奪還作戦が進むモスル、ISの化学兵器に苦しむ人々「大勢の人に恐怖を与える」

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アメリカが支援する部隊、モスルでIS(イスラム国)の化学兵器使用に備える

【タザ(イラク) よりレポート】

ロケット弾が撃ち込まれたとき、4歳のファティマちゃんは外で遊んでいた。かなり前から過激派組織IS(イスラム国)によるテロが頻発するようになり、それからは町全体にテロリストが潜んでいた。

しかしその日、3月8日は今までとは違う種類のテロが起きた。

ファティマちゃんの母ゼイネップさんは、耳慣れたロケットの発射音が聞こえたとき、全力で玄関の外へ走った。ゼイネップさんは「ファティマ!ファティマ!」と叫びながら娘を捜した。

幼い娘はマスタードガスが充填されていたロケットの前に立っていた。翌日、ファティマちゃんは他の2人の子供たちと共に亡くなった。子供たちの小さな体と臓器は有毒な化学物質に耐えることができなかった。ゼイネップさんは生き延びたが、腕、胸、首に大きな傷跡が残った。


町が化学兵器による攻撃を受けてから7カ月後、娘の一人と座るゼイネップさん。今でも傷跡と火傷に苦しんでいる。

アメリカが支援するイラク軍・クルド人部隊は10月17日に大規模な作戦を開始し、イラク第2の都市モスルに到達した。ISにとって「最後の砦」であるモスルを守るために、化学兵器を使用した可能性がある。

クルド自治政府の軍事組織「ペシュメルガ」で協力関係部門を統括するハジャル・イスマイル准将はインタビューで「ISはさらに化学兵器による攻撃を仕掛けてくるでしょう」と述べた。「"ダーイッシュ"(中東でのISの蔑称)は前より弱体化しているため、自分たちの身を守るために地雷、即席爆発装置(IED)、化学兵器を使う必要があるのです」とイスマイル准将は語った。

ペシュメルガとシリア国民も、ISの化学兵器による攻撃にさらされてきた。イスマイル氏によると、ISはペシュメルガに対して15回以上も化学兵器を使用したという。こうした攻撃のごく一部は地元や国際的なメディアで報道されているが、ハフィントンポストUS版では数を把握できていない。

イスマイル氏によると、ペシュメルガは1万2000〜1万5000個のガスマスクを持っているが戦闘員全員には行き届いていないという。ハフィントンポストUS版ではモスル奪還作戦初日の10月17日、前線付近でほんの少数のガスマスクを確認しただけだった。

あるアメリカの当局者はロイター通信に、ISが撃ち込んだロケットの破片の化学成分を調査していると述べた。

ニュージーランド国防軍 が#イラク軍 に正しいガスマスクの付け方を教えている場面。

1年を通してアメリカが主導する連合軍は、ISの化学兵器工場を標的に空爆してきた。10月のモスル奪還作戦に至るまで、アメリカの爆撃機十数機がイラクの工場を空爆した。当局によると、ISが化学兵器工場として使っていた場所だという。

9月20日、ケイヤラ空軍基地のアメリカ・イラク連合軍に2発の砲撃をしてから、ISの化学兵器はさらに関心を集めるようになった。最初の検査でマスタードガスの陽性反応が出たときは、パニックが起きた。 第一次世界大戦以来初となる、アメリカ軍への化学兵器攻撃と報じたメディアもあった。

しかし軍の情報によると、その後の最終検査でマスタードガスは含まれていなかったと結論づけられた。それでもアメリカ軍は厳戒態勢を敷き、モスル奪還作戦の激化で使用される可能性がある化学兵器に備えると語る。


イラクのケイヤラにいるイラク軍メンバー。2016年10月19日、イラク・モスルのIS掃討作戦で。

今回のモスル奪還作戦は、2014年にISがシリアとイラクの大部分を制圧して以来、ISに対する最大の軍事作戦だ。数万人のイラク政府軍、クルド人戦闘員、スンニ派の部族兵士、シーア派民兵、その他のグループは、ISが支配する最後の主要都市から彼らを追い払うために協力している。

これまでクルド人部隊とイラク軍は激しい抵抗を受けてきた。ISは侵攻を遅らせようと、大量の自爆テロ犯や即席爆発装置(IED)を町に仕掛けている。ISが化学兵器を使う可能性があることで、戦いの危険度は増している。また、ISがどれほどこの町の支配を維持したいかが分かる。

ISの化学兵器による攻撃で、シリアとイラクの人々は殺害されてきたが、専門家はISが化学兵器で大勢の人を殺すことはできないと話す。ISの化学兵器による攻撃の犠牲者は、毒性に弱い子供や幼児が多い。


■ 「化学兵器は主に心理的な影響を狙って使用される」

アメリカもISの化学兵器の製造能力を軽視した。これまでISは国際協定で禁止されているサルファマスタードガスを使用してきた。サルファマスタードは皮膚に水ぶくれを起こしたり、人が吸い込むと気道がやけどし、命の危険がある。しかしこのガスはその場にいる人にしか効果がないため、ISが大規模な攻撃を仕掛けるには数万のロケットが必要になるとも専門家は指摘している。

それでもISは化学兵器を使うことで他にもメリットがあると気付くかもしれない。例えば、ISの戦闘員に対する軍事作戦を遅らせたり、心理戦の手段にするといったことだ。

「化学兵器は非常に恐ろしい危険なもの、人々が本能的に極度の恐怖やパニックを起こすような危険なものの代表です。なぜなら、それは目に見えず、知らぬ間に広がり、無差別に攻撃するからです」と、ジョージ・メイソン大学大学院生物兵器防衛主任グレゴリー・コブレンツ准教授は語った。

「化学兵器は主に心理的な影響を狙って使用される。殺害する人数は少なくても、大勢の人に恐怖を与えることができるからです」


化学兵器による攻撃で負傷し、治療を受けるクルド人部隊ペシュメルガの戦闘員。ペシュメルガからハフィントンポストUS版に提供。2016年2月11日。

ISの化学兵器の脅威がクルド人にさらなる影響を与えている。クルド人は1988年、史上最もひどいガス攻撃の犠牲となった。イラクの独裁者サダム・フセインがサリンやマスタードガスを含む爆弾をイラクの都市ハラブジャに落としたとき、5000人ものクルド人が亡くなった。

「イラクではこれまで命に関わるような化学兵器による攻撃を受けてきましたが、多くのイラク人は攻撃された場合の対処方法を知りません」。そう語るのはドホーク大学のウイルス・分子細胞生物学者マジェド・モハメド氏だ。

モハメド氏は「イラクは常に不安定です」と嘆く。「みんな武器を持っています。化学兵器について学び、探知し、身を守る方法を学ぶことが重要です。(IS支配地域との)国境に住む人たちは特にそうです」

モハメド氏と妻の水生ウイルス学研究者マウィダ・ハスーン氏は注意喚起に努め、いつかはイラクで化学兵器や生物兵器に関する研究プログラムを立ち上げようと考えている。しかし、資金繰りが苦しい国の多くの研究者や学者と同じように、彼らも必要な資金が不足している。


イラク・タザにある小さな医療センターの看護師。3月にファティマちゃんの命を助けようとした病院のベッドの隣で。 SOPHIA JONES/THE WORLDPOST

町が攻撃を受けた後、タザの住人の中には助けが来るまで数時間待った人もいた。その間症状は徐々に悪化した。タザでベッド数8床の規模のクリニックで働く看護師は、女性たちは今先天性異常のある赤ちゃんを出産していると語る。化学薬品に直接触れた多くの人は、命には関わらないが皮膚病のような病気に苦しんでいる。しかし何より最悪なのは、化学兵器が町にもたらした精神的損害だという。

「痒いとき、あの時のことを考えます」と、化学兵器による皮膚発疹に苦しむ地元の消防士モハメド・カリル・アスカルさん(37)は言う。「眠れないんです」

近所の人や友人は病気のことをとても気にしており、すべて攻撃を受けたせいだと言っているとアスカルさんは語る。

「みんな大金を払って化学兵器が原因ではないと確かめるために検査を受けることになります。それが彼らを苦しめています」と、アスカルさんは述べた。

ゼイネップさんはファティマちゃんの死を語るとき、涙を流し、家族が「壊れた」と語った。ゼイネップさんは攻撃を受けたとき妊娠していた。生まれたばかりの男の赤ちゃんは今、ゼイネップさんの隣ですやすや眠っている。今のところ赤ちゃんは健康だという。

しかしゼイネップさんは罪悪感を感じていた。娘が病院で静かに息を引き取ったとき、何もできず立ちつくしていたからだ。

「毎日そのことを考えています。娘を忘れることはできません」と話すゼイネップさんの頬からは涙が流れた。


2016年3月、イラクのタザでISが放ったマスタードガスで火傷を負った女性の傷跡と火傷。 SOPHIA JONES/THE WORLDPOST

ソフィア・ジョーンズとカミラン・サドゥンがタザから、ニック・ロビンズ-アーリーがニューヨークからレポート。

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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