スポーツにはLGBT差別をなくす力がある。東京オリンピック前に私たちができることって?

ロンドンもリオもLGBTを多様性の旗印としてプッシュ。東京は?
Britain's Tom Daley, right, and Daniel Goodfellow pose with their bronze medals after the men's synchronized 10-meter platform diving final in the Maria Lenk Aquatic Center at the 2016 Summer Olympics in Rio de Janeiro, Brazil, Monday, Aug. 8, 2016. (AP Photo/Matt Dunham)
ASSOCIATED PRESS
Britain's Tom Daley, right, and Daniel Goodfellow pose with their bronze medals after the men's synchronized 10-meter platform diving final in the Maria Lenk Aquatic Center at the 2016 Summer Olympics in Rio de Janeiro, Brazil, Monday, Aug. 8, 2016. (AP Photo/Matt Dunham)

リオ五輪・パラリンピックではカミングアウトしている選手が50人を超え過去最多となるなどLGBTなどの性的マイノリティに注目が集まる大会となった。その背景には2014年に五輪憲章が改定され性的指向による差別の撤廃が明記されたことがある。続く東京大会ではダイバーシティ推進のためにどのような取り組みが期待されるのか。

10月20日、渋谷区商工会館で〈渋谷男女平等・ダイバーシティセンター アイリス講座 『LGBTとスポーツの現場~リオ五輪でLGBTを取り巻く状況はどう変化したか~』〉と題したスポーツとLGBTに関する講座が開催された。講師を勤めたのはNPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀さん。会場の模様を前編に引き続きレポートする。

マイクを持って話すNPO法人虹色ダイバーシティ代表・村木真紀さん

■トランスジェンダーをめぐる動き

2015年、アメリカ陸上男子10種競技の元金メダリスト、ブルース・ジェンナーがトランスジェンダーであることを告白し、女性名、ケイトリン・ジェンナーとして『VANITY FAIR』誌の表紙を飾った。このことは大きな話題となったが、トランスジェンダーのスポーツ参加はまだまだハードルが高い。

現在の国際オリンピック委員会(IOC)によるトランスジェンダーの参加要件を見てみよう。2016年のリオ五輪から、性別適合手術を受けていなくても出場が容認されるようになったことは大きな前進と言える。ただし、男性とされていた選手が女性選手として出場する場合、性自認が女性であることを宣言し、それを4年間変更しないことや、男性ホルモンの一種、テストステロンの値が過去12カ月にわたり一定レベルを下回っていることを証明するなどの規定が残されている。

馬術などを除く、ほとんどの競技が男女に分かれているということもトランスジェンダーがスポーツに参加するハードルを高くしている。今後、男女一緒にできる競技はないか、その際にはどういうルールにしたらよいかなどを考えていく必要があるだろう。

トランスジェンダー以外でも性的マイノリティのスポーツ参加には多くのハードルがあり、そのため自分たちでスポーツを楽しむイベントを作っていく動きもある。「Gay Games」や「Out Games」といった大会がそれだ。日本でも「カラフルラン」や、ホームレス支援の団体が主催し、多様な属性のチームが競う「ダイバーシティ・フットサルカップ」といった大会が行われている。

会場の様子

■東京オリンピック・パラリンピックに望むこと

ロンドンもリオもLGBTを多様性の旗印としてプッシュしていた。宗教や民族などといった多様性の中の一つとしてLGBTは捉えられていたのだ。リオの閉会式で行われた次大会、東京のプレゼンテーションでも、すでに婚約も発表している女性カップルによるダンスユニットAyaBambiが出演するなど、LGBTや LGBTフレンドリーな人たちが活躍していた。

2020年の東京大会では、協会、大会、施設におけるLGBT差別禁止の明文化が望まれる。関連企業を含むスポーツ関係者の教育も必要だろう。LGBTはどんな人たちで、どんな困り事があるのか。それをスポーツがどう解決できるのか。また、カミングアウトする選手のサポート体制も必要になってくる。東京五輪を機会に、日本のスポーツ界は、学校や職場からLGBTへのフォビア(嫌悪・恐怖)をなくすためのロールモデルになれるのか。

