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「EU離脱を都合よく利用された」ヒースロー空港拡張で苦痛や立ち退きを迫られる住民たち

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ロンドン西部ヒースロー空港近郊、絵画のように美しいハーモンズワースに住む住人たち。この地にヒースロー空港第3滑走路が建設される。/ ASSOCIATED PRESS

およそ6世代前からロンドン西部で暮らすロイ・バーウィックさんは、ヒースロー空港第3滑走路の拡張が承認されたことによって、長い間暮らしてきたこの地から離れなければならないのかを危惧している。

イギリス政府は10月25日、ヒースロー空港の拡張を承認し、第3滑走路が建設されることになった。1946年にロンドン空港として開業以来、初めての拡張となる。しかし住宅密集地であるヒースローでの拡張は長年騒音などの環境悪化や立ち退きを懸念して反対運動が根強く続いている。

「私の子供たち、孫たち、そして私はこの村で4軒の家に住んでいますが、すべて取り壊しの対象です」と、バーウィックさんはハフィントンポストUK版に語った。

一家の思い出の写真が飾られたハーモンズワースの自宅リビングで、以前農家をしていたバーウィックさんは、家族が働く田畑のそばにあった小さな滑走路がいかに大きくなり、現在の巨大なハブ空港になったかを思い返した。


ロイ・バーウィックさんは生まれたときからハーモンズワースで暮らし、子供たちや孫たちは空港近郊の村に家を所有している。/ GEORGE BOWDEN FOR HUFFPOST UK

「こんな風に全てが1カ所に集中するなんて想像もしていませんでした」と、バーウィックさんは語った。「新しい考えなんて何もありません」

しかしロイさんのような住民たちにとって10年以上はっきりしなかった問題が終わる。「イギリスはビジネスにオープンです」そうスローガンに沿って、政府が極めて重要な決定を下した。

空港周辺に住む人たちの多くは、政府がブレグジット(EU離脱)以降、経済的に明るいニュースを求めて第3滑走路についての決断を急いだと考えている。


ハーモンズワースにある歴史的建造物付近の街灯に貼られたヒースロー空港拡張反対キャンペーンの貼り紙 / BEN STANSALL VIA GETTY IMAGES


ハーモンズワースの自宅から外を見る活動家のニール・ケヴレンさん。この家は境界フェンスの向かいになる予定。/ ASSOCIATED PRESS

「この計画を通すために、ブレグジットが利用されたのだと思っています」と「SHE(Stop Heathrow Expansion=ヒースロー拡張反対)」運動のニール・ケヴレンさんはハフィントンポストUK版に語った。「『私たちには滑走路が必要なんだ』とか『私たちは何としても他国に遅れを取るわけにはいかない』と言ったり、ビジネスにオープンな国だと示すためです。なんともご都合主義的な主張だと思います」

自宅の向いが空港の新しい境界フェンスになるかもしれない55歳の建築業者、ケヴレンさんは、これまで空港拡張についての話し合いの中で、政治的な策略を目にしてきた。


ヒースロー空港の北滑走路から離陸し、ハーモンズワース近郊のロングフォード上空を飛ぶ飛行機。/ GEORGE BOWDEN FOR HUFFPOST UK


ハーモンズワースは、「サン・ハウス」などのイギリス伝統建築で有名だ。/ JACK TAYLOR VIA GETTY IMAGES

「メイデンヘッド(イングランド南東部)の有権者はテリーザ・メイ首相が反対すると信じていました」と、ケヴレンさんは語った。「デービッド・キャメロン(前首相)は『問答無用で第3滑走路は受け入れられない』と庶民院(イギリスの下院に相当)で何度も固く誓い、フィリップ・ハモンド(前外相、現財務相)はモンティ・パイソンを引用して反対しました。彼らの良心は今、どこにあるのでしょう?」

今回の決定は、クリス・グレイリング運輸相が新たな計画を承認したことが発端だ。これは予定通りに拡張を進めるための1つの手段として、高速道路M25号線をまたぐ「傾斜した」滑走路を作る計画だ。

以前の計画とは異なり、傾斜は敷地の別の場所から持ってきた土で作り、混雑する6車線はそのまま保存する。パイロットは以前からこの方法では離陸時に多くの燃料を必要とし、着陸時に騒音を生むと可能性があると述べている


ハーモンズワースの歴史ある村は文化財に指定された建築物が多く、正式な保護区域だ。/ JACK TAYLOR VIA GETTY IMAGES


地元の歴史家ジャスティン・ベイリーさんは、この計画で自宅の向いが境界フェンスになる見込みだ。/ GEORGE BOWDEN FOR HUFFPOST UK

「私たちは今回の計画は即席でまとめられたものだと言っているんです。詳しいことは何も分かりません」と、地元の歴史家ジャスティン・ベイリーさんは語った。ベイリーさんの家はケヴレンさんの隣で、同じく新しい境界フェンスが向かいに作られる予定だ。「魔法のように望みを叶えようと必死な政府は、ブレグジット後にポンドが急落したため、あらゆる財政的な穴を埋めてきました」

「今、政府はまるで明日がないかのようにお金を使っています」

ハーモンズワースから1マイル(約1.6km)離れたシップソン村では、美容師のジャッキー・クラーク=バステン(43)さんがブレグジットによって政府の見解が曖昧になっていると、ハフィントンポストUK版に語った。


ヒースロー空港の新しい拡張計画と新たな第3滑走路の大まかな位置を示すハーモンズワースとシップソン村の地図 / THE HUFFINGTON POST UK


ロンドン西部シップソン。計画されている新しい滑走路の近くで美容室を営むジャッキー・クラーク=バステンさん。/ GEORGE BOWDEN FOR HUFFPOST UK

