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私は「まちを健康にする看護師」。地域を元気にするコミュニティナースって?

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私たちは“看護師は病院で働く人”だと思っていないだろうか。

今、病院の外でも、そのスキルや経験を生かして地域で活動する「コミュニティナース」という新しい働きかたが、ある地方で始まっている。

「コミュニティナース」とは、地域の住民たちとの関係性を深めることで、健康的なまちづくりに貢献する医療人材。病院で働く看護師との違いは、専門的な治療を行うのではなく、「まちの保健室」の運営や、見守り、巡回などを通じて身近な安心を提供することで地域に関わり、まちを健康にする存在であることだ。

世界でもさまざまな取り組みが広がっているなか、日本での普及活動に力を入れているのが、自身も「コミュニティナース」であり、島根県雲南市で地域コミュニティづくりを実践している矢田明子さんだ。

矢田さんに、これまでの経緯や「コミュニティナース」の可能性について話を聞いた。

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コミュニティナース・矢田明子さん

■父の死をきっかけに26歳で看護師を目指す

――矢田さんが看護師を目指したきっかけは、26歳のときにがんでお父様が亡くなったことだったそうですね。

はい。高校生のときは、自分の中でなりたくない職業ナンバーワンが看護師だったんですよ(笑)。大変そうだから。でも父の看病や死を通じて「人の暮らしに寄り添い、人が死ぬまで関わることのできる看護師になりたい」と思うようになったんです。

大学(島根大学医学部看護学科)に入り、人の暮らしには医学だけではない幅広い取り組みが必要だと考えるようになりました。なぜなら私自身が、看護師の前に一人の市民として、もともとそういう意識が強く、常にいろいろな方向から考えるタイプだったからです。学びながら、「看護学ではそう言われてるんだ、なるほどー」みたいな、どこか客観的な気持ちがありました(笑)。

――「コミュニティナース」の存在はどこで知ったのですか?

1年生のときに授業で知りました。社会的なアプローチとしてソーシャルワークがあり、医療分野ではコミュニティケアとニアリーイコールで、さらにそれを看護実践することを「コミュニティナーシング」ということが教科書に載っていて。調べてみたら、ヨーロッパではすでに取り組みが広がっていると分かりましたが、身近には「コミュニティナース」として市民のいつも横にいる先輩がいなかったので、イメージしてみるしかありませんでした。看護学科では心と体へのアプローチは学べても、社会的なアプローチは学べなかったんです。

2011年、3年生のときに、雲南市が主催する次世代育成事業「幸雲南塾」を知りました。雲南市は地域課題の解決の先進地を目指し、地域を活性化する人材育成しているんです。そこで「コミュニティナースの見習い活動をしよう」と思い、「幸雲南塾」の1期生になりました。

「コミュニティナース」が分かりにくく、周囲に認められにくい現状を実感しました。「コミュニティナース」の役割がはっきり言えないと、既存の看護師が困惑してしまう。「より体系立ててすみ分けをし、見える化しよう」と思いました。たくさんの看護師が働ける形にしたいなと。

■コミュニティナースは「まち専従の看護師」

――「コミュニティナース」とは、具体的にどのような活動をするのですか。

ケースバイケースです。まずやるのは地域の人との関係性づくり。必要に応じて場を作ったり、見守りのサポートをしたりすることもあります。段取りとして型にはまったものはありません。

「看護師と何が違うの?」とよく聞かれます。「コミュニティナース」は健康的な状態のときにも接する存在で、必要があれば医療施設への橋渡しもします。ふだんの生活やまちづくりに関わる「地域看護」の領域です。看護師が病院で行う専門的な治療の補助とは異なります。

「コミュニティナース」は、一人で何かをするのではなく、地域の住民や医療機関、サポーターなどとチームをつくってみんなで地域を支える存在だと考えていただけたらと思います。これは、地域の医師や住民の方たちにも理解していただかないといけないことです。

――「幸雲南塾」に参加された後、NPOを立ち上げていますよね。

2014年、「幸雲南塾」の運営の委託を受けて塾生の活動を支援するNPO法人「おっちラボ」を立ち上げ、代表理事に就任しました。雲南市で、未来に必要な「人」と「仕事」をつくりだし、持続可能な地域を目指す中間支援組織です。

実は、大学を卒業した年に雲南市の病院の臨時職員にもなったんです。新米の保健師として週3日の病院で働きながら、「おっちラボ」の活動の一環として「コミュニティナース」の普及を目指してさまざまな取り組みを続けています。

