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AIと結婚する時代はすぐそこかもしれない。研究者に聞く、人工知能が活躍する未来の生き方

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EISAKU MAEDA
The Huffington Post
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映画や小説など、SFの世界にたびたび登場するAI(人工知能)。「スター・ウォーズ」のR2-D2、「機動戦士ガンダム」のハロといったロボットも、AIの技術が使われている設定だ。そう聞くと、AIはまだ身近なものではない、と感じてしまうかもしれない。

しかし実際には、すでに現代社会においてAIは様々な場所で活躍している。さらに2045年には、AIの知能が人間の知性を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れるとも予測されている。その結果、人間の仕事がなくなるのではという悲観的な見方もあれば、人間は日々の雑務をAIに任せてクリエイティブな日々を送れるのでは、といった楽観的な視点もある。いずれにせよ、社会が大きく変貌しそうだという予感は、多くの人が共有しているものではないだろうか。

現代におけるAIとは、そしてAIと共に暮らす未来はどのような姿となるのか。「情報」と「人間」を結ぶ新しい技術基盤を研究開発している、日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所所長・前田英作博士に話を聞いた。

すでに私たちの日常生活に溶け込んでいるAI

AIというと、まだそこまで生活に溶け込んでいるイメージはないが、現時点でどのように私たちの生活の中で活用されているのだろうか。

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「意外に思われる方もいますが、身近なところでは、NTTドコモの『しゃべってコンシェル』やiPhoneの『Siri』などで使われている音声認識エンジンも、AIがもたらしたもの。ユーザーの話した内容を理解し、データベースから適切な情報をピックアップして、知的に応答する自然言語処理サービスです」

「私たちの研究所では、過去30年分の新聞記事をデータとして持ち、そこから答えをはじき出す質問応答という技術の研究を2000年くらいから始めました。2005年にはSAIQAという質問応答システムを完成させ、そうした過去に蓄積した技術をベースに、『しゃべってコンシェル』を開発しました」

「他にもAI技術が古くから使われている例として、金融の自動取引などがあげられます。統計的な機械学習技術を使うことによって、取引の最適化と自動化を実現しているのです」

人間を目指し、そして人間をはるかに超えていく。AIが目指す、2つの方向性

前田博士によると、AI技術には大きく分けて2通りある。

「まず1つ目は、人間の能力を模して、人間と同じ能力をもたせようとするもの、あるいはその途上にあるもの。これは、前述した『しゃべってコンシェル』やロボットを東大合格させようというプロジェクトの『東ロボくん』などが当てはまります。また、家庭に普及しつつある掃除ロボットや、工場内で製造物の品質管理をする産業ロボットなどに使われているAIも、こちらに含まれます」

「2つ目は、人間をはるかに超えた存在を目指すもの、あるいはすでに人間を超えているもの。例えば、今年ニュースでも話題になった『アルファ碁』のようなゲーム用のAIです。将棋や囲碁の対戦用AIは、今では電脳の神の一手を打ち、人間のプロ棋士に勝利を収めるほどの知能を身につけています」

「こうした2種類の研究開発を進めることによって、現在のAI技術の限界、そして人間の限界が明らかになってきます。双方の強み、弱みをできるだけ明確に、精細に把握することが非常に大切です。そこから、近い将来やってくるAIと人間との共生社会の姿かたちが見えてくると思います」

街を1つの知能でつなぐ。近年におけるAIのムーブメント

ここ数年、一般社会にも広まってきたAI。このムーブメントはどのように生まれたものなのだろうか。

「1980年代ごろには深層学習(ディープニューラルネットワーク)の基本原理と潜在的能力はわかっていたのですけど、その能力を活かせていませんでした。しかし、コンピューターの進化によって大量で、複雑なデータを動かせるようになりました。そうした歴史的背景の中で、研究者が顔や物体の画像認識に深層学習を使ってみたところ、びっくりするような高い性能が出たんです。他にも、音声認識で同じようなことが起きました。10年くらい前のことです」

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「最近の活用例としては、IoT (Internet of Things)があげられます。ネットワークでつながった街のカメラ、センサー、マイクがクラウドAIによって知能化されるのです。街角のカメラが人の顔を、マイクが人の声を認識して個人認証するとか、音声認識してテキストで返すといったことが可能になります。さらに、車から日常生活の小道具まで、あらゆるものがネットワークにつながり、そこに様々な情報が行き交う時代が来ています」

