「ファンタスティックな男だ」トランプ氏がパキスタンの首相をベタ褒め。その危険性とは?

パキスタンの文民体制そのものが懸念材料だ。

パキスタンの軍事パレード

パキスタン政府は11月30日、パキスタンのナワズ・シャリフ首相とアメリカのドナルド・トランプ次期米大統領との電話会談の内容を公表した。パキスタン情報省によると、トランプ氏はシャリフ首相のことを「ファンタスティックな男」で、「長年の」知り合いのような気がすると言い、パキスタンという国について「とてつもないチャンスに恵まれたファンタスティックな国」と称え、「ファンタスティックな国の、ファンタスティックな人たちがいるファンタスティックな場所にぜひ行ってみたい」と語った。

これまでトランプ氏がパキスタンを「テロリストの国」の1つと位置づけ、大統領選でイスラム教徒の移民の受け入れを停止する公約を掲げていたことを考えると、トランピネス(トランプ氏のトレードマークともいえる過激な口ぶりを指す最近の造語)と、パキスタン政府の取り合わせは非常に面白い。

しかし今回の電話会談の背景には、負の側面もある。

パキスタンの専門家たちはすぐに気が付いた。パキスタン政府がトランプ陣営側の発表とは解釈が異なる会談内容を発表したのは、トランプ政権の罪深さ、つまり、これまでのトランプ氏の慢心を攻撃するものになるからだ。

パキスタンの新聞「ドーン」のコラムニスト、シリル・アルメディア氏は次のようにツイートした。

トランプ氏が基本的に恥をかかされたり、嘲笑されることを嫌うのは明らかなのに、なぜパキスタン政府側はそのリスクを冒したのか? 2つのバージョンを比べてみよう...

アメリカとパキスタンに強固な関係を結ぶ機会を、メディア(トランプ氏が信頼を置いているように見えるCNNも含め)が面白おかしく取り上げてしまったため、パキスタン政府はトランプ政権への影響力を弱めてしまった。近年、アメリカ議会で強まっているパキスタンへの批判を考えれば、今、ホワイトハウスからの支援が弱まることはパキスタンにとって非常に都合が悪い。

パキスタン人アナリストのモシャラフ・ザイディ氏は、パキスタン政府のリーダーシップの「無能」ぶりからくる失敗をこう非難した。

なぜパキスタン政府は他国のリーダーとの会話を公表したのか? 無能で、近視眼的で、傲慢だ。もっと言えば、文民統制の崩壊だ。

パキスタンの文民体制そのものが懸念材料だ。

パキスタン軍は、シャリフ政権下で長年(それ以前のパキスタンの歴史上かなりの期間)影響力を持ち続けている。ただし、民主的に選ばれたという首相もうわべだけのものだし、軍はテログループの国内への侵入を食い止められないようだが。

軍の影響力が強いために、文民のリーダーや政府高官たちは、本格的に政治手腕を振るうために必要な経験を積むことができない。軍には多少経験があると言えるようだ。だから軍が「"愚かな文民ども"では1億9000万もの人民を抱え、核兵器も所有しているこの国を治められるはずがない」という口実を与え続けている。

30日に公表されたプレスリリースは、パキスタンの腐敗のひどさを象徴している。そして、パキスタンの未来が軍隊に委ねられていることも示している。軍はパキスタン、アフガニスタン、そしてその地域のイスラム原理主義者の戦闘意欲を煽り、国内の宗派や民族の分断を意図的に悪化させ、国内の問題よりも国外の脅威、特に歴史的にライバル関係にあるインドに、国全体の注意を向けさせてきた。

アメリカにとっては、アフガニスタンを支配したがるパキスタンを遠ざけ、混乱状態に陥らないよう15年も干渉を続けていることに注目を集めたくない。だから弱体化したパキスタンの現状はアメリカにとって都合が悪い。トランプ政権は難しいかじ取りを迫られる

次期大統領ドナルド・トランプ氏の住居トランプ・タワーに到着し元アメリカ陸軍中将マイケル・フリン氏。国家安全保障担当大統領補佐官としてトランプ氏に指名されたフリン氏は、イスラム原理主義者と関わるパキスタンを敵対視している。

次期政権の外交政策は安心して見ていられない。政権移行チームは、パキスタン側が公表したようなトランプ氏の発言を確認していない。その内容はかなり違っていて、「将来に向けての強い協力関係」を気づくことや、トランプ氏とシャリフ首相の個人的な関係強化について述べているに過ぎない。

トランプ氏が、パキスタン政府内で影響力がそれほどなく人間的魅力にも欠けるシャリフ首相と熱心に友好関係を持とうとしたかのような発表には戸惑うばかりだ。外交経験のない次期大統領はもしかすると、パキスタン国内で偉大な軍人として尊敬され、アメリカ陸軍内にも多くのファンを持つ、ラヒール・シャリフ元陸軍参謀長と話しているの信じ込んでしまったのではないかという疑問が浮かんでくる。

特に問題なのは、トランプ氏がアメリカ国内の外交や情報の専門家たちに相談する前に、国外の首脳と話してしまい、自分の行動がいったいどんな影響を持つか理解していないかもしれないことだ。すでにインドは、トランプ氏がパキスタン訪問を約束したことに怒りを見せている。インドは、9月18日にインド軍の兵士17人が襲撃を受けて死亡した事件はパキスタンによるものだとみており、アメリカとパキスタンの関係に神経質になっている。

トランプ氏は、パキスタンとバランスをとって関係を構築してきたアメリカ政府の努力を無駄にしたくないはずだ。トランプ氏は、金儲けができる途上国としてインドを強力に支持してきたし、インド系アメリカ人の支持を積極的に取ってきた。

彼がこの地域の緊張をどうするつもりか真剣に考えているのかは不明だ。トランプ氏は、今回のような電話会談で混乱を招こうとしただけなのだろうか。

トランプ氏に国家安全保障担当大統領補佐官に指名された元アメリカ陸軍中将フリン氏は、過激で好戦的なイスラム原理主義者とつながるパキスタンを敵対視している。あるインド系のトランプ支持者は、次期政権がパキスタンをテロ支援国に指定することもありうると語った。しかし、南アジア情勢にくわしい専門家たちの中には、そのような過激な方法はパキスタンを刺激し、問題をただ悪化させるだけだと警告する。

政策の議論と透明性が、トランプ政権への移行期間に失われてしまっている今、不思議なタンゴを踊っているようなこの瞬間を、敵味方があいまいな核武装国の神経を鎮めさせる鍵となっている。

追記:パキスタン情報省は1日、3度目のプレスリリースを発表し、従来の慣習に沿った電話会談内容を発表した。論議を呼んだ30日のプレスリリースは、同省のウェブサイトに掲載されたままだ。

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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USA-TRUMP

トランプ・タワーに集まる人々

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