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これがアメリカの真の姿だった 「分断」を選び、衰退の道へ

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【ニューヨークより、ジャーナリスト津山恵子氏がレポート】

「ビジネス・アズ・ユージュアル(平常通り開業)」というのが、私が住むニューヨークのスタイルだ。大停電になっても、ハリケーンが来ても、テロ攻撃があっても、「前に進む」ことを、ニューヨーカーは誇りにしてきた。

ところが、ドナルド・トランプというニューヨーカーの1人が、アメリカ合衆国大統領になることが決定した11月8日夜、そしてその翌日でさえ、ニューヨーカーは、クールさを失っていた。9日夜は、トランプ大統領に反対するデモまで起きた。選挙の結果は覆せない。ニューヨーカーとしては、常軌を逸している。

8日の夜中、ヒラリー・クリントン陣営が勝利集会を予定していたコンベンション・センター(ガラスで作られていて、女性の昇進を阻むガラスの天井を破ることを象徴しようとした)で、若い女の子が、すすり泣きながら抱き合っていた。数人の報道カメラマンが寄ってきて、2人の姿を撮影し続けたが、彼女たちは泣き続けた。

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ホットドックやピザの包み、空き缶に混じって、クリントン陣営が配った小さな星条旗でさえ、捨てられていた。米国人がそんなことをするのは、信じられない、と思っていたら、ゴミを回収する黒人のおじいさんが、無言で星条旗を拾い集め、自分のジーンズのポケットに差し込んでいた。

近所のバーに行くと、バーテンダーや友人が、私を見て、次々に無言で長いハグをしてきた。

「デモクラシー(民主主義)とアメリカの終わりに」

と皆が何度も、グラスを上げた。

しかし、そうなのだろうか。選挙結果は、デモクラシーそのものだ。

9日朝、通りに出た途端、今年夏や投開票日直前に周った中西部や南西部で出会った保守的な人々のことを急に思い出した。彼らこそが、アメリカの「真の姿」だったと――。

私が2回の旅で、フォトグラファーとともに計約5000キロのロードトリップをしたきっかけは、ドキュメンタリー監督のマイケル・ムーアのコラム「トランプが勝つ5つの理由」(日本語訳)だ。ざっくりまとめると、中西部ミシガン州生まれのムーアは、中西部の有権者がどう行動するか知り尽くしている。彼らは、真に怒っている。彼らこそ、都会に多い軟弱な民主党支持者と違って、投票日に雨が降ろうが槍が降ろうが、何時間でも列に並んで、現状を変えてくれる頼みの綱で「アウトサイダー」のトランプに投票するという内容だ。

これを読んで、中西部に行こうと思った。また、投票率が低いとクリントンには痛手になるだろうとおぼろげに思っていた。

クリントン集会で、巨大スクリーンで見守っていた開票速報では、ウィスコンシン、ミシガン、オハイオ、アイオワといった、2012年にオバマ大統領が勝利した中西部の州が、次々と共和党の赤い色に変わっていった。

「ここでクリントンが勝てなければ、彼女が勝てる見込みは非常に薄くなります。ガラス張りでできた勝利集会会場に彼女が行くことは、間違っていると言えます」

と、テレビ解説者が言って、地図の中西部の州をペンで丸く囲った。

「ラスト・ベルト!」

と、独り言が出てしまった。それらの州は、製造業が去って斜陽の街が多い「ラスト・ベルト(サビのベルト地帯)」、そしてムーアが指摘していた「怒っている」白人有権者が多いエリアと完全に一致していた。

私が住むリベラルな大都会ニューヨークは、たまたま全米から夢の実現と富をものにしようという、人生に対する意識が「エリート」の人が集まってきている。近所のお金がないヒップスターと呼ばれる若者たちでさえ、アパートを出る時は洒落た格好をしている。新聞広告や街の看板は、現実離れをした美しいモデルやハリウッド俳優の写真に溢れている。夕方には、新しいレストランはみな制覇するつもりでいる若者やビジネスパーソンが、どっと通りに出てくる。

そしてたまたま、過去8年間、オバマ大統領とミシェル夫人という美男美女、そして黒人の夫婦が、ホワイトハウスに住んでいた。2人とも歌って踊れて、スタイルも良く、何よりも黒人であるということで、白人以外の市民に何らかの安心感を与えていた。

しかし、それは「バブル」だった。アメリカは、そんな格好のいい国ではない。

半径500キロにたった一軒の妊娠中絶ができる病院を経営していて、銃殺された医者が住んでいた街、バーで選挙の話を聞こうとしたら白人の客に怒られた街、 年金が半分になるため就職活動をしている退役軍人、小さなトウモロコシ畑を自慢にしている農家の男性、本物のカウボーイ、「ノアの箱舟」を信じているキリスト教原理主義の人々。彼らこそが、今回の選挙の「立役者」だった。

中西部、南西部の旅は、全米を歩き回って、自分の足で稼いだ経験をもとに「トランプ勝利」を予言したマイケル・ムーアを少しだけ追いかける旅だった。

投開票日前の選挙集会で、クリントンはこう訴えていた。

「この国を分断し、間違った方向へ導くのがいいのか。この選挙は、『分断』なのか、『統一』なのか、どちらを選ぶのかという選挙だ」
「私は、この選挙がいかに怒りに満ちたものだったか振り返ると、深く後悔している」

しかし、この国の約半分の有権者は(得票は、クリントンがわずか20万票上回った)、「分断」してもいいから、自分たちの生活を良くしてもらいたいという望みを託した。

トランプは、勝利宣言で、こう言った。

「分断を縫い合わせていく」

トランプは子供時代、新聞配達をしていたが、雨の日は、父親の運転手付き車で配達をしていた。トランプタワーに住み、トランプステーキとトランプワインをたしなみ、中西部の人々とはかけ離れた生活をしてきた。彼らとのギャップがどう埋められるのか、お手並み拝見だ。

ここまで書いたところで、友人がフェイスブックで「2018年中間選挙で下院を(民主党多数に)戻そう」というページをシェアしていた。「ビジネス・アズ・ユージュアル」が戻ってきてはいる。

筆者・津山恵子

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ニューヨーク在住。ハイテクやメディアを中心に、米国や世界での動きを幅広く執筆。「アエラ」にて、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOを単独インタビュー。元共同通信社記者。

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