「多くの女性が危険地に行くことも厭いません」 国連地雷対策サービス部トップのマカイユ氏に聞く

国連で地雷除去や住民向けの安全教育を手がける「地雷対策サービス部(UNMAS)」のアニエス・マカイユ部長がハフィントンポストのインタビューに応じた。

インタビューに答える国際連合地雷対策サービス部のアニエス・マカイユ部長=東京都渋谷区

国連で地雷除去や住民向けの安全教育を手がける「PKO局地雷対策サービス部(UNMAS)」のアニエス・マカイユ部長(58)が11月中旬、来日してハフィントンポストのインタビューに応じた。

UNMASの初めての女性トップとして約1万6000人の職員を率いているマカイユさんはUNMASの職員について「男性の方が保守的。多くの女性が、危険な場所に行くことを厭わず手をあげます」と語った。

毎年世界で1万5000〜2万人が地雷や不発弾などで死亡し、その多くが非戦闘員の市民で子供という。最近では地雷の埋設数が世界で2番目に多いというコロンビアで、政府と同国最大の左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)が締結した新和平案が11月末に議会で承認された。同国では、地雷の死者が1990年から現在までに1万1000人を超えその4割は民間人とされており、さらなる状況改善が求められている。

アニエス・マカイユ(Agnès Marcaillou)1958年、フランス生まれ。国連軍縮局地域軍縮課長、化学兵器禁止機関官房長、国際連合大量破壊兵器廃棄特別委員会(イラク)、国連事務総長副広報官。国連カンボジアミッションで明石康氏の補佐官も務めた。経済学学士、法学、政治学修士のほか、フランス国防高等学院フェロー、NATO・国連軍縮フェローシップ。

コロンビア南部で埋められた地雷を探す警察官=2009年3月

マカイユさん:カンボジアやラオス、ベトナムでの地雷は過去の問題だと感じている人もいます。(対人地雷の使用などを禁じた)対人地雷禁止条約(オタワ条約)は来年で署名から20年経ち、UNMASも20年を迎え、地雷について忘れてしまっている人もいるんです。

確かに状況はこの20年で改善されてきました。条約により、地雷の製造と販売の市場が縮小しました。モザンビークは2015年、「地雷ゼロ」を宣言しました。リスク教育が効果を発揮し、被害者の数が大幅に減少してきたのです。

しかし問題は終わっていません。地雷そのものによって死亡する人が減っても、それ以外での被害を受けている人が大勢います。例えば今日、空爆で(数百発の子爆弾を抱えて広範囲を攻撃する)クラスター爆弾が使われていますが、クラスター爆弾はたった1つで800個の子爆を搭載しています。

空襲でもクラスターの15%は不発弾となり、人々が家に戻ってきたり畑を耕したりする際に爆発して、死んでしまうのです。紛争の激しさが増したため使われる兵器や弾薬の量が増え、平和構築や人道援助の障害が増えました。テロリストグループなどによるIED(即席爆発装置)や自動車爆弾で死ぬ人も大勢います。

私たちUNMASが直面している問題はますます複雑になっています。UNMASは、紛争後の地域だけではなく紛争の最前線にも立っています。安定化に向けた努力は、これらの汚染が存在する限り成功することはないのです。

――地雷問題は世界中で大きな問題ですが、内戦の続くシリアでは特にひどい状況だと思います。

はい。でも、それは地雷というよりは、私が述べたようにクラスター爆弾やIEDが原因なんです。そして、地雷も依然として大きな問題です。

世界で1日に10人の地雷での犠牲者がいると推定されています。死ぬことがなくても、深刻な重傷を負う人もたくさんいます。

――地雷に関しては、状況は改善されているのですね。

良くはなってきていますが、まだ影響が残る地域が少なくありません。アフガニスタンはそうです。アフガン政府は真剣に問題に取り組んでいますが、除去を遂行するためには国際的な資金援助が必要です。

UNMASは政府と協力して、長年にわたってアフガンの地雷を取り除く事業計画を策定しました。実行には年8000万ドル(約91億円)が必要でした。 UNMASとアフガニスタンは、それを世界の国々に説明しました。除去されれば、例えば農業を再開できます。しかし現在、国際社会はアフガンへの資金提供を忘れており、現時点で計画は資金不足のため延期されています。本当に残念なことです。

地雷については、イエメンやイラク、シリア、ソマリアなどについても取り組まないといけません。ソマリアでは、18〜25歳の若い男性を雇用のために職業訓練させてています。このようにして、若者が(イスラム過激武装勢力)アルシャバブやIS(イスラム国)のようなテロ集団に入らないようにしています。