■地域でコミュニティナースを育成する取り組み

――2016年5月からは「コミュニティナース育成プログラム」を実施されていますね。

医師や看護師の採用を手がけていたIT企業との出会いから生まれたプログラムです。その企業は、看護師の離職の多さを実感して調査したところ、多様な働きかたをしたい看護師が多数いると分かったそうなんです。それを病院側に提案してもなかなか受け入れられなかったということで、私の活動に着目してくれたんです。「地域で活躍できる医療人材の育成をやりませんか」と声をかけてくれて、私の周囲に「コミュニティナース」に興味を持っている看護師もいたので、取り組みが始まりました。

単に知識を伝えるだけではなく、「コミュニティナース」が活動するための環境構築や、「コミュニティナース」が自活できるような事業化も見据えたものです。簡単に言えば、半年間のプログラムで地域の住民から「コミュニティナース」が愛される状態をつくろう、と思いました。

第1期の「コミュニティナース育成プログラム」には、看護師や保健師の資格を持つ12名が集まり、地域住民とのパートナーシップを形成しながら「コミュニティナース」として活動する方法を学ぶ講座を行いました。

地域として選んだのは、この活動に自治体としても興味を示してくださった京都府綾部市です。市内の地域を訪問して住民の取材・交流をするフィールドワークを実施しました。

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京都府綾部市のフィールドワークの様子。地域の人々も積極的に関わったという。

――12名が実際に綾部市へ行かれたのですね。いかがでしたか?

地域の方たちが協力的だったこともあり、大成功でした。参加者の1人で、現在24歳の看護師である佐藤春華さんは、地域のおじいさんやおばあさんたちが温かく迎え入れてくださったことに感激したそうです。「初対面でヨソモノの私に、『絶対またおいでね』『また帰ってきて』と温かく言ってくれ、心を打たれました」と話していました。

さらに、「みなさんの人柄に惚れ込んで、この地域にワクワクしました。私、ここのコミュニティナースになります!」と、宣言してくれたのです。

――それはすばらしい展開ですね。

佐藤さんは、2017年4月から2018年3月までの1年間、綾部市内に滞在してコミュニティナースとしての技能を実践しながら学ぶ「綾部コミュニティナース留学プログラム」への参加を決意しています。


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第1期の「コミュニティナース育成プログラム」最終日に、今後もコミュニティナースの活動をサポートしていく意気込みを語った参加者と、綾部市の人々。

■まちを健康にする「コミュニティナース」を増やしたい

――2017年4月から始まる「綾部コミュニティナース留学プログラム」とは、どのようなものなのですか。

綾部市と連携して行う実証実験です。既存の自治会と連携して、市内の2000〜3000人程度の地区をベースに「コミュニティナース」として活動していきます。高齢者率の高い地区で、1年かけてさまざまな試みをし、行政の予算がなくなっても「コミュニティナース」が食べていけるような手段もつくっていきたいと考えています。

活動方針は「機会をつくる」「役割をつくる」「流れをつくる」です。人と地域をつなぐ企画を考え、住民と積極的に関わって出番を提供し、ルールを決めて自ら動きます。綾部市が、「コミュニティナースを育てた最初のまち」になるよう、私もサポートしていきますよ。


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都内で行われたイベント「みんなの保健室」。第1期の卒業生が「地域の健康づくり」をテーマに、どのような場をつくればいいのかを実践しながら考える企画だ。写真中央が佐藤春華さん。

――将来的にはどのようなビジョンを描いているのですか。

はじめは行政の支援で開始しますが、住民サービス事業や企業から委託を受けて行ったり、ふるさと納税制度などを活用して持続可能な事業モデルを構築したりできればと思います。2018年4月からは事業化する予定です。2017年度は1地域ですが、翌年から毎年地域を増やしていって、10年後には100地域へ広めていきたいですね。2000人規模を1地域として、住民20万人のプラットフォームの形成を目指しています。

私は、身近なところに「コミュニティナース」がいる安心感を感じてほしいと思っています。例えば、病院では言いづらい家庭の事情や、両親の介護のことなどを話せる存在って、大切だと思うんです。その存在の価値を地域が理解してくだされば、健康や生活に関する不安が少しずつ解消し、まちが健康になっていきますよね。

看護師は、“人の専門家”や“生活の専門家”とも言われています。まちの人のすぐそばで、人々とつながり、長く付き合いながら、専門性を地域で生かし、地域の健康に貢献していく人が「コミュニティナース」なのだと思います。

(取材・文:小久保よしの 写真提供:ボノ株式会社)

※「綾部コミュニティナース留学プログラム」のお問い合わせは公式サイトへ。

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