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ISの性奴隷たちは、モスル奪還作戦で死の淵に立たされている

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家族用テントの中で2人の子供と一緒に座っているワリダさん。ISに囚われていたが、現在はイラク国内で追放されたヤジディ教徒のために設置されたイラク北部のキャンプにいる。/ SOPHIA JONES/THE WORLDPOST

【イラク北部のクルド人自治区「ドホーク」より、ハフィントンポストUS版中東特派員ソフィア・ジョーンズがレポート】

バザド・ファラン・ムラド氏の前に置かれた分厚い黒のバインダーには、子供たちの写真が溢れている。

その中にラッカに住む12歳の少女の写真がある。彼女は性器に手をやり性的に挑発するようなしぐさを見せている。彼女は1万5000ドル(約170万円)で売られている。

13歳の少女は下着を脱がされ、カメラの前で大の字になって寝転がっている。クリクリした目の男児が黒のアイライナーをしてぼんやりと空中を見つめている。ゼイナという名前の17歳の子は現金1万ドル(約110万円)で売られている。

過激派組織IS(イスラム国)はこうした写真を使い、レイプするための子供を売買している。

活動家であり調査官でもあるムラド氏は、ISからヤジディ教徒を解放するために活動している。ヤジディ教はイラク北西部の山岳地帯で信仰されている民族宗教で、中世から異端とされている少数派の古代宗教だ。


ヤジディ教徒の活動家バザド・ファラン・ムラド氏。殺害、誘拐、解放されたヤジディ教徒の男性、女性、子供の情報をチェックしている。

2014年8月、シンジャル山を包囲したISは数千人のヤジディ教徒を殺害した。シンジャル山はヤジディ教徒が数世紀にわたり暮らしている地域だ。大勢が浅く掘られた集団墓地に捨てられ、数千人以上が誘拐された。ISの性奴隷だった被害者の救済にあたっている国際弁護士アマル・クルーニー氏は、ヤジディ教徒の生存者ナディア・ムラドさん(23)の代理人を務め、ISの指導者たちを戦争犯罪で訴追するよう国際刑事裁判所に訴えている。

10月17日早朝、アメリカの主導でイラク軍がイスラム国の主要拠点となっているモスルを奪還する作戦を開始した。19の連合国が支援している。しかし、モスルには依然として3000〜4500人のIS戦闘員がいる。ムラド氏のような活動家の努力もむなしく、連合軍はヤジディ教徒の人質の安全を保障できないままだ。

国連は、この作戦で最大100万人が土地を追われ、一般市民が「人間の盾」となるか、または毒ガスで殺されると警告している。過去数年で「最大の人災」になるという。

26歳のワリダさんは「妹はどうなるの?」と尋ねた。ワリダさんはイラク北部のモスルにあるヤジディ教徒が避難するキャンプに4人の子供と他の血縁者と一緒に暮らしている。

「とても心配です」と彼女は話した。


ワリダさんには5人の姉妹がいるが、イラクとシリアでISに拘束されている。個人の情報を保護するために写真はぼかしてある。GETTY IMAGES/HUFFINGTON POST ILLUSTRATION

ワリダさんの5人の姉妹はいずれもISに拘束され、夫と数十人の他の親族も一緒に囚われている。16歳になる妹のガリアさんはモスルでISの性奴隷となっていると、ワリダさんは話す。モスルはワリダさんの住む場所から50マイル(約80キロ)しか離れていない。無謀に思えるが、ワリダさんは姉妹たちの居場所を突き止め、救出する決心だ。


【参考記事】IS(イスラム国)がヤジディ教徒を大量虐殺、性奴隷に 国連調査委が公表


ガリアさんと話せるなら、何と声をかけますか、とワリダさんに尋ねると、彼女は「一緒にいてもらいたいです!」と泣き叫んだ。

兄のナシュワンさんは「彼女がまだイラクにいて嬉しい」と話す。「作戦が成功したら、彼女と会うことができるかもしれません」

部屋には他に希望を持っている人は誰もいないようだ。ISに囚われている人と接触した生存者や家族からは、ISがヤジディ教徒や他の市民を人間の盾として使っているという話が多く聞かれる。

■ IS戦闘員にレイプされ、子供を生んだ少女

ワリダさんは、そうした人々に降りかかる運命がどのようなものであるかよく知っている。彼女自身が奴隷状態から逃れたのだ。ISの戦闘員は何度も彼女の頭を蹴ったが、レイプはしなかった。彼女は拘束中、夫との間に子供を妊娠し、ラッカにあるISの監禁所で女の子を出産した。

