あの人のことば

「北朝鮮の不自由さに同情」 裏舞台を隠し撮りした記録映画『太陽の下で』マンスキー監督に聞く

2017年01月15日 17時33分 JST

v paprscích slunce

映画『太陽の下で』より(© VERTOV SIA,VERTOV REAL CINEMA OOO,HYPERMARKET FILM s.r.o.ČESKÁ TELEVIZE,SAXONIA ENTERTAINMENT GMBH,MITTELDEUTSCHER RUNDFUNK 2015)

北朝鮮政府が演出した「幸せそうな家族」の裏舞台まで危険を冒して撮影し、当局の検閲前にフィルムを国外に持ち出したドキュメンタリー映画『太陽の下で-真実の北朝鮮-』が、1月21日からシネマート新宿などで順次公開される。監督を務めたのはモスクワ・ドキュメンタリー映画祭の会長も務めるヴィタリー・マンスキー氏(53)。マンスキー氏はハフィントンポストのインタビューに「北朝鮮の人々の不自由さを再認識し、その境遇に一層、共感、同情をしました」と話した。

作品は、威厳のある「朝鮮少年団」に所属する少女に密着した。シナリオや撮影場所は北朝鮮当局が用意し、フィルムは税関を通す約束で、現場に充てられた当局から「助手」たちは、少女やカメラに映る人々を演出していた。作品は、北朝鮮政府の強力な圧力と非難を受けたものの、アメリカや韓国、ドイツなど世界各国で公開され、高く評価された。

あらすじ 8才のジンミは模範労働者の両親とともに平壌で暮らしている。“理想の家族”の姿がそこにはあった。“庶民の日常”を映し出すドキュメンタリーの撮影のはずが、“北朝鮮側の監督”のOKが出るまで一家は繰り返し演技させられ、高級な住まいも、親の職業も、クラスメイトとの会話も、すべて北朝鮮が理想の家族のイメージを作り上げるために仕組んだシナリオだった。そこでスタッフは、撮影の目的を“真実を暴く”ことに切りかえ、録画スイッチを入れたままの撮影カメラを放置し、隠し撮りを敢行するが…。

vitaly mansky

インタビューに答えるヴィタリー・マンスキー監督=東京・銀座

——作品では、検閲を受ける前のフィルムを北朝鮮の外に持ち出しました。大変だったと思いますが、どうやったのでしょうか。

私は撮影をしていて、非常に残酷で犯罪的とも言える北朝鮮の独裁体制の現実を目の当たりにした証人として、どうしてもそれを国際社会に伝えたいと思いました。自分自身が沈黙することを許せなかったので、大変なリスクを犯しても撮影した素材を持ち出すことにしました。

ただし、「どうやって持ち出したのか」という質問には、残念ながら答えられません。持ち出す過程で様々な人の助けを借りました。彼らに危害が及ぶ可能性があるので、許していただきたいです。

——独裁体制の残酷さとおっしゃいましたが、以前から撮影したいと思っていたのでしょうか。

状況については、もちろん以前から知っていました。私はソ連時代の現ウクライナに生まれ、ソ連で育ちましたが、全体主義社会の存在理由に興味を持っていました。1930年代のソ連はスターリンの独裁体制下、大勢の人々が強制収容所で殺されるという弾圧、恐怖の世の中でした。そういうことも知っているので、幸せが花開く国という北朝鮮のプロパガンダに対して、そういった幻想は一切持たずに行きました。

初めは、北朝鮮に入るだけで十分だとも思ったんです。そこで目にしたものだけでも組み立てられるだろうと。しかし、想像以上に酷い状況でした。私たちは平壌のホテルからは自由勝手には出られませんでした。自由な国からやってきた私たちが、北朝鮮の人たちと同じように、不自由な空間に閉じ込められたのです。籠の中の鳥のようだと感じました。

——出演者はどう決まったのですか。

彼女は、北朝鮮が提示してきた候補者の中から選んだんです。彼女の父はジャーナリストで、母は食品コンビナートで働いていたので、いい撮影対象だと思ったんです。

しかし実際に撮影に入ると、北朝鮮は、その父に紡績工場のエンジニアを演じさせ、母も乳製品工場で働いているという設定にしました。役を与えたんです。思いもよらないことでした。

ただし、それによって彼女たち北朝鮮の人々の不自由さを再認識することについて邪魔立てにはなりませんでした。彼女たちの境遇に一層、共感、同情をしました。

——結局、ジンミが主役で良かったんですね。

ええ。多くの人から受ける質問があります。「ジンミがこの映画に出たことによって、その後、彼女が酷い目にあうことはなかったのか」と。この映画が世界各地で公開されると、北朝鮮政府はそれを逆手に取ったというか、ジンミを一層、幸せな幼年時代の象徴とすることにしたのです。

北朝鮮の一般の人々はこの映画を見られませんが、政府上層部は見ています。彼女は様々な賞をもらって、学校では彼女のポートレートが飾られるようになりました。それを質問者に伝えると、みんなホッとしてくれます。もちろん、それが彼女にとって本当の幸せかどうかは、答えが出せないでいます。

——マンスキーさんは、作品が出来上がった後に困るようなことはなかったのでしょうか。

北朝鮮はそんなふうに映画を利用しておいて、北朝鮮外務省はロシア外務省に対して文書を送りました。この作品の公開禁止と映画の廃棄、監督の処罰を求めるものでした。私については「米日韓という帝国主義の手先で、ロシアと北朝鮮の友好関係を損なう人物だ」と書いてあったそうです。

プーチン大統領の側近は、政府系の新聞上で、北朝鮮から言われたままのことを繰り返し言いました。私はとても残念で悔しく思いました。

私は、ロシア国内での公開を許してくれと4回申請をしましたが、断られました。ただし、公的な映画館はダメでしたが、民間の映画館の20館が公開してくれました。

——身に危険が及ぶことはないんですか。

私は(ロシアがクリミア半島を併合した)ウクライナ紛争を受け、2年前にロシアからラトビアの首都リガに移住していることもあり、危険を感じることはありません。


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映画『太陽の下で』

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監督・脚本:ヴィタリー・マンスキー、撮影:アレクサンドラ・イヴァノヴァ、編集:アオドレイ・ペパルヌィ、音楽:カルリス・アウザンス、プロデューサー:ナタリア・マンスカヤ  出演:リ・ジンミ 2015年/チェコ、ロシア、ドイツ、ラトビア、北朝鮮合作/110分/カラー/原題:V paprscích slunce  字幕翻訳:崔樹連  配給:ハーク 

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