「スポーツ選手の言葉にはみんなが耳を傾けます。一流のアストリートがLGBTフレンドリーにふるまうことは、社会に大きな影響を与えるんです。日本はLGBTの権利に関して、まだまだ実現しなければならないことがたくさんあります。学校や職場での差別防止や同性婚などの法制化について、その土壌づくりにスポーツは役立つことができるはずなのです」(村木さん)

トランスジェンダーの活動家で、2004年アテネオリンピックでは女子フェンシング日本代表だった杉山文野さんは、こう話した。

マイクを持って話すアテネオリンピック女子フェンシング日本代表・杉山文野さん)

■東京大会でも「プライドハウス」の開設を!(杉山さんの話)

小さな頃から性別に違和を感じていた。スポーツに没頭することで嫌なことを忘れられた。試合に勝てば自分に自信も持てた。その一方でスポーツの世界では男性、女性がはっきりわけられ、男女の役割分担も求められる。それがストレスでもあった。しかし、やはりスポーツで育ててもらったという気持ちは強く、なにかしら貢献できることはないかと思っている。

先日リオの「プライドハウス」に視察に行ってきた。プライドハウスというのは2010年のバンクーバー大会から開設されるようになった施設。セクシャルマイノリティが集まり、安心して大会に参加するとともに、社会への理解を促すために情報発信するための場所。リオ大会でもプライドハウスが開設された。

ブラジルは200万人規模の世界最大級のプライドパレードが行われる国。その一方で、年間に数百人のトランスジェンダーがヘイトクライムによって命を落としている国でもある。プライドハウスにもなかなかスポンサーがつかなかった。結局、開設されたのは非常に治安の悪い地区。実際に行ってみるとちょっと身の危険を感じるような場所だった。料金未納で電気を止められたためにイベントを中止するということもあった。これは、結局スポンサーがつかず、トランスジェンダーのシェルターを運用する団体がその施設を転用(提供)したためだと聞いた。

このようなリオ大会のプライドハウスの状況は、東京五輪・パラリンピックの参考にはならないかもしれない。しかし、困難な状況でも開設することに意味があったと思う。オリンピック・パラリンピックという世界的に注目が集まる状況で、普段はアピールできない人たちがしっかりと発言していくのが大事だと感じた。自分は渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務めているので、LGBTダイバーシティ推進のフロントランナーである渋谷にプライドハウス誘致に手を挙げて欲しいと願っている。

また、国際人権NGO(非政府組織) ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗さんはこう訴えた。

マイクを持って話す国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表 土井香苗さん

■当事者も声を上げてほしい(土井さんの話)

「東京五輪・パラリンピックの英語のキャッチフレーズは〈Unity in Diversity〉。これを見て東京に来る人たちの期待に応えなければならない。私は東京五輪・パラリンピック組織委員会で、人権や腐敗防止に関する検討会(東京オリンピック・パラリンピックでの持続可能性に関する検討会)の役職についています。物やサービスを買ったり、競技場を作ったりするときの調達行動の基準があり、そこに差別の禁止などを入れていく作業を現在しています。LGBTを含む人権の重要性について私は強く主張していますが、検討会に属しているのはいわゆる人権派だけではないので、たいてい両論出てその真ん中あたりに落ちつく。Unity in Diversityが実現できるか不安な部分もあります。LGBTへの差別禁止も明文化していきたいが、外部から、当事者もぜひ声をあげてほしい」

※前編「リオ五輪で50人以上がカミングアウトしたのはなぜ? LGBTの権利向上を目指すスポーツ界」はこちら

(取材・文 宇田川しい

▼「東京レインボープライド2016」パレード(画像集)▼

「東京レインボープライド2016」パレード


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