう?

「写真を始めた頃から、いつかマタニティフォトを撮ってみたいという願望がありました。ある日、昔撮った女性が妊婦さんになった姿を見たときに、ものすごい変化に驚いたのです。若い頃から知っている彼女がすっかりお母さんの顔になっていて、お腹の膨らみもその表情も、とにかく美しかった。女性って顔も体も変化するものなんだって。その時、妊婦さんを撮ってみたい、という思いが蘇ってきました。産むことを決意した女性の、神秘的でどこか凛とした姿を、出産まで穏やかに過ごすであろう場所で、時に愛する家族と共に、撮影したかったのです」

■妊婦になり生じた、ライフスタイルとファッションの変化

妊婦を撮り続けてきた宮下さん自身も、2015年に出産。今では、写真家としての活動を続けながら、1歳になる女の子の母親の顔を持つ。

20代の頃から撮影の現場で働いてきた宮下さんは、体を動かしたり、大きな機材を持ち運んだりすることが日常だった。「黒っぽい色や動きやすい服装で、革パンなんかも履いていました。なんとなく、女性らしい服装よりも、男性っぽいものを選んで着ていたように思います」と宮下さん。職場では男性とも対等に渡り合えるようにと意識していたのかもしれない。

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そんな日常から一変して妊婦になった。日に日に大きくなるお腹のふくらみは、それまで着ていた服が着られなくなるということでもある。

さまざまな妊婦さんの声に、耳を傾けてきた宮下さんは、「妊婦さんは、この子を守らなきゃ、という想いが強くなる」と言います。女性のライフスタイルの大きな変化と言える妊娠・出産は、選ぶ服にも変化があるそうだ。

「マタニティ服は種類が少ない中から選ぶのですが、それまで自分では選ばなかった明るいトーンの色味や、白っぽい服も着るようになりました。意外と抵抗なく、私でもこんな可愛らしい服を着てもいいんだって、新鮮な気持ちになったのを覚えています(笑)。マタニティ服やベビー服を見にいくと、白とかピンクとかやわらかいトーンの服が多いんですよね。それだけで、穏やかで、なんだか優しい気持ちになる妊婦さんは多いと思います」

■命がけの出産から、出会った小さな奇跡

被写体として向き合ってきた妊婦を、宮下さん自身が経験してどう感じたのだろう?

「自分が妊婦になって、子どもを授かることの尊さと、今しかないお腹のふくらみに愛おしさを感じました。体の中で子どもが動く胎動……あぁ、皆が言ってたのはこれなんだってひとつひとつを確かめるようでした。出産は何が起こるかわかりません。私もいくつかの予期しない事態を経験しましたが、そんな中でも、娘は生まれてきてくれました。出産って本当に命がけだと思います。小さな奇跡に出会えて感謝しかありません」

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昨年、自身の出産の瞬間をおさめた宮下さん渾身の作品。命の尊さが伝わる1枚。

■母になって変わったもの、変わらないもの

そして母になった宮下さん。日常の服選びには変化があったというが、子どもを預けて仕事に出かけるときは、かつての服装に戻るのだという。今では、そのオン・オフを楽しんでいるようだ。

「子どもが動き回るようになると、キレイな服やヒールの高い靴をはいて、毎日おしゃれするのも難しくなるのが現実です。母になって、ファッションのこだわりを捨てた人もいるでしょう。だけど、母になった人もそうでない人も、仕事だったり、日々の家事や子育てだったり、女の人ってどこかたくましくがんばっていると思うんです。そんな自分を解放してあげるものが、洋服とか、ファッションなのではないでしょうか」

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着る人を選ばない服、人が主役になれる服……。シンプルでどんなスタイルにも染まるユニクロの服は、その人の個性や生き方を浮き彫りにし、際立たせてくれるのかもしれない。
一人ひとりのライフスタイルに寄り添う、それがユニクロの“LifeWear”。

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宮下マキ「産む人」作品集
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