UNMASに投資することは、コミュニティーの安定に投資しているということです。地元の人たちに収入を与え、彼らに将来のためのスキルを付けさせています。ソマリアとアフガン、コロンビアで実施しています。

インタビューに答える国際連合地雷対策サービス部のアニエス・マカイユ部長=東京都渋谷区

――日本は地雷問題でどんな貢献をしていますか。また、さらに期待していることは何ですか。

重要な役割を果たしています。まず、対人地雷禁止条約に加わり、地雷の製造や販売、使用をしないということを明示しています。条約には、締約国が土地を浄化する必要のある国々を援助することを約束する内容の条項があります。日本はまた、国連の地雷対策支援に関する供託基金への最大支援国でもあります。

日本は今、国連安全保障理事会の非常任理事国で、UNMASの活動に非常に精通もしています。だから、日本が政治的支援をすることが、他の国の認識を高めることにも通じます。そのことで、UNMASはより多くの命を救うことができるでしょう。

――ところで、マカイユさんは明石康さん(元国連事務次長)の補佐官を務めていましたね。どんな印象でしたか。

彼がカンボジアミッションの特別代表(カンボジア暫定統治機構=UNTAC=事務総長特別代表)に任命された直後、補佐官としてカンボジアに一緒に行きました。1990年代初めのことです。明石さんは、今でも私のキャリアの中で最高の上司の1人です。若い女性にもチャンスを与えてくれましたが、それは当時ではとても珍しいことでした。彼は月曜日に私に電話をしてきて、「木曜日に特別代表に任命される」というんです。そしてその際、土曜日にカンボジアに一緒に行くよう私に伝えてきたんです。

私は、彼が時代を遥かに越えた紳士だったと思っています。彼は、日本は国連に積極的に参加しなければならないと考えていました。

私のキャリアの中で多くの上司がいましたが、すべてが男性でした。明石さんは、中でも「時代に先んじて」いました。すべてのステレオタイプを破り、賢明な方でした。彼によりとても保守的だと思っていた日本への印象も変わりました。私に重要なチャンスを与えてくれました彼に、常に感謝しています。

――大学卒業後は、まず弁護士として働き始めたのですね。

私は弁護士として教育を受けましたが、25歳の時に国連で仕事を始めました。国際政治や国際平和に関心が高かったんです。国連は、私よりも恵まれていない人々を助けるチャンスを私に与えてくれると思いました。私は恵まれていました。先進国で生まれ、教育を受け、家族に恵まれました。そんな私にとって、世界を良くすることができる職場は国連でした。

現在、私の職場は女性が多数で、それを誇りに思っています。日本人スタッフ7人のうち5人は女性で、さらにもう1人の女性が加わることになっています。だから今日、私のオフィスにおける問題は、どうやって良い男性職員を見つけるかということです。女性と面接をするととても意欲的で、彼女たちは実績もあります。ただ、私はジェンダーバランスを重視したいのですが。

多くの女性が、危険な場所に行くことを厭わず手をあげます。男性の方が家族のことを考えてそういった場所に行きたがらないことが多いようです。私の経験では、男性よりも多くの女性が自分の人生への解決策を自ら見つけ、そこに向かって行くんです。概して、男性の方が保守的なようですね。

――国連で働き始めた1980年代後半と比べて、日本職員の数は増えました。

ええ。当時は少なかったですね。それからの30年の動きが早かったとは思いません。日本については、国連により多くの職員を送り出すべきです。もっと多くの若者がNGOや市民団体に参加して経験を積み、国連に加わってほしい。そうしていくうちに、自分の国を良くするためのアイデアを人々と交換することになり、最終的に日本にとってとても良いものをもたらします。

――ハフィントンポスト読者へのメッセージを。

男性に対しては、女性にチャンスを与えてと言いたいです。明石さんが私にチャンスを与えなかったら、私はUNMAS部長のポストにはついていなかったでしょう。彼は女性の私と働くというリスクを取ったんですが、それは誰もができることではありません。失敗するかもしれません。でも男性は、多くの人々にチャンスを与えて下さいと言いたいです。

そして、女性への私のメッセージは次の通りです。「あなたはできない」と言う人のことは聞かないで下さい。そういう人は何ももたらしません。できると信じる人がいるから世界が動いているんです。まず、参加してください。

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地雷被害から回復するカンボジア

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