「政府は大きな欠陥のある計画を承認しました」と、バステンさんは語った。「ブレグジット後に起こるかもしれないことを考え、テリーザ・メイはイギリスがEUから離脱後に強く発展できる国だと確信を持ちたいのでしょう」

「ブレグジットでテリーザ・メイの立ち位置が動いたのは、彼女がずっと離脱後のイギリスを強い立場にしようと考えてきたからだと思います」。

「『イギリスはビジネスに開放的だ』と、政府は言いたいのです。新たな道を開き、他国と貿易関係を築くのも1つの方法だと私は思います。第3滑走路がそういう役目を果たすと言いますが、そうは思えません」


ヒースロー空港の第3滑走路建設のために取り壊しが決まった家。/ JACK TAYLOR VIA GETTY IMAGES


ヒースローの村はそれぞれが魅力的だ。反対運動で掲げられた貼り紙だけがこの拡張計画を物語っている。/ LEON NEAL VIA GETTY IMAGES

「そういう理由で政府は決断したんでしょう。まるで合わないものを無理に合わせようとしているみたいです」

ヒースロー空港の拡張を承認する基となった空港委員会の報告書は、新しい滑走路が生む利益を過剰に見積もっていたことが明らかになった。

イギリスの保守系高級紙「タイムズ」によると、ヒースロー空港の拡張で発生する新規雇用者数は、委員会の報告書で予測された数のわずか50%で、全体的な経済効果は860億ポンド(約11兆8000億円)に届かない可能性がある。


エマ・スティールさん(右)と娘のミリーちゃん(左、9歳)。ハーモンズワースの自宅前で。/ GEORGE BOWDEN FOR HUFFPOST UK

”イギリスはビジネスにオープンです。ヒースロー空港に第三滑走路を加えて南東部の空港機能を拡張させ、みなさんの役に立つ国を作り上げるために、政府は大きな決断をします。

――クリス・クリス・グレイリング運輸相”

保守党員らは第3滑走路建設決定についてTwitterでどんな反応をしただろう。 / CONSERVATIVES

ニール・ケヴレンさんのパートナー、エマ・スティールさん(47)は、滑走路ができたら教師としての仕事に影響が出る恐れがあると、ハフィントンポストUK版に語った。

「私はスラウで音楽教師をしていますが、今すでに飛行機が頭上を飛ぶと、スネアドラムがガタガタ鳴ります。あちらの方々が今後どうなるかを知っているかは、分かりません」

エマさんは「ばかげた」地区環境保護政策に裏切られたような気がすると語った。家を修理するのに数千ポンド使い、リフォームする時には既定の素材を使うよう要求されてきたからだ。

"私が率いる政府はごくわずかの特権階級の利益のためではなく、みなさん方によって動きます

――テリーザ・メイ、ダウニングストリート、2016年7月13日"



"第三滑走路をつくるなんて狂気の沙汰だ。ロンドンの環境、騒音、インフラ整備のコストを懸念する人は反対で一致している。

――サディク・カーン、2015年10月"

通行人が約束や公約を思い出せるように、政治家の発言がヒースロー周辺の複数の村に掲示されている。/ ALAN WEST/WENN.COM


ヒースロー空港第3滑走路に対する反対運動は、政府が決定を発表した後、当然ながら勢いを増している。/ GEORGE BOWDEN FOR HUFFPOST UK

「それでも、保護区域だということは滑走路建設には関係ないんです」とエマさんは語る。「私たちは文化財に指定された建造物に住み、それを手放さなければいけない。なぜそんなことが起きるんですか、どうしたらそんなことができるんですか?」

しかし拡張に対する運動や第3滑走路の経済効果に対する疑念があるにもかかわらず、自宅を売り払い、引っ越すことに前向きな住民もいる。

「長い目で利益を考えると、イギリスは航空会社の乗り入れをもっと増やす必要があるのかもしれません。どこかで起きることなんです」と、イアン・ジャーメインさん(70)はハフィントンポストUK版に語った。


飛行機雲が空を覆う。新しい滑走路が予定されているヒースロー周辺の村。/ GEORGE BOWDEN FOR HUFFPOST UK

「私はもう退職しているし、引っ越しができます。これは極めて個人的な意見で、自己中心的すぎると言われるかもしれませんが」とジャーメインさんは語った。「もう20年も議論が続いているからイライラしているんです。新しい窓を買おうか、お金を使っていいか? と考えてしまいます。ずっと保留になっているんです」

取り壊しが決まった家は、25日の発表から1時間後、ヒースロー空港からの手紙で通知を受けた。

イアン・ジャーメインさんとロイ・バーウィックさんは、今回の計画で家を失う4000人の中に含まれていて、家の価値にいくらか加算された賠償金を受け取る。


現在のヒースロー空港滑走路から約1kmの場所で取り壊しが決まった家。/ EDDIE KEOGH / REUTERS


ハーモンズワースでの思い出が詰まったロイ・バーウィックさんの心温まる写真。/ ROY BARWICK

ニール・ケヴレンさんやジャスティン・ベイリーさんら他の人たちは、滑走路が建設された後に万が一家を売る必要があれば、金額は確定していないが補償金を受け取ることになる。

しかし、「滑走路の下に埋もれる思い出はお金に換算できない」と主張する人もいる。

「家を失うというのは、誰かと死別することを除けば最も心に傷を負わせるものです」と、ロイさんは語った。「どこへも行くつもりはありません。私はここを離れません」

今後予想されるヒースロー空港の新長距離路線

ハフィントンポストUK版より翻訳・加筆しました。

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霧に包まれたヒースロー空港
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