過激派集団は、彼女の幼い娘に熱した鉄をあてた。もしワリダさんが娘に汚れた黒い粉を塗らなかったら、レイプされていたかもしれないという。2人の若い息子は少年兵として強制的に訓練された。ひとりはそのトラウマから今でも向精神薬が手放せない状態だ。

ワリダさんは電話を取り出し、11歳の少女シファさんの凄惨な写真を見せてくれた。2015年夏にレイプされ、殺されたという。

「私たちの目の前でレイプされました」と彼女は淡々と語った。「忘れることはできません。永遠に記憶に残ります」

ワリダさんはよく苦痛にうなされる。彼女がすすり泣く音声メッセージを送ると、9歳の妹アマルさんの声が聞こえるという。

「コウラはここにいません。ドゥンヤもいません」と、アマルさんはすすり泣きしながら姉妹と友人について話した。「アシュワクとウェヤムもいないのです」
「ナシュワン、あなたがいなくて寂しい」彼女は泣いた。「あなたの声を聞くことができなくて、写真も見ることができないなら、私は死にます」
「アリファ、私がどれほどあなたのことを思っているか、分かっているなら……」と、彼女は母親に向けた音声メッセージで語った。「アリファ、あなたに会えなく、写真も見れず、声も聞けないなら、私は死にます」

アマルさんはいつも無料通話アプリWhatsAppにメッセージを送ってくる。情報が漏れないように監視しているイスラム国の目を盗んで、送信している。

そうしたメッセージは家族にとって救いとなっている。少なくとも、彼女が生きていることを知るからだ。しかし、悲痛な思いもある。助け出すことができないのだ。


【参考記事】IS(イスラム国)の凄惨な性暴力の実態 少女を「タバコ1箱」の値段で性奴隷に


ワリダさんの別の妹で14歳のドゥンヤさんは、すでにISの戦闘員との間に子供を生んだ。レイプされたのだ。ナシュワンさんに送られた写真には、全身を黒い布で覆った女の子が写っている


PROVIDED TO THE WORLDPOST BY NASHWAN


■ 困難を極める救出作戦

クルド自治政府のヤジディ問題事務局長カイリ・ボンザニ氏によると、ISは未だに3735人のヤジディ教徒の男性、女性、子供を拘束しているという。モスルに何人いるか正確には分からないが、イラク最北端ドホーク県のヤジディ教徒は数百人いると推測されている。

過去2年間で数千人のヤジディ教徒が脱出・救出されているが、救出は困難になってきている。ワリダさんと彼女の4人の子供は、クルド地域政府が仲介者に3万5000ドル(約390万円)を支払ったため、辛うじて逃げ出すことができた。この金は彼女らを拘束したISの自腹を肥やすと、ワリダさんの家族は話す。

時間と資金が尽きかけている。ワリダさんの家族は、もし資金があったとしても、性的に魅力がある若い少女を返してはくれないだろうし、少年は強制的に兵士にされるという。

金で解決することは別にして、家族らにはISから愛する人を救う選択肢がほとんどない。唯一の希望は逃げ出す方法を見つけることだ。ISの支配下で、誰かが密かに逃げ道を作ってくれるか、または治安部隊が救出するのを待つしかない。

ここ最近の作戦では、治安部隊がイラクの町や都市から過激派を掃討したが、辛うじて脱出できたヤジディ教徒の女性や少女は、ほんの一握りだけだと、政府職員は話す。過激派は撤退するときに、拘束している大部分の人を一緒に巻き込み、ISの支配地の奥まで連行する。

クルド自治政府のボンザニ氏によると、「ISの支配地域にいるヤジディ教徒の情報はあるのですが、支配地域が解放されても、ヤジディ教徒はそこにはもういないのです」という。「拘束されていた家屋も見つかっているのに、彼らの姿はありません」


炎上する油井の近くを歩くイラク人男性。ISが産油地域ケイヤラから逃げるときに火を放った。2016年8月30日の写真。この地域では、ISが女性と少女を性奴隷として拘束し、ある地点では、数百人が郊外の飛行場に監禁された。8月にイラク軍がケイヤラからISを掃討したとき、救出された人は一人もいなかった。/ SAFIN HAMED/AFP/GETTY IMAGES

最近、誘拐された少女の家族と話をしたムラド氏によると、ISはすでにモスルに拘束されていたヤジディ教徒を、国境を超えて隣国のシリアに移したという。

これは過激派集団が拘束されている人々をラッカのような場所に移送したことを意味する。ISの中堅指揮官のひとりが、シリアに「人間の盾」を送ったと「ウォール・ストリート・ジャーナル」に語った。また、「奇襲攻撃」を仕掛けるかもしれないとも話している。彼らは自爆攻撃や偽装爆弾を使い、シリアへ逃れようとしている。

ISの支配地の奥では、アメリカ軍や地元の軍による作戦は非常に危険なため、救出はほとんど不可能に近い。

ここ1年間にイラクで3人のアメリカ軍兵士が死んだが、その中のひとり、ジョン・ウィーラー曹長はISの人質を救出するときに死亡した。人質らはその翌朝に処刑される予定だった。彼にとって14回目の救出作戦だった。クルド人民兵組織ペシュメルガの複数の兵士もこの任務で負傷した。

ハフィントンポストUS版ではこれまで、モスルで少なくとも1回は救出に成功したことがあると報じている。9月中旬、モスルのスンニ派アラブ系住人が20歳のヤジディ教徒の女性を、厳重に監視されたこの都市から密かに脱出させた。彼女を人質にとっていたISの兵士が戦闘で死んだ後のことだった。

女性はモスルの保護施設にいたが、そのアラブ系住人はアメドという名の彼女の兄と接触した。アメドはハフィントンポストUS版に、妹の名前や詳細な情報は出さないで欲しいと頼んだ。ISに拘束されている他の10人の血縁者が危険にさらされる可能性があるからだ。

モスル出身のアメドと、イラクのクルド治安部隊、クルド人民兵組織ペシュメルガ、アメリカが主導する連合軍が共に救出計画を策定した。

まず、アメドがイスラム教の休日イード・アル=アドハー中に、他の場所にいる家族を訪問するための許可をIS側からもらった。そして、アメドとその家族がモスルから脱出するときに、アメドの姉妹も一緒に連れて行った。また、その途中に、タッル・アファルで拘束されていた別の姉妹も連れ出すことに成功した。

彼らは夜に逃げ、IED(即席爆発装置)を避けて道を進んだ。アメドによると、連合軍の飛行機が上空を飛び、彼らを保護したという。車が壊れたとき、9人の一行は暗闇の中を数時間かけてクルド人民兵組織ペシュメルガの軍隊が待つ場所まで歩いた。

「信じられなかった」とアメドは振り返る。姉妹を助け出すことができて神に感謝しているという。


クルド人民兵組織ペシュメルガの軍隊。イラク北部ヴァルダクの村の近くにて。2016年10月17日、モスル奪還作戦へ向かう。/ ANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

アメリカ軍は詳細についてコメントしていないが、「キャンプ・スウィフト」と呼ばれる連合軍基地で指揮官を務めるブレット・シルヴィア陸軍大佐は、アメリカの部隊は同じような救出作戦を支援していると語った。

シルヴィア大佐は、2016年、イラク北部で第75騎兵連隊第1大隊のアメリカ軍が、イスラム国の支配地から50人ほどの市民が脱出するのを支援したと話した。

暗闇の中を歩き、ISが攻撃や救出を阻むために埋めた地雷のある場所を通ったのだが、道が見つからず、うまく逃げることができるかどうかも分からない恐怖を抱えていた。しかし、アメリカ軍が照明弾を使い、イラク治安部隊が待つ場所まで彼らを導いた。

「照明の輪に向かって歩くように指示しました」と、シルヴィア大佐はそのときのことを思い出して語った。「彼らは味方(イラク軍)のいる場所を真っすぐ歩きました」

しかし、ヤジディ教徒の多くは、アメリカが主導する連合軍と、バグダッドのイラク政府、そしてはクルド人自治区の中心都市アルビルは、ISに囚われている人質を救出するための努力を十分にしていないと話す。ヤジディ教徒らは、愛する人が恐怖を与えている過激派と共に殺されるのではないかと心配している。または、救出するにはほど遠い場所の国境で消えてしまうと思っている。

「私は怒っています」と、ムラド氏は写真をまき散らし語った。「人間性がみじんもありません。誰もが無関心です」

それでも、彼を止めるものはない。彼は仲間たちに対する残虐行為を記録し続けると話す。被害者の情報を取集し、救出網を監視して、地元の治安部隊や政府高官と共に活動するつもりだ。おそらく、彼はもうひとりの命を救うことができるだろう。

これまでのところ、彼は11人を救っている。

取材協力:カミラン・サドウン ISに拘束されているヤジディ教徒の身元を保護するため、名前を変更している人もいる。

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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