東日本大震災の被災地調査「住宅被害→認知症進行」影響が明らかに

大規模な調査で裏付けられたのは本研究が初めてだという。

2011年3月の東日本大震災と津波で大きな被害を受けた宮城県岩沼市の高齢者を対象にした調査で、住宅被害の程度が大きかった人ほど認知症の症状が進行していることが明らかになった。被災と認知症進行との関係についてはこれまでも現場では指摘されていたが、大規模な調査で影響が裏付けられたのは本研究が初めてだという。

11月18日に発表した研究グループJAGES(日本老年学的評価研究)プロジェクト代表の千葉大予防医学センター・近藤克則教授(社会疫学)は「被災地での認知症の進行を予防するため、住宅環境の早期整備や近隣との関係の再構築などの支援が重要」と指摘している。

研究グループJAGES(日本老年学的評価研究)代表の千葉大予防医学センター・近藤克則教授

研究はハーバード大リサーチフェローの引地博之氏らによるもの。岩沼市の高齢者(65歳以上)を対象に、震災前と後の認知症の程度などについて追跡調査した。JAGESでは震災前の2010年8月に市内全高齢者を対象にした調査(5058人が回答、回収率59%)を実施しており、2013年10月に再度、面接調査でデータ取得ができた3594人(追跡率82.1%)について、2010年の状態と比較、分析した。

調査の中で、認知症の進行度合いは、1点(症状なし)〜8点(専門医療が必要)の段階に応じ点数が高くなる方式で評価された。性別や年齢、教育歴、年収、生活習慣など、認知症に影響する可能性がある他の要素が排除されるように考慮されている。

調査の結果、認知症の判定を受けた回答者の割合は、震災前の4.1%から震災後の11.5%まで増加した。自宅が全壊した人は、全く被害がなかった人に比べて、震災前後で認知症が進行した度合いが0.29点高かったことがわかった。さらに、一部損壊、半壊、大規模半壊と自宅の被害の度合いが高くなるにつれて、認知症の進行度合いが高くなっていたこともわかった。

JAGESプレスリリース資料より

また、認知症が悪化した理由について、住宅の被害と関連するうつ病の発症や近隣住民とのコミュニケーションの希薄化が起こっている可能性も示唆されている。

被災地の現場では、避難生活を送る高齢者の認知症が悪化することが指摘されてきたが、これまでまとまった研究はなく、今回の調査で初めて裏付けられたという。

一方、調査開始当初に想定されていた、友人や親類の死亡と認知症進行との因果関係は見つからなかったという。近藤教授は「意外な結果だった。研究グループ内では、『高齢者では、若年層に比べて周囲の死に対する覚悟がある程度あるのでは?』という話も出たが、なぜ因果関係がないのかはっきりした理由はわからない」としている。

岩沼市は仙台市の南17.6キロの沿岸部に位置する人口4万4187人(2010年国勢調査)の自治体。東日本大震災での被害(2016年11月現在)は、直接死180人、関連死6人、行方不明者1人。住宅は全壊736棟、半壊1606棟、一部損壊3086棟、床下浸水114棟の被害を受けた。

地震と津波で壊滅した宮城県岩沼市の沿岸部(宮城) 撮影日:2011年03月24日

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