人間の識別から、人間の複雑な感情の解読へ

人間の様々な属性を識別するパターン認識という技術は、さらに人間の感情を読み解く段階に来ている。例えば、高度な対応が必要とされる企業のコールセンターなどにおいても、AIの技術を使って自動応対させるシステムが普及しつつある。

「私たちもグループ全体でビジネス展開しています。コールセンターでは、顧客が声を荒げて怒っている(ホットアンガー)、声は荒げていないけど感情は怒っている(コールドアンガー)という状態を見極めて、対応を変える必要があります。この判断をAIによって自動化することで、様々な状況において顧客の満足度を高めることができます」

恋に落ちた瞬間も認識できる?感情の“芽”を読み取るAI

感情を読み取れる技術は、さらなる発展の可能性を秘めている。

「私たちは感情だけではなく、本人も気づかないような心の動き、すなわち情動をも認識する技術の研究開発にも取り組んでいます。瞳孔の開き、瞬きの回数、視線の動きなどによって、相手の心の状態がわかってしまうのです。無意識の顕在化と私たちは呼んでいますが、本人が気づく前に、身体は反応しています。例えば誰か好きな人ができたとき、昔を振り返ってみると『いつの間にか気になっていた』なんてことがありますよね。AIは、そんな変化を見逃さず、人が恋に落ちた瞬間を記録する、なんてこともできるようになると思います」 

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AIと結婚という選択肢も。私たちはこれからどう生きるべきか

こちらの感情、情動を読み取ってくれるAIがいるのであれば、一緒にいて居心地もいいはず。

「将来は、AIと結婚するなんてことも起こり得るかもしれませんね。『AIと結婚』と聞いて、SFでもあるまいし、とまず思うわけです。私もそうでした。でも少し落ち着いて考えてみると、あり得る未来の1つかも知れないということに気がつきました。すでに心の癒しとしてペットロボットがあり、それらに愛を寄せている人もいるわけです。それならば、ベストパートナーとしてAIを選ぶ可能性もあるでしょう」

残念ながら人間のパートナーが見つからなかったとしても、自分のことを深く理解し、サポートしてくれるAIと結婚生活できる。そんな未来が本当に来るのだろうか。

「AIと結婚しようとすると、まずは社会制度上の壁にぶつかりますが、同性婚が法的にも認められるようになってきました。それなら、生物としての子孫が残せないロボットが相手でもいいのではないか、というように私たちの価値観が変化してくるかもしれません。また、子孫が残せないと生物学上の種は絶滅してしまいます。しかし、人工授精に代表される生殖医療の進歩によって、生物学的なパートナーがいなくても自分の遺伝子を受け継ぐ子どもを残す方法は、すでにあるわけです」

「AIの社会進出によって、結婚をはじめとした社会制度を根本から問い直す時代がくるだろうし、そこから新しい文化人類学が生まれると思いますね。いつかやってくるかもしれない究極の世界を想像してみることで、そこに至る過程にある次の世界が手探りながらわかってくる気もします。ただ、シンギュラリティは本当にくるのか、という話もあります。すべてのAI技術が一斉に人間を超えることはないでしょうが、少しずつじわじわと人間社会に入り込み、知らず知らずのうちに人間との共生関係がすでに生まれている。AIが発展しても生物である人間は残っていると思うのですけど、社会生活は大きく変わるでしょうね」

もし自分たちより知性のあるAIが出てきたとして、一緒に生きていくためにはどんな心構えであるべきだろうか。

「大切なのは、自我の確立でしょう。人間同士でも同じかもしれませんが、自分が自分であることを、自分の存在価値、意義を認識することです。自分とは何か、という問いに答えられるのは自分自身しかいない。そして、その答えは他とのコミュニケーションによって見つけられるもの。その『他』の中の1つとして、AIが加わってくるわけです」

それこそ、AIに告白したら振られてしまい、自我が揺らぐなんていう未来も。

「それもあると思います。なかなかいい経験になるのではないでしょうか(笑)。新しい文化人類学とはそういうことです」

(取材・文:武者良太 / 撮影:西田香織)