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「クリントン陣営には油断と驕りがあった」民主党の選挙スタッフが大統領選を語る

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ヒラリー・クリントン陣営は、激戦州についてある程度の想定はしていたが、結果的にそれがことごとく間違いであったことを知る。

大統領選も大詰めを迎えた週、接戦とされる中西部担当の選挙スタッフからニューヨーク・ブルックリンのヒラリー・クリントン選挙本部に憂慮すべき報告が届いた。「有権者に投票を促す有給の戸別訪問スタッフが足りない」という問題に直面していたのである。

クリントン陣営は何カ月もの間、無党派層や民主党寄りの有権者たちの票固めを狙い、そして選挙にそれほど関心を寄せない投票区にも風を吹かせようと多くのボランティア組織が奔走してきた。しかし彼らはボランティアでしかなかった。次第に主要な激戦州の選挙事務所に情勢報告が入ってくると、選挙参謀が重要な役割を怠ってきたのではないかという懸念が高まってきた。

「驕り、自分たちが勝つんだという驕りがあった。それ以外考えられません」と、激戦州の選対スタッフがハフィントンポストUS版に語った。

誰もがクリントン氏の勝利を疑わなかった大統領選で、クリントン氏の選挙活動の何が間違っていたのか、さまざまな見解が出ている。これまではそうした議論に出てこなかったが、ある意味で’単純明快な説明がある。選挙参謀たちや選対本部の役員がハフィントンポストUS版のインタビューで共通して強調していたことだった。つまりクリントン陣営自らの油断が招いた敗北だった。

ミシガン州ひとつをとっても、2004年に大統領選に出馬したジョン・ケリー上院議員の時と比べ、有給の戸別訪問担当者の数はおよそ10分の1だったと激戦州の選対本部長はハフィントンポストUS版に語った。ミシガン州の民主党本部とスタッフは、なんとかキャンペーンスタッフを増やすために選挙最終週に自ら30万ドルを調達し、500人もの戸別訪問者を送り込んだ。しかしその時になって初めて、今までいかに現実に即さない暗闇の中で選挙運動が繰り広げられていたかがわかった。

ある選挙運動員は、ミシガン州フリント市のある投票区に送られた。しかしそこは、まるで焼け野原となっていた。選挙終盤になるまで誰もそこに行っていなかったため、その場所は戸別訪問リストから削除されていなかった。クリントン氏は1万2000票差でミシガン州を落としている。

クリントン氏が今までフリント市のためにどれだけ精力を注いできたか考えてみてください。彼女の獲得票はオバマ氏と比べ2万6000票も少なく、1万2000票差でミシガンで敗れました。

■ 激戦州への資金調達を拒否

ウィスコンシン州でも同じような状況だったことが明らかになった。何人かの選対スタッフによると、州の選対事務所と事務局員たちは選挙戦最終週に入り、投票呼びかけのキャンペーン資金作りに奔走して何とか約100万ドルを集めた。しかしブルックリンの選対本部は、ウィスコンシン州の労働者が支援するスーパーPAC(政治資金管理団体)「For Our Future」ですでに多くの人がキャンペーンに参加しているし、ウィスコンシン州の世論調査では今まで一度も負けたことはない、という理由で資金調達に応じなかった。

州の選対スタッフはさらに、ミルウォーキーに著名なアフリカ系アメリカ人を選挙応援で送り込むように要請した。「(娘の)チェルシー・クリントンだけでは人々の気持ちを奮い立たせる機会も限られてしまう」と、ある州の党員は言った。しかしオバマ大統領もミシェル大統領夫人も応援演説に来なかった。7月の民主党大会の後は、ヒラリー・クリントン氏本人すらミルウォーキーに足を運ばなかった。州の選対事務局が危惧した選挙区では投票率も伸びず、クリントン氏はウィスコンシン州でも敗北した。ミルウォーキー郡で2012年オバマ氏が3万2800票を獲得したのに対し、クリントン氏は2万8900票に終わった。


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「実際、現場にはスタッフもボランティアも多くいた。しかし彼らは 世論調査で6〜7ポイントリードしていたから大規模な選挙活動はしていなかった」と、前述の激戦州スタッフは語った。

政治の世界に限らず、勝利した時は多くの人が集まり自分の功績を語るが、敗北した時は誰も責任を認めず去っていく。クリントン陣営のある選挙参謀はミシガン州でもウィスコンシン州でも選挙スタッフは十分にいた(ミシガン州が200人、ウィスコンシン州が180人)と指摘した。しかしそれ以上のことをしなかった理由の一つとして、トランプ陣営と対抗するための心理戦があったと指摘した。例えば、クリントン陣営はミシガン州は接戦になると十分認識していたが、自分たちが勝利すると誇張ししてトランプ氏を突き放し、僅差で僅かな資金配分でも勝利するだろうと考えた。

クリントン氏自身、結局は投票日直前に無実が証明されたものの、私用メール疑惑の調査を再開したFBIのジェームス・コミー長官が敗因として非難した。しかし選挙終盤でビル・クリントン元大統領を含む全米各地の選対スタッフは、敗因として民主党から離れていった白人労働者階級の有権者の心をクリントン氏が十分に掴むことができなかったことを挙げている。

「これは白黒で是非を割り切れる問題ではない」と、ウィスコンシン州民主党の元議長マイケル・テイト氏は述べた。「とにかく私が言えることは、ウィスコンシン州で選挙活動をリードしてくれたスタッフはそれこそ一流の選対スタッフだった。それは間違いない。もしヒラリーが州に足を運んでいたら、結果は違っていただろうか。答えはイエスだろう。コミー長官が自分の不正行為を打ち出さなかったら当選していた? イエスだろう。選挙直前にトランプ氏がウィスコンシン州に足を運んでいなかったら我々の助けになっただろうか。これも答えはイエスだろう……しかし、ここのみんなは頑張ったと思う。ただ嫌われ者同士の戦いと言われたこの歴史的とも言える選挙戦で、クリントン陣営は目標に及ばなかっただけだ」


■ 「ステロイドを使っている相手と闘っていたようなものだ」

しかし、より根本的な原因は、多くの戦略的決定の基となったデータが、単に間違っていたことだ。勝利を強く暗示する戦略を使った選挙キャンペーンが、いつも勝つとは限らないということだ。

「我々はみんな現実に目を向けていなかった。選挙戦終盤になってもまだ先入観や偏見に左右され、現実に目を背けていた」と、ウィスコンシン州マディソンに拠点を置く民主党の世論調査専門家のポール・マスリン氏は語った。

クリントン陣営のデータで接戦が予想された中西部の激戦州に、なぜ多くの人を送り込み、強力な選挙戦を展開したのか。オハイオ州トレド市東部のオタワ郡で民主党議長を務めるアドリエンヌ・ハインズ氏はクリントン陣営は積極的に選挙活動したと述べた。しかしオバマ氏が2回とも勝利したオタワ郡の票は、今回はトランプ氏へ流れた。トランプ氏の政権公約があいまいなものだったとしても、彼の言う「経済的に衰退した地域に雇用を取り戻す」というメッセージが共感を呼んだのだろう。

ハインズ氏は、「我々は言いたい放題で、なんでも口に出す候補者を相手に戦ってきたのです。それはオリンピックでステロイドを使っている選手と使っていない選手が対戦し、ステロイドを使わずに負けた選手を非難するのと同じことなのです」と振り返った。

民主党は党再生に向けて動き始め、クリントン氏の選挙キャンペーンの失敗からある教訓を学んだ。もし候補者が勝利を望むのなら、実際その場に足を運ばなければいけない、ということだ。オバマ大統領は最近の記者会見で、アイオワ州で自身が勝利したのは、選挙期間中、何度もアイオワ州に足を運んだからだと語った。今回の選挙結果を見ると、その点でクリントン候補が劣っていたことを明確に示している。


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ワシントンポストによると、選挙戦終盤にクリントン陣営とその支持団体がネブラスカ州オマハで流したキャンペーン広告の数は、ミシガン州とウィスコンシン州を合わせた数を上回った。またNBCニュースによると、選挙戦最後の100日間でトランプ氏が激戦州のフロリダ、ペンシルバニア、オハイオ、ノースカロライナ、ミシガン、ウィスコンシンに計133回入った一方で、クリントン氏は87回だった。

選対スタップは、クリントン氏の選挙キャンペーンが存在感を示せなかったことは選挙結果に大きく響いたと語った。例えばペンシルバニア州では選挙運動はうまくいっていたし、ニューヨークやワシントンD.Cからも多くのボランティアが駆けつけた。しかし2016年の選挙にも関わり、長年草の根運動をしている運動員によると、今回のキャンペーンは民主党支持者への声掛けに集中し、他の有権者への働きかけが十分ではなかった。

ペンシルバニア州では有権者の多くが民主党に登録していることを考えれば、完全に論理的な戦略だったと言える。しかしそれは同時に、クリントン陣営は田舎町でトランプ支持者が急増したことを予期できなかったことを意味する。つまり、クリントン陣営は地方に住む有権者との対話が不十分だった。

選挙結果はこれを裏付けている。フィラデルフィア郡では、前回の選挙に比べ投票総数がわずかに減ったが、クリントン氏は2012年のオバマ氏の獲得票をわずかに上回った。しかし都心や郊外エリアを除き、彼女は完敗した。2012年にミット・ロムニー氏がエルク郡で57%、クリアフィールド郡で63.7%、ジェファーソン郡で72%の票を獲得したのに対して、トランプ氏の獲得票ははそれぞれ70%、73.1%、78.3%を占めた。

「戸別訪問をする有給の選挙スタッフは、大きなボランティア基盤を持たない候補者にとって大きな役割を果たしてくれます」と、前述の草の根運動員は語った。「ヒラリー・クリントンが多くのボランティア組織を抱えていたことは確かです。しかし、彼らが行くべき場所でいつも活動していたというと、そうではなかったのです」

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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