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「すべての犬たちの命を救い、輝かせてあげたい」殺処分を免れた子犬が、救助犬として活躍するまで

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毎日のように、この国のどこかで犬たちが殺処分されている。欧米の中では、ほぼ殺処分ゼロを達成している国もあるが、日本では年に1万5811頭(2015年度)の命が奪われている。

「すべての犬たちに、生きるチャンスを与えたい」そんな思いで殺処分寸前の犬たちを引き取り、社会の一員として人間と共に暮らすための活動をしている人たちがいる。広島県神石高原町「ピースワンコ・ジャパン」のドッグトレーナー、大西純子さん、藤田美穂さんに、犬の命を救うことの意味を尋ねた。

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新たな家族を待つ子犬たち。元気いっぱいに遊んでいる。

「社会に役立つ犬たちを育てたい」という思いから始めた救助犬プロジェクト


広島県神石高原町、豊かな自然に抱かれたこの地に、敷地面積1万平方メートルを誇る「ピースワンコ・ジャパン」プロジェクトの本拠地がある。

広島は、2011年度に犬猫殺処分数全国ワーストを記録した県だ。そんな状況を打開すべく、ピースワンコ・ジャパンは、2012年から捨て犬や迷い犬の保護・譲渡活動を本格化させ、2016年4月には広島県内の動物愛護センターで殺処分対象となった犬を全頭引き取る大事業に乗り出した。

ここで働くドッグトレーナーの仕事は、主に2つ。保護犬を家庭犬としてしつけることと、災害救助犬やセラピードッグのような社会に役立つ犬の育成だ。

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大西さん:「『ピースワンコ・ジャパン』の母体であるNGO『ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)』は、もともと国内外の被災地や紛争地の人道支援をしています。2010年1月のハイチ地震で、海外の救助犬の活躍を目の当たりにして、自分たちでも救助犬の育成プロジェクトを始めました」

殺処分寸前だった子犬「夢之丞」との、運命の出会い


大西さんは、災害救助犬の候補となる犬を探す中、後に夢之丞(ゆめのすけ)と名付けられる子犬と、運命的な出会いを果たした。

「ふと動物愛護センターで保護されている犬たちも、訓練をすれば活躍できるのではないかと思い、見学に行くことにしました。そこで、殺処分対象になっている犬たちを見せてほしいとお願いしたら、ちょうどその日の朝が処分のタイミングで、『もう1頭もいませんよ』と言われたんです」

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動物愛護センター内の様子。多くの犬たちが、引き取り手が見つからないまま最期を迎える。

「ちゃんと予約して来たのに、なぜ待っててくれなかったんだろう、そんな苦い思いがあふれてきました。でも、犬たちがどのように処分されているのか知るため、建物を見せてもらうことに。犬たちは、ドリームボックスと名付けられたガス室の中に自らの足で入っていくシステムになっています。その光景を見たら、愕然としてしまって……」

「ところが、ガス室の横を見ると、ぽつんとケージが1個残っていました。中を覗いてみると、茶色い小犬がいました。『この子は?』と聞くと、職員の方も、なぜその子犬だけが処分を免れたのか、よくわからない。ただ1つわかっているのは、次の処分の日には、命が奪われようとしているということ。だったら救助犬として育ててみたいと引き取ったのが、夢之丞です」

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動物愛護センターから保護されたばかりの夢之丞

人間に奪われるはずだった小さな命が、人間のため活躍することに


「でも、夢之丞は人間に恐怖心を抱いており、抱き上げても目はうつろ、体はこわばって動けないという状態。最初は、トレーニングどころではなかったのです。同時期に引き取った他の子犬たちはよく遊んで、おやつを喜んで食べるのに、夢之丞はケージの隅っこに閉じこもっていました。だから私たちは、まず人に慣れてもらうことから始めました。地道にコミュニケーションを取り、結局普通に犬らしく散歩ができるようになるまで、1年ほどかかりました」

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ネパール地震の被災地で災害救助犬として活躍する夢之丞

決して、はじめから災害救助犬としての適性が高かったとは言えない夢之丞。だが、人間の匂いをかぎ分け、知らせるという訓練の要に入ると、少しずつ才能を開花していった。そしてついに2014年8月の広島土砂災害で、救助犬としてデビューすることに。残念ながら遺体ではあったが、救助犬と現場に入ったレスキューチームは、2名を発見するという活躍を見せた。その後も、フィリピン、台湾、ネパールなどの海外や茨城県常総市の水害、熊本地震などでも活躍している。人間に奪われるはずだった小さな命が、今は人間のために活躍している。

救助犬だけでなく、すべての犬たちに生きるチャンスを与えたい


もちろん夢之丞のように、災害救助犬として活躍できる犬はごく一部。だが、その他の犬たちも、家庭で人間のパートナーとして、大きな役割を果たすことができるはずだ。藤田さんは、1頭でも新たな家族に出会えるチャンスを増やすべく、しつけなどのトレーニングを日々行っている。

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藤田さん:「救助犬のトレーニングも、保護犬が家庭で暮らすためのしつけも、基本は同じ。まずは、ご飯をあげたり散歩をしたりしながら、人間と信頼関係を築くことを目指します。といっても、訓練だけでなく排泄物の処理など、犬の世話全般をこなさねばなりません。動物相手なので、言葉が通じないという苦労もあります」

「それでも、処分されるはずだった犬たちが新しい人生を歩む手伝いをできることは、胸を張って誇れます。譲渡後は、飼い主さんが近況を伝えに来てくれるなど、新たなつながりができるのも嬉しいですね」

犬たちが命を奪われることなく、人間のパートナーとして共に暮らす社会へ


今後は、保護施設の拡充や人材の育成を図り、活動を全国に広めていきたいという2人。むやみに数字だけの殺処分「ゼロ」を目指すのではなく、犬本来の習性や生き方を尊重し、快適な環境を整えることを目指している。また、他の団体とも協力し合い、猫など様々な動物にも活動を広げていこうとしている。

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大西さん:「奪われそうな命をただかわいいとか、かわいそうだから助けたいというのではなくて、その犬たちが人間のパートナーとして、社会や人の役に立つという認識を広めていけたらと思います。犬たちが社会の役に立つんだったら、処分する必要がない、ということになりますよね。保護犬たちの命を救うのも人だし、命を奪うのも人。ならば命を救い、その命を輝かせてあげたほうがいい。私たちは、その手伝いをしたいのです。そうすれば、きっとこの日本社会も、いろいろなことが変わってくると思います」

藤田さん:「実際に動物を迎え入れることができない人は、たくさんいますし、それは当然のこと。そういう人にも、まずは動物たちが置かれている現状を知ってほしい。そこから、私たちはどんなことができるか、どんな社会を目指していくべきか、みんなで考えていけたらと